婚約破棄?その言葉ずっと待ってました!〜婚約破棄された令嬢と氷の公爵様〜

みのすけ

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婚約破棄?その言葉待っていました!

答え合わせ④

クローディア公爵子息は黙ってこちらを見ている。

私の話に納得して下さったのか、表情からは読み取れない。


彼と向かい合っているこの状況が、現実ではないと思ってしまう。


ここはセレス領の森で、
今は夜で、
彼は護衛も連れずに単身現れて、
私は男性のような格好で他領へ逃げようとして……
現実ならあり得ないシチュエーション。


本来なら、彼の目に留まることはなかったはずなのに。

本当なら言葉を交わすのも畏れ多い、雲の上の人なのに。

筆頭公爵家の嫡男が一介の子爵令嬢と関わることなんて、なかったはずなのだから。




「ブロウ家はセレス家との婚約がなくなってから、傾き始めたな」 


クローディア公爵子息が静かに口を開いた。
現実ではないと思っても、やはり現実だった。


「婚約破棄の条件として『両家の無関与・不干渉』を承諾いただきました。そのために共同事業や援助した金銭も清算しましたから」


「それだけではないだろう?衆目の中、婚約を破棄されれば社交界でも噂になる。ブロウ家が今後セレス家名義で勝手なことができない様に、商会に知らしめる意図があっただろう?」
 

「まさか。商人の情報網なら、そんな噂がなくともいずれ分かることです」

私は素直に答えたが、クローディア公爵子息は不服そうだった。


「かくしてブロウ伯爵子息は婚約破棄の条件の撤回のために、貴方を待ち伏せした」

孤児院の近くでの一件を指しているのだろう。


「その節は助けていただきありがとうございました」


「護衛も付けずに貴族令嬢が外出するのは感心しないな。まして貴方自ら領地に護衛を差配したのに」


今、彼が護衛を連れていない状況はスルーする。お互い様なのでもう指摘しない。


「私よりもセレス領内で不法な手段が使われない様に封じておきたかったのです。なお我が家はしがない子爵家ですので、私に護衛は必要ありません」



「……これは子爵ではない方が良いな」

「何か言いましたか?」


「いや、独り言だ。セレス領内で不法な手段が使われると予見した根拠は?」


「学園を退学後、私は領地に行くことが決まっておりました。もし私の身柄を押さえるなら、王都を出るときか領地に入るときに狙われると考えました」


「それで学園で退学手続きをした帰りに誘拐された。これでも貴方に護衛は必要ないと?」


「何かあれば、お兄様が助けてくれると信じておりましたので」


「確かにオリバー上級騎士が貴方を助け出した」


そう口にしたクローディア公爵子息の目が、フッと鋭くなる。


「オリバー隊が捕らえた犯人達は当時錯乱していた様でね。火災による集団パニックと考えられたようだ。なんでも『真実を話さないと扉から出られない』と言って、今は進んで罪を自白しているらしい」


「……自白だけでは、証拠として弱いのでは?」


「現行犯で捕縛できたから言い逃れできない。物的証拠もある」


「……そうですか」


「自分の身を危険にさらしたのは、それが狙いか?」


「まさか。私は誘拐された側ですよ?」


「……」


クローディア公爵子息は軽く息をついて、私を真正面に捉える。

アイスブルーの瞳に私が映る。
聡明な瞳はどこまで見透かせるのか?


「クローディア家が前領主殺害の犯人ではないと考えたのはなぜ?
犯人の目星がついていたとはいえ、共犯の可能性を検討しただろう?隣接領なら真っ先に考えると思うが」


「クローディア公爵子息の仰るとおり、私は犯人の移動の痕跡からドロール家につながる心証を得ていました。
ドロール男爵家とクローディア公爵家にはつながりが見出せませんでした。同じ派閥でもなく、また家格が違いすぎて付き合いがあるとも考えにくかった。
さらに公爵家の現状、領地の様子などを総合的に勘案して、クローディア公爵家は隣接領であっても犯人の可能性は低いと考えました」



「調べるためにクローディア領に来たのか?」



「はい。両親が亡くなってから学園に入るまでの四年間、度々訪れていました。最初はクローディア家について色々調べました。王都の屋敷はガードが固いので、短い間ですが領主館で下働きをさせてもらって、領主様のことや領地のこと知ることができました」


「貴族令嬢の貴方が下働きを?」


「下働きに入る予定の子が体調を崩していたので、その間私が代わりを務めただけです。私は幼い頃は平民のような暮らしをしておりましたから」


「……」


「使用人は皆、領主様とご家族様に感謝しておりました。私は家人に尊敬される方々が犯罪を犯してそのままにしておくとは思えませんでした」

私は一呼吸おいて続けた。

「隣接領であってもセレス家とクローディア公爵家には基本的に付き合いがありません。家格が違い過ぎて、当主夫妻と面識があっても接点がほとんどありません。
もし公爵家が子爵家を潰したいのなら、領主夫妻を害するよりも有用な方法があります。仮に他の者に命じたとしても、殺害という直接的な手段を用いるリスクを負うとは思えません。だから犯人ではないと心証を得た限りです。
……クローディア公爵子息が心配される様な、公爵家からの情報漏洩ではありません」


私は一気に話した。

そもそも彼が一番気にしているのはこの点だろう。現宰相を有する公爵家から情報が漏れることがあれば一大事だ。


フッと力が抜ける。
色々と話してしまえば、胸の内がすっきりとするものだ。

ずっと一人で抱えてきたことなのに、重荷を下ろしたような気持ちになるなんて。



私は誰かに胸の内を聞いてほしかったのだろうか。

私が話を聞いてほしい相手は、もうこの世にいないけれど。


なんだか心が軽くなったような気がして、私は自然と微笑んでしまう。

「知りたいことは、聞けましたか?」


私の言葉に、彼は穏やかに答えた。

「ああ、ありがとう」


アイスブルーの瞳に私が映る。

彼に穏やかな眼差しを向けられて、
一瞬、微笑まれたかと思った。

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