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高望み
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「蜘蛛の糸..幾つも張ってるね。」
宙吊りの視点でわかる網の数、中には同じように人が巻き込まれていそうだ。
「なんでこんな事するのよ!?」
「なんでってそりゃお前ぇ、腹が減ってりゃ食いもんが欲しいだろうよ」
「そういう意味じゃない、なんで止めないのよっ!
目の前で人が襲われてるのに!!」
「止める? なんでだよ?
勝手に喰われる方が悪りぃんだろうよ~!」
ケタケタと不敵な笑みを浮かべて嘲笑う男の姿は、悪魔のそれに近かった。
「ていうより、君はなんで襲われないの?」
「..お前まだ喋れんのかよ。
そうか、邪魔な器具で隙間が出来てんだな」
車椅子の奥行きにより網内に余裕が出来唯の宙吊りで済んだ。他の巣は隙間なく閉じてしまっている。
「俺様は山の住人だからな、自然の匂いが染み付いて食欲をそそらねぇのさ! お前たちと違ってなぁ!」
「ふーん、なるほど..だからなんだね。」
「感心してる場合じゃないわよ!」
「それもそうだよね..どうしようか。」
蜘蛛の網に閉じ込められ、美味しそうな匂いを放っているとすればいつでも捕食される危険が伴う。網を破って直ぐにでも抜け出す必要があるが、絡まった身体を解く事は容易では無い。
「よし、全部燃やしてしまおう!」「‥え?」
懐から瓶とマッチを取り出す。瓶の先に付いているコルクを外すと、中に入っていた液体を網状の蜘蛛の糸にかけ始める。
「ちょっと、何するつもりなの!?」
「言っただろ、糸を燃やすんだよ。
宿から一本酒を貰っておいて良かったな」
酒の成分を利用した火によって網を解き身体を解放する、当然近距離で焚べた炎なので燃え移り尚且つ宙吊りであった為そのまま地面へ落下していく。
「ちょっと! 燃えてる! しかも落ちてる!」
「結構不味いね、間に合うかな?」
懐からワイヤーのような細い紐を取り出し振り回し始めた。服に付着した炎を掬い取るようにワイヤーに素早く移し、手首を使って更に大きくそれを振る。
「..何やってんだあいつ?」
燃えるワイヤーは他の蜘蛛の網に触れ宙吊りになっている人々を床へ落とす。切った部分は吊られた繋ぎ目だけなので落下の衝撃は丈夫な網目が防いでくれる。
「当たったかな?
..よし、次は僕の安全だね」
「あの野郎! 餌を落としてくれやがった!」
「驚いたよ、あんなに細い木の枝に糸を繋げていたんだね。よく見ないとわからなかった!」
近くに生えた木の枝に糸の始まりを括り付け、餌となる獲物を宙吊りにして保存していた。
「見える方が凄いわよ! それより下!」
「わかってるつもりなんだけどね..一応は。」
懐から銃口の大きな拳銃を取り出し地面に発砲する。何度か発砲していると、衝撃的で身体が少し逸れ斜めになる。下は山道の土なのでパンクしない程度にタイヤを刺して身体が余り傷付かないようにして着地する
「なんだアイツ。」
「ウソでしょ..どういう原理なの!?」
「イテテ..なんで左手で撃ったんだろ、反動凄い..。」
アリスカが直ぐに駆け寄りタイヤを抜いて、二輪揃った車椅子の後ろを支える。
「無茶苦茶しないでよ、誰に教わったの?」
「僕が今まで無事だった意味わかったでしょ、お陰で何度か車椅子修理したけどね。」
着地の原理などわからない、分かっていればもう少し適切な方法を思い付くだろう。
「さて、次はあの子か。オス? メス?」
「どっちでもいいでしょ」
「よくないよ、だってメスだったら...」
前方の蜘蛛の背中が徐々に膨れ上がる。
「……え、何あれ?」
「こりゃ俺もマズイな、早く逃げねぇと。
ちなみにアイツはメスだ」
「やっぱり...嫌な予感が的中だよ」「..え? え?」
蜘蛛が栄養満点の食糧を喰べる理由。人間程の大きな獲物を狙う理由は、子供に元気を与える為だ。
「誕生のときだ。
ハッピ~...バァ~スデ~ッ...!!!」
