19 / 51
第二章 オフセット印刷VS異種族
第19話 剣士・タビタ・エックホーフ
しおりを挟む
最初に仕掛けたのはタビタだ。
一歩を踏みこみながら、交差したオーヴァンの剣を弾く。
身を屈め、一気に懐へと飛び込む。
剣を突き込む位置は右肩部の関節だ。
装甲の薄い関節部を確実に狙う。
それも右を獲れば、敵は剣を使えなくなる。
「はあッ!」
予め決められたかのように理想的な軌跡を描いた剣閃は、しかし空を切る。
オーヴァンが身を引いたのだ。一歩、二歩と後退しながら大剣を引き寄せ、彼我の境を区切るように振るう。
体重の乗らない、とりあえずの一撃だ。
それはつまり、
「距離を開けたいってことね……ッ!」
そうならば、タビタは更に距離を詰める。
だが一直線に向かっては敵の大剣に斬首される。
タビタは踏み込んだ左足を軸に一回転、刺突を横薙ぎの一閃へと変えた。
狙いは下段、膝関節。
オーヴァンが息を呑む気配が伝わってくる。
オーヴァンは大剣を振り抜くことで迎撃。
互いの剣がぶつかり合う音――は、聞こえてこない。
「……ッ」
期待した手ごたえがなく、オーヴァンは戦慄。
一瞬、タビタの姿を見失う。
自らの大剣が徒となった。
視界を塞いでしまったのだ。
剣を振り抜き、ようやく眼下に発見する。
タビタは剣を引き寄せ、身体を丸めていた。
大剣が通過するのを待っていたのだ。
地を這う如き低位置から、タビタは獲物を狩る眼光でオーヴァンを射る。
「ふ……ッ!」
鋭く息を吐きながら、バネのように身体をしならせ、今度こそ細剣を閃かせる。
大剣を振り切ったオーヴァンの胴はがら空きだ。
タビタの剣がオーヴァンの重鎧を捉える。
金属がぶつかり合う鋭い音が、闘技場を駆け巡った。
だが、浅い。
鎧を斬りつけたが、オーヴァン自身には傷一つつけられていない。
オーヴァンが剣を構え直すのを見て、深追いは避ける。
タビタもまた付かず離れずの距離で剣を構え、改めて敵を見据えた。
一瞬の攻防。
知らず息を止めていた観客たちが、一斉に歓声を上げた。
「す、すげえ!」
「姫様、本当に強かったんだ!」
「これは勝てるぞ!」
「やっちまえ!」
タビタへの声援に熱が入る。
無論、彼女の武勇伝は領民にも周知の事実だ。
しかし、今回に至っては相手が宮廷騎士。
精鋭中の精鋭と謳われる存在を相手に一歩も引かないその健闘ぶりは、タビタ・エックホーフという戦士の評価を大幅に更新する。
タビタの練度を称えたのは、領民ばかりではなかった。
騎士・オーヴァンもまた、対峙する少女への見解を改めた。
「辺境のじゃじゃ馬かと思っていたが、成程、剣の覚えには目を瞠るものがある」
「それはどうも」
応じるタビタの表情には、しかし余裕がない。
タビタは戦況を冷静に見極めていた。
「並の相手なら、あの一撃で仕留めてるんだけどね」
速度と手数の多さには自信があった。先手必勝が彼女の信条だ。
だが、相手が健在であるという事実そのものが、難しい相手なのだとタビタの気を引き締めさせる。
「それこそ、名折れというものだろうッ」
言って、オーヴァンは背後に跳躍。
距離を開けながら、素早くホルスターから魔法陣を引き抜いた。
「痛苦をもって炎舞を成せ、ドリーミュ」
掲げた魔法陣に光が灯り、刹那、逆巻く炎がタビタを強襲した。
タビタもまた、魔法陣で応じる。
「賑やかせ、アゴラー!」
襲い来る炎を迎え撃つのは豪風だ。
不可視の壁にぶつかった炎は対象を捕らえることなく、その場で爆ぜる。
大量の空気を取り込み、火柱を上げた。
その火柱を囮に――両者ともにそう打算していた。
「勝ち誉れ、テアートロン!」
「深淵をもって暗礁を成せ、イポブリキオン」
タビタの放った白き光条が、オーヴァンの形成した大波とぶつかり合う。
光が波を貫くが、オーヴァンには届かない。
一方で、大波は勢いを減退することなくタビタへと迫った。
呑まれる寸前、タビタはホルスターから追加の魔法陣を引き抜く。
「跳べ、ケローネー!」
垂直方向に数メートルを跳躍し、波を逃れる。
