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答え合わせ②
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クローディア公爵子息は目を丸くした。
私にお礼を言われるとは思っていなかったようだ。
お互いに、身体から少し力が抜ける。
緊張していた空気が少し和んで、彼は続きを口にする。
「貴方が犯人の痕跡を追跡した結果、ドロール家お抱えの犯罪集団に行きついた。ドロール家とブロウ家の繋がりについてはなぜ気付いた?」
この言葉で、私は覚悟した。
彼は全体像をきちんと捉えている。
下手に隠すと疑念を招くかもしれない。
だから私はなるべく素直に答えることにする。
「物の流れです。ドロール家からブロウ家には主に貴重品が流れていましたが、帳尻が合わない時があるのです。表に出させないもの、例えば違法な物や人が含まれていると考えました」
「確証はなかったのか?」
「はい。ですがブロウ家の使用人の中に、私の知っている子を見つけました」
「ドロール家は攫った子供を自領の孤児院に入れた後、安価な労働力として売っていた。貴方が見つけたのは、セレス領から攫われた子供の一人だったのか?」
「はい。私より一つ年下のマリアでした」
「貴方はブロウ伯爵家に売られたマリアを助けたかった。しかし子爵家が手を出せる範囲を超えていた」
「マリアは表向きは正式な手続きを通して、小間使いとして伯爵家に雇用されました。攫われた子供達のうち二人は家族のもとに戻れましたが、彼女だけは戻れていないのです」
「だからブロウ伯爵子息の婚約者になったのか?」
「確かに私がブロウ家の女主人になれば、彼女を伯爵家の外に出すことができます。ブロウ家は使用人への当たりが厳しくて……マリアに何かある前に何とかしたかった。
私宛にブロウ家から婚約の申し入れが来たのは幸運でした」
「ブロウ家の強い意向で婚約が成立したと聞いている。ブロウ伯爵には何か思惑があったのか?」
「……何か思惑があったとしても、伯爵家からの婚約を子爵家からは断れません」
「……」
筆頭公爵家であるクローディア公爵子息には分からないかもしれないが、下位貴族にとって爵位の差はとても大きい。
貴族としての序列の差は権力の差であると同時に、人脈の差であり、経済力の差でもあるからだ。
高位貴族との繋がりが薄く、資金力のない子爵家にとって、伯爵家の意向は無視できない。
「ブロウ伯爵子息と婚約した二年後、貴方は王立学園に入学してドロール男爵令嬢と出会った」
「ドロール男爵令嬢は入学当初から周囲と馴染めずにいたので、私から声をかけたのです」
「ドロール家を探るためか?」
「否定はしません。しかし彼女は何も知りませんでした」
「貴方がドロール男爵令嬢と一緒にいれば、ブロウ伯爵子息とドロール男爵令嬢が接触する機会が増えるな」
「はい。二人は次第に仲良くなりました」
その言葉にクローディア公爵子息は顔を曇らせた。表情が変わらないと聞いていたが、やはりそんなことはないらしい。
「貴方は良かったのか?婚約者が自分以外の令嬢と一緒にいても?」
ここまでのやり取りを通して、クローディア公爵子息は私に対して誠実に接していると思われる。彼の言葉通り、私やセレス家に害をもたらす意図はないようだ。
だからといって全てを明かせるわけでもない。
「トロイ様は私との婚約を望んでおりませんでした。彼は常々金髪が好みと仰っておりましたので、アメリア様は理想の令嬢だったと思います。私は彼の意思を尊重しようと思いました」
「親が決めた婚約だからといって、ブロウ伯爵子息は婚約者として不誠実だ」
「一方、アメリア様は親から学園で婚約者を探してくるように言われていたそうです。そのため令息との距離が近く、学園では孤立しがちでした。親からは高位貴族を捕まえる様に言われていたそうで、ブロウ伯爵家なら条件に合うと思った様です」
「家の事情があったとはいえ、友人の婚約者に手を出すのはどうかと思う。ブロウ伯爵子息と五年も婚約していれば、成婚間近だったのだろう?」
「はい。伯爵家の意向で、ブロウ伯爵子息が学園を卒業したら成婚することが決まっていました」
「ならば今年か」
「はい。ブロウ伯爵子息もそれをわかっていましたから、ドロール男爵令嬢と一緒になるために私との婚約を破棄するまでの時間は限られていました」
「ブロウ伯爵子息とドロール男爵令嬢が二人で過ごしていたことは、学園でも確認されている。貴方は婚約破棄されてから学園に来なくて良い様に、飛び級試験を受けたのか?」
「婚約破棄されれば、噂になるのは避けられません。私の弟は附属幼稚舎に在籍しておりますので、学園の噂でこれ以上の迷惑をかけたくありませんでした」
「貴方は弟思いなんだな」
「家族のことを思うなら、家の醜聞になる行為を避けるべきでした。私が至らなかったために社交界で噂になり、両親にも兄にも肩身の狭い思いをさせたことと思います」
「もし婚約関係が続いたままブロウ家が検挙されれば、セレス家も無事では済まなかっただろう。婚約破棄の事実によって、セレス家は守られたともいえる」
「私もそう思いますが、あくまで結果論です。ブロウ家からの婚約破棄を、格下のセレス家は受け入れる他ありませんので」
「結果論なのかな?貴方はこの結果を予想していたように見えるけど。飛び級で学園を卒業したことも含めて、意図的に能力を隠していたのはなぜ?」
なるほど。
クローディア公爵子息の真意が少し見えたような気がした。
彼は確かめるためにわざわざ来たのだろう。
どうも私は過大評価されているようだ。それならば全力で否定しなければならない。
