黒狼の牙 〜領地を追われた元貴族。過去の世界で魔法の力を得て現在に帰還する。え、暴力組織? やめて下さい、黒狼会は真っ当な商会です〜

ネコミコズッキーニ

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集う黒狼会 帝都で進む策謀

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 玖天・黒曜腕駆を解除し、完全に元の俺へと戻る。

 玖天・黒曜腕駆は身体能力の強化率がかなり上昇する反面、しばらくまともに魔法が使えなくなるというデメリットがある。

 そう長い時間ではないが、それでもこの時間は俺にとって大きな隙になり得る。

「ヴェルト殿!」

「ヴェルトさま……」

 戦いが終わり、2人が側までやってきた。なんだか前にも似た様な場面があったな。

「二人とも、無事な様でなによりだ」

 本心からの言葉だったが、アデライアはハッとして手で右頬を隠す。

「どうした? 痛いのか?」

「……いえ、大丈夫です」

「いや、大丈夫じゃなさそうなんだが……」

 頬が痛くて手で押さえているんじゃないのか。そう思ったが、ディアノーラは小さく首を横に振った。

「ヴェルト殿。アデライア様とて乙女、腫れた顔を見せるのは恥ずかしいのだ。まじまじと見つめるのは……」

「でぃ、ディアノーラ……!」

 ディアノーラの言う通りだったのか、アデライアは照れた様な仕草を見せる。

 そういうものか。同じ女でも、フィンが怪我を負って恥じらう姿は想像できんな……。

「それよりヴェルト殿。よくあのルード相手に勝ってくれたものだ。正直、ヴェルト殿が来てくれなければ危ないところだった」

「ルードの足を止めてくれたのはディアノーラだろう? それにアデライアの怪我といい、ルードに抵抗した結果じゃないのか? 2人が頑張ってくれたからこそ、ここで追いつく事ができたんだ。俺1人の力じゃない」

