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再会②
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「セレス嬢、久しぶりだな」
彼の低く伸びやかな声に、私の体は凍りつきそうだった。
「クローディア公爵子息、お目にかかれて光栄です」
私は礼をしたまま目を伏せる。
第二王子ライオール殿下の側近で多忙な彼がなぜここに?
今まで接点はなかったはずだが……
いや、
孤児院の近くでトロイ様とお会いして、クローディア公爵子息に馬車で送っていただいたことがあった。
あの時は予期しないことだったから、自分の中で深く考えなかった。
制服姿で学園の帰り道かと思ったが……今思い返せば公爵子息が馬車から離れて、しかも人通りの少ない通りに降り立つなんて不自然だ。
もしかして、あの日クローディア公爵子息はトロイ様の動向を見ていた……?
もしそうなら……
回らない頭で理由を考えたが、どれも悪い予想しかしなかった。
「セレス嬢、体調はもう良いのか?」
クローディア公爵子息の気遣う様な声色に、ハッと意識を戻す。
礼をしたままで顔は上げていない。私は平静を装って、ゆっくり口を開く。
「ご心配をおかけいたしました。こちらで療養し、だいぶ良くなりました」
「それは良かった。シルフィーユがとても心配していたよ」
ここでシルフィーユ様の名前が出たので思い至る。
シルフィーユ様とクローディア公爵子息はご親戚でいらっしゃる。
同い年の高位貴族、王立学園では生徒会役員として共にライオール殿下を支える立場、2人とも眩いばかりの銀色の髪で美形と名高い御方……。
シルフィーユ様とクローディア公爵子息は、学園では一緒に行動することが多いのかもしれない。
ならばクローディア公爵子息はシルフィーユ様から、私の話を聞いた可能性がある。私が学園退学後に領地に行くことを。
私はゆっくり姿勢を戻し、申し訳ない顔を作る。
「お気遣いありがとうございます。シルフィーユ様からお見舞いの手紙をいただいておりましたのに、返事ができておりませんでした」
「昨日まで部屋で過ごしていたと聞いた。君が元気になったらシルフィーユに連絡してやってほしい」
クローディア公爵子息は既に領主館を訪れたのだろう。対応した家人から話を聞いた様だ。
事前に訪問の連絡はなかったはずだが……?
「はい。……ところでクローディア公爵子息、どうしてこちらに?お一人ですか?」
シルフィーユ様から私の様子を見てきてほしいと頼まれた……とか?
クローディア領はセレス領と隣接しているので、あり得ないことではないが……。
「護衛とはぐれてしまってね。領主館までは一緒にいたのだが……」
「当家に何か御用でしたか?」
「ああ、君に会いに来た」
「……」
あまりにストレートな物言いに、私は思わず口を噤んだ。
彼の表情はあまり変わらない。
相手が真顔だから、冗談にしては分かりにくい。
「不在にしていて申し訳ありませんでした」
「謝ることはない。君への面会は取り次げないと、家令から聞いている」
家令は忠実に職務を遂行してくれた。けれど子爵家の家令の立場で高位貴族に立ち向かうのは、大げさではなく死を覚悟することだっただろう。
公爵家に対しても私を守ってくれる家人に、感謝の気持ちでいっぱいになる。なおのこと早く帰って安心させなければ。
それにクローディア公爵子息の護衛の方が、主人の身を心配しているだろう。
「クローディア公爵子息、折角お越しいただきましたのに申し訳ございません。このお詫びは必ず……」
「では領主館まで送らせてほしい。まもなく暗くなるのにご令嬢を一人で返せない」
クローディア公爵子息は私の言葉を遮る様に被せて来た。穏やかに接して下さるが、有無を言わさぬ雰囲気がある。
どちらにしろ、クローディア公爵子息をこのままお一人にはできない。共に領主館に向かうことにはなる。
「ではお言葉に甘えて……」
「……触れる許可を頂いても?」
クローディア公爵子息はそう言って左手を差し出した。
これから丘を下るので、私が転ばないように手を引いて下さるつもりなのだろう。
私は一瞬躊躇ったが、失礼になったらいけないと思い返す。
「……はい、お気遣いいただきありがとうございます」
「さあ、行こうか」
彼の表情が僅かに柔らかくなったような気がした。私は躊躇いながらも、彼の手に自分の右手を添えた。
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一人視点なので情報が偏っております。全体がわかるまでは読み進めていただけると嬉しいです。今日は朝と昼の投稿になります。
お気に入りやいいね下さった方、ありがとうございます。励みになります^_^
引き続き楽しんでいただけると幸いです。
彼の低く伸びやかな声に、私の体は凍りつきそうだった。
「クローディア公爵子息、お目にかかれて光栄です」
私は礼をしたまま目を伏せる。
第二王子ライオール殿下の側近で多忙な彼がなぜここに?
今まで接点はなかったはずだが……
いや、
孤児院の近くでトロイ様とお会いして、クローディア公爵子息に馬車で送っていただいたことがあった。
あの時は予期しないことだったから、自分の中で深く考えなかった。
制服姿で学園の帰り道かと思ったが……今思い返せば公爵子息が馬車から離れて、しかも人通りの少ない通りに降り立つなんて不自然だ。
もしかして、あの日クローディア公爵子息はトロイ様の動向を見ていた……?
もしそうなら……
回らない頭で理由を考えたが、どれも悪い予想しかしなかった。
「セレス嬢、体調はもう良いのか?」
クローディア公爵子息の気遣う様な声色に、ハッと意識を戻す。
礼をしたままで顔は上げていない。私は平静を装って、ゆっくり口を開く。
「ご心配をおかけいたしました。こちらで療養し、だいぶ良くなりました」
「それは良かった。シルフィーユがとても心配していたよ」
ここでシルフィーユ様の名前が出たので思い至る。
シルフィーユ様とクローディア公爵子息はご親戚でいらっしゃる。
同い年の高位貴族、王立学園では生徒会役員として共にライオール殿下を支える立場、2人とも眩いばかりの銀色の髪で美形と名高い御方……。
シルフィーユ様とクローディア公爵子息は、学園では一緒に行動することが多いのかもしれない。
ならばクローディア公爵子息はシルフィーユ様から、私の話を聞いた可能性がある。私が学園退学後に領地に行くことを。
私はゆっくり姿勢を戻し、申し訳ない顔を作る。
「お気遣いありがとうございます。シルフィーユ様からお見舞いの手紙をいただいておりましたのに、返事ができておりませんでした」
「昨日まで部屋で過ごしていたと聞いた。君が元気になったらシルフィーユに連絡してやってほしい」
クローディア公爵子息は既に領主館を訪れたのだろう。対応した家人から話を聞いた様だ。
事前に訪問の連絡はなかったはずだが……?
「はい。……ところでクローディア公爵子息、どうしてこちらに?お一人ですか?」
シルフィーユ様から私の様子を見てきてほしいと頼まれた……とか?
クローディア領はセレス領と隣接しているので、あり得ないことではないが……。
「護衛とはぐれてしまってね。領主館までは一緒にいたのだが……」
「当家に何か御用でしたか?」
「ああ、君に会いに来た」
「……」
あまりにストレートな物言いに、私は思わず口を噤んだ。
彼の表情はあまり変わらない。
相手が真顔だから、冗談にしては分かりにくい。
「不在にしていて申し訳ありませんでした」
「謝ることはない。君への面会は取り次げないと、家令から聞いている」
家令は忠実に職務を遂行してくれた。けれど子爵家の家令の立場で高位貴族に立ち向かうのは、大げさではなく死を覚悟することだっただろう。
公爵家に対しても私を守ってくれる家人に、感謝の気持ちでいっぱいになる。なおのこと早く帰って安心させなければ。
それにクローディア公爵子息の護衛の方が、主人の身を心配しているだろう。
「クローディア公爵子息、折角お越しいただきましたのに申し訳ございません。このお詫びは必ず……」
「では領主館まで送らせてほしい。まもなく暗くなるのにご令嬢を一人で返せない」
クローディア公爵子息は私の言葉を遮る様に被せて来た。穏やかに接して下さるが、有無を言わさぬ雰囲気がある。
どちらにしろ、クローディア公爵子息をこのままお一人にはできない。共に領主館に向かうことにはなる。
「ではお言葉に甘えて……」
「……触れる許可を頂いても?」
クローディア公爵子息はそう言って左手を差し出した。
これから丘を下るので、私が転ばないように手を引いて下さるつもりなのだろう。
私は一瞬躊躇ったが、失礼になったらいけないと思い返す。
「……はい、お気遣いいただきありがとうございます」
「さあ、行こうか」
彼の表情が僅かに柔らかくなったような気がした。私は躊躇いながらも、彼の手に自分の右手を添えた。
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