婚約破棄?その言葉ずっと待ってました!〜婚約破棄された令嬢と氷の公爵様〜

みのすけ

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警戒②

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「クローディア家が前子爵夫妻殺害の犯人ではないと考えたのはなぜ?」


一気に体温が下がる。
血の気が引いた。



彼の目的、ここに至った思考を高速でトレースする。


彼がセレス領を訪れたのは、私の前に現れたのは、偶然ではない。

彼と話したのは、一度。
王都の孤児院の近く、セレス家に馬車で送ってもらったあの時だけ。

それが、今、腕を取られるほど近くにいる。

私は悪い予想ほど、早く計算できる。



トレースと並行して、今この場をどう返すのが最善かシミュレーションする。

目の前の相手に、タイムラグは致命的。

こちらの焦りを悟られてはいけない。
貴族相手に隙を見せてはいけない。

私は動揺を感じさせないように微笑んだ。



「何のお話でしょう?」



「……」

 

クローディア公爵子息は何も答えずに、私の顔をじっと見つめている。

アイスブルーの瞳は何を見るのか?
私の嘘か?綻びか?


彼が私を引き寄せたから、彼の腕に閉じ込められそうな程に近い距離にいる。

親密な相手ならあり得る距離、だから今の私には無縁の近さ。
他人と距離を取る今の私にとっては、警戒する近さ。

警戒する相手だから、目を離さない。


今更ながら、初めてクローディア公爵子息の顔をきちんと見た。

切れ長の目元、スッと伸びた鼻梁、形の良い唇が薄く結ばれている。
とても端正な顔立ちだと思う。整った容姿に惹かれる学園生がいるのも頷ける。

私はアイスブルーの瞳が綺麗だと思った。何でも見透せる様な、澄んだ青。

その瞳に至近距離で見つめられると、正直辛い。
美形は迫力が違う。美しさという力に、こちらが圧倒されそうになる。

それを悟られてはいけない。

私も負けられない、屈せない理由があるからだ。
こちらも完璧な淑女の微笑みで応じる。


「ふふっ」


彼が軽く微笑み、私の腕をそっと離した。


「今は引くとしよう」


彼の言葉が耳に届き、私は速やかに距離を取る。
先ほどまでが近すぎたのだ。
今の距離感は適切なはず。


「……今日はありがとうございました。後程、ご連絡致します」


私は完璧な礼を心掛ける。彼が去るまで気が抜けない。


クローディア公爵子息は護衛と合流して、馬で駆けていった。
後ろ姿を見送って、私はモランのもとに急ぐ。


「お嬢様、心配致しました。ご無事でなによりです」


「心配かけてごめんなさい、モラン。早く帰りましょう」



モランは領主館の家令だ。私が最も信頼している家人。セバスチャンが去った後もセレス家に残ってくれて、領地を、セレス家を守ってくれている。
 


モランの話によると、私が外出して約1時間後にクローディア公爵子息が訪ねてきたとのこと。



「お嬢様宛にこちらのお手紙が届きまして……」



私が領主館を出た後、クローディア公爵子息から手紙が届いたそうだ。


私宛の手紙は基本的に王都の屋敷に届く。
今の私に急ぎの用件はないので、家族以外の手紙は定期的にまとめて領地に送ってもらっている。そのため領地に届くまでに通常よりも時間がかかる。

クローディア公爵子息の手紙と訪問が同日になったのは、そのせいなのかもしれない。


モランは手紙を開封せず私に指示を仰ぐつもりだったが、先ぶれがあり、クローディア公爵子息が護衛を伴い領主館を訪れた。


クローディア公爵子息は私の見舞いにきたようだ。
モランが面会を取り次げない旨を伝えると、彼はすんなり帰ったそうだ。
「クローディア領に宿泊するので、面会が可能になったら連絡がしてほしい」と言い残して。


その後公爵家の護衛騎士が再度領主館を訪れ、セレス領内でクローディア公爵子息とはぐれたことを知ったそうだ。


そのためセレス家の使用人を総動員して領内を探していたとのことだった。


「モラン、大変な時に出掛けていてごめんなさい。クローディア公爵家への対応、助かったわ」


「お嬢様、勿体無いお言葉です。あと、クローディア公爵子息からお見舞いのお花をお預かりしております」


屋敷に戻ると、モランから立派な花束が差し出された。私は侍女に指示して、自室に置いてもらう。


「モラン、明日クローディア公爵子息に御礼の手紙を送ろうと思います」


公爵家相手に失礼があってはいけない。


「承知致しました。私は領主館にお客様をお招きする準備を整えておきます」


モランが素早く指示を出している姿を見て、私も準備に取り掛かる。
この先状況がどう転んでも、大事なものを守れる準備を。


「皆、クローディア公爵家の対応をありがとう。とても助かりました。今日は仕事を切り上げて、早く休んでね」


夕食後、家人達にお礼を言い、私も早々に自室に引き上げた。主人が早く休まないと、家人たちも早く休めない。


部屋の中にはクローディア公爵子息からいただいた花が飾らせている。数種類の花が形良く花瓶に収まっているのを、無意識に目で追った。

目に入った花の意味を探してしまい、自嘲する。頭に浮かんだ花言葉は「また逢うのを楽しみにしている」と「真実」。




もうお会いすることはないと思っていたのに、

関わるはずではなかったのに、

まさかクローディア公爵子息に気付かれるなんて……。



私は身体は疲れていたが、頭は冴えていた。


彼の思考をトレースした結果は出ていた。
彼の言葉と、彼が今日ここを訪れたことが答え。

もっとも、彼は第二王子殿下の懐刀。
私よりも何枚も上手だろう。

どう対応すべきか、その結果も既に出ていた。

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1人視点なので情報が偏っております。全体がわかるまでは読み進めて頂けると嬉しいです。今日はあと2話投稿予定です。

お気に入りやいいね下さった方、ありがとうございます。励みになります^_^
引き続き楽しんで頂けると幸いです。
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