眼下を見下ろせば、火柱が轟音と共に波に呑まれて鎮火していくところだった。
剣から魔法へとシフトしたことに、タビタは舌打ちする。
そしてその苛立ちという間隙を、宮廷騎士が見逃そうはずもなかった。
「嗅覚をもって迎撃と成せ、パンテル」
その詠唱は、タビタの耳朶を打たない。
跳躍により距離が開き、そもそもが地上は大波による轟音が戦場を席巻している。
彼の呟きはかき消され、タビタへの奇襲となる。
「ぐ……ぅッ」
刹那、タビタは鋭利な衝撃に襲われた。
迸るのは、背中側――天頂からの風の刃。
一つ一つは矮小だが、無数の斬撃となればその衝撃は大きい。
魔法による跳躍が解け、タビタは真っ直ぐに落下していった。
その落下地点にオーヴァンが待ち受けているのを発見し、タビタは瞠目する。
この軌道――彼の剣の餌食だ。
<続>
一歩を踏みこみながら、交差したオーヴァンの剣を弾く。
身を屈め、一気に懐へと飛び込む。
剣を突き込む位置は右肩部の関節だ。
装甲の薄い関節部を確実に狙う。
それも右を獲れば、敵は剣を使えなくなる。
「はあッ!」
予め決められたかのように理想的な軌跡を描いた剣閃は、しかし空を切る。
オーヴァンが身を引いたのだ。一歩、二歩と後退しながら大剣を引き寄せ、彼我の境を区切るように振るう。
体重の乗らない、とりあえずの一撃だ。
それはつまり、
「距離を開けたいってことね……ッ!」
そうならば、タビタは更に距離を詰める。
だが一直線に向かっては敵の大剣に斬首される。
タビタは踏み込んだ左足を軸に一回転、刺突を横薙ぎの一閃へと変えた。
狙いは下段、膝関節。
オーヴァンが息を呑む気配が伝わってくる。
オーヴァンは大剣を振り抜くことで迎撃。
互いの剣がぶつかり合う音――は、聞こえてこない。
「……ッ」
期待した手ごたえがなく、オーヴァンは戦慄。
一瞬、タビタの姿を見失う。
自らの大剣が徒となった。
視界を塞いでしまったのだ。
剣を振り抜き、ようやく眼下に発見する。
タビタは剣を引き寄せ、身体を丸めていた。
大剣が通過するのを待っていたのだ。
地を這う如き低位置から、タビタは獲物を狩る眼光でオーヴァンを射る。
「ふ……ッ!」
鋭く息を吐きながら、バネのように身体をしならせ、今度こそ細剣を閃かせる。
大剣を振り切ったオーヴァンの胴はがら空きだ。
タビタの剣がオーヴァンの重鎧を捉える。
金属がぶつかり合う鋭い音が、闘技場を駆け巡った。
だが、浅い。
鎧を斬りつけたが、オーヴァン自身には傷一つつけられていない。
オーヴァンが剣を構え直すのを見て、深追いは避ける。
タビタもまた付かず離れずの距離で剣を構え、改めて敵を見据えた。
一瞬の攻防。
知らず息を止めていた観客たちが、一斉に歓声を上げた。
「す、すげえ!」
「姫様、本当に強かったんだ!」
「これは勝てるぞ!」
「やっちまえ!」
タビタへの声援に熱が入る。
無論、彼女の武勇伝は領民にも周知の事実だ。
しかし、今回に至っては相手が宮廷騎士。
精鋭中の精鋭と謳われる存在を相手に一歩も引かないその健闘ぶりは、タビタ・エックホーフという戦士の評価を大幅に更新する。
タビタの練度を称えたのは、領民ばかりではなかった。
騎士・オーヴァンもまた、対峙する少女への見解を改めた。
「辺境のじゃじゃ馬かと思っていたが、成程、剣の覚えには目を瞠るものがある」
「それはどうも」
応じるタビタの表情には、しかし余裕がない。
タビタは戦況を冷静に見極めていた。
「並の相手なら、あの一撃で仕留めてるんだけどね」
速度と手数の多さには自信があった。先手必勝が彼女の信条だ。
だが、相手が健在であるという事実そのものが、難しい相手なのだとタビタの気を引き締めさせる。
「それこそ、名折れというものだろうッ」
言って、オーヴァンは背後に跳躍。
距離を開けながら、素早くホルスターから魔法陣を引き抜いた。
「痛苦をもって炎舞を成せ、ドリーミュ」
掲げた魔法陣に光が灯り、刹那、逆巻く炎がタビタを強襲した。
タビタもまた、魔法陣で応じる。
「賑やかせ、アゴラー!」
