黒狼の牙 〜領地を追われた元貴族。過去の世界で魔法の力を得て現在に帰還する。え、暴力組織? やめて下さい、黒狼会は真っ当な商会です〜

ネコミコズッキーニ

文字の大きさ
111 / 174

帝都占領 ヴィンチェスターの野望

しおりを挟む
 ヴェルトたちが大聖堂から帝都地下空間を駆けている頃。帝都近くで演習を行っていたルングーザ領の軍は帝国政府の要請に応え、帝都へと足を踏み入れていた。

 しかし帝都に入ると、真っすぐに貴族街へと武装した軍を進ませる。軍は瞬く間に貴族街で暴れる獣や怪物を討伐したが、そのまま皇宮と城へと押し入り、帝都に務める貴族たちを拘束した。

 帝都は大陸最大の都市だし、本来であれば貴族街の規模でも一地方の領軍如きで抑えきれるものではない。

 だがここに呼応するかのように現れたテンブルク領の領軍が協力し、瞬く間に貴族街を押さえてみせた。

「ヴィンチェスター様。全て予定通りに進んでおります」

「元々協力していた貴族は城に。エルヴァールを始めとするミドルテア派閥の監視をさせております」

「皇族は皇宮に固めております。ただアルフォース家の剣士が……」

 配下が言いよどんだところで、ヴィンチェスターは朗らかな笑みをしたまま頷く。

「よい、今さら個人の武で何とかできる場面は過ぎておる。それに皇族の女どもは私がこの帝国を継承する上で必要な者たちだ。そのままアルフォース家の剣士に守らせておけ。私と、我が一族将来の妻となるのだからな」

 ヴィンチェスターは今日、自分が新たな王になるという確信を持っていた。

 全ては予定通り。あとはこのまま待てば、結社エル=グナーデが魔法を復活させる。

 それを自分が復活させた様に喧伝し、これまでのゼルダンシア皇族にできなかった事をしたという実績にすればいい。

 ヴィンチェスターとてこれだけで諸侯が全て従うとは思っていない。しばらく内乱も続くだろう。

 だが勝者は魔法を押さえている自分だと決まっているし、歴史は常に勝者にとって都合が良い様に作られる。後世、ヴィンチェスターは帝国に魔法をもたらした英雄王として記されることになるだろう。

「ふふ……」

 もはや自分の権勢を揺るがせる者は誰もいない。今日ここからハイラント朝ゼルダンシア帝国の歴史が始まるのだ。

 そしてゼルダンシア皇族の血を取り入れ、時を経てその正当性と実績を確かなものにする。玉座に座りながらヴィンチェスターはランダイン・ルングーザに話しかけた。 

「ウィックリンも皇宮だな?」

「はい。しかしディザイアが直接守っております」

「ふん……まだ側に控えておるのか。まぁ良い、確かに王権の象徴たる錫杖を皆の前で受け取るまでは、ウィックリンが皇帝だ。だがアルフォース家はこれからハイラント家を守る家となる」

 皇族を守る最強の剣士一族。その力が自分のものになるのだ。これくらい義理硬い奴の方が、信頼できるというものである。

「ガリグレッドはどうしている?」

「それが……姿を見ていません……」 

「なに……? あいつめ……」 

「領軍の指揮はこちらに預けるという事ですので、問題ないかと……」

 城を押さえた自分に一番に挨拶にこないとは。そう考えたヴィンチェスターであったが、今自分が玉座に座れているのはガリグレッドの助けがあっての事だ。

 それにこうしてヴィンチェスター自身に王として立って欲しいと初めに懇願した人物でもある。 

(ここで新たな王としての器を示してやるのも必要なことか……)

