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深夜の外出②
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クローディア公爵子息は私の手を引く。
森の中は足場が悪いため、転ばない様にとお気遣いいただいたようだ。
私はドレスではないしお気遣いいただくような格好でもないのだが、クローディア公爵子息にとって女性は気遣う対象なのかもしれない。模範的な紳士の振る舞いとはこういうことなのかな、と感心した。
クローディア公爵子息に当たり前の様に手を取られて、思い出した。夕方会った時に彼から「触れる許可」を求められて、私が承知していたことを。あれはまだ有効なのだろう。
月明かりの照らす場所を少し歩いて、
適当な倒木を見つけて並んで座った。
腰を下ろしても、手が離れない。
私が繋がれた手を見た後、クローディア公爵子息の顔を見上げたら、彼に急に微笑まれた。
彼は貴族令息に相応しい気品ある微笑みを浮かべ、優雅に口を開く。
「セレス嬢、転移魔法の他にどんな魔法を使える?」
「……」
あぁ、これは詰んだかも。
この人は全部分かっていて聞いているんだ。
ふぅと息を整える。
「……人の気配を探知する魔法など」
「古代魔法だね。使えると知られれば、周りが放っておくまい」
「私は魔術は使えませんから、知られても問題ありません」
「魔術の系統がなく、魔法が使えることの方が貴重だろう」
「そうでしょうか?市井ではそういう方もいると思いますが」
私は魔術と魔法は似て非なるものだと認識している。
魔術は理論が構築されており、術の発動の因果関係を明確にできる。
ただし系統の血筋ではないと扱えない。
要は魔術師の系統を持つ者が、理論的に理解して扱えるのが魔術なのだ。
対して魔法は魔術師の系統ではなくとも発動できる。昔は誰でも使えたと聞いている。
今は魔術研究が進み、魔法は廃れていった。そのため現在は扱える者が少なくなり『古代魔法』として貴重がられているだけ。
私は立場上、魔法を習得する必要性があっただけだ。
クローディア公爵子息は魔術師としても優れていると聞いたことがある。
そして今、私の位置を正確に把握することができる魔術を使用している。
おそらく探知魔法に近い魔術だろうが、かけられている私には感知できない精巧な代物。術のレベルが違う。
このような状況でベルン領に逃れてもすぐに捕まってしまう。しばらく身を隠してやり過ごそうと思ったが無理の様だ。
今私が逃げると、残された人達にあらぬ疑いがかかってしまうかもしれない。
クローディア公爵子息が静かに口を開いた。
「怖がらせて申し訳なかった。貴方を害するつもりはないので、どうか安心してほしい」
彼は表情こそ変わらないが、声色が少し落ち込んでいる。
「クローディア公爵子息が私を害するつもりなら、いつでもできたと思います。だから疑っていません。ただ……そろそろ手を離してもらえませんか?」
「これは、貴方が何処か遠くへ行ってしまいそうだから」
繋がれた手を見ながら、真顔で言われてしまった。私が逃げるつもりだったことがバレている?
「この後は領主館に帰ります。この格好は、よ、夜の散歩用です」
今の装いは旅支度そのものなので、苦しい言い訳をする。
「今の姿もよく似合っている。昼間とは違って新鮮だ」
「ありがとうございます。あの、手は……?」
「もう少しこのままで」
結局手を離してもらえず……。
私、相当信用されていないな。
「私を害するつもりはないと仰いましたが、私を捕えるつもりはありますよね?」
「捕えるつもりもない。けれど貴方は警戒を解かないし、このような事態も想定していた。
……私の魔術にいつ気付いた?」
「クローディア公爵子息がここに来たからです。
私にかけられたであろう術については、気配も感じられていません」
「術がわからないから、状況を作って見極めたのか……面白い」
クローディア公爵子息は少し驚いた顔をした。
表情が変わらないと聞いていたが、噂もあてにならない。
「術をかけるために、わざと私に触れましたね?」
「貴方にかけたのは居場所が分かる魔術の一種。私だけが感知できる。簡易なものだから今日中には解ける」
簡易な魔術でも、氷の公爵様が使うと精度が高くなるのか。今後は気をつけよう。
「貴方がいなくなると、私の問いに答えてもらえなくなるから。勝手に術をかけてすまなかった」
私は目を伏せて考える。
たぶん彼は全て把握しているだろう。
無策で挑むようなタイプではなさそう。
ならば、彼の問いに答えれば状況は変化するかもしれない。
私は意を決して顔を上げる。
「クローディア公爵子息からの問いについてですが」
言いかけて言葉が止まる。
目を見開いた。
頬に何か触れている。
クローディア公爵子息の手だ。
彼の長い指が、私の下唇をそっと撫でる。
彼の片手は私の手を握り、もう片方の手で顔に触れている。必然的に距離が近かった。
なんだろう、この状態。
アイスブルーの瞳が至近距離にある。
身体が動かない。
「……私は貴方に興味がある。だから警戒されたままだと悲しい」
「……ならば、少し離れた方が良いですよ。多少は警戒が緩むかも」
「離しても、逃げないか?」
「居場所が分かるのでしょう?逃げませんよ」
「ははっ、貴方と話すのは楽しい。駆け引きも面白いけど、ここは警戒を解いてもらう方が良さそうだ」
そう言って彼は私からそっと手を離した。
ーーーーーーーーーーーーーーーーー
1人視点なので情報が偏っております。全体がわかるまでは読み進めて頂けると嬉しいです。
なお当物語では貴族の子の呼称を「家名+子息」「家名+令嬢」で統一しております。
さらに一般的に貴族の子弟を指す場合に「令息」と表現しております。
誤字ではなく世界観と思って下さると嬉しいです。