襲い来る炎を迎え撃つのは豪風だ。
不可視の壁にぶつかった炎は対象を捕らえることなく、その場で爆ぜる。
大量の空気を取り込み、火柱を上げた。
その火柱を囮に――両者ともにそう打算していた。
「勝ち誉れ、テアートロン!」
「深淵をもって暗礁を成せ、イポブリキオン」
タビタの放った白き光条が、オーヴァンの形成した大波とぶつかり合う。
光が波を貫くが、オーヴァンには届かない。
一方で、大波は勢いを減退することなくタビタへと迫った。
呑まれる寸前、タビタはホルスターから追加の魔法陣を引き抜く。
「跳べ、ケローネー!」
垂直方向に数メートルを跳躍し、波を逃れる。
眼下を見下ろせば、火柱が轟音と共に波に呑まれて鎮火していくところだった。
剣から魔法へとシフトしたことに、タビタは舌打ちする。
そしてその苛立ちという間隙を、宮廷騎士が見逃そうはずもなかった。
「嗅覚をもって迎撃と成せ、パンテル」
その詠唱は、タビタの耳朶を打たない。
跳躍により距離が開き、そもそもが地上は大波による轟音が戦場を席巻している。
彼の呟きはかき消され、タビタへの奇襲となる。
「ぐ……ぅッ」
刹那、タビタは鋭利な衝撃に襲われた。
迸るのは、背中側――天頂からの風の刃。
一つ一つは矮小だが、無数の斬撃となればその衝撃は大きい。
魔法による跳躍が解け、タビタは真っ直ぐに落下していった。
その落下地点にオーヴァンが待ち受けているのを発見し、タビタは瞠目する。
この軌道――彼の剣の餌食だ。
<続>
11
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
SSSレア・スライムに転生した魚屋さん ~戦うつもりはないけど、どんどん強くなる~
草笛あたる(乱暴)
ファンタジー
転生したらスライムの突然変異だった。
レアらしくて、成長が異常に早いよ。
せっかくだから、自分の特技を活かして、日本の魚屋技術を異世界に広めたいな。
出刃包丁がない世界だったので、スライムの体内で作ったら、名刀に仕上がっちゃった。
出来損ない貴族の三男は、謎スキル【サブスク】で世界最強へと成り上がる〜今日も僕は、無能を演じながら能力を徴収する〜
シマセイ
ファンタジー
実力至上主義の貴族家に転生したものの、何の才能も持たない三男のルキウスは、「出来損ない」として優秀な兄たちから虐げられる日々を送っていた。
起死回生を願った五歳の「スキルの儀」で彼が授かったのは、【サブスクリプション】という誰も聞いたことのない謎のスキル。
その結果、彼の立場はさらに悪化。完全な「クズ」の烙印を押され、家族から存在しない者として扱われるようになってしまう。
絶望の淵で彼に寄り添うのは、心優しき専属メイドただ一人。
役立たずと蔑まれたこの謎のスキルが、やがて少年の運命を、そして世界を静かに揺るがしていくことを、まだ誰も知らない。
猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣で最強すぎて困る
マーラッシュ
ファンタジー
旧題:狙って勇者パーティーを追放されて猫を拾ったら聖獣で犬を拾ったら神獣だった。そして人間を拾ったら・・・
何かを拾う度にトラブルに巻き込まれるけど、結果成り上がってしまう。
異世界転生者のユートは、バルトフェル帝国の山奥に一人で住んでいた。
ある日、盗賊に襲われている公爵令嬢を助けたことによって、勇者パーティーに推薦されることになる。
断ると角が立つと思い仕方なしに引き受けるが、このパーティーが最悪だった。
勇者ギアベルは皇帝の息子でやりたい放題。活躍すれば咎められ、上手く行かなければユートのせいにされ、パーティーに入った初日から後悔するのだった。そして他の仲間達は全て女性で、ギアベルに絶対服従していたため、味方は誰もいない。
ユートはすぐにでもパーティーを抜けるため、情報屋に金を払い噂を流すことにした。
勇者パーティーはユートがいなければ何も出来ない集団だという内容でだ。
