46 / 119
1-3 ラムレイ辺境伯領グレンヴィルより
43 アッカ村を見に行こう・前
しおりを挟む「絶対に、銀髪に紫の瞳よ!」
「いや……普通に、茶色茶目がいいんじゃない?」
「バカなこと言わないで! 人は救世主に神々しさを求めるものなのよ」
……と、さきほどからリビングで争っているのは、ベラとオリバーだ。
なにを争っているのかといえば、俺の『容姿』をどうするかということだ。なぜこんな話し合いをするハメになったかというと、それは少し前に遡る。
朝っぱらから俺の部屋の扉がバンッと勢いよくひらき、ベラがベッドに突撃してきた。
男の寝台に突撃っていうのは……さすがに令嬢としてどうなんだ。
「レイ様ッ! レンベルグもアッカ村も大変なの!!」
「――……はあ?」
「もう10時よ!」と大声でわめくベラの横で目を擦りながら、寝ぼけた頭で耳を傾ける。やっと辺境伯の遠征が終わったと思ったら、1日の休みもなく、次から次へと……はあ。
とにかく、こないだ遠征しにきたヒストリフたちが好き勝手したせいで、村と町がやばいと。
アッカ村においては食料難で、赤子も育てられないほど困窮しており、レンベルグでは残党? というか逃げ帰った傭兵たちが暴れまわっているんだとか。ヒストリフのやつらが、金をちらつかせてたくせにちゃんと払ってなかったもんなあ。それで、町の人たちは店も開けられずに、家の中にこもっているらしい。
「えー これは俺のせいってことになんの?」
「別にレイ様のせいじゃないけど、レイ様ならなんとかできそうなんだもん」
「えー」
まあ、たしかに……俺んちができたせいで調査が来て、それで辺境伯軍が来たわけだから、元をたどれば俺のせいかもしれないけど、それちょっと横暴だろ。でも、小さい子どもにまで被害が出ているというのなら、ほっとくわけにも行かないのかもしれない……のか?
とりあえず様子くらい見に行こうか……と言ったら、ベラとオリバーの談義が始まったのだ。
「村を見に行くだけでしょ? むしろこないだの冒険者の格好でいいんじゃないの?」
「だって、もしそこでレイ様の不思議な力で村をどうにかすることになったら、冒険者の格好のままじゃ困るでしょ! レイ様の美しさは絶対に利用すべき!」
「でも、それで黒髪じゃまずいからって銀髪紫眼って……派手すぎだよ」
「むううう、じゃあフェルトさん! フェルトさんはレイ様の髪と目、なに色のイメージ?!」
「え、俺? えーと……」
当の本人を差し置いて、俺の目と髪をどうするかで大討論だ。
正直、俺はなんでもいい。
オリバーの言う通り、茶色にしたらいいんじゃないか? と思うが、ベラが猛反対をしている。美しさだとか神々しさだとか、必要だとは思えない。色ってそんなに重要なものなのか?
うーんうーん、と腕をくんで考えていたフェルトが、視線を宙にさまよわせながらぽそりと言った。
「えっと、薄いピンク花びらみたいな色の髪に……空みたいなきれいな瞳、とか似合いそう、かなあ」
「「「!!!!!」」」
え、え、だめかな? と赤くなって、焦っているフェルトを見て、俺たち3人は固まった。
「フェ、フェルトさん……あ、あんなひどい仕打ちを受けておきながら、レイ様がそ、そんな可憐なイメージ。ううう、不憫だ。」
「お、乙女。乙女だわ。レイ様のことが天使に見えてるのね?」
「……は? えッ! いや! そ、そんなんじゃ……ッ!」
ピンク頭に水色の目ってこと? どこの少女漫画のヒロインだよ。ひでえイメージだな。
3人でぎゃーぎゃー言ってるのを聞きながら、俺はコーヒーをすする。こないだ町で買ったけど、オリバーが結構本格的にドリップしてくれてうまい。
それにしても、たかが人の髪と目のことでよくもまあ、こんなに話すことがあるもんだな。日本にいたときから、俺は髪を染めたこともないから、いまいちこだわる気持ちがわからない。
「ベラが折れないんだから、銀に紫でいいよ。いないわけじゃないんだろ?」
「ほんと!? レイ様ーッ!」
「いないわけじゃないですけど、月の女神の色ですよ? 知りませんよ。女神とか呼ばれても」
「は? 女神? さすがにそんなもんに見えないだろ。ちんこついてんだよ。――これで、いいのか?」
「はッわ、わ、わぁぁ……レ、レイ様。こ、神々しいー……ま、待ってッ! 今、服! 服を用意するから!!!」
「大袈裟すぎる。村行くだけだろ。スウェットでいい」
「絶対だめッ!!!」
――ということで、なぜかヒラヒラのついたブラウスに紺色のパンツを着せられて、俺はアッカ村に来ていた。
同じような紺色の騎士服に身を包んだフェルトも一緒だ。フェルトは結局、髪と目の色だけ茶色にすることになった。
とりあえず、アッカ村は困窮しているのでそちらに先に行くことにし、俺は例のリビングに生えている桃っぽい実を村人の分だけ持っていくことにした。