 しかし気になる事は多い。状況から見て、ルードは明らかにこの地下空間の存在を知っていた。

 そしてアデライアを連れて行った点といい、この先に何かあるのは間違いない。少し考えを深めるが、部屋に新たな客がやってくる。

「あー、いたいた!」

「ご無事でしたか」

「ま、ヴェルトなら当然だろ」

「お前ら……」

 部屋に現れたのは、フィンたちとリリアーナだった。これで黒狼会の幹部が全員そろった事になる。

「ふぉっふぉ。坊、状況の整理が必要かの?」

「ああ……そうだな」

 アックスは生み出した水でアデライアの腫れた顔を冷やす。そうしてみんな、ここに来るまでの出来事を共有していった。

「やっぱり結社は今日仕掛けてきたか……」

「だがある程度防げたと言っていいんじゃないか?」

 そのはずだ。だが拭いきれない違和感はある。それが何なのか考えていると、フィンが声をあげた。

「でもさー。結社はお姫様を、この先にあるどこかへ連れて行こうとしていたんでしょ? それって変じゃない?」

「変?」

「うん。帝都の地下空間を把握しているっていうのもおかしいけど。ここに用事があったなら、エルセマー領で姫様をつれさろうとした理由が分からないんだよね」

「え……?」

「そうか……なるほど……」

 フィンの言葉で違和感の輪郭を掴む。音楽祭の時にアデライアをさらった時、リアデインは地下空間を使って移動をしていた。

 それと今回の件だけであれば、帝都の地下でアデライアを使って何かしようとしていたと想像が立てられる。

 だがそれだとエルセマー領でさらおうとした理由に違和感が出るのだ。

 もし初めからこの場所に用事があったのなら。エルセマー領でさらってから帝都にわざわざ入り、そこからさらに地下空間へ移動する事になる。

 無駄が多いし、アデライアをさらった後の行動にしてはリスクが高過ぎるのだ。

「元々はアデライア自身に何か目的があったが、今はこの地下空間を渡って、どこかにアデライアを連れて行くという目的ができた……?」

「この先で何かしようとしているのか、何か目的が来たのかは分からないけどねー」

「……考えるのはお前たちに任せた」

 ガードンは決まった方針に従うから、頭を使う仕事は任せたと手を上げる。じいさんも似た様な判断の様だった。

 そんな中、アデライアはそういえばと声をあげる。

「この部屋に来る前にも、扉で閉じられた箇所がありました。でも私が扉の側にある水晶球に触れると、独りでに扉が開いたんです……」

 アデライアはルードに連れられた時の話をしてくれた。それによると、アデライアが水晶球に触れた瞬間、こうした扉は開いたという。

 俺たちは全員、視線を閉じられた扉に向けた。

「水晶球ってこれのことー?」

 試しにフィンが触れてみるが、何も起こらない。だがルードの言う事を考えると。

「やっぱり結社はここに何か用事があった。そして扉を開けられるのはアデライアだけだと知っていた……」

「そんな事あるのか?」

「分からない。……アデライア、試しにそこの水晶球に触れてみてくれるか?」

「はい……」

 そう言うとアデライアは静かに水晶球に触れる。

 フィンでは何も反応を示さなかったが、アデライアが触れた途端に水晶球は淡く輝き出す。そして扉が音を立てて開いた。

 奥にはまだ長い通路が続いている。

「なんだ……どうしてアデライアにだけ反応する……?」

「ふ……ふはは……」

 部屋の片隅からくぐもった笑い声が響く。視線を移すと、ルードが座り込んだ姿勢で背を壁に預けていた。

「もう目が覚めたのか。頑丈な奴だな」

「ふん……まさか黒狼会がそろうとはな。お前たちの足止めに向かった閃罰者は全員敗れたか……」

 フィンは獲物を見つけた様な視線をルードに向ける。それはそれは楽し気に目を細めていたが、俺はそんなフィンを制する様に肩に手を置いた。

「ルード。お前の目的はなんだ? 何故この地下空間の存在を把握していた? アデライアをどこに連れていき、何をしようとしていた?」

 時間があればフィンに一任しても良かっただろう。だが俺には、今回の騒動がまだ収まっていない様に思えていた。

「ヴェルト~。どうせしゃべらないよ。しゃべりたくなる様に連れて帰ろうよ」

「……ルード。お前のためにも言ってるんだが、知ってる事を全部話せ」

 ここでルードが目を覚ましたのは僥倖だ。それに実際に拳を合わせた感じ、こいつは拷問では口を割りそうにない。

 ルードは身体は動かせないものの、不敵に笑った。

「お前は勝者だ。敗者の全てを奪う権利がある。いいだろう、俺の知る情報を教えてやる」

 いやに素直な反応だ。こういう手合いは、何か別に目的がある事に注意が必要だな……。

「まずこの地下空間を知っていた理由だが。あらかじめレクタリアより聞いていたのだ」

「レクタリア……エル=グナーデの総裁か」

「そうだ。そして赤い瞳に目覚めた者にしか開けぬ扉を進み、その最奥の地点で合流する手はずだった」

 やはり結社自体、この地下空間に目的があったのか。少なくともエルセマー領でアデライアをさらおうとした時は、まだここに用事はなかったはずだ。それに。

「何故そんな情報をレクタリアは知っている? それに合流と言ったな。まさか……」

「レクタリアは俺たちが知らない事を多く知っている。地下空間やアデライアでなくては開かぬ扉といい、今さらそんな事を言われても、レクタリアであれば知っていて当然かと納得できてしまうものなのだ。そしてお前の予想通り、レクタリアたちはこことは違う場所から地下空間の最奥へと向かっている」

「…………っ!」

 こうしている今も、結社の首魁は別の場所からこの奥に向かっているということか……!

「俺はそこでアデライアをレクタリアに引き渡す役目を負っていた。アデライアをどうするつもりなのかまでは知らんがな。だがそんな俺でもこの先、何が起ころうとしているのかは分かっている」

「それはなんだ?」

「1つはテンブルク領とルングーザ領の軍が合流し、帝都を押さえるということ。これは現在進行形で行われているだろう。時間的にももう軍は帝都に入っている頃だ。今ごろ城や皇宮を押さえているのではないかな」

 2人の領主の軍が帝都にくるというのは、ダンタリウスたちから聞いて知っていた。だがここまで行動が速いとは……! 

