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お兄様と別れ、自分の部屋に戻る。もうすぐ日が暮れるところで、窓からオレンジ色が差し込んでいる。カーテンを閉めてボスッとベッドに倒れこんだ。ふかふかのベッドは俺を優しく包み込んだ。
「はあ…」
今日一日ですごい経験をした気がする。朝はルートさんにおまじないって言われておでこにキスされたし、社交界デビューもした。と言ってもほぼ誰とも話してないけど。ライさん……ライ様は第一王子様だったし、お兄様に激しく怒られたし…。驚きばっかりだった。
コンコンコン
ドアをノックする音に飛び起きる。
誰だろうと思っていると、ルートです、と声が聞こえた。もちろん、入っていいよ、と返事をする。ルートさんは失礼しますと凜とした声と共に入ってきた。
「カリン様宛てにお手紙が届いております」
「え、俺に…?」
差し出された手紙を受け取る。白の綺麗な封筒には綺麗な文字でカリン・クレンジ様と俺の名前が書かれている。差出人の名前はない。しかし、どこから出されたものなのかはわかる。赤い封蝋印の紋章は、スティール家のものだ。スティール……我が国の王家。
俺、何かしたのかな…。
おそるおそる封を切る。便箋が一枚。折り畳まれたそれを広げると宛名と同じ字面だった。
『拝啓 カリン・クレンジ様』
それから始まり、読み進めていき、最後に差出人の名前が目に入る。
『ライ・スティール』
ライ様からだ…。いや、ちょっとそんな予感がした。…というか無理。キャパオーバー。
「ルートさん…」
「どうなさいましたか?カリン様」
「どうしよう……」
ルートさんは怪訝そうな顔して眉をひそめる。訳がわからないと言いたげだ。主人に対してそういう顔は良くないとは思う。あんまり気にしないけど。
「こんやく……」
「はい?」
「婚約しませんかって」
「……は?」
ルートさん顔が怖い。
手紙の内容を要約すると、今日初めて、話したのがすごく楽しいと感じたから婚約してほしいと。そして極めつけに明日俺の家に来てほしい、とのこと。俺の家って、王宮だよね…?やばすぎる…!
あわあわと混乱する俺の肩を何かがガシッと掴んだ。それはルートさんの白手袋をはめた手。いつの間にかルートさんは俺の前に膝をついて真剣な眼差しで俺を見つめていた。その瞳はどこか苦しそうに揺れている。
「ルートさん…?」
「変な男を引っ掻けるな、と言ったはずなのですが、どうしてあなたはこんなにも無防備なんですか?」
「え…?」
どういう意味?というか無防備ってお兄様にも似たようなことを言われた気がする。二人してそんなこと思ってたなんてちょっとショックだ。
「それとも、一介の執事である私なんかの忠告は気にする必要がないと思っていたのですか?」
「そ、そんなことはないよ!」
それは決してない。どうしてそんなこと言うの…。
否定したがルートさんはまだ信じていないようで、でも諦めて、俺から離れた。
「この件は旦那様に報告なさった方が良いと私は思います。婚約なんて、おめでたいことなのですから」
失礼します、と言ってルートさんは部屋から出ていった。俺はそれをただ見つめることしかできなかった。なんだか苦しそうなルートさんになんと言えばいいのかわからなかったし、なんでそんな顔をするのかも予想がつかない。
「僕は反対です」
そう言うと思っていたけれど、本当にそう言うんだ…。俺は苦笑いをしてお兄様を見た。お兄様はにこやかに自分の意見を言って何事もなかったかのようにスープを口に含む。
夕食時ルートさんに言われた通りお父様に婚約の申し出があったことを報告した。そしたら案の定お父様とお母様は喜んで受けなさい、と言ったがお兄様は当然許さない、と反対した。
「ライ様のような立派な方にはもっと相応しい婚約者がいると思いますし、なんといったってライ様はカリンの婚約者に相応しくありません」
めっちゃきっぱり言うじゃん…。
お父様もさすがに苦笑して、そうだなあ、と少し納得したように言った。
「とりあえず明日会ってきたらどうだ?もう一度会ったらお互いの考えも変わる可能性だってあるかもしれないだろう?」
「明日?明日はだめです。僕、予定があって一緒に行けませんから」
ギロリとお兄様はお父様を射殺せそうなほど睨んで言った。お父様は震え上がり、情けない声を出した。
お兄様、それ以上お父様をいじめないであげて…!
