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再会①
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私は小高い丘から暮れ行く町並みを見ていた。この場所に立つとセレス領が一望できる。
幼い頃、両親に連れて来てもらった思い出の場所だ。
町も畑もオレンジ色に輝き、空は橙と紺のグラデーションが出来つつある。
そろそろ夕刻、帰らないと使用人たちが心配するだろう。
領地に来て数週間が経った。
父からの手紙に「セレス子爵家が王家から受章を授かることになった」と書いてあった。
受章とは叙勲を受けること。詳細はなかったが、おそらく兄の活躍によるものなのだろう。
兄の功績が認められたのなら嬉しいことだ。
欲のない両親にとっても、家門を担うために良かったと思う。
そして、いずれ家を継ぐ弟クリスのためになる。
セレス領で賊を捕らえた一件について、ジーク隊にも褒章が授与されるらしい。傭兵としては珍しいことらしく、ジーク隊長は少し照れていた。
身分に関わらず実力のある者が正当に評価されることが、私には嬉しい。
この貴族社会ではまだまだ難しいけれど、いつかは当たり前の世の中になってほしいと思う。
他にも私宛に様々な手紙が届いているが、家族以外のものは今は読まない。
差出人が知人の場合は「今は心身共に休養が必要なため、落ち着いたら連絡します」と一律で返信している。
周囲には心配をかけて申し訳ないと思っている。
私は仕事や読書をして、静かに時が経つのを待つ。
世界が私のことを忘れるまで。
私のことを思い出さないくらいに、存在が薄まるまで。
それが難しいならば、せめて貴族社会から消えることができるまで。
✳︎
気が付けば、随分と時間が経ってしまったようだ。そろそろ帰路につかないと日が暮れてしまう。今日は久しぶりに外出したので、つい長居をし過ぎた。
私が屋敷に帰るために腰を上げたところ、誰かがこちらの方へ丘を登ってきていた。
遠目に、若い男性のようだ。
顔を合わせるつもりはないので、私はその人が来る方向とは反対側から丘を下りようとした。
「セレス子爵令嬢」
突然遠くから呼ばれて、身体が止まる。
油断していた。
予想していない事態だった。
どくどくと自分の心臓の音が聞こえる。
落ち着け、と自分に言い聞かせて息を吐いた。
まず領民は私のことを『子爵令嬢』とは呼ばない。ジーク隊も同じく。ならば『領外から来た人』になる。
わざわざ今の時期に私を訪ねてくる人物に、もちろん心当たりはない。
次に私が眺望の丘にいることは誰にも告げてきていない。
家人が予想したとしても、それを口にすることはないだろう。私が領地に着いてから来客や面会は全て断っているからだ。
それなのに、ここに来訪者がいるのは単なる偶然か?
さらに来訪者だとして、今の私に至急の用件はないはず。
誘拐されたことについて、王宮と騎士団への対応は父と兄に任せてある。なにより私は「婚約破棄で心傷を負った子爵令嬢」なのだから。
そのため、私が必ずしも対応しないといけないわけではない。つまりは相手の出方次第。
最後にこれが偶然ではなく意図された行動の場合、その者の目的は何?
私か、それとも家門か?