「どうしてそんな事を……?」

「ヴィンチェスターだ。奴は現在の皇族からその玉座を奪おうとしている」

 予想の1つだったが、どうやら当たっていたらしい。

 事前にクインやディナルドにも情報は伝わっているが、相手の出方の方が速い。上手く対処できているかは微妙なところだな。

「上手くいくはずがない。たった2人の領主が起こした反乱に、誰が従うというんだ。いくらハイラント派閥が大きくても、その全てが反乱者に従う訳ではないだろう」

「さぁな。貴族の派閥までは俺は知らんさ。だがヴィンチェスターは魔法を復活させ、それを自分の手柄だと大々的に宣伝するつもりだ。幻魔歴を生きたお前たちなら知っているだろう? かつての王族は、力を持たぬ者たちに魔法の力を授けていた事を。ヴィンチェスターはその再現を以て、自らを新たな時代の王に相応しいと世界に示すつもりなのだ」

 ヴィンチェスター……やはりまた帝都に戻ってくるつもりだったのか。結社と組んでいる事は確定的だが、それにしてはいろいろ雑な点が多い。

「魔法の復活? お前たちの様なもどきで魔法が復活したと言うつもりか?」

「ふ……もどき……か。認めよう、確かに本物の魔法を使う者からすれば、俺たちの力などもどきと呼ぶに相応しいものだろう。だがここで言う魔法の復活とは、エルクォーツによる力を指すものではない。お前たちの振るう力と同じ、本物の魔法だ」

「…………!?」

 どういう事だ。大幻霊石が失われた今、魔法は二度と復活しないはずだ。

 それにヴィンチェスターにそんな力があるとは思えない。魔法復活のために何か手を打っている奴がいるとすれば……。

「魔法を復活させようとしているのはレクタリア……。ヴィンチェスターはその手柄を自分のものにして、帝国の新たな支配者になろうとしている……?」

「そうだ」

 ルードは短く答えるが、それだといろいろ説明がつかない部分が多い。それらの疑問を口にする前に、ルードはさらに言葉を続けた。

「そしてこれから起こる2つ目の出来事だが。レクタリアは帝都地下最奥の間で、実際に魔法をこの世界に復活させる」

「は……?」

 そう。話を聞く限りヴィンチェスターの行動計画は、レクタリアが実際に魔法を復活させるという前提のもとに組まれているものだ。

 だが魔法の復活に相応する行動が理解できない。かつて女神がもたらしたという大幻霊石。再びその石を生み出すのか? 

 どうやって。仮にできたとして、どうしてレクタリアにそんな力がある? 何故魔法を復活させる手順を知っている?

「レクタリアにそんな力と知識があるというのか? しかもここ帝都で魔法の復活を行うと?」

「ヴィンチェスターは魔法復活のタイミングで城を押さえていなければ、次代の権力者として振る舞えない。そのため、このタイミングは決して外せないものだった」

「だから今は城を押さえ、レクタリアが魔法を復活させるのを待っているってか? 確かにこのタイミングで魔法が復活すれば、ヴィンチェスターは自分の力だとでかい顔できるだろうが。どうして魔法が復活するという確証を持っている? アデライアとどう関係している?」

 いよいよきな臭い話になってきた。ルードの話が本当だったとして、レクタリアの魔法を復活させるという行動に、アデライアが関係しているのは間違いないだろう。

 具体的にどう関わってくるのかは分からないが。

「ふん……俺もそこまでは知らん。だがアデライアがいれば、確実にこの世界に再び魔法を……聖魔の波動をもたらす事ができると言っていた」

「聖魔の……波動……?」

「アデライアがいなくても、魔法復活の儀式自体は可能らしい。だがその場合はかなり不安定なものになるらしくてな。どちらにせよ、この世界に生きる全人類に新たな影響をもたらせるものらしい」

 アデライアは儀式を安定させるために必要な要素……? 