プライドが高いギアベルは、噂を聞いてすぐに「貴様のような役立たずは勇者パーティーには必要ない!」と公衆の面前で追放してくれた。
しかし晴れて自由の身になったが、一つだけ誤算があった。
それはギアベルの怒りを買いすぎたせいで、帝国を追放されてしまったのだ。
そしてユートは荷物を取りに行くため自宅に戻ると、そこには腹をすかした猫が、道端には怪我をした犬が、さらに船の中には女の子が倒れていたが、それぞれの正体はとんでもないものであった。
これは自重できない異世界転生者が色々なものを拾った結果、トラブルに巻き込まれ解決していき成り上がり、幸せな異世界ライフを満喫する物語である。
辺境領主は大貴族に成り上がる! チート知識でのびのび領地経営します
潮ノ海月@2025/11月新刊発売予定!
ファンタジー
旧題:転生貴族の領地経営~チート知識を活用して、辺境領主は成り上がる!
トールデント帝国と国境を接していたフレンハイム子爵領の領主バルトハイドは、突如、侵攻を開始した帝国軍から領地を守るためにルッセン砦で迎撃に向かうが、守り切れず戦死してしまう。
領主バルトハイドが戦争で死亡した事で、唯一の後継者であったアクスが跡目を継ぐことになってしまう。
アクスの前世は日本人であり、争いごとが極端に苦手であったが、領民を守るために立ち上がることを決意する。
だが、兵士の証言からしてラッセル砦を陥落させた帝国軍の数は10倍以上であることが明らかになってしまう
完全に手詰まりの中で、アクスは日本人として暮らしてきた知識を活用し、さらには領都から避難してきた獣人や亜人を仲間に引き入れ秘策を練る。
果たしてアクスは帝国軍に勝利できるのか!?
これは転生貴族アクスが領地経営に奮闘し、大貴族へ成りあがる物語。
《作者からのお知らせ!》
※2025/11月中旬、 辺境領主の3巻が刊行となります。
今回は3巻はほぼ全編を書き下ろしとなっています。
【貧乏貴族の領地の話や魔導車オーディションなど、】連載にはないストーリーが盛りだくさん!
※また加筆によって新しい展開になったことに伴い、今まで投稿サイトに連載していた続話は、全て取り下げさせていただきます。何卒よろしくお願いいたします。
転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。
不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。
14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。
転生したら王族だった
みみっく
ファンタジー
異世界に転生した若い男の子レイニーは、王族として生まれ変わり、強力なスキルや魔法を持つ。彼の最大の願望は、人間界で種族を問わずに平和に暮らすこと。前世では得られなかった魔法やスキル、さらに不思議な力が宿るアイテムに強い興味を抱き大喜びの日々を送っていた。
レイニーは異種族の友人たちと出会い、共に育つことで異種族との絆を深めていく。しかし……
貴族家三男の成り上がりライフ 生まれてすぐに人外認定された少年は異世界を満喫する
美原風香
ファンタジー
「残念ながらあなたはお亡くなりになりました」
御山聖夜はトラックに轢かれそうになった少女を助け、代わりに死んでしまう。しかし、聖夜の心の内の一言を聴いた女神から気に入られ、多くの能力を貰って異世界へ転生した。
ーけれども、彼は知らなかった。数多の神から愛された彼は生まれた時点で人外の能力を持っていたことを。表では貴族として、裏では神々の使徒として、異世界のヒエラルキーを駆け上っていく!これは生まれてすぐに人外認定された少年の最強に無双していく、そんなお話。
✳︎不定期更新です。
21/12/17 1巻発売!
22/05/25 2巻発売!
コミカライズ決定!
20/11/19 HOTランキング1位
ありがとうございます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる