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答え合わせ①
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私はクローディア公爵子息から少し距離を取る。この距離感は適切なはず。
アイスブルーの瞳は、ずっと私を捉えている。
少し寂しげに見えたのは気のせいだろう。
「誤解しないでほしい。俺はただ知りたいだけだ。貴方やセレス子爵家をどうこうするつもりはない。貴方もわかっている通り、証拠はないのだから」
「私が何か答えれば、証拠になるのではないですか?」
「自白だけでは証拠としては弱いし、物的証拠は何もない。その上、俺には公的な権限がない。興味があって聞きたいだけだ。言える範囲で答えてくれればいい」
『俺』と言うクローディア公爵子息に少し驚いたが、たぶんこちらが素なのだろう。
表情は変わらないが、今までよりは誠実さを感じる。これまでのどの態度よりも紳士的に思えた。
しかしながら貴族の世界では言葉だけでなく態度もまた駆け引き。
迷ったとき、私は相手の目を見る。
アイスブルーの瞳に嘘はないように思う。
私の沈黙を肯定と受け取ったのか、クローディア公爵子息は静かに続けた。
「事の発端は8年前、セレス領滞在中に領主夫妻が殺害されたこと。現場証拠から犯人は複数いたとわかっているが、犯人は逃亡して捕まっていなかった。
貴方は殺された夫妻の一人娘だ。セレス子爵家は前夫人の妹夫妻が継ぎ、貴方は家族として迎えられた。
新しい家族との関係は良好と聞いているけれど、貴方だけが王都と領地を頻繁に行き来している。犯人を探していたのか?」
よく調べている。
彼に、生半可な誤魔化しは効かないな。
「……犯人の手掛かりを探していました。犯人は領外の人ですから」
「なぜそう思う?」
「亡き両親と領民の関係は良好でした。領外の人と断定したのは、犯人の移動した痕跡を追跡したからです」
「貴方が?」
「はい」
クローディア公爵子息は意外そうな顔をした。どうも彼の予想とは違ったらしい。
「どうやって?」
「探知魔法の応用です。対象が移動した痕跡を辿るのです」
この答えに嘘はない。
探知魔法が使えることは既に明かしているので、ありのままを述べる。
「何故、告発しなかった?犯人の目星はついていたのだろう?」
「時の経過とともに物理的な痕跡は消えます。魔法でそれを明らかにしても、証拠にはなりません。私にしか、わからないのですから。また、あくまで痕跡を辿るだけなのです。殺害に及んだのか、確証は得られませんでした」
「それでも周りの大人に相談することはできただろう?貴方自身が動いて何かあったらどうする?」
「犯人の目的が分からない以上、周りを巻き込んで危険にさらすのは得策ではないと考えました」
「そこまで考えが及んでいるのなら、自分なりの結論を持っているのだろう?貴方はなぜ両親が殺害されたと思っている?」
「……私にはわかりません。ただ残された事実として『両親は子供達を守ろうとして命を落とした』と考えています」
私は素直に答えた。
両親が亡くなったことについては、意識的に事実だけを追うようにしていたからだ。
亡くなった状況、遺された痕跡、残された現実。
なるべく客観的に捉えられるようにするため、感情に支配され判断を誤らないようにするために必要だった。
王都では余罪の追及が続いており、おそらく前子爵夫妻の殺害について罪は確定していないだろう。確定すれば家族から私に連絡があるはず。
その時に初めて犯行の動機が明らかになる。
その時に初めて向き合える。
あの日から置き去りにしてきた、自分の感情と。
「前子爵夫妻のお人柄は話に聞いている。治政で領民を幸せにしようと奮闘した方々だった」
「……領地は自然豊かな田舎で、領民は気の良い人ばかり。目ぼしい産業もなかったので領外から来る人も少なく、当時治安は心配していませんでした。だから突然の凶行に、両親は為す術がなかったのだと思います」
「遺された貴方がどのような思いを抱いているのか、他人が推し量れるものではない。
だからといって貴方が自ら動くのは危険だろう?いくら魔法が使えるとはいえ、貴方は貴族令嬢だ」
確かに貴族は自分で動かずに他人を使う。まして私は非力な女性の身、世間知らずが一人で動くなんて無謀なことは分かっている。
私が承知していることを彼も分かっていて、それでも敢えて口にしているのだろう。
目の前の人は本当に私のことを心配しているようだ。
「探知魔法を、私がたまたま使えたからできたことです。自分が非力なのは分かっていますから、危険なことはしません」
クローディア公爵子息は私の身を案じてくださったのだろう。
ほとんど接点のない一介の令嬢を気にかけてくださるのだから、彼は優しくて気配りのできる人なのかもしれない。
だから私も、ついお節介なことを口にする。
「クローディア公爵子息こそ、自ら動くのは御身を危険にさらす行為だとお分かりでしょう?いくら転移魔法が使えるとはいえ、土地勘のない夜の森に立ち入るのはお控えになった方がよろしいかと」
「それを貴方が言うのか?」
彼はなぜか呆れた声で返してきた。
「ここは我が領内ですから、私は土地勘がありますよ」
私は至って真面目に答える。
「夜の森に女性が一人で立ち入る方が危ないだろう。まして今は男と二人きり、もう少し危機感を持った方がいい」
「クローディア公爵子息は私の事を害さないと仰いました。私は貴方を信じて応じましたのに、その言葉は心外です」
私がしれっと口にすると彼がうっと唸った。少し間があいて申し訳なさそうな声で返される。
「それは……悪かった」
私は思わず目をパチパチさせてしまった。彼ならいくらでも反論できるだろうに、予想外の返答だったからだ。
だからなのか、私は自然とお礼を口にする。
「心配して下さりありがとうございます。私の身を案じてくださることに感謝しております」
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一人視点なので情報が偏っております。全体がわかるまでは読み進めていただけると嬉しいです。今日は朝と昼の投稿になります。
お気に入りやいいね下さった方、ありがとうございます。励みになります^_^
引き続き楽しんでいただけると幸いです。
アイスブルーの瞳は、ずっと私を捉えている。
少し寂しげに見えたのは気のせいだろう。
「誤解しないでほしい。俺はただ知りたいだけだ。貴方やセレス子爵家をどうこうするつもりはない。貴方もわかっている通り、証拠はないのだから」
「私が何か答えれば、証拠になるのではないですか?」
「自白だけでは証拠としては弱いし、物的証拠は何もない。その上、俺には公的な権限がない。興味があって聞きたいだけだ。言える範囲で答えてくれればいい」
『俺』と言うクローディア公爵子息に少し驚いたが、たぶんこちらが素なのだろう。
表情は変わらないが、今までよりは誠実さを感じる。これまでのどの態度よりも紳士的に思えた。
しかしながら貴族の世界では言葉だけでなく態度もまた駆け引き。
迷ったとき、私は相手の目を見る。
アイスブルーの瞳に嘘はないように思う。
私の沈黙を肯定と受け取ったのか、クローディア公爵子息は静かに続けた。
「事の発端は8年前、セレス領滞在中に領主夫妻が殺害されたこと。現場証拠から犯人は複数いたとわかっているが、犯人は逃亡して捕まっていなかった。
貴方は殺された夫妻の一人娘だ。セレス子爵家は前夫人の妹夫妻が継ぎ、貴方は家族として迎えられた。
新しい家族との関係は良好と聞いているけれど、貴方だけが王都と領地を頻繁に行き来している。犯人を探していたのか?」
よく調べている。
彼に、生半可な誤魔化しは効かないな。
「……犯人の手掛かりを探していました。犯人は領外の人ですから」
「なぜそう思う?」
「亡き両親と領民の関係は良好でした。領外の人と断定したのは、犯人の移動した痕跡を追跡したからです」
「貴方が?」
「はい」
