face/face ―彼の名はまだ、希望か絶望かも知らない―

モノ

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透過の紫

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 嫌な夢を見た。昔の夢だ……鏡に映る私は脂汗をかきとても救われにきた信者には見えない。教団関係の場所に来たことで封じていた感情が記憶と共に溢れ出してしまったのだろう。己の未熟さを痛感する。冷えた水を顔にかけて冷静さを取り戻そうとしてみる。

「おい、無理はするな」

 トウヤの短い言葉が温かいだけに苦しい。トウヤに早く追いつきたいのにここで停滞してしまったら誰もこの狂った世界から救えない。

「ありがとう、大丈夫」

そう短く答えることしか私にはできなかった。

 保存食を部屋で食べた後、朝食を例のごとくガーゼに流し込み礼拝堂に集まる。床に跪き祝詞の大合唱を始める。誰が音頭をとるわけでもないのに揃ったこの不気味さは慣れない。でも、この違和感こそが私が狂気に呑まれない証拠だ。ぴたりと止む祝詞、礼拝堂の舞台を見上げる。ここまでは昨日と全く同じだ。

 舞台袖から出てきたのは黒衣の神父ではなく3人の男女。うち二人は見覚えのある人物だ。金髪の少年ルミエルが上手側から信者に儚げな笑みを浮かべ、銀髪の白百合のドレスを着た少女は天井から吊り下げられたマリオネットのよう。まるで呼吸すらしていないかのように、そこに“立たされている”。その中で中央に立つ見知らぬ銀髪の青年がこちらを見下ろす。紫色の瞳は、こちらを見ているのに、見ていないようだった。白衣に金刺繍が施された豪奢な衣装は説明されるまでもなく教団の上層部であることがわかった。

 今日は3人で奇跡とやらを見せてくれると思ったがどうやら違うらしい。信者たちは粛々と話し出すのを待っており、昨日のような熱気はない。

「教祖に代わり、教祖代理の私が今回の新たな信徒に課せられし神の試練を伝えます」

 淡々とだがこちらが聞かなくてはいけないと思わせる従わせるものの声が響く。信者たちは真剣な顔で続きを待った。代理?教祖は今外出中もしくは表に姿を見せられない事情があるのか。周囲に聞くには慎重にしないといけないが今後の教団の真実を暴く一手になるかもしらない。

「新たに神の子となった72名の信徒たちよ、神に奉仕し魂を清めなさい。さすれば救われるでしょう」

 雰囲気、話の間、言葉選びから空気を変えるこの青年は妙なカリスマ性がある。代理ではあるようだがなかなかのやり手のようだ。朗々と役割分担を読み上げられていく。

 主に農耕、建設、警備、調理、掃除、洗濯が割り振られている。昇格も含まれてるらしく能力のある信者は幹部の世話係、護衛、外部からの信者の迎え入れなどを任されている。

「トウヤ、農耕部6班所属。ミサキ、清掃部14班所属。」

 私たちの配属も決まった。清掃するしふりをして島内の構造を把握しやすいし、清掃しながらコミュニケーションも取りやすい。情報も入ってくるし自ら探りにも行ける都合のいい配置だ。

「以上、これから神への奉仕へ励むように」

 凛とした声が響き渡り舞台上の3人が袖へと戻っていく。本格的な諜報活動の開始だ。清掃部の信者と共に礼拝堂の外へと歩きだした。
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