グリムキラーズ〜失われし童話〜

アリエッティ

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朝に死ぬ街

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 森の向こうに見える街、此処で手掛かりを探す。
ジョンの旅路は最早グレーテルの兄、ヘンゼルを探す手伝いとなっていた。

「..いいの?」

「特段不満は無い、兄の行方は俺も気になる。
..元々こちらも人探しをして歩いているようなものだからな、気にする事はない。」

「それもあるけど、茨姫の事。
結局本に閉じ込めちゃったから..」
怒りを鎮めた後はグリムノートに保存した、結果的に今は完全に救出する事は出来なかった。

「身体も心も随分傷んでいたからな、目を覚ますには随分とかかるだろう。王子の口付け程の特効薬があれば別だろうがな」
今は本のページの中で静養している、見守り訳として共に七人の小人が寄り添いながら。

「まさかあの小人達までついてくるとはな。」

「当たり前だよ、ずっも見守ってきたんだもん」
茨姫を一旦本に閉じ込めるといったとき、抗議をするような怒声を上げて契約を迫った。やむを得ず姫と同じページに、支配下として彼らを保存した。

「あ、街が見えて来た」

「..思っていたより長い道だったな、しかしあれ程大きな街なら手掛かりは幾らでも転がっていそうだ」
少し離れた通知からでも見える鋭い屋根、街に建造された城の一部だ。うすら気味悪い森の中にいたのが嘘のように明るい色が目を養う。

「来て、こっちよ!」
グレーテルが先導する、街には何度か足を運んだ事があるらしい。

「こっちって..ここ一本道だぞ?」

「いいから、何人か知り合いがいるの。」
ジョンの手を引き街へ駆ける、森を抜けた彼女の表情は何処か晴れやかに見えた。

「ほら、街だよ!」「見ればわかる..」
色鮮やかな景色が視界一杯に広がる。久々の人集りはグレーテルの心を躍らせ強く高く昂らせた。

「..騒がしい街だ。」

「ね、綺麗な街でしょ!?
この街で買えるお菓子が凄く美味しいの!」

「お前、目的わかってるよな?」
半ば呆れ気味にグレーテルを見つめ、仕方無しに派手な街並みを見つめる。この街はジョンの雰囲気には余り馴染まない色遣いのようだ。

「おやおやお元気で、旅のお方かな?」
二人の元へ、緩やかな口調の中年が静かに近寄る。

「あ、おじさん!
この方、私が言った知り合いの一人ゼソフおじさん。街の案内人をしている優しい人よ」

おやおやお嬢さん、ワタシを知ってくれているのですか。それは光栄なことですな」

「勿論知っていますよ!
私、グレーテルです。以前はお世話になりました!」

「…はて、グレーテル?
初めて聞く名前ですな、何処かでお会いしたかの?」
首を傾げてハテナを浮かべる
どうやらまんまと記憶に無いようだ。

「え、ウソ..!」

「本当に知り合いなのか?
..まぁいい、聞きたい事がある。案内人よ、腹を満たせる場所と休息を取れる場所はないか」

「ん、あぁそれならば宿屋に泊まれば宜しいです。美味しい料理に寝床がありますからね、当然お金は掛かりますが...。」

「金はある、直ぐに案内してくれ。
もう長い間しっかりした休憩を取っていない」
案内役の後を着き、漸くの休息所へと向かう。辿り着いたのは二階建ての大きな建物、入り口のそばには分かりやすく直訳された「宿屋」の文字の看板が見える

「は..この宿屋っ!」

「二人目の知り合いか?」
最早期待はしていないが、反応から察するに知り合いの一人がいるらしい。
きちんと話を聞いてくれる相手ならいいが。

「悪いな、世話をかけた。」

「いえいえ、これがワタシの役割ですので..」
深く頭を下げ再び入り口の方向まで戻っていく、次なる客人を待ち構える為に周到な振る舞いだ。

「さ、入りましょ!」

「言われなくてもそのつもりだ。」
疲れを癒す為宿屋へ入ると、受付で大柄な女性が笑顔で歓迎してくれた。

「いらっしゃい! ここは街の宿屋だよ!
美味しい料理も癒しのベッドも沢山...おや、あんた」

「カリーナおばさん! お久しぶりです!」

「やっぱりそうだ、あんたグレーテルかい!
大きくなったねぇ。..隣の方は、お兄さんかい?」

「違う、ジョンという。
今回は話の通じる相手のようだな」
取り敢えずは本当の知り合いのようだ。直ぐに部屋を取って休みたいところだが、グレーテルの意気揚々が止まらず受付が賑やかになっている。

「良かった、覚えてくれていて。」

「忘れる訳無いだろう?
かわいいグレーテルちゃんの事は大好きなんだから」

「嬉しい! 
..けどおかしいの、ゼソフおじさんは私の事を覚えていなかった。忘れちゃったのかしら」

「おや、おかしいねぇ..案内役のゼソフさんが人の顔と名前を忘れるなんて滅多に無い事だよ。わたしは暫く宿の外に出てないから直ぐに忘れちゃうけどね、食料の調達も若い従業員がやってくれているし。」

