婚約破棄?その言葉ずっと待ってました!〜婚約破棄された令嬢と氷の公爵様〜

みのすけ

文字の大きさ
22 / 36

再会①

しおりを挟む
私は小高い丘から暮れ行く町並みを見ていた。この場所に立つとセレス領が一望できる。

幼い頃、両親に連れて来てもらった思い出の場所だ。


町も畑もオレンジ色に輝き、空は橙と紺のグラデーションが出来つつある。
そろそろ夕刻、帰らないと使用人たちが心配するだろう。


領地に来て数週間が経った。


父からの手紙に「セレス子爵家が王家から受章を授かることになった」と書いてあった。
受章とは叙勲を受けること。詳細はなかったが、おそらく兄の活躍によるものなのだろう。

兄の功績が認められたのなら嬉しいことだ。
欲のない両親にとっても、家門を担うために良かったと思う。
そして、いずれ家を継ぐ弟クリスのためになる。


セレス領で賊を捕らえた一件について、ジーク隊にも褒章が授与されるらしい。傭兵としては珍しいことらしく、ジーク隊長は少し照れていた。


身分に関わらず実力のある者が正当に評価されることが、私には嬉しい。
この貴族社会ではまだまだ難しいけれど、いつかは当たり前の世の中になってほしいと思う。


他にも私宛に様々な手紙が届いているが、家族以外のものは今は読まない。

差出人が知人の場合は「今は心身共に休養が必要なため、落ち着いたら連絡します」と一律で返信している。

周囲には心配をかけて申し訳ないと思っている。



私は仕事や読書をして、静かに時が経つのを待つ。

世界が私のことを忘れるまで。
私のことを思い出さないくらいに、存在が薄まるまで。

それが難しいならば、せめて貴族社会から消えることができるまで。





✳︎





気が付けば、随分と時間が経ってしまったようだ。そろそろ帰路につかないと日が暮れてしまう。今日は久しぶりに外出したので、つい長居をし過ぎた。


私が屋敷に帰るために腰を上げたところ、誰かがこちらの方へ丘を登ってきていた。

遠目に、若い男性のようだ。

顔を合わせるつもりはないので、私はその人が来る方向とは反対側から丘を下りようとした。




「セレス子爵令嬢」




突然遠くから呼ばれて、身体が止まる。



油断していた。

予想していない事態だった。



どくどくと自分の心臓の音が聞こえる。
落ち着け、と自分に言い聞かせて息を吐いた。




まず領民は私のことを『子爵令嬢』とは呼ばない。ジーク隊も同じく。ならば『領外から来た人』になる。

わざわざ今の時期に私を訪ねてくる人物に、もちろん心当たりはない。




次に私が眺望の丘にいることは誰にも告げてきていない。
家人が予想したとしても、それを口にすることはないだろう。私が領地に着いてから来客や面会は全て断っているからだ。

それなのに、ここに来訪者がいるのは単なる偶然か?




さらに来訪者だとして、今の私に至急の用件はないはず。
誘拐されたことについて、王宮と騎士団への対応は父と兄に任せてある。なにより私は「婚約破棄で心傷を負った子爵令嬢」なのだから。

そのため、私が必ずしも対応しないといけないわけではない。つまりは相手の出方次第。




最後にこれが偶然ではなく意図された行動の場合、その者の目的は何?

私か、それとも家門か?






私は貴族の顔を取り繕って、声のした方に振り向く。

こちらに向かってくる人を見つつ、素早く周囲を観察する。

見晴らしの良い丘をのぼってくる、1人の男性。
他に監視や護衛は見当たらない。少なくとも、見える範囲には。




だんだんと近付くにつれ、見覚えのある容姿に驚いた。


背が高く、存在感がある。
銀色の髪がサラサラと風に靡く。
アイスブルーの瞳の色、美形で整った表情から『氷の公爵様』と呼ばれる学園の有名人。

もうお会いすることはないと思っていたが……。




「セレス嬢、久しぶりだな」



彼の低く伸びやかな声に、私の体は凍りつきそうだった。

「クローディア公爵子息、お目にかかれて光栄です」


ーーーーーーーーーーーーーーーーー


1人視点なので情報が偏っております。全体がわかるまでは読み進めて頂けると嬉しいです。

お気に入りやいいね下さった方、ありがとうございます。励みになります^_^
引き続き楽しんで頂けると幸いです。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

