悪役令息の僕とツレない従者の、愛しい世界の歩き方

ばつ森⚡️8/22新刊

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リスティアーナ女王国編

13 悪役主従と冒険者・前

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「ねえ、なにしてんの?」

 ガサッとうしろの茂みが動き、しまった! クマでもいただろうか……と僕が慌てて振り返ると、そこには見覚えのない男が立っていた。
 鮮やかな緑色のマントに身を包んではいるがその下には白銀の甲冑が覗き、大きな剣を背負っていて、冒険者というよりは騎士のような出立ちに見える。
 言葉をしゃべるので、どうやらクマ……ではなさそうだ。
 そして、王都の知り合いではないなということにすぐに気がついた僕は、ほっと胸を撫で下ろした。
 逃亡者ではなくなったものの、僕が婚約破棄をされ国外追放になった経緯があるのだ。アルフレッドに関連することに箝口令が敷かれているとはいえ、それでも王都の人間とはできるだけ接触したくはない。

(……ケイトが不在の今は特に)

 一体何者だろうと思いながらちらっと妖精王のほうに目をやってみると、妖精王は相変わらずなんとも言えない表情で固まっていた。でも慌てた様子はないので、危険な人物ではないのかもしれない。
 男の後ろから、ひょろっとした長身の男が駆けてくるのが見えた。弓を背負っているのが見えたので、この二人はやはり冒険者なのだろう。

「剣の練習をしてるところだ。お前こそ、こんなところでなにをしているんだ」
「えー……ていうか、男? すごい綺麗だな……」

 目をぱちぱちと瞬かせた男が、まるで頭から足の先まで舐めるように不躾な視線を送ってくるのがわかって、僕はムッとした。今の僕は平民なのだから、それが不敬だとは言わないが、されて感じのいいものではない。
 用事がないならどこかへ行ってくれと頼もうとしたところで、男が妖精王のほうを見て目を瞬かせた。

「え……それって、ようせ……い? 嘘だろ。はじめて見た……」

 男が顎に手を当てながらそうつぶやくのが聞こえて、今度は僕が目を瞬かせる番だった。
 クルトのように弱っているときや気を抜いてしまったときは別として、心の清らかな子どもの前でしか姿を現さないと聞いていたのだ。それに妖精王ともなれば、姿を消すくらいできるはずだ。どういうことだろう。
 妖精王は相変わらずツンと澄ました顔で、つまらなそうに男に視線を流している。
 妖精王が別に気にしていないのか、それともこの男の心が清らかだということなのかはわからないが、どちらにしろ妖精王は「大丈夫」と判断したということだった。
 僕はぱああっと目を輝かせた。
 だが――。

「へえーすごい綺麗だな……」
「お、おい! いくら安全なやつだからと言って、女性をそんなに見つめるなんて、失礼だ」
「安全? 女性……ああ、そうか。悪い。はじめて見たからつい……」
 
 男があまりにも不躾な視線を今度は妖精王に向けていたので、僕は妖精王を背にかばうようにズイッと前に出た。
 たしかに妖精王に力では敵わないかもしれないが、それ以前に守るべきご高齢のおばあさんである。
 僕はこれ以上、妖精王が不快な思いをしないように、正義のきらめきを胸に勇んで口をひらいた。

「虫みたいなものだと思って、気にしないでくれ」
「おいッ」
「あはは、虫って、そっちのほうがひどくない?」
 
 妖精王から非難の声が上がっていたが、僕は断腸の想いでそう口にしたのだ。
 僕は王妃教育を受けて育った男であり、ときには嘘が必要なこともあるということをしっかりと理解していた。僕は後ろを振り返りながら、ぐっと第二騎士団のアームストロング団長を思い浮かべながら力強く頷いた。
 妖精王はすごく嫌そうな顔をしていた。
 そして、虚ろな瞳のままゼリコルデ・ハクレール三世♀の影で小さく丸まって座ってしまった。
 そのやりとりを見て男が笑ったとき、後ろから追いついてきたそばかすの男がぜえぜえと息を吐き出しながら言った。
 
「ら、ライナス! 突然話しかけられて、びっくりしてるじゃないか……! すみません! 僕たちはこの森の奥に住んでるモンスターを討伐しに来た冒険者です。こ、怖がらせてすみません。別に変な者ではないんです」
「ああ、お前たちの安全性は確認済みだ」
「安全……??」
 
 ケイトがわざわざ妖精王に頼んで一緒に留守番をしてもらっているのだ。その妖精王がおそらく「大丈夫」と判断したことで、僕の気持ちはだいぶ大きくなっていた。
 しかし、この森にそんなモンスターがいるのは知らなかった。
 さっき一度町に立ち寄ったときに、ケイトが冒険者ギルドでじっと依頼板を見ていたのを思い出した。もしかして、ケイトは知っていたのかな……と考えたところで、僕の背筋に悪寒が走った。
 よくわからないが、この二人が討伐に行くというのなら、それは僕の明るい未来に多大な影響を与えるようなそんな気がした。僕はなにかに急かされるように、口早に言った。

「そうか! では、直ちにそのモンスターを討伐してきてくれ。健闘を祈る!」
「…………え。いや、なー、なんでこんなところで剣の練習してんの?」

 だが、僕の激励とは裏腹に男は話し続けた。なんでそんなに僕の剣の練習に興味があるんだろう。
 僕は剣が苦手でそのせいで、魔法学園では首席をアルフレッドに譲ってしまった。ケイトにもへっぽこだとバレてしまっているほどなのだ。
 妖精王がなにも言わないのだから、この男はそんなに危険ではないはずだ。なにか僕から金目のものを盗もうなどと思っているわけでもあるまい。
 どういうことだ? と僕が首をかしげている間に、二人はここで休憩をすることにしたらしく、近くの丸太の上にドスンと腰を下ろした。甲冑を着ているせいなのか、妙に重そうな音がした。
 丸太の上に置かれた大剣を見て、あんな大きな剣を扱えるなんてきっとすごい使い手……いや、剣の達人に違いないと僕は思った。
 そんな人が僕の剣の練習を気にしている……。どくどくと心臓の音が速くなっていく。
 まさか――
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