「忘れ屋に覚えられているのか、おかしな話だな」
皮肉を言いながら宿泊費を受付に置き、早めの休息を促すと察したようにカリーナが部屋の鍵を渡す。

「お食事は後で部屋に持っていくわ、ゆっくり休んで頂戴ね。..それと一応の忠告、12時過ぎには外へ出ない事、良くない事が起こるらしいの」

「良く無い事?」
カリーナ曰く、12時を過ぎると街の様子が一変するらしい。危険なので外へ出るなと

「まぁ、わたしも良くわからないんだけどね。」
カリーナの忠告を耳に残し、鍵に記された番号に合う部屋へと向かう。

「..402、ここだ」
鍵穴に鍵を刺すとぴったりとはまり、ひねると簡単に部屋の扉が開いた。

「綺麗な部屋..」「客室なら当然だろう。」
ベッドはしっかり二つある、奥にシャワー室も付いているので疲労をゆっくり癒す事が出来そうだ。

「ふぅ、漸く一息だ。お前も休め」

「うん..」「どうした?」
ベッドに腰をかけるやいなや、グレーテルが浮かない顔をしている。

「..まぁ大体わかるがな、俺も気には掛かっている」
グレーテルの思う事は察している、同時に自身でも浮わついて離れない事柄だ。

「茨姫に兄の名前をいったとき、物凄く怯えていた。
..兄は一体彼女に何をしたの?」

「さぁな、側近の連中なら何か知ってるのかも知れんが..正直あの連中を表に出すのは面倒だ。」
森で彼女を守っていた七人の勇姿、騒がしい彼等をここに呼び出すのはそれこそ疲れるというもの。

「……。」

「..ちっ、聞き出せればそれでいいのか?
だったら話の分かるやつ一人だけだ、それでいいな」
横で辛い顔をされては落ち着く事すらままならない。ジョンは仕方なく本を取り出し小人のページを開く

「グリムノート」
      『七人の小人 ドッキー』
森の最も奥にいた、髭を蓄えた小人を呼び出した。

「ほっ..と、ここは街の宿屋かな?」

「無駄な話をするつもりは無い、グレーテルの話を聞いてやれ。」
話し手をグレーテルに渡し、情報収集に徹する。

「ドッキーさん教えて下さい。
茨姫は何故兄の事を恐れているのですか?」

「兄を恐る..ヘンゼルの事かの。はて、美女様がそう言ったのか?」
首を傾げて疑問を浮かべる、どうやら小人と姫の感覚
ではヘンゼルの在り方が異なるようだ。

「わしらの知っているヘンゼルは心の優しい青年だった気がするが、確かに気になる事を言っていたな。」

「気になる事?」
ドッキーは当時の事を思い出し、手に握るパンくずを見せながら説明する。

「うむ、このパンくずをわしに渡すとき小さく呟くように言ったのじゃ。
〝目に見えるものだけを真実だと思わないで〟とな」

「え…?」
グレーテルの表情が一変する、硬直というよりは焦り

「素直な彼にしては珍しい言葉だと思ったよ。
何か勘繰り疑っていたものがあるのかの」

「…知ってる事はそれだけか?」

「残念ながら、そうじゃな..」
余り力になれなかったと項垂れたドッキーに続けてジョンが問いかける。

「茨姫は元気か?」

「...今はぐっすりと寝息を立てているが大丈夫じゃ、体調はきっと安静じゃよ。」

「そうか..戻っていいぞ」「うむ。」
ドッキーは静かにページの中へ戻っていった、グレーテルは尚も傍で穏やかでない顔を浮かべている。

「なにかわかったか?」

「..今の言葉、兄がよく言っていた言葉よ。
口癖みたいに毎日、茨姫は確実に兄を恐れている」
言葉の意味は〝茨姫が怯えている存在は正真正銘確実な兄ヘンゼルだ〟という事。変装でも偽物でも無い、間違いの無い兄の仕業だということだ。

「..少し、風に当たってくるわ」
部屋を飛び出し外へ出た。ジョンが直ぐに時計を確認すると、時刻は夜に差し掛かっていた。

「12時過ぎたらどうとか言っていたな、まだ半分近くある。気に留める必要も無しか」
そのうち戻ってくるだろうと、ジョンはベッドに寝転がり横になる。その後寝息を立てるのに、そうたいして時間は掛からなかった。


「兄さんが茨姫を苦しめた?
そんは筈無い、兄さんは優しい人だもの。でもあの言葉..確実に兄さんが言っていた言葉...。」
兄への信頼と疑念に葛藤しながら歩いていると、頭に大きく声が響いてくる。

『お嬢さん、お困りのようだね..』「え?」
振り返ると黒いローブのようなものを羽織った老婆が手招きをしてグレーテルを呼んでいる。

『こっちへ来なよ、進むべき道を教えてあげる』

「進むべき、道?」

『ああ.,そうさ、今のアンタからは迷いが見える」

「迷い....。」
気が付けばグレーテルは、手招きする老婆の後を追いかけて暗く細い路地を曲がっていた。
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