ベラが馬を用意してくれたので、俺は人生ではじめて馬に乗ることになった。
もちろん乗ったことはないので、フェルトの前に乗らせてもらっている――が、背後に人がいることに慣れず、乗り心地は最悪だった。俺が後ろだと落ちるからだめなんだってさ。
あまり舗装されているとは言えない道を、パカッパカッと馬の蹄の音が響く。
「あの桃の木を村に植えるわけにはいかないんですか? 実を持ってくのって結構大変なのに」
「それはだめだ。あの実があると、人は働かなくなるから。あくまでも応急処置だ」
人は過ぎるものを手にすると、日々の努力を怠る生き物だ。
栄養価も高く、勝手に増えてくれる木があれば、畑を耕すのをやめる人間も出て来る。
もちろん、桃ばかり食べたいわけじゃないだろうから働くかもしれないが、オリバーが1週間食べ続けても飽きなかったのを見ると、怪しい。「なるほど」とオリバーは頷いていた。
「こちらのレイ様とビアズリー商会から、物資の救援に参りました」
村……と言っても50人いるかいないかという集落だが、ベラが大声でそう言うと、村人たちの間から村長らしき老人が出てきて、お礼を言っていた。ベラとその従者のようなやつらが、物資を均等に村人に分けている間、俺はフェルトとともに集落を歩いていた。
ちらちらと視線を感じるが、仕方ないだろう。貴族のような格好をしていて、ふらふらと歩きまわっていれば、気にもなるはずだ。
蓄えを取られてしまい、畑の作物を食べてその日暮らしだと言っていただろうか? あんまり土地も豊かな気はしないが、それでも、トマトやきゅうりなど、小さな畑で大切に育てているのが見てとれた。
小さな民家の角を曲がったときだった。
小汚い村の子どもが2人、小さな畑の前にしゃがみこんでいた。10才くらいだろうか、大きいほうの子どもが俺に気づいて立ち上がった。
64
あなたにおすすめの小説
平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)
優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。
本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。
僕と教授の秘密の遊び (終)
325号室の住人
BL
10年前、魔法学園の卒業式でやらかした元第二王子は、父親の魔法で二度と女遊びができない身体にされてしまった。
学生達が校内にいる時間帯には加齢魔法で老人姿の教授に、終業時間から翌朝の始業時間までは本来の容姿で居られるけれど陰茎は短く子種は出せない。
そんな教授の元に通うのは、教授がそんな魔法を掛けられる原因となった《過去のやらかし》である…
婚約破棄→王位継承権剥奪→新しい婚約発表と破局→王立学園(共学)に勤めて生徒の保護者である未亡人と致したのがバレて子種の出せない体にされる→美人局に引っかかって破産→加齢魔法で生徒を相手にしている時間帯のみ老人になり、貴族向けの魔法学院(全寮制男子校)に教授として勤める←今ここ を、全て見てきたと豪語する男爵子息。
卒業後も彼は自分が仕える伯爵家子息に付き添っては教授の元を訪れていた。
そんな彼と教授とのとある午後の話。
鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる
結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。
冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。
憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。
誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。
鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。
臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式の話
八億児
BL
架空の国と儀式の、真面目騎士×どスケベビッチ王。
古代アイルランドには臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式があったそうで、それはよいものだと思いましたので古代アイルランドとは特に関係なく王の乳首を吸ってもらいました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる