引きこもりの俺の『冒険』がはじまらない!〜乙女ゲー最凶ダンジョン経営〜

ばつ森⚡️8/22新刊

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1-3 ラムレイ辺境伯領グレンヴィルより

60 酒盛り・前



「うわあ、レイって意地が悪い。フェルトの悲しそうな顔見た? え、なにその顔……喜んでんの?」
「うるさい」


 夜になり、みんなでリビングでオリバーの作った夕食を取り、そのあと、リンは言っていた通り俺の部屋に泊まるつもりらしく、俺のあとについてきた。
 持参していたワインと荷物はすでに俺の部屋の寝椅子に運ばれており、オリバーにチーズを出してもらって、そのまま部屋に戻ろうとしたときだった。

 フェルトが「レイ」とおずおずと声をかけてきて、なにか言いたげにこちらを見ていた。
 なにが言いたいのかは、俺の希望的観測でしかないけど、なんとなくわかったが……俺はバッサリとフェルトを切った。

「おやすみ、フェルト」
「ッ…………う、うん。おやすみ……レイ」

 パタンと扉を閉じる直前、責めるようなオリバーの視線と傷ついたフェルトの表情が目に入ったが、俺は気にせずにドアを閉めた。捨てられた犬のような目をしていたフェルトは、扉の向こうで唇を噛み締めているかもしれない。
 それを考えると、胸がぎゅうっとした。
 
 俺のことで頭がいっぱいになって、眠れなければいいのに。
 ずっと俺のことを考えて、おかしくなっちゃえばいいのに。

 そんなことを考えていたら、リンに意地が悪いと言われた。

「――ふうん、よっぽど自分にんだね。君が好きだと言うだけで、フェルトなんて簡単に落ちるだろうに」
「んなことないだろ。俺はめんどくさいから。それより酒」

 この世界では酒は大体の国で15歳から合法らしい。
 一応、元日本人である以上は20歳まで飲むつもりはなかったけど、なんかやたらおいしい酒だというので、少しだけいただこうと思う。
 別に自分に自信がないわけではないと思う。容姿にも、頭脳にも、いろんな能力に正直、自信はある。
 だけど、それは外側だってことも、よく知ってた。きっと自信として本当に大事なのは内側なのだ。自分に足りてないものがたくさんあるってこと、俺は……よくわかってる。
 リンがどこまでわかってそう言ったのかはわからないけど、本当によく人のことを見ているなと思った。それから、そこは知られなくていいと思った。

 とくとくと音を立てて、美しい赤い液体がテーブルに置かれたグラスへと注がれていくのを、ぼんやりと見つめていた。
 この部屋に設置された、黄熱灯みたいなあたたかみのある光は、その注がれた酒の色を夜の色に変え、匂い立つ熟成した香りがふわりと漂ってきた。

 リンの苺ミルクみたいな髪の毛も、部屋の照明の中では少し落ち着いていて、昼間見たときよりも大人びて見える。お互い寝椅子に座っているから、なんとなく表情がリラックスしているからかもしれない。
 俺が見ていることに気づいたのか、にこっと女好きしそうな笑顔を浮かべると、リンは「乾杯」と言って軽く傾けてから、グラスを煽った。

「んー……もう少し置いといてもいいかも。若い葡萄酒じゃないから、このままでもいいんだけど、オリバーが用意してくれたチーズと合わせるには、もっと空気を含んだほうがよさそ」
「なんか知ってる風なこと言ってる」
「ふふ、僕が持って来た葡萄酒だよ。あんまり酒は飲まないんでしょ? それならせっかくだし、おいしく飲んで欲しいからね」
「ふうん」

 ひと口、ワインを口に含むと、思ったよりも……いろんな味がした。
 あんまり飲み慣れてないからそんな表現しかできなかったけど、これはおそらく重厚な……とかいう類いの味だろうと思った。甘いとか、苦いとか、芳醇とか、そういう表面的な味ではない……深みのある味だった。
 なんか長い年月を経たかんじだ。
 現に、リンが開けたコルクはボロボロで真っ黒になっていた。たしか年代物のワインは、現代でも特殊なオープナーで開けないとだめだったような気がする。

「君は、随分と複雑な人間みたいだからね。たしかにあっけらかんとして、大雑把で無邪気な一面もあるし、それも本当のレイなんだろうけどさ。本質は結構……なんていうのかな、どろどろしてるでしょ」
「よく見てんなー。でもそれで友達になりたいっていう気持ちも、よくわかんねーけど」
「でも嬉しかったでしょ? 俺も嬉しい。それでいいんじゃないの」
「ふうん。ほんと、よく見てんだなーお前」
「心配なのは、フェルトのほうかな。レイにご執心みたいだ。君も……そうみたいだけど」
「執心? まあ、普通に好みなんだ。でもあんなキラキラしたやつ、俺とは釣り合わないと思ってるけど」
「えー? そう思うの? フェルトもあれはあれで、結構歪んでると思うけどね」

 へらへら笑いながらリンがそう言うのを聞いて、俺は眉間に深い皺を寄せた。
 はあー?
 
「どこが」
 
「ふふ。それこそ、恋は盲目ってやつかもしれないね。レイはフェルトのことをキラキラに見過ぎてわからないんだよ。あれはあれで……ただの純粋培養じゃないと俺は思うけど」

 そうだろうか?
 恋? まあ、これだけ気になるんだから、気にしてるのはたしかなんだろうけど。盲目というほど、のめり込んでいる感覚も特にない――……つもりではあるけど。
 キラキラっていうならなんていうか、はじめて見た瞬間からフェルトは、――ずっと……

「フェルトは、――この世界の主人公みたいだ」
「ふうん。そう? でも、もし仮にそうなんだとしたら、余計に。物語の主人公なんて、大概が頭のネジの1本や2本外れているもんだよ」

 うーん、それもあんまり理解できない。
 俺から見る限りでは、フェルトはこの世界に愛された人間のように見える。いい父親といい母親に愛されて育った、好青年といったかんじで、現に同じ騎士団のやつらにも愛されているように見えた。
 俺やオリバーに対しての態度も、わかりやすく、まっすぐで、なによりも素直だ。
 だから、俺は惹かれるんだろうと思うんだけどな。

「あ、そうだ。1つ言っておかないといけないことがあるんだ。それもフェルトのことなんだけど」

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