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一人視点なので情報が偏っております。全体がわかるまでは読み進めていただけると嬉しいです。答え合わせは明日終わります。
お気に入りやいいね下さった方、ありがとうございます。励みになります^_^
引き続き楽しんでいただけると幸いです。
私にお礼を言われるとは思っていなかったようだ。
お互いに、身体から少し力が抜ける。
緊張していた空気が少し和んで、彼は続きを口にする。
「貴方が犯人の痕跡を追跡した結果、ドロール家お抱えの犯罪集団に行きついた。ドロール家とブロウ家の繋がりについてはなぜ気付いた?」
この言葉で、私は覚悟した。
彼は全体像をきちんと捉えている。
下手に隠すと疑念を招くかもしれない。
だから私はなるべく素直に答えることにする。
「物の流れです。ドロール家からブロウ家には主に貴重品が流れていましたが、帳尻が合わない時があるのです。表に出させないもの、例えば違法な物や人が含まれていると考えました」
「確証はなかったのか?」
「はい。ですがブロウ家の使用人の中に、私の知っている子を見つけました」
「ドロール家は攫った子供を自領の孤児院に入れた後、安価な労働力として売っていた。貴方が見つけたのは、セレス領から攫われた子供の一人だったのか?」
「はい。私より一つ年下のマリアでした」
「貴方はブロウ伯爵家に売られたマリアを助けたかった。しかし子爵家が手を出せる範囲を超えていた」
「マリアは表向きは正式な手続きを通して、小間使いとして伯爵家に雇用されました。攫われた子供達のうち二人は家族のもとに戻れましたが、彼女だけは戻れていないのです」
「だからブロウ伯爵子息の婚約者になったのか?」
「確かに私がブロウ家の女主人になれば、彼女を伯爵家の外に出すことができます。ブロウ家は使用人への当たりが厳しくて……マリアに何かある前に何とかしたかった。
私宛にブロウ家から婚約の申し入れが来たのは幸運でした」
「ブロウ家の強い意向で婚約が成立したと聞いている。ブロウ伯爵には何か思惑があったのか?」
「……何か思惑があったとしても、伯爵家からの婚約を子爵家からは断れません」
「……」
筆頭公爵家であるクローディア公爵子息には分からないかもしれないが、下位貴族にとって爵位の差はとても大きい。
貴族としての序列の差は権力の差であると同時に、人脈の差であり、経済力の差でもあるからだ。
高位貴族との繋がりが薄く、資金力のない子爵家にとって、伯爵家の意向は無視できない。
「ブロウ伯爵子息と婚約した二年後、貴方は王立学園に入学してドロール男爵令嬢と出会った」
「ドロール男爵令嬢は入学当初から周囲と馴染めずにいたので、私から声をかけたのです」
「ドロール家を探るためか?」
「否定はしません。しかし彼女は何も知りませんでした」
「貴方がドロール男爵令嬢と一緒にいれば、ブロウ伯爵子息とドロール男爵令嬢が接触する機会が増えるな」
「はい。二人は次第に仲良くなりました」
その言葉にクローディア公爵子息は顔を曇らせた。表情が変わらないと聞いていたが、やはりそんなことはないらしい。
「貴方は良かったのか?婚約者が自分以外の令嬢と一緒にいても?」
ここまでのやり取りを通して、クローディア公爵子息は私に対して誠実に接していると思われる。彼の言葉通り、私やセレス家に害をもたらす意図はないようだ。
だからといって全てを明かせるわけでもない。
「トロイ様は私との婚約を望んでおりませんでした。彼は常々金髪が好みと仰っておりましたので、アメリア様は理想の令嬢だったと思います。私は彼の意思を尊重しようと思いました」
「親が決めた婚約だからといって、ブロウ伯爵子息は婚約者として不誠実だ」
「一方、アメリア様は親から学園で婚約者を探してくるように言われていたそうです。そのため令息との距離が近く、学園では孤立しがちでした。親からは高位貴族を捕まえる様に言われていたそうで、ブロウ伯爵家なら条件に合うと思った様です」
「家の事情があったとはいえ、友人の婚約者に手を出すのはどうかと思う。ブロウ伯爵子息と五年も婚約していれば、成婚間近だったのだろう?」
「はい。伯爵家の意向で、ブロウ伯爵子息が学園を卒業したら成婚することが決まっていました」
「ならば今年か」
「はい。ブロウ伯爵子息もそれをわかっていましたから、ドロール男爵令嬢と一緒になるために私との婚約を破棄するまでの時間は限られていました」
「ブロウ伯爵子息とドロール男爵令嬢が二人で過ごしていたことは、学園でも確認されている。貴方は婚約破棄されてから学園に来なくて良い様に、飛び級試験を受けたのか?」
「婚約破棄されれば、噂になるのは避けられません。私の弟は附属幼稚舎に在籍しておりますので、学園の噂でこれ以上の迷惑をかけたくありませんでした」
「貴方は弟思いなんだな」
「家族のことを思うなら、家の醜聞になる行為を避けるべきでした。私が至らなかったために社交界で噂になり、両親にも兄にも肩身の狭い思いをさせたことと思います」
「もし婚約関係が続いたままブロウ家が検挙されれば、セレス家も無事では済まなかっただろう。婚約破棄の事実によって、セレス家は守られたともいえる」
「私もそう思いますが、あくまで結果論です。ブロウ家からの婚約破棄を、格下のセレス家は受け入れる他ありませんので」
「結果論なのかな?貴方はこの結果を予想していたように見えるけど。飛び級で学園を卒業したことも含めて、意図的に能力を隠していたのはなぜ?」
なるほど。
クローディア公爵子息の真意が少し見えたような気がした。
彼は確かめるためにわざわざ来たのだろう。
どうも私は過大評価されているようだ。それならば全力で否定しなければならない。
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