私は貴族の顔を取り繕って、声のした方に振り向く。
こちらに向かってくる人を見つつ、素早く周囲を観察する。
見晴らしの良い丘をのぼってくる、1人の男性。
他に監視や護衛は見当たらない。少なくとも、見える範囲には。
だんだんと近付くにつれ、見覚えのある容姿に驚いた。
背が高く、存在感がある。
銀色の髪がサラサラと風に靡く。
アイスブルーの瞳の色、美形で整った表情から『氷の公爵様』と呼ばれる学園の有名人。
もうお会いすることはないと思っていたが……。
「セレス嬢、久しぶりだな」
彼の低く伸びやかな声に、私の体は凍りつきそうだった。
「クローディア公爵子息、お目にかかれて光栄です」
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
1人視点なので情報が偏っております。全体がわかるまでは読み進めて頂けると嬉しいです。
お気に入りやいいね下さった方、ありがとうございます。励みになります^_^
引き続き楽しんで頂けると幸いです。
幼い頃、両親に連れて来てもらった思い出の場所だ。
町も畑もオレンジ色に輝き、空は橙と紺のグラデーションが出来つつある。
そろそろ夕刻、帰らないと使用人たちが心配するだろう。
領地に来て数週間が経った。
父からの手紙に「セレス子爵家が王家から受章を授かることになった」と書いてあった。
受章とは叙勲を受けること。詳細はなかったが、おそらく兄の活躍によるものなのだろう。
兄の功績が認められたのなら嬉しいことだ。
欲のない両親にとっても、家門を担うために良かったと思う。
そして、いずれ家を継ぐ弟クリスのためになる。
セレス領で賊を捕らえた一件について、ジーク隊にも褒章が授与されるらしい。傭兵としては珍しいことらしく、ジーク隊長は少し照れていた。
身分に関わらず実力のある者が正当に評価されることが、私には嬉しい。
この貴族社会ではまだまだ難しいけれど、いつかは当たり前の世の中になってほしいと思う。
他にも私宛に様々な手紙が届いているが、家族以外のものは今は読まない。
差出人が知人の場合は「今は心身共に休養が必要なため、落ち着いたら連絡します」と一律で返信している。
周囲には心配をかけて申し訳ないと思っている。
私は仕事や読書をして、静かに時が経つのを待つ。
世界が私のことを忘れるまで。
私のことを思い出さないくらいに、存在が薄まるまで。
それが難しいならば、せめて貴族社会から消えることができるまで。
✳︎
気が付けば、随分と時間が経ってしまったようだ。そろそろ帰路につかないと日が暮れてしまう。今日は久しぶりに外出したので、つい長居をし過ぎた。
私が屋敷に帰るために腰を上げたところ、誰かがこちらの方へ丘を登ってきていた。
遠目に、若い男性のようだ。
顔を合わせるつもりはないので、私はその人が来る方向とは反対側から丘を下りようとした。
「セレス子爵令嬢」
突然遠くから呼ばれて、身体が止まる。
油断していた。
予想していない事態だった。
どくどくと自分の心臓の音が聞こえる。
落ち着け、と自分に言い聞かせて息を吐いた。
まず領民は私のことを『子爵令嬢』とは呼ばない。ジーク隊も同じく。ならば『領外から来た人』になる。
わざわざ今の時期に私を訪ねてくる人物に、もちろん心当たりはない。
次に私が眺望の丘にいることは誰にも告げてきていない。
家人が予想したとしても、それを口にすることはないだろう。私が領地に着いてから来客や面会は全て断っているからだ。
それなのに、ここに来訪者がいるのは単なる偶然か?
さらに来訪者だとして、今の私に至急の用件はないはず。
誘拐されたことについて、王宮と騎士団への対応は父と兄に任せてある。なにより私は「婚約破棄で心傷を負った子爵令嬢」なのだから。
そのため、私が必ずしも対応しないといけないわけではない。つまりは相手の出方次第。
最後にこれが偶然ではなく意図された行動の場合、その者の目的は何?
私か、それとも家門か?
私は貴族の顔を取り繕って、声のした方に振り向く。
こちらに向かってくる人を見つつ、素早く周囲を観察する。
見晴らしの良い丘をのぼってくる、1人の男性。
他に監視や護衛は見当たらない。少なくとも、見える範囲には。
だんだんと近付くにつれ、見覚えのある容姿に驚いた。
背が高く、存在感がある。
銀色の髪がサラサラと風に靡く。
アイスブルーの瞳の色、美形で整った表情から『氷の公爵様』と呼ばれる学園の有名人。
もうお会いすることはないと思っていたが……。
「セレス嬢、久しぶりだな」
彼の低く伸びやかな声に、私の体は凍りつきそうだった。
「クローディア公爵子息、お目にかかれて光栄です」
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1人視点なので情報が偏っております。全体がわかるまでは読み進めて頂けると嬉しいです。
お気に入りやいいね下さった方、ありがとうございます。励みになります^_^
引き続き楽しんで頂けると幸いです。
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