引きこもりの俺の『冒険』がはじまらない!〜乙女ゲー最凶ダンジョン経営〜

ばつ森⚡️8/22新刊

文字の大きさ
63 / 119
1-3 ラムレイ辺境伯領グレンヴィルより

60 酒盛り・前

しおりを挟む


「うわあ、レイって意地が悪い。フェルトの悲しそうな顔見た? え、なにその顔……喜んでんの?」
「うるさい」


 夜になり、みんなでリビングでオリバーの作った夕食を取り、そのあと、リンは言っていた通り俺の部屋に泊まるつもりらしく、俺のあとについてきた。
 持参していたワインと荷物はすでに俺の部屋の寝椅子に運ばれており、オリバーにチーズを出してもらって、そのまま部屋に戻ろうとしたときだった。

 フェルトが「レイ」とおずおずと声をかけてきて、なにか言いたげにこちらを見ていた。
 なにが言いたいのかは、俺の希望的観測でしかないけど、なんとなくわかったが……俺はバッサリとフェルトを切った。

「おやすみ、フェルト」
「ッ…………う、うん。おやすみ……レイ」

 パタンと扉を閉じる直前、責めるようなオリバーの視線と傷ついたフェルトの表情が目に入ったが、俺は気にせずにドアを閉めた。捨てられた犬のような目をしていたフェルトは、扉の向こうで唇を噛み締めているかもしれない。
 それを考えると、胸がぎゅうっとした。
 
 俺のことで頭がいっぱいになって、眠れなければいいのに。
 ずっと俺のことを考えて、おかしくなっちゃえばいいのに。

 そんなことを考えていたら、リンに意地が悪いと言われた。

「――ふうん、よっぽど自分にんだね。君が好きだと言うだけで、フェルトなんて簡単に落ちるだろうに」
「んなことないだろ。俺はめんどくさいから。それより酒」

 この世界では酒は大体の国で15歳から合法らしい。
 一応、元日本人である以上は20歳まで飲むつもりはなかったけど、なんかやたらおいしい酒だというので、少しだけいただこうと思う。
 別に自分に自信がないわけではないと思う。容姿にも、頭脳にも、いろんな能力に正直、自信はある。
 だけど、それは外側だってことも、よく知ってた。きっと自信として本当に大事なのは内側なのだ。自分に足りてないものがたくさんあるってこと、俺は……よくわかってる。
 リンがどこまでわかってそう言ったのかはわからないけど、本当によく人のことを見ているなと思った。それから、そこは知られなくていいと思った。

 とくとくと音を立てて、美しい赤い液体がテーブルに置かれたグラスへと注がれていくのを、ぼんやりと見つめていた。
 この部屋に設置された、黄熱灯みたいなあたたかみのある光は、その注がれた酒の色を夜の色に変え、匂い立つ熟成した香りがふわりと漂ってきた。

 リンの苺ミルクみたいな髪の毛も、部屋の照明の中では少し落ち着いていて、昼間見たときよりも大人びて見える。お互い寝椅子に座っているから、なんとなく表情がリラックスしているからかもしれない。
 俺が見ていることに気づいたのか、にこっと女好きしそうな笑顔を浮かべると、リンは「乾杯」と言って軽く傾けてから、グラスを煽った。

「んー……もう少し置いといてもいいかも。若い葡萄酒じゃないから、このままでもいいんだけど、オリバーが用意してくれたチーズと合わせるには、もっと空気を含んだほうがよさそ」
「なんか知ってる風なこと言ってる」
「ふふ、僕が持って来た葡萄酒だよ。あんまり酒は飲まないんでしょ? それならせっかくだし、おいしく飲んで欲しいからね」
「ふうん」

 ひと口、ワインを口に含むと、思ったよりも……いろんな味がした。
 あんまり飲み慣れてないからそんな表現しかできなかったけど、これはおそらく重厚な……とかいう類いの味だろうと思った。甘いとか、苦いとか、芳醇とか、そういう表面的な味ではない……深みのある味だった。
 なんか長い年月を経たかんじだ。
 現に、リンが開けたコルクはボロボロで真っ黒になっていた。たしか年代物のワインは、現代でも特殊なオープナーで開けないとだめだったような気がする。