初夜をすっぽかされた令嬢は夫を死亡扱いする

さんけい
恋愛
クズ夫の非常識を帳簿で粛々と清算!真実の愛?笑わせるわね! 全14話。予約投稿済みです。

誓いを忘れた騎士へ ―私は誰かの花嫁になる

吉乃
恋愛
「帰ってきたら、結婚してくれる?」 ――あの日の誓いを胸に、私は待ち続けた。 最初の三年間は幸せだった。 けれど、騎士の務めに赴いた彼は、やがて音信不通となり―― 気づけば七年の歳月が流れていた。 二十七歳になった私は、もう結婚をしなければならない。 未来を選ぶ年齢。 だから、別の男性との婚姻を受け入れると決めたのに……。 結婚式を目前にした夜。 失われたはずの声が、突然私の心を打ち砕く。 「……リリアナ。迎えに来た」 七年の沈黙を破って現れた騎士。 赦せるのか、それとも拒むのか。 揺れる心が最後に選ぶのは―― かつての誓いか、それとも新しい愛か。 お知らせ ※すみません、PCの不調で更新が出来なくなってしまいました。 直り次第すぐに更新を再開しますので、少しだけお待ちいただければ幸いです。

「君は大丈夫だろ?」と可哀想な元恋人を選択した夫。~今さら復縁を迫っても、愛は既に錆び付いています~

水上
恋愛
夫と白い結婚をして、傾いた領地を努力と苦労の末に立て直した伯爵令嬢ヴィクトリア。 夫との関係も良好……、のように見えていた。 だが夫は「君は強いから」と、めそめそ泣く元恋人を優先し、ヴィクトリアの献身を踏みにじった。 その瞬間、彼女の恋心は錆び付き始めた。 「私が去ったら、この領地は終わりですが?」 愛想を尽かした彼女は、完璧な微笑みの裏で淡々と離縁の準備を始める。 これは、有能な妻が去り、無能な夫が泥沼に沈むまでを描く、冷徹な断罪劇。

アリーチェ・オランジュ夫人の幸せな政略結婚

里見しおん
恋愛
「私のジーナにした仕打ち、許し難い! 婚約破棄だ!」  なーんて抜かしやがった婚約者様と、本日結婚しました。  アリーチェ・オランジュ夫人の結婚生活のお話。

【完結】姉の婚約者を奪った私は悪女と呼ばれています

春野オカリナ
恋愛
 エミリー・ブラウンは、姉の婚約者だった。アルフレッド・スタンレー伯爵子息と結婚した。  社交界では、彼女は「姉の婚約者を奪った悪女」と呼ばれていた。

幼馴染を選んで婚約者を追放した旦那様。しかしその後大変なことになっているようです

睡蓮
恋愛
レーベット侯爵は自身の婚約者として、一目ぼれしたミリアの事を受け入れていた。しかしレーベットはその後、自身の幼馴染であるリナリーの事ばかりを偏愛し、ミリアの事を冷遇し始める。そんな日々が繰り返されたのち、ついにレーベットはミリアのことを婚約破棄することを決める。もう戻れないところまで来てしまったレーベットは、その後大きな後悔をすることとなるのだった…。

最愛の婚約者に婚約破棄されたある侯爵令嬢はその想いを大切にするために自主的に修道院へ入ります。

ひよこ麺
恋愛
ある国で、あるひとりの侯爵令嬢ヨハンナが婚約破棄された。 ヨハンナは他の誰よりも婚約者のパーシヴァルを愛していた。だから彼女はその想いを抱えたまま修道院へ入ってしまうが、元婚約者を誑かした女は悲惨な末路を辿り、元婚約者も…… ※この作品には残酷な表現とホラーっぽい遠回しなヤンデレが多分に含まれます。苦手な方はご注意ください。 また、一応転生者も出ます。

どうしてか、知っていて?

碧水 遥
恋愛
どうして高位貴族令嬢だけが婚約者となるのか……知っていて?

処理中です...