 だが全人類にもたらされる影響という部分は見逃せなかった。

「なんだ、それは。具体的に何を指す?」

「さぁな。だがレクタリアは言ってたよ。上手く事が進めば人類は次のステージに立てるが、全員が立てる訳ではない。相応しくない者はエルクォーツ変異体……レヴナントになる可能性もあるってな」

「レヴナント……?」

「お前もこの帝都で何度か見たのではないか。人が怪物に変わる様を。あれはエルクォーツに適合しきれなかった者の末路だ。定期的に抑制剤を飲まなければ、その身を怪物へと変えることになる。そして帝都で暴れていた獣の正体は、野生動物にエルクォーツを無理やり埋め込んだ結果だ」

「…………っ!!」

 ルードの話がどこまで本当かは分からない。だが俺たちは実際人から変異した怪物も獣も見ているし、とても見過ごせる存在でもない。

 ましてや全人類が、怪物に変異する可能性が出るなどと。

「レクタリアはアデライアがいようがいまいが、今日儀式を実行に移す。このままだとレクタリアは不安定な儀式を実行し、世界に聖魔の波動とやらの影響が出るかもなぁ? そうなると一体どれだけの人間が、化け物に姿を変える事になるのか……」

「お前……!」

 ここにきてルードが素直に情報を話した理由が分かった。こいつ、俺たちにアデライアを連れさせて、レクタリアの元まで運ばせようとしているのだ。

 こうして話している今も、レクタリアは地下空間最奥へと向かっている。もし魔法復活という怪しい儀式を止められなければ、どういう影響が出るのかまるで読めない。

 だがこいつらが野生の獣や人を怪物にできる力を持っているのは事実なのだ。

 おそらくここまで話せば、俺たちは儀式を止めるためにアデライアを連れてこの奥へ進むと分かっていたのだろう。

 この先もアデライアにしか開けられない扉があるかもしれないのだ。連れて行かないという選択肢はない。

 それにルードの話を全て世迷い事と断じて無視する訳にもいかなかった。

「ちっ……お前、初めから俺たちにアデライアを運ばせるつもりだったか……」

「ふ……俺はもう動けんからな……。だが行くも行かないもお前たちの自由だぞ?」

「なめやがって……!」

 レクタリアという人物について、より不可解な点が増える。

 魔法復活の手段を何故持っているのか。どこでそんな知識を得たのか。

 元は結社エル=ダブラスに所属する組織の一員に過ぎなかったはずだ。初めからその力を割いて新たな結社を立ち上げるつもりだったとしても、その人物像に理解できない点が多すぎる。

「どうするのじゃ、ヴェルト?」

「決まっている……! ヴィンチェスターもレクタリアも、このまま放っておけるか! それに敵の親玉がこの奥にいるというのなら好都合じゃないか……!」

 俺の言葉にみんな反応を示す。

「そうですね。考えようによってはこれはチャンスです」

「今まで尻尾も掴めなかった相手だしねー」

「せっかく帝都で足掛かりが作れたのに、怪物相手に商売はできんからな!」

「それに。黒狼会の掟を叩き込んでやる必要もあるだろう」

 ガードンの言葉に俺も頷きを返す。

 そうだ。今回の結社の行動により、黒狼会から怪我人はおろか、死人まで出ているのだ。そして新たに始めた店も被害を受けた。このまま泣き寝入りなんてできる訳がない。

 売られた喧嘩は全て買う。それが黒狼会の掟だ。結社は……レクタリアは、黒狼会に対して随分と舐めた真似をしてくれた。

 俺たちの新たな居場所を害する者は、相手が誰であれ決して許さない。例えかつての女神の所業を真似しようという奴でも。

「アデライア。悪いがもう少し付き合ってくれるか」

「はい。私も末席ですが皇族の1人として、この事態は見過ごせません。お願いします、どうかこの帝都を……帝国を助けてください……!」

 ゼルダンシア皇族が俺たちにこういう形でお願いするとは。群狼武風として思うところがない訳ではない。

 時を超えて、ゼルダンシアと俺たちの繋がりを再確認できた気持ちになった。

「全て任せてくれ。今度こそ俺たちは。この手でゼルダンシアを救ってみせる……!」
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