お気に入りやいいね下さった方、ありがとうございます。励みになります^_^
引き続き楽しんで頂けると幸いです。
森の中は足場が悪いため、転ばない様にとお気遣いいただいたようだ。
私はドレスではないしお気遣いいただくような格好でもないのだが、クローディア公爵子息にとって女性は気遣う対象なのかもしれない。模範的な紳士の振る舞いとはこういうことなのかな、と感心した。
クローディア公爵子息に当たり前の様に手を取られて、思い出した。夕方会った時に彼から「触れる許可」を求められて、私が承知していたことを。あれはまだ有効なのだろう。
月明かりの照らす場所を少し歩いて、
適当な倒木を見つけて並んで座った。
腰を下ろしても、手が離れない。
私が繋がれた手を見た後、クローディア公爵子息の顔を見上げたら、彼に急に微笑まれた。
彼は貴族令息に相応しい気品ある微笑みを浮かべ、優雅に口を開く。
「セレス嬢、転移魔法の他にどんな魔法を使える?」
「……」
あぁ、これは詰んだかも。
この人は全部分かっていて聞いているんだ。
ふぅと息を整える。
「……人の気配を探知する魔法など」
「古代魔法だね。使えると知られれば、周りが放っておくまい」
「私は魔術は使えませんから、知られても問題ありません」
「魔術の系統がなく、魔法が使えることの方が貴重だろう」
「そうでしょうか?市井ではそういう方もいると思いますが」
私は魔術と魔法は似て非なるものだと認識している。
魔術は理論が構築されており、術の発動の因果関係を明確にできる。
ただし系統の血筋ではないと扱えない。
要は魔術師の系統を持つ者が、理論的に理解して扱えるのが魔術なのだ。
対して魔法は魔術師の系統ではなくとも発動できる。昔は誰でも使えたと聞いている。
今は魔術研究が進み、魔法は廃れていった。そのため現在は扱える者が少なくなり『古代魔法』として貴重がられているだけ。
私は立場上、魔法を習得する必要性があっただけだ。
クローディア公爵子息は魔術師としても優れていると聞いたことがある。
そして今、私の位置を正確に把握することができる魔術を使用している。
おそらく探知魔法に近い魔術だろうが、かけられている私には感知できない精巧な代物。術のレベルが違う。
このような状況でベルン領に逃れてもすぐに捕まってしまう。しばらく身を隠してやり過ごそうと思ったが無理の様だ。
今私が逃げると、残された人達にあらぬ疑いがかかってしまうかもしれない。
クローディア公爵子息が静かに口を開いた。
「怖がらせて申し訳なかった。貴方を害するつもりはないので、どうか安心してほしい」
彼は表情こそ変わらないが、声色が少し落ち込んでいる。
「クローディア公爵子息が私を害するつもりなら、いつでもできたと思います。だから疑っていません。ただ……そろそろ手を離してもらえませんか?」
「これは、貴方が何処か遠くへ行ってしまいそうだから」
繋がれた手を見ながら、真顔で言われてしまった。私が逃げるつもりだったことがバレている?
「この後は領主館に帰ります。この格好は、よ、夜の散歩用です」
今の装いは旅支度そのものなので、苦しい言い訳をする。
「今の姿もよく似合っている。昼間とは違って新鮮だ」
「ありがとうございます。あの、手は……?」
「もう少しこのままで」
結局手を離してもらえず……。
私、相当信用されていないな。
「私を害するつもりはないと仰いましたが、私を捕えるつもりはありますよね?」
「捕えるつもりもない。けれど貴方は警戒を解かないし、このような事態も想定していた。
……私の魔術にいつ気付いた?」
「クローディア公爵子息がここに来たからです。
私にかけられたであろう術については、気配も感じられていません」
「術がわからないから、状況を作って見極めたのか……面白い」
クローディア公爵子息は少し驚いた顔をした。
表情が変わらないと聞いていたが、噂もあてにならない。
「術をかけるために、わざと私に触れましたね?」
「貴方にかけたのは居場所が分かる魔術の一種。私だけが感知できる。簡易なものだから今日中には解ける」
簡易な魔術でも、氷の公爵様が使うと精度が高くなるのか。今後は気をつけよう。
「貴方がいなくなると、私の問いに答えてもらえなくなるから。勝手に術をかけてすまなかった」
私は目を伏せて考える。
たぶん彼は全て把握しているだろう。
無策で挑むようなタイプではなさそう。
ならば、彼の問いに答えれば状況は変化するかもしれない。
私は意を決して顔を上げる。
「クローディア公爵子息からの問いについてですが」
言いかけて言葉が止まる。
目を見開いた。
頬に何か触れている。
クローディア公爵子息の手だ。
彼の長い指が、私の下唇をそっと撫でる。
彼の片手は私の手を握り、もう片方の手で顔に触れている。必然的に距離が近かった。
なんだろう、この状態。
アイスブルーの瞳が至近距離にある。
身体が動かない。
「……私は貴方に興味がある。だから警戒されたままだと悲しい」
「……ならば、少し離れた方が良いですよ。多少は警戒が緩むかも」
「離しても、逃げないか?」
「居場所が分かるのでしょう?逃げませんよ」
「ははっ、貴方と話すのは楽しい。駆け引きも面白いけど、ここは警戒を解いてもらう方が良さそうだ」
そう言って彼は私からそっと手を離した。
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1人視点なので情報が偏っております。全体がわかるまでは読み進めて頂けると嬉しいです。
なお当物語では貴族の子の呼称を「家名+子息」「家名+令嬢」で統一しております。
さらに一般的に貴族の子弟を指す場合に「令息」と表現しております。
誤字ではなく世界観と思って下さると嬉しいです。
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