背中が大きな音を立てて破裂し、大量の子蜘蛛が散乱する。親の背を超え子供達は自らの腕で獲物を狙う。
「うわぁぁぁ~!! イヤァァァッー!!」
悍ましい光景に悲鳴を上げるアリスカ。それとは裏腹に、冷静に蜘蛛達を見つめるバスコの瞳。
「アリスカ、もっと僕に近付いて。」
「こんなときに何よ!?」「いいから」
背後のアリスカを真横に移動させ、懐から取り出した瓶のような物の蓋を開ける。
「それっ!」「うわっ、何コレ!?」
中に入っていたダラリとした液体を、アリスカの頭から振り掛ける。完全に掛かりきったのを確認すると自らにもそれを掛け、満足げな表情を浮かべた。
「これでもう大丈夫だよ。」「何が大丈夫なの!」
蜘蛛が今にも襲い来るというのに何を言っているのかと呆れに似た感情を晒すもどうする事も出来ないのでヌルヌルの代表でその場に立ち尽くした。
「もう終わりよ..」「いや、よく見てみて」「え?」
小蜘蛛たちの動きが止まっている。どこかこちらを見て震えているようにも見える気がする。
「蜘蛛が襲って来ない、なんで動かないの?」
「ハッカの油だよ。
水に薄めて瓶に詰めておいたのだ」
蜘蛛が嫌いな匂いを放つハッカを纏う事で、被害を防ぐ装備を施した。
「アナタ懐の中どうなってるの?」
「何でも入ってるよ、使えるものが沢山ね。」
知識と道具を幾つも揃えた懐が大概の問題を解決する
「油少し余っちゃったね、あの子らにあげようか。」
もう一本、予備で持っていた油の瓶を蜘蛛の群れに投げつける。瓶が割れ、油まみれとなった蜘蛛は鳥のような声で一斉に泣き悶え始める。
「なんか騒いでる!」
「ごめんね、少し痛いよ。」
銃弾を放ち発火させる、群れの蜘蛛達が次々と燃えてこんがりと焼き上がっていく。
「あれ、炎上した。
あれでも火種になるんだな、一匹ずつ狙うつもりだったけど手間が省けたみたいだ。よかった~!」
「バスコ、ちょっと怖い..」「そう?」
身を守る為にこれに近い事は何度も行なって来た。殺めていないのは人間くらいなものだ。
「マジかよ..あれだけの数を一度にか?」
「そこにいたんだね」「うおっ!」
大きな木の上に乗り様子を伺う男が一人、やはり高飛車は見晴らしのいい所が好きらしい。
「な、なんだよ..俺まで燃やす気か?」
「んな事しないわよ、行きましょバスコ。」
「うん、それじゃあね。」
木の上の男に手を振ってアリスカに押される。
山は通過点でしかなく、目的は次の街だ
「……なんだよ、行っちまった。」
二人が遠ざかるのを見計らい木を降りると、焼け焦げた蜘蛛達をよけながら女郎蜘蛛の元へ向かう。
「ご無事ですか、女郎様?」
[…バキ、バキバキッ..!!』
裂けた雲の隙間からボンテージのような黒い鎧を見に纏う、真白な顔をした細身の女が姿を現す。
「獲物は?」
「逃げられました。」「..そ、まぁ無理もない」
跪いて忠誠を誓う男、相棒では無く完全に部下。上司は余りに人間離れした雰囲気を醸している。
それより先生、早く例の方を!
もう山暮らしはこりごりで..」
獲物を取るのを手伝う代わりに、いい街と家を渡す事を条件をしていた。
「いいわよ、望みを叶えてあげる」「本当ですか?」
跪くのを立たせ、換気する男の首筋に噛み付く。
「あっ!」「ちゅーちゅー..」
男は傷口から体内を吸われ、干からびた乾物のような出立ちとなり再び地面に膝を付ける。
「これで何処にも住む必要が無くなった、その方が身の丈に合っているわよ?」
口を拭うと、男を蹴って去っていく。
「人間は総て私の食糧、そして使用物。
いつかアナタも喰ってやるわ、バスコくん」
彼女が狙うのは命そのもの。
身体の部位など、味気無いおやつに過ぎない。
「さぁて、次はダレを喰べようかしら? うふふふ」
不敵な笑い声が、山にこだまする。
宙吊りの視点でわかる網の数、中には同じように人が巻き込まれていそうだ。
「なんでこんな事するのよ!?」
「なんでってそりゃお前ぇ、腹が減ってりゃ食いもんが欲しいだろうよ」
「そういう意味じゃない、なんで止めないのよっ!
