異世界を印刷で無双する/社畜が転生先で「つまり印刷機で魔法陣を大量印刷すれば無双できるのでは」と気づいたがまさかのラスボスに戸惑いを隠せない

セント

文字の大きさ
17 / 51
第二章 オフセット印刷VS異種族

第17話 くそったれ……!

しおりを挟む
副工場長はいつもそうだった。
どれだけ努力して結果を残しても、彼が絢理を認めたことなど一度もなかった。出来て当然、出来なければ無能。

徹夜に耐え切れずに、寝てしまったことがある。
その時も、罵声によって起こされた。
身体を乱暴に揺らされて、耳元で大喝された。

そう、こんな風に――

「絢理君! 絢理君!」

唐突に、意識が覚醒する。
絢理は弾かれるように身を起こした。それがいけなかった。安否を気遣ってこちらを覗きこんでいたオルトの額と派手にぶつかった。

「っぁあー……っ」

額を押さえてうずくまる。じんじんと痛むのを涙目で堪えながら、同様に痛がっているオルトを振り返る。

「……次からはもう少し優しく起こしてください」
「こんな機会がそう何度もあるのは、ごめんだけどね」

それについては完全に同意です、と返しながら、絢理は周囲を見渡す。
車輪が破損し、横転した馬車。投げ出された荷物。そして自らを顧みれば、土埃で汚れてぼろぼろの衣服。

寝ぼけている場合ではない。絢理は襲撃を受けたことをはっきりと思い出し、苦虫を噛み潰す。

「……油断しましたね」
「ああ、すまない。僕の警戒が足りなかった」
「いえ、私も浅はかでした」

宿に侵入してまで魔導書を盗もうとしたのだ。人目につかない夜の荒野など、リベンジにはもってこいだ。
しかしこれで一つ明確になった。

「敵は、最初から魔導書を狙ってきたんですね」

敵は場当たり的な空き巣ではなく、明確に絢理の魔導書を狙っていた。
ただの空き巣の可能性も決して低くはなかった。とはいえ、だから油断したというのは、言い訳としても不出来だろう。
思わず舌打ちする。

「昨日と同一犯かい?」
「でしょうね。チラっと見えましたが、黒づくめでしたし」
「それはまた、随分とご執心だね」

魔導書が狙われた理由は判然としない。
オルトの見解によれば、潜在能力を引き出す類の魔法だというから、垂涎の品という事もないらしい。
精査したわけではないから、何か強力な効果を見落としているのかもしれない。
否、恐らくそうなのだろう。でなければ、二度の襲撃というリスクを冒す必要がそもそもないのだから。

「僕ら、どれくらい気を失ってたんだ?」

オルトの問いに呼応して、絢理は腕時計に目を落とし、眉をしかめた。

「二時間経過。かなり無駄な時間を使いましたね……間に合うかな」
「馬車も壊れたし、追いかけるのも骨が折れそうだ」

頬を掻いて憂えるオルト。その言葉に、絢理は引っ掛かりを覚えた。

「――追いかけるというのは?」
「いや実はね、盗難防止にと思って例の魔導書に魔法を施しておいたんだ」

憂慮の口調のまま、オルトは懐から魔法陣を取り出して続ける。

「指し示せ、ネウロン」

詠唱と同時、オルトの持つ魔法陣が光を帯びる。その優しい朧げな光が紙片から浮き上がり、やがて一つの方向を指し示すやじりのような形を成した。
光の矢は、静かにエックホーフ領の方角を示している。

「この矢は魔導書の位置を示してるんだ。どうやら犯人はエックホーフ領に戻ったらしい」
「愛想笑いが特技ですみたいな顔してるのに凄いじゃないですか」

素直に感心する。言葉は素直ではなかったが。

「ただこの魔法の効力はそう長くない。もってあと数時間だね」

どうする、とオルトは絢理に訊ねてくる。

「別に惜しいって程の品物でもない。正直、危険を冒さずに盗人に献上してしまうのもアリかなとも思ってる」
「いえ、犯人を追ってください」

絢理はきっぱりと言い放った。

「こうまで執拗に狙われると、犯人の正体や魔導書の価値が気になってきちゃいますし。何より、印刷中は別にいてもらっても役に立ちませんしね」
「身もふたもない……」

肩を落とすオルトだったが、了解だと肯定してくれた。
オルトは犯人の追跡、絢理は印刷工場へ、それぞれの進路へと足を向ける。

ふと、絢理は思い至る。
あれだけ派手に馬車から転げ落ちたというのに、自由に身体が動く。
怪我の一つもしていないのだ。受け身の能力が覚醒したとは思えないから、

「魔法で治療してくれました?」

背中を向けながら、首だけで振り返り訊ねる。
肯定が返ってくるかと思いきや、オルトは煮え切らない口調で否定した。

「いや、治されたのは事実なんだと思うけど、やったのは僕じゃないんだ」
「違う? では誰が」
「誰かが通りがかって治癒だけして去っていったか――」

オルトの推測に、しかし絢理は納得できない。助け起こしもせず、声もかけず、ただ治療だけを施して放置する酔狂な輩がいるものだろうか。

「――あるいは、犯人自身が治療したか」
「それこそ酔狂ってもんでしょう」

絢理は言下に否定する。
あくまで魔導書の入手が目的なのであって、怪我をさせたのは申し訳ないから治療をした?
そんな親切な悪漢などいるものだろうか。既に言葉が破綻している。

