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第三章 印刷戦線
第35話 但し正規の魔法とは異なる
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「ありがとうございます、実際ピンチだったので助かりました」
活気のある往来に戻ってきた絢理は、並んで歩くフーゴに礼を告げる。
「いいさ。俺だって善人ってわけじゃない。人助けでもなく取引だしな。報酬のためだ」
「黒衣さんもアウトローなんですか?」
確かに全身黒づくめなフーゴではあるが、絢理のネーミングセンスには顔をしかめた。
「恩人につけるあだ名かそれ? フーゴだよ。やり取りの中で聞いてたろうが」
「戸叶絢理です。親しみを込めて気軽にアヤリンとお呼びください」
「遠慮しとくわ」
既視感のあるやり取りを交わしながら、二人は宿場であるエーデロクソスへ向かう。
ドゥを追走したり道案内詐欺に騙されたりと慌しかったため、ようやく通りを眺める余裕が出てきた。
軒に連なる無数の店は、青果から飲食、服飾品に武具や魔法陣、その他絢理のよく知らないものまで様々だ。そして、それらを賑やかす客についても様々な種族が入り乱れており、成程楽しい街だ、と今更ながらにタビタの言葉の実感が湧いてくる。
絢理が左右に忙しなく目移りさせている様子は、お上りさんそのものだった。
「無法者かといえば、積極的に衛兵に見られたい顔じゃないのは確かだな」
「成程。通報すれば魔法陣も渡さずに済むと」
「いい性格してんな嬢ちゃん」
「冗談です」
そんな冗句を投げかけても、フーゴが剣呑な雰囲気になる様子はない。絢理にその気がないことを察しているのだろう。
「魔法陣1,000枚くらい、安いもんですし」
「そいつは凄い。貴族様の言うことは違うね」
「いやA4ペラ1,000枚なんてネットプリントなら両面カラーでも数千円の時代ですよ? 全く我々みたいな会社がどれだけ価格崩壊に苦しめられてるか……」
「……貴族様の言うことは分かんねえな」
渋面する絢理に、さらに渋面するフーゴ。社交界特有の表現とでも思ったか、特に深追いして聞いてくる様子はなかった。
「分からないといえば」
そう前置きして、絢理は疑問符を浮かべた。
「フーゴさんが輩に使っていたあれ、魔法なんですか?」
彼女がオルトやタビタを通して見てきた魔法とは、かなり異なるようだった。
詠唱らしい詠唱もなく、フーゴは魔法としか思えない現象を引き起こした。
フーゴは肩を竦め、皮肉を返した。
「成程。世間知らずらしい問いだ」
「やっぱ通報しますかねこの黒犯罪者」
「悪い悪い――曲がるぞ」
絢理の脅しにも動じることなく、フーゴは案内を続ける。右に折れて眼前に広がったのは、大きな運河だった。
川幅三十メートルはあろうか。陽光を反射して煌めく大運河は社畜の目に非常に眩しく、絢理は目を細めた。
「ここが大河川クニベルタから支流を引かれたファーデン運河だ。この河を交易の要にしたのが、商業都市としての成り立ちだな」
彼の言の示す通り、運河には多くの船が行き交っている。そのどれもが交易を目的としたものだという。
「この川沿いをひたすら歩けばエーデロクソスだ」
右手に大運河、左手に多くの商店を眺めながら、二人は歩を進める。
「さっきの問いの答えはこれだ」
フーゴはそう言いながら、ポケットから数枚の紙片を取り出した。
彼から手渡されたそれを広げると、絢理もよく知る魔法陣に他ならなかった。
「つまり、あれは確かに魔法ってことだ。但し正規の魔法とは異なる」
<続>
活気のある往来に戻ってきた絢理は、並んで歩くフーゴに礼を告げる。
「いいさ。俺だって善人ってわけじゃない。人助けでもなく取引だしな。報酬のためだ」
「黒衣さんもアウトローなんですか?」
確かに全身黒づくめなフーゴではあるが、絢理のネーミングセンスには顔をしかめた。
「恩人につけるあだ名かそれ? フーゴだよ。やり取りの中で聞いてたろうが」
「戸叶絢理です。親しみを込めて気軽にアヤリンとお呼びください」
「遠慮しとくわ」
既視感のあるやり取りを交わしながら、二人は宿場であるエーデロクソスへ向かう。
ドゥを追走したり道案内詐欺に騙されたりと慌しかったため、ようやく通りを眺める余裕が出てきた。
軒に連なる無数の店は、青果から飲食、服飾品に武具や魔法陣、その他絢理のよく知らないものまで様々だ。そして、それらを賑やかす客についても様々な種族が入り乱れており、成程楽しい街だ、と今更ながらにタビタの言葉の実感が湧いてくる。
絢理が左右に忙しなく目移りさせている様子は、お上りさんそのものだった。
「無法者かといえば、積極的に衛兵に見られたい顔じゃないのは確かだな」
「成程。通報すれば魔法陣も渡さずに済むと」
「いい性格してんな嬢ちゃん」
「冗談です」
そんな冗句を投げかけても、フーゴが剣呑な雰囲気になる様子はない。絢理にその気がないことを察しているのだろう。
「魔法陣1,000枚くらい、安いもんですし」
「そいつは凄い。貴族様の言うことは違うね」
「いやA4ペラ1,000枚なんてネットプリントなら両面カラーでも数千円の時代ですよ? 全く我々みたいな会社がどれだけ価格崩壊に苦しめられてるか……」
「……貴族様の言うことは分かんねえな」
渋面する絢理に、さらに渋面するフーゴ。社交界特有の表現とでも思ったか、特に深追いして聞いてくる様子はなかった。
「分からないといえば」
そう前置きして、絢理は疑問符を浮かべた。
「フーゴさんが輩に使っていたあれ、魔法なんですか?」
彼女がオルトやタビタを通して見てきた魔法とは、かなり異なるようだった。
詠唱らしい詠唱もなく、フーゴは魔法としか思えない現象を引き起こした。
フーゴは肩を竦め、皮肉を返した。
「成程。世間知らずらしい問いだ」
「やっぱ通報しますかねこの黒犯罪者」
「悪い悪い――曲がるぞ」
絢理の脅しにも動じることなく、フーゴは案内を続ける。右に折れて眼前に広がったのは、大きな運河だった。
川幅三十メートルはあろうか。陽光を反射して煌めく大運河は社畜の目に非常に眩しく、絢理は目を細めた。
「ここが大河川クニベルタから支流を引かれたファーデン運河だ。この河を交易の要にしたのが、商業都市としての成り立ちだな」
彼の言の示す通り、運河には多くの船が行き交っている。そのどれもが交易を目的としたものだという。
「この川沿いをひたすら歩けばエーデロクソスだ」
右手に大運河、左手に多くの商店を眺めながら、二人は歩を進める。
「さっきの問いの答えはこれだ」
フーゴはそう言いながら、ポケットから数枚の紙片を取り出した。
彼から手渡されたそれを広げると、絢理もよく知る魔法陣に他ならなかった。
「つまり、あれは確かに魔法ってことだ。但し正規の魔法とは異なる」
<続>
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