目の前で人が襲われてるのに!!」
「止める? なんでだよ?
勝手に喰われる方が悪りぃんだろうよ~!」
ケタケタと不敵な笑みを浮かべて嘲笑う男の姿は、悪魔のそれに近かった。
「ていうより、君はなんで襲われないの?」
「..お前まだ喋れんのかよ。
そうか、邪魔な器具で隙間が出来てんだな」
車椅子の奥行きにより網内に余裕が出来唯の宙吊りで済んだ。他の巣は隙間なく閉じてしまっている。
「俺様は山の住人だからな、自然の匂いが染み付いて食欲をそそらねぇのさ! お前たちと違ってなぁ!」
「ふーん、なるほど..だからなんだね。」
「感心してる場合じゃないわよ!」
「それもそうだよね..どうしようか。」
蜘蛛の網に閉じ込められ、美味しそうな匂いを放っているとすればいつでも捕食される危険が伴う。網を破って直ぐにでも抜け出す必要があるが、絡まった身体を解く事は容易では無い。
「よし、全部燃やしてしまおう!」「‥え?」
懐から瓶とマッチを取り出す。瓶の先に付いているコルクを外すと、中に入っていた液体を網状の蜘蛛の糸にかけ始める。
「ちょっと、何するつもりなの!?」
「言っただろ、糸を燃やすんだよ。
宿から一本酒を貰っておいて良かったな」
酒の成分を利用した火によって網を解き身体を解放する、当然近距離で焚べた炎なので燃え移り尚且つ宙吊りであった為そのまま地面へ落下していく。
「ちょっと! 燃えてる! しかも落ちてる!」
「結構不味いね、間に合うかな?」
懐からワイヤーのような細い紐を取り出し振り回し始めた。服に付着した炎を掬い取るようにワイヤーに素早く移し、手首を使って更に大きくそれを振る。
「..何やってんだあいつ?」
燃えるワイヤーは他の蜘蛛の網に触れ宙吊りになっている人々を床へ落とす。切った部分は吊られた繋ぎ目だけなので落下の衝撃は丈夫な網目が防いでくれる。
「当たったかな?
..よし、次は僕の安全だね」
「あの野郎! 餌を落としてくれやがった!」
「驚いたよ、あんなに細い木の枝に糸を繋げていたんだね。よく見ないとわからなかった!」
近くに生えた木の枝に糸の始まりを括り付け、餌となる獲物を宙吊りにして保存していた。
「見える方が凄いわよ! それより下!」
「わかってるつもりなんだけどね..一応は。」
懐から銃口の大きな拳銃を取り出し地面に発砲する。何度か発砲していると、衝撃的で身体が少し逸れ斜めになる。下は山道の土なのでパンクしない程度にタイヤを刺して身体が余り傷付かないようにして着地する
「なんだアイツ。」
「ウソでしょ..どういう原理なの!?」
「イテテ..なんで左手で撃ったんだろ、反動凄い..。」
アリスカが直ぐに駆け寄りタイヤを抜いて、二輪揃った車椅子の後ろを支える。
「無茶苦茶しないでよ、誰に教わったの?」
「僕が今まで無事だった意味わかったでしょ、お陰で何度か車椅子修理したけどね。」
着地の原理などわからない、分かっていればもう少し適切な方法を思い付くだろう。
「さて、次はあの子か。オス? メス?」
「どっちでもいいでしょ」
「よくないよ、だってメスだったら...」
前方の蜘蛛の背中が徐々に膨れ上がる。
「……え、何あれ?」
「こりゃ俺もマズイな、早く逃げねぇと。
ちなみにアイツはメスだ」
「やっぱり...嫌な予感が的中だよ」「..え? え?」
蜘蛛が栄養満点の食糧を喰べる理由。人間程の大きな獲物を狙う理由は、子供に元気を与える為だ。
「誕生のときだ。
ハッピ~...バァ~スデ~ッ...!!!」
背中が大きな音を立てて破裂し、大量の子蜘蛛が散乱する。親の背を超え子供達は自らの腕で獲物を狙う。
「うわぁぁぁ~!! イヤァァァッー!!」