頭上の疑問符は増えるばかりだったが、こうしている間にも納期は迫ってくる。
答えの出ない疑問を払拭するように絢理は前を見た。

「まあいいです。捕まえれば分かることですし。じゃあ、頼みましたよ」
「了解。君も気を付けて」

今度こそ、二人は背中を向け合いながらそれぞれの方向へと走り始めた。多くの謎をひとまずは頭の隅に追いやる。いまは、仕事の時間だ。

そして、絢理は致命的なミスに気付く。

オルトと別れてから一時間。
夜闇の中を歩き続けてようやく発見した丘。
自然に構成されたものではない。昨日、フォークリフトを隠すために形成したものだ。

幸いなのは、荒らされた形跡がないこと。
どうやら誰も、この不自然に盛り上がった丘を不思議には思わなかったらしい。

そして致命的に不幸だったのは、丘を解除する魔法陣をオルトから借り受けていたのに、その詠唱呪文を訊くのを忘れたことだ。襲撃のごたごたで、すっかり失念してしまっていた。
当然、絢理に魔法陣の解読はできない。それではただの紙切れだ。

「スマホもない、ノッポさんの行先もわからない……」

丘に手を付きながら、絶望を確認するように呟く。

「そもそも今から戻ってたら、もう明日の決闘には間に合わない……」

大量の紙を運ぶにも、街に戻るにも、絶対にフォークリフトの力が必要だ。
この丘から、掘り出さなければならない。

絢理は岩塊を見据える。
固く冷やりとした感触。
五指に力を籠めて、土肌をなぞるように削る。
ほんの僅かに指の軌跡が丘に刻まれ、手指には土がつく。

全く歯が立たない――わけではない。

絢理は自分の身長よりも大きな丘を見上げる。

涓滴岩を穿つ――僅かな雫も、絶えず落ち続ければやがては岩に穴を開ける。

決意する。
奥歯を噛み締める。
再び五指に力を、意志を籠める。

「くそったれ……ッ!」

   ◆

オルトは魔法が示す標を辿る。エックホーフ領に戻ってきてからは特に反応が強くなった。
急ぎ足で追跡するうちに、オルトはその道順に違和感を得た。
違和感というよりも、既視感。

この道はまさか――

その疑念は痕跡の最終地点、つまり犯人の居場所を突き止めたことで、確信へと変わった。

「どういうことだ……?」


思わず、オルトは疑問を口にする。
視界に広がる、エックホーフ邸を見上げながら。


<続>
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~

草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。 レアらしくて、成長が異常に早いよ。 せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。 出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。

出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜

シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。 起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。 その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。 絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。 役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。

猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る

マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・ 何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。 異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。  ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。  断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。  勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。  ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。  勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。  プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。  しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。  それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。  そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。  これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。

辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します

潮ノ海月@2025/11月新刊発売予定!
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる! トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。 領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。 アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。 だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう 完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。 果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!? これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。 《作者からのお知らせ!》 ※2025/11月中旬、  辺境領主の3巻が刊行となります。 今回は3巻はほぼ全編を書き下ろしとなっています。 【貧乏貴族の領地の話や魔導車オーディションなど、】連載にはないストーリーが盛りだくさん! ※また加筆によって新しい展開になったことに伴い、今まで投稿サイトに連載していた続話は、全て取り下げさせていただきます。何卒よろしくお願いいたします。

転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました

SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。 不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。 14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。

転生したら王族だった

みみっく
ファンタジー
異世界に転生した若い男の子レイニーは、王族として生まれ変わり、強力なスキルや魔法を持つ。彼の最大の願望は、人間界で種族を問わずに平和に暮らすこと。前世では得られなかった魔法やスキル、さらに不思議な力が宿るアイテムに強い興味を抱き大喜びの日々を送っていた。 レイニーは異種族の友人たちと出会い、共に育つことで異種族との絆を深めていく。しかし……

貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する

美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」 御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。 ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。 ✳︎不定期更新です。 21/12/17 1巻発売! 22/05/25 2巻発売! コミカライズ決定! 20/11/19 HOTランキング1位 ありがとうございます!

処理中です...