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Dune 15
しおりを挟む「うん。大丈夫だから、行ってきて」
この数日、毎日会っていたトゥルーと、今日でまたしばらく会えなくなる。
明日は早朝からDuneを出て、遠い星へ行かねばならない。
トゥルーはああ言ったけれど、俺は彼のことがとても心配だった。もしまた同じ目に遭ったら? そうでなくても、事故でもなんでも起こりえるのだ。それに俺がもし戦場で死んだら、トゥルーはちゃんと一人で生きていくだろうか。つい先日の、弱りきったトゥルーを思い出すと、彼は大丈夫だなんて思えなくなる。頼り無いというのではない。彼は寧ろ強い心を持った少年だと思う。けれど、世界は個人に、どこまでも冷たくなることを躊躇わないから。トゥルーがそういう冷たさに晒されるようなことがあったら、俺は何をしてでも彼を守りたい。傍に居て腕の中に庇っていたい。そう、思うけれど。
けれど、トゥルーはそれを望まなかった。一人と一人で、生きていくと。彼はそう言ったのだ。二人で一つになんてならなくてもいい。俺達は二人だと。ずっと二人で在ろうと言った。俺が思う以上にトゥルーは大人びた心を持っていた。けれど寂しげに揺れる瞳で告げる言葉が、痛々しくも感じた。
なにも軍務に拘り続けることもないじゃないかと、自問自答もしてみた。しかしその自問はすぐに自答で打ち消された。
何人殺したと思っているのだ、と。何人仲間を見殺しにしてきたのだと。俺の記憶が呪いのように口を出す。どんなにトゥルーのことを想っていても、何を捨ててもいいと思っていても。影が、付きまとう。過去の断片がフラッシュバックする。俺は、軍人を選んで生きてきたから。
「何かあったら、必ず連絡を入れろよ。民間船を乗っ取ってでも帰って来るから」
「はは、ありがとう。連絡するよ、絶対」
「トゥルー、」
頭に手を回して、深く唇付けた。揺れる瞳を振り切るように目蓋を閉じて応えるトゥルーが、せつない。粘膜越しに熱を分け合って、名残惜しく唇を離す。
「俺が一番大事なのは、お前だから。何より守りたいのは、お前なんだからな」
「うん」
「遠慮なんか絶対するなよ。我慢しなくていい。必要な時には必ず呼べ」
「うん」
頬を撫でた俺の掌を右手で捉えて、そのまま頬擦りする。寂しそうに細められた瞳に、このまま全てを投げ捨てて連れ去りたくなった。
それでもこれは。俺達の決めた在り方だから。
「行ってくる」
「行ってらっしゃい」
背を向けて、施設に戻る。砂の星の基地を飛び、俺はまた銃を撃ちに行く。
+++
緑の茂る深い森の、湿った空気を爆撃が切り裂く。硝煙の中に木の葉が舞う。最も、舞っているのは木の葉だけではない。手足や臓物が飛んでいき、木々にぐしゃりと張り付いた。
「2時の方向へ! 急げ!」
緑に隠れながら攻撃を仕掛ける敵兵を、一人一人正確に撃ち殺していく。目を凝らし、耳を澄ませ、気配を読み、飛び出した敵に瞬時に照準を合わせてトリガーを引く。出来る限り頭や胸を狙い、せめてすぐに死んでいくことを願った。
「フォービア、流石だな。お前の狙撃の腕は大したもんだぜ」
援護を追え、自分も次の地点の塹壕に滑り込むと、先に着いていた同僚がそう言って肩を叩いてきた。褒めているのかもしれないが、嬉しいことでもない。だが、まあここでは、人殺しには長けていた方がいい。そうでなければ意味がない。
「ていうかお前、なんか雰囲気変わったよな」
「どういう意味だ」
「お前って前から無駄口叩かねぇし辛気臭ぇとこあったけどよ。今はなんか…目がマジだよな」
同僚は狙撃しながら、わけの解らないことを言った。
「なんか容赦ねぇっつか。今のお前なら敵陣皆殺しにできそーな雰囲気だぜ」
頼もしいな、と言って、笑う。
ああ、そうだ。俺は。死んでも構わないなんて、今はもう言えないのだ。トゥルーともう一度会いたい、からではない。今の俺には、トゥルーと生きる責任と決意がある。誰を殺しても。俺はトゥルーのところへ帰らなければならない。俺は俺が科したこの役目を終えるまで、トリガーを引き続ける。そしてこの場所の俺が終わったら、自分の全てをトゥルーに捧げよう。彼が待っていてくれるなら、その時は。彼の隣だけで生きるのだ。
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