悍ましい光景に悲鳴を上げるアリスカ。それとは裏腹に、冷静に蜘蛛達を見つめるバスコの瞳。
「アリスカ、もっと僕に近付いて。」
「こんなときに何よ!?」「いいから」
背後のアリスカを真横に移動させ、懐から取り出した瓶のような物の蓋を開ける。
「それっ!」「うわっ、何コレ!?」
中に入っていたダラリとした液体を、アリスカの頭から振り掛ける。完全に掛かりきったのを確認すると自らにもそれを掛け、満足げな表情を浮かべた。
「これでもう大丈夫だよ。」「何が大丈夫なの!」
蜘蛛が今にも襲い来るというのに何を言っているのかと呆れに似た感情を晒すもどうする事も出来ないのでヌルヌルの代表でその場に立ち尽くした。
「もう終わりよ..」「いや、よく見てみて」「え?」
小蜘蛛たちの動きが止まっている。どこかこちらを見て震えているようにも見える気がする。
「蜘蛛が襲って来ない、なんで動かないの?」
「ハッカの油だよ。
水に薄めて瓶に詰めておいたのだ」
蜘蛛が嫌いな匂いを放つハッカを纏う事で、被害を防ぐ装備を施した。
「アナタ懐の中どうなってるの?」
「何でも入ってるよ、使えるものが沢山ね。」
知識と道具を幾つも揃えた懐が大概の問題を解決する
「油少し余っちゃったね、あの子らにあげようか。」
もう一本、予備で持っていた油の瓶を蜘蛛の群れに投げつける。瓶が割れ、油まみれとなった蜘蛛は鳥のような声で一斉に泣き悶え始める。
「なんか騒いでる!」
「ごめんね、少し痛いよ。」
銃弾を放ち発火させる、群れの蜘蛛達が次々と燃えてこんがりと焼き上がっていく。
「あれ、炎上した。
あれでも火種になるんだな、一匹ずつ狙うつもりだったけど手間が省けたみたいだ。よかった~!」
「バスコ、ちょっと怖い..」「そう?」
身を守る為にこれに近い事は何度も行なって来た。殺めていないのは人間くらいなものだ。
「マジかよ..あれだけの数を一度にか?」
「そこにいたんだね」「うおっ!」
大きな木の上に乗り様子を伺う男が一人、やはり高飛車は見晴らしのいい所が好きらしい。
「な、なんだよ..俺まで燃やす気か?」
「んな事しないわよ、行きましょバスコ。」
「うん、それじゃあね。」
木の上の男に手を振ってアリスカに押される。
山は通過点でしかなく、目的は次の街だ
「……なんだよ、行っちまった。」
二人が遠ざかるのを見計らい木を降りると、焼け焦げた蜘蛛達をよけながら女郎蜘蛛の元へ向かう。
「ご無事ですか、女郎様?」
[…バキ、バキバキッ..!!』
裂けた雲の隙間からボンテージのような黒い鎧を見に纏う、真白な顔をした細身の女が姿を現す。
「獲物は?」
「逃げられました。」「..そ、まぁ無理もない」
跪いて忠誠を誓う男、相棒では無く完全に部下。上司は余りに人間離れした雰囲気を醸している。
それより先生、早く例の方を!
もう山暮らしはこりごりで..」
獲物を取るのを手伝う代わりに、いい街と家を渡す事を条件をしていた。
「いいわよ、望みを叶えてあげる」「本当ですか?」
跪くのを立たせ、換気する男の首筋に噛み付く。
「あっ!」「ちゅーちゅー..」
男は傷口から体内を吸われ、干からびた乾物のような出立ちとなり再び地面に膝を付ける。
「これで何処にも住む必要が無くなった、その方が身の丈に合っているわよ?」
口を拭うと、男を蹴って去っていく。
「人間は総て私の食糧、そして使用物。
いつかアナタも喰ってやるわ、バスコくん」
彼女が狙うのは命そのもの。
身体の部位など、味気無いおやつに過ぎない。
「さぁて、次はダレを喰べようかしら? うふふふ」
不敵な笑い声が、山にこだまする。
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