「だ、だが、あちらが明日会いたいとおっしゃっているのだから、明日でないと……」
「どうしてこちらがあちらの都合に合わせなければならないのですか?国王でしたら合わせる義務があるかもしれませんが、相手はただの次期国王候補ですよ?」
ただのじゃないと思う…。
お父様はお兄様の勢いに押されて諦めてしまった。結局明日はお断りすることになった。それに対し俺は少しほっとした。
「はあ…」
今日一日ですごい経験をした気がする。朝はルートさんにおまじないって言われておでこにキスされたし、社交界デビューもした。と言ってもほぼ誰とも話してないけど。ライさん……ライ様は第一王子様だったし、お兄様に激しく怒られたし…。驚きばっかりだった。
コンコンコン
ドアをノックする音に飛び起きる。
誰だろうと思っていると、ルートです、と声が聞こえた。もちろん、入っていいよ、と返事をする。ルートさんは失礼しますと凜とした声と共に入ってきた。
「カリン様宛てにお手紙が届いております」
「え、俺に…?」
差し出された手紙を受け取る。白の綺麗な封筒には綺麗な文字でカリン・クレンジ様と俺の名前が書かれている。差出人の名前はない。しかし、どこから出されたものなのかはわかる。赤い封蝋印の紋章は、スティール家のものだ。スティール……我が国の王家。
俺、何かしたのかな…。
おそるおそる封を切る。便箋が一枚。折り畳まれたそれを広げると宛名と同じ字面だった。
『拝啓 カリン・クレンジ様』
それから始まり、読み進めていき、最後に差出人の名前が目に入る。
『ライ・スティール』
ライ様からだ…。いや、ちょっとそんな予感がした。…というか無理。キャパオーバー。
「ルートさん…」
「どうなさいましたか?カリン様」
「どうしよう……」
ルートさんは怪訝そうな顔して眉をひそめる。訳がわからないと言いたげだ。主人に対してそういう顔は良くないとは思う。あんまり気にしないけど。
「こんやく……」
「はい?」
「婚約しませんかって」
「……は?」
ルートさん顔が怖い。
手紙の内容を要約すると、今日初めて、話したのがすごく楽しいと感じたから婚約してほしいと。そして極めつけに明日俺の家に来てほしい、とのこと。俺の家って、王宮だよね…?やばすぎる…!
あわあわと混乱する俺の肩を何かがガシッと掴んだ。それはルートさんの白手袋をはめた手。いつの間にかルートさんは俺の前に膝をついて真剣な眼差しで俺を見つめていた。その瞳はどこか苦しそうに揺れている。
「ルートさん…?」
「変な男を引っ掻けるな、と言ったはずなのですが、どうしてあなたはこんなにも無防備なんですか?」
「え…?」
どういう意味?というか無防備ってお兄様にも似たようなことを言われた気がする。二人してそんなこと思ってたなんてちょっとショックだ。
「それとも、一介の執事である私なんかの忠告は気にする必要がないと思っていたのですか?」
「そ、そんなことはないよ!」
それは決してない。どうしてそんなこと言うの…。
否定したがルートさんはまだ信じていないようで、でも諦めて、俺から離れた。
「この件は旦那様に報告なさった方が良いと私は思います。婚約なんて、おめでたいことなのですから」
失礼します、と言ってルートさんは部屋から出ていった。俺はそれをただ見つめることしかできなかった。なんだか苦しそうなルートさんになんと言えばいいのかわからなかったし、なんでそんな顔をするのかも予想がつかない。
「僕は反対です」
そう言うと思っていたけれど、本当にそう言うんだ…。俺は苦笑いをしてお兄様を見た。お兄様はにこやかに自分の意見を言って何事もなかったかのようにスープを口に含む。
夕食時ルートさんに言われた通りお父様に婚約の申し出があったことを報告した。そしたら案の定お父様とお母様は喜んで受けなさい、と言ったがお兄様は当然許さない、と反対した。
「ライ様のような立派な方にはもっと相応しい婚約者がいると思いますし、なんといったってライ様はカリンの婚約者に相応しくありません」
めっちゃきっぱり言うじゃん…。
お父様もさすがに苦笑して、そうだなあ、と少し納得したように言った。
「とりあえず明日会ってきたらどうだ?もう一度会ったらお互いの考えも変わる可能性だってあるかもしれないだろう?」
「明日?明日はだめです。僕、予定があって一緒に行けませんから」
ギロリとお兄様はお父様を射殺せそうなほど睨んで言った。お父様は震え上がり、情けない声を出した。
お兄様、それ以上お父様をいじめないであげて…!
「だ、だが、あちらが明日会いたいとおっしゃっているのだから、明日でないと……」
「どうしてこちらがあちらの都合に合わせなければならないのですか?国王でしたら合わせる義務があるかもしれませんが、相手はただの次期国王候補ですよ?」
ただのじゃないと思う…。
お父様はお兄様の勢いに押されて諦めてしまった。結局明日はお断りすることになった。それに対し俺は少しほっとした。
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