「君は、随分と複雑な人間みたいだからね。たしかにあっけらかんとして、大雑把で無邪気な一面もあるし、それも本当のレイなんだろうけどさ。本質は結構……なんていうのかな、どろどろしてるでしょ」
「よく見てんなー。でもそれで友達になりたいっていう気持ちも、よくわかんねーけど」
「でも嬉しかったでしょ? 俺も嬉しい。それでいいんじゃないの」
「ふうん。ほんと、よく見てんだなーお前」
「心配なのは、フェルトのほうかな。レイにご執心みたいだ。君も……そうみたいだけど」
「執心? まあ、普通に好みなんだ。でもあんなキラキラしたやつ、俺とは釣り合わないと思ってるけど」
「えー? そう思うの? フェルトもあれはあれで、結構歪んでると思うけどね」

 へらへら笑いながらリンがそう言うのを聞いて、俺は眉間に深い皺を寄せた。
 はあー?
 
「どこが」
 
「ふふ。それこそ、恋は盲目ってやつかもしれないね。レイはフェルトのことをキラキラに見過ぎてわからないんだよ。あれはあれで……ただの純粋培養じゃないと俺は思うけど」

 そうだろうか?
 恋? まあ、これだけ気になるんだから、気にしてるのはたしかなんだろうけど。盲目というほど、のめり込んでいる感覚も特にない――……つもりではあるけど。
 キラキラっていうならなんていうか、はじめて見た瞬間からフェルトは、――ずっと……

「フェルトは、――この世界の主人公みたいだ」
「ふうん。そう? でも、もし仮にそうなんだとしたら、余計に。物語の主人公なんて、大概が頭のネジの1本や2本外れているもんだよ」

 うーん、それもあんまり理解できない。
 俺から見る限りでは、フェルトはこの世界に愛された人間のように見える。いい父親といい母親に愛されて育った、好青年といったかんじで、現に同じ騎士団のやつらにも愛されているように見えた。
 俺やオリバーに対しての態度も、わかりやすく、まっすぐで、なによりも素直だ。
 だから、俺は惹かれるんだろうと思うんだけどな。

「あ、そうだ。1つ言っておかないといけないことがあるんだ。それもフェルトのことなんだけど」

しおりを挟む
感想 31

あなたにおすすめの小説

一人の騎士に群がる飢えた(性的)エルフ達

ミクリ21
BL
エルフ達が一人の騎士に群がってえちえちする話。

平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)

優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。 本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。

僕と教授の秘密の遊び (終)

325号室の住人
BL
10年前、魔法学園の卒業式でやらかした元第二王子は、父親の魔法で二度と女遊びができない身体にされてしまった。 学生達が校内にいる時間帯には加齢魔法で老人姿の教授に、終業時間から翌朝の始業時間までは本来の容姿で居られるけれど陰茎は短く子種は出せない。 そんな教授の元に通うのは、教授がそんな魔法を掛けられる原因となった《過去のやらかし》である… 婚約破棄→王位継承権剥奪→新しい婚約発表と破局→王立学園(共学)に勤めて生徒の保護者である未亡人と致したのがバレて子種の出せない体にされる→美人局に引っかかって破産→加齢魔法で生徒を相手にしている時間帯のみ老人になり、貴族向けの魔法学院(全寮制男子校)に教授として勤める←今ここ を、全て見てきたと豪語する男爵子息。 卒業後も彼は自分が仕える伯爵家子息に付き添っては教授の元を訪れていた。 そんな彼と教授とのとある午後の話。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式の話

八億児
BL
架空の国と儀式の、真面目騎士×どスケベビッチ王。 古代アイルランドには臣下が王の乳首を吸って服従の意を示す儀式があったそうで、それはよいものだと思いましたので古代アイルランドとは特に関係なく王の乳首を吸ってもらいました。

魔王に飼われる勇者

たみしげ
BL
BLすけべ小説です。 敵の屋敷に攻め込んだ勇者が逆に捕まって淫紋を刻まれて飼われる話です。

ヤンデレ執着系イケメンのターゲットな訳ですが

街の頑張り屋さん
BL
執着系イケメンのターゲットな僕がなんとか逃げようとするも逃げられない そんなお話です

俺は触手の巣でママをしている!〜卵をいっぱい産んじゃうよ!〜

ミクリ21
BL
触手の巣で、触手達の卵を産卵する青年の話。

処理中です...