婚約破棄?その言葉ずっと待ってました!〜婚約破棄された令嬢と氷の公爵様〜

みのすけ

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招待②

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「素敵なドレスですね。初めて目にする色合いですが上品で貴方によく似合っています」

クローディア公爵子息は流れるように世辞を口にする。きっと場数が違うのだろう。


「お褒めいただきありがとうございます」


私は淡いグリーンのドレスに身を包んでいる。領地で染めた生地を使い丁寧な縫製で仕立てられた一着で、着心地が良くて気に入っている。

セレス領では主に平民向けに軽くて丈夫な布地を作っている。平民向けなので明るい色合いのものが多い。

その染色の技術を活かして、淡い色合いながら上品に見える生地を試作して商会に持ち込んだところ、王都への販路が開けた。

王都のドレスははっきりとした色合いのものが多い。夜会や茶会で目立つためなのだろうが、それを好まない女性もいる。セレス領の生地はそれらの女性達の支持を受けて、じわじわと販売を伸ばしていた。

このグリーンの生地は試作で染めたものなので、まだ市場には出ていないのだ。

いつもなら「領地の生地で仕立てたのです」と会話を続けるところだが、今日は敢えて控える。


そういえば今までクローディア公爵子息と話した時、私は一度もきちんとした格好をしていなかったな。昨晩なんて男物の服だったし。
今更ながら遅すぎる反省をして、気を取り直した。



私は家令のモランと客人をサロンに案内した。
セレス子爵夫妻が王都にいるため、今は私が当主代理として客人をもてなす。

モランに来客の予定を伝えたのは今朝方だ。急なことだったが、まるで予定していたかのように準備を整えてくれた。
家人達も昨日の様子から、なんとなく察してくれていたらしい。領主館の皆には後でお礼をしないと。

そんなことを考えていたら、給仕を終えて侍女がそばを離れた。

私は用意された紅茶を少し口に含む。先に口をつけるのは毒味のため。疲れを取る効果のあるブレンドを用意してもらっていた。


向かいの席のクローディア公爵子息に目を向けると、彼はこちらを見ていた。


私は部屋に控えていたモランに目配せする。モランと侍女はスッと部屋から退出した。扉は開けてある。


するとクローディア公爵家の護衛も一礼して部屋から出てしまった。同席しなくて大丈夫なのかと私は内心慌てたが、クローディア公爵子息は優雅にお茶を飲んでいる。


外に使用人達が控えているが、部屋の中にはクローディア公爵子息と私の二人だけになった。


私はマナーを無視して話を始める。

「昨日お話も終わりましたし、用件はお済みですね?」

今までは公爵家だから失礼のない様に努めていたが、正直取り繕う必要がなくなった。

昨日の話で相手も私のことを把握していることが分かったし、自分も胸の内を明かしたし。

クローディア公爵子息のペースになる前に、今日はこちらから攻めて早めに退散していただこう。


「意外とせっかちな方なんだ。俺としては貴方と一緒に過ごすだけで楽しいのだが」

「お忙しいクローディア公爵子息のお時間を、私だけが頂くわけにはまいりません」

「ふふ……明日には王都に戻るから、今しばらくお付き合いを」

王都に戻るという彼の言葉に、私は少しホッとした。




「セレス嬢、俺と一緒に王都に戻らないか?」

クローディア公爵子息の思いがけない言葉に、私は目をパチパチさせた。寝不足で聞き違えたかな?

彼を見ると表情はあまり変わっていない。

冗談だとして、彼はどういう意図だろうか?でも、どんな意図があろうと答えは決まっている。


「お気遣いいただきありがとうございます。ですが私はこちらを離れるつもりはございません」

「なぜ?社交界の噂など気にすることはない」

「いえ、噂などどうでも良いのです」

「理由を聞かせていただければ、今回は引き下がろう」

上手い言い回しだ。

クローディア公爵子息はその立場から、貴族の駆け引きの世界で生きているのだろう。若いのにすごいと思う。


「……マリアがまだこちらに戻ってきておりません」

「ブロウ家の小間使いだね。伯爵家への処分からさほど時間が経っていないので、まだ王都に足止めだろう。彼女のことはオリバー上級騎士が対応すると聞いている」

「そうですか。兄に任せておけば安心です」

「貴方は、彼女が領地に戻ってきたらどうするつもりか?」

「……どうもしません。
彼女は8年もの間、家族と離れ離れになりました。私は彼女が幸せになるのを見守りたいのです」

「貴方自身の幸せは?」

「私は既に幸せです」

「マリアがブロウ伯爵家から解放されたから?貴方は子供達が攫われた責任を感じているのか?」

「ええ、領主の娘としては当然です」

「貴方は当時まだ8歳。責任を取る年ではない」


クローディア公爵子息は気休めではなく、真剣に言ってくれているようだった。その気持ちは素直に嬉しいと思う。


今まで色々な大人が、私に諭してきたことだ。最も信頼している家令でさえ、私に「背負うな」と諭してくれた。
もし私が相手の立場なら同じことを言うだろう。


でも、違うのだ。
それがないとダメなのは私の方。
それをよりどころにしているのは私なのだ。


「……誤解なさらないで下さい、クローディア公爵子息。その責任が今の私を生かしているのです」


「……」


テラスから風が吹き込み、緑の香りが部屋に漂う。


彼は私の方をじっと見ている。

私も彼から目をそらさない。
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