クローディア公爵子息は意外そうな顔をした。どうも彼の予想とは違ったらしい。
「どうやって?」
「探知魔法の応用です。対象が移動した痕跡を辿るのです」
この答えに嘘はない。
探知魔法が使えることは既に明かしているので、ありのままを述べる。
「何故、告発しなかった?犯人の目星はついていたのだろう?」
「時の経過とともに物理的な痕跡は消えます。魔法でそれを明らかにしても、証拠にはなりません。私にしか、わからないのですから。また、あくまで痕跡を辿るだけなのです。殺害に及んだのか、確証は得られませんでした」
「それでも周りの大人に相談することはできただろう?貴方自身が動いて何かあったらどうする?」
「犯人の目的が分からない以上、周りを巻き込んで危険にさらすのは得策ではないと考えました」
「そこまで考えが及んでいるのなら、自分なりの結論を持っているのだろう?貴方はなぜ両親が殺害されたと思っている?」
「……私にはわかりません。ただ残された事実として『両親は子供達を守ろうとして命を落とした』と考えています」
私は素直に答えた。
両親が亡くなったことについては、意識的に事実だけを追うようにしていたからだ。
亡くなった状況、遺された痕跡、残された現実。
なるべく客観的に捉えられるようにするため、感情に支配され判断を誤らないようにするために必要だった。
王都では余罪の追及が続いており、おそらく前子爵夫妻の殺害について罪は確定していないだろう。確定すれば家族から私に連絡があるはず。
その時に初めて犯行の動機が明らかになる。
その時に初めて向き合える。
あの日から置き去りにしてきた、自分の感情と。
「前子爵夫妻のお人柄は話に聞いている。治政で領民を幸せにしようと奮闘した方々だった」
「……領地は自然豊かな田舎で、領民は気の良い人ばかり。目ぼしい産業もなかったので領外から来る人も少なく、当時治安は心配していませんでした。だから突然の凶行に、両親は為す術がなかったのだと思います」
「遺された貴方がどのような思いを抱いているのか、他人が推し量れるものではない。
だからといって貴方が自ら動くのは危険だろう?いくら魔法が使えるとはいえ、貴方は貴族令嬢だ」
確かに貴族は自分で動かずに他人を使う。まして私は非力な女性の身、世間知らずが一人で動くなんて無謀なことは分かっている。
私が承知していることを彼も分かっていて、それでも敢えて口にしているのだろう。
目の前の人は本当に私のことを心配しているようだ。
「探知魔法を、私がたまたま使えたからできたことです。自分が非力なのは分かっていますから、危険なことはしません」
クローディア公爵子息は私の身を案じてくださったのだろう。
ほとんど接点のない一介の令嬢を気にかけてくださるのだから、彼は優しくて気配りのできる人なのかもしれない。
だから私も、ついお節介なことを口にする。
「クローディア公爵子息こそ、自ら動くのは御身を危険にさらす行為だとお分かりでしょう?いくら転移魔法が使えるとはいえ、土地勘のない夜の森に立ち入るのはお控えになった方がよろしいかと」
「それを貴方が言うのか?」
彼はなぜか呆れた声で返してきた。
「ここは我が領内ですから、私は土地勘がありますよ」
私は至って真面目に答える。
「夜の森に女性が一人で立ち入る方が危ないだろう。まして今は男と二人きり、もう少し危機感を持った方がいい」
「クローディア公爵子息は私の事を害さないと仰いました。私は貴方を信じて応じましたのに、その言葉は心外です」
私がしれっと口にすると彼がうっと唸った。少し間があいて申し訳なさそうな声で返される。
「それは……悪かった」
私は思わず目をパチパチさせてしまった。彼ならいくらでも反論できるだろうに、予想外の返答だったからだ。
だからなのか、私は自然とお礼を口にする。
「心配して下さりありがとうございます。私の身を案じてくださることに感謝しております」
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