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その三 ファースト・コンタクト
十九
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「嘉智子夫人様、よくぞおいで下さいました。お陰でお探しする手間が省けました。・・・楽に殺して差し上げましょう」
知草が慇懃に頭を下げた。
「夫人様、早くお逃げください。私が防ぎます。そのすきに」
三千媛が知草の手を振りほどこうと必死に動く。
「邪魔をするな、どけ」
知草が短刀を振り上げた。
短刀が知草の手から滑り落ちた。
「ちぃい、式神、嘉智子を殺れ!」
式神が嘉智子夫人に襲いかかる。
「やめろっ」
「やめてっ」
「やってしまいな」
空海、三千媛、知草の声が交叉する。
グオオオオーン
式神が声をあげた。
どうしたのか?
式神の動きが止まった。
近寄れない。
あと一歩で夫人の頭に手が届く。
その距離まで来たが、式神は近づくことが出来ない。
まるで目に見えない壁があるかのようだ。
「空海!お前かあ!一体何をしたぁ!」
知草の憎しみを込めた目が空海に向かい、叫んだ。
「?」
空海の顔に困惑が浮かんだ。
だが動いた。
空海が式神の背後につき、左右の手のひらを式神の背中に押し付ける。
「オン・マユラ・キランデイ・ソワカ」
孔雀明王呪である。
全ての悪鬼を打ち払う真言。空海の両手から気が放たれる。
式神と空海を光が包んだ。
「田村麻呂、今だ!今しかない。式神の動きを俺が封じているうちに斬れ!お前なら出来るっ」
空海が田村麻呂を振り返る。
「承知!」
パンッ
田村麻呂が右の手のひらで右耳を、左の手のひらで左耳を強く叩いたのだ。両の耳から血が流れだす。
田村麻呂は自らの鼓膜を打ち破いたのだ。
「田村麻呂、何をする!」
空海が叫んだ
田村麻呂はもう何も聞こえない。
『空海の奴、驚いてるな。何も聞こえない。いい感じだ。これだっ。周りに惑わされない。気が高められている。研ぎ澄まされている。これが必要だったのだっ!』
田村麻呂が大剣を振り上げた。
おおおおおおおおおおおおおおおう
式神の右肩から左わき腹にかけて一気に切り下げる。
グオオオオオオオオオオンン
式神の体は見事に真二つになり、そして消滅した。
「田村麻呂っ、やったな、見事だ。お前はすごい漢だ!」
「?」
「ああそうか、今、耳が聞けないのだな」
「ちいいい」
知草が走り出す。とても老婆とは思えない速さで駆け出した。
「待て、知草っ」
叫んだが、空海も田村麻呂も式神との戦いで消耗し、動けない。
動いた!
三千媛が動いた。
急いで床から拾い上げたものを構え、知草にぶつかって行った。
「三千媛っ、お前っ」
知草の顔が苦痛に歪む。
知草の背に短刀が深々と突き刺さっていた。
先ほど、知草が三千媛を刺そうとして落とした短刀である。
「あたしが、このあたしがぁ。お前などに、お前などにぃ・・・・」
知草がのたうち回る。怨嗟の声をあげ続け、苦しみ回る。
がその声もだんだんと小さくなっていき、そして止まった。
知草が死んだ。
式神は消滅した。
終わったのだ。
ようやくにして、この壮絶な戦いが終わったのだ。
知草が慇懃に頭を下げた。
「夫人様、早くお逃げください。私が防ぎます。そのすきに」
三千媛が知草の手を振りほどこうと必死に動く。
「邪魔をするな、どけ」
知草が短刀を振り上げた。
短刀が知草の手から滑り落ちた。
「ちぃい、式神、嘉智子を殺れ!」
式神が嘉智子夫人に襲いかかる。
「やめろっ」
「やめてっ」
「やってしまいな」
空海、三千媛、知草の声が交叉する。
グオオオオーン
式神が声をあげた。
どうしたのか?
式神の動きが止まった。
近寄れない。
あと一歩で夫人の頭に手が届く。
その距離まで来たが、式神は近づくことが出来ない。
まるで目に見えない壁があるかのようだ。
「空海!お前かあ!一体何をしたぁ!」
知草の憎しみを込めた目が空海に向かい、叫んだ。
「?」
空海の顔に困惑が浮かんだ。
だが動いた。
空海が式神の背後につき、左右の手のひらを式神の背中に押し付ける。
「オン・マユラ・キランデイ・ソワカ」
孔雀明王呪である。
全ての悪鬼を打ち払う真言。空海の両手から気が放たれる。
式神と空海を光が包んだ。
「田村麻呂、今だ!今しかない。式神の動きを俺が封じているうちに斬れ!お前なら出来るっ」
空海が田村麻呂を振り返る。
「承知!」
パンッ
田村麻呂が右の手のひらで右耳を、左の手のひらで左耳を強く叩いたのだ。両の耳から血が流れだす。
田村麻呂は自らの鼓膜を打ち破いたのだ。
「田村麻呂、何をする!」
空海が叫んだ
田村麻呂はもう何も聞こえない。
『空海の奴、驚いてるな。何も聞こえない。いい感じだ。これだっ。周りに惑わされない。気が高められている。研ぎ澄まされている。これが必要だったのだっ!』
田村麻呂が大剣を振り上げた。
おおおおおおおおおおおおおおおう
式神の右肩から左わき腹にかけて一気に切り下げる。
グオオオオオオオオオオンン
式神の体は見事に真二つになり、そして消滅した。
「田村麻呂っ、やったな、見事だ。お前はすごい漢だ!」
「?」
「ああそうか、今、耳が聞けないのだな」
「ちいいい」
知草が走り出す。とても老婆とは思えない速さで駆け出した。
「待て、知草っ」
叫んだが、空海も田村麻呂も式神との戦いで消耗し、動けない。
動いた!
三千媛が動いた。
急いで床から拾い上げたものを構え、知草にぶつかって行った。
「三千媛っ、お前っ」
知草の顔が苦痛に歪む。
知草の背に短刀が深々と突き刺さっていた。
先ほど、知草が三千媛を刺そうとして落とした短刀である。
「あたしが、このあたしがぁ。お前などに、お前などにぃ・・・・」
知草がのたうち回る。怨嗟の声をあげ続け、苦しみ回る。
がその声もだんだんと小さくなっていき、そして止まった。
知草が死んだ。
式神は消滅した。
終わったのだ。
ようやくにして、この壮絶な戦いが終わったのだ。
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