 どこで何をしていようと、その行動は自分のためのものだろう。そう考え、ヴィンチェスターは変わらずガリグレッドを重用してやろうと考えていた。

「ですがヴィンチェスター様。まさか本当にルズマリア様がこちらにおられるとは思いませんでした。我が息子も謀反を働いたようで、誠に申し訳ございませぬ」

 帝都に貴重な情報をもたらしたルズマリアとダンタリウスであったが、2人は重要参考人として城の一室を与えられていた。そこを城に入り込んできた領軍に捕らえらえたのだ。

「ルズマリア様に面会されますか?」

「よい、あいつはもはや私の子ではない」

「は……?」

「あれの母とはここに来る前に離婚した。これから新たな后……それもゼルダンシア皇族の女を娶ろうというのだ。もはや価値などないからな」

 血の融和を進め、実効支配を進めていくのに第一夫人の存在は邪魔になる。そのため、ヴィンチェスターは既に妻と離縁してきていた。

「ウィックリンから錫杖を受け継いだ後、ただちに結婚式を行う。その準備も進めておけ」

「はい。お相手はどちらに?」

「誰でも良い……と言いたいが、新時代の幕開けに相応しい、若くて聡明な皇女が望ましい。いくつか思いつく候補はいるが……ふむ。これから皇宮へ行くか。私の住まいとなる場所だし、ウィックリンにも挨拶をしておかなくてはな」

 そう言うとヴィンチェスター立ち上がった。現在皇宮はログバーツ・ローブレイトの一派に任せてある。

 ハイラント派閥でも全員が信用できる貴族という訳ではないが、少なくとも挙兵したルングーザとその一派は信用できた。

 廊下を歩きながらランダインは話を続ける。

「騎士団……特に構成員の多い正剣騎士団はどうしますか? 今はディナルドとクインシュバイン両名ともに城の一室に監禁しておりますが」

「あいつらか……元々邪魔者だったのは間違いない。後で適当に罪をきせて地方に飛ばせ」

「は……適当に……ですか」

「この数日、帝都の獣騒ぎに対処しておったのだろう? だが貴族街を含め、死者も出しておるはずだ。その辺りの線から、職務を全うできなかったと適当に責任を問え」

「は、かしこまりました」

 ランダインは笑顔で頷く。クインシュバインについてはずっと処分したいと考えていたのだ。

 かつて自身の行動により、ログバーツが軍を率いてディグマイヤー領を占領した過去がある。その時に当主と長男も亡くなっているので、いつ自分に復讐の刃を向けられるかと気が気でなかったのだ。

 そう感じるくらい、ランダインはクインシュバインに恨まれる事をしたという自覚があった。

(帝国貴族として実績があるばかりか、上級貴族であるアドルナー家と繋がりも深いから手が出せなかったが……。これでいよいよ帝都から追い出す事ができる。二度と這い上がれない様、徹底的に追い詰めてやるぞ……!)

 これから始まる帝国において、自分には宰相かそれに準ずる位が与えられる。

 ランダインは改めて、かつて帝国に降るという決断をした自分の判断を、自分で褒めたい衝動に駆られていた。

「あとは魔法がいつ復活するのかという事ですな……」

「今日中には復活するという事だ。その後は私に魔法を扱う力を譲渡する手はずになっておる。冥狼を手ごまとして扱える結社といえど、私には従うのだ……!」

 話している内に皇宮へとたどり着く。そこでランダインとログバーツが入れ替わり、ヴィンチェスターへと付いた。

「陛下。どちらへ向かわれますか?」

「ふ……まだ陛下は早いぞ。ウィックリンの元へと案内しろ」

「は」

 ウィックリンの部屋にはウィックリンの他にディザイア・アルフォースが務めていた。

 本来皇宮内は武器の持ち込みが禁じられているが、ディザイアはこれを無理やり認めさせた。

 そうしなくては暴れられる可能性もあったため、ヴィンチェスターも大人しく要求を飲んだのだ。

 絶対的な権勢を得たヴィンチェスターでも、ディザイアの実力は無視できなかった。

「陛下。ご機嫌麗しゅう……」

「ヴィンチェスター……」

 部屋に入って来たヴィンチェスターを、ディザイアは強く睨みつける。一方でウィックリンは、悲し気な目で見ていた。

「この様な場所に閉じ込めて申し訳ございません。今しばらく耐えていただきたく……」

「挨拶はよい。ヴィンチェスターよ、そなた何が狙いだ? この様な形で王位を得て、諸侯が大人しく従うと思うのか?」

 何も分かっていないウィックリンを哀れに思い、ヴィンチェスターは嘲笑を隠さない。この後に起こる出来事を知れば、ウィックリンとて事態を正しく認識するだろう。

「ふふ……ご安心を。今日復活する魔法を以て、私は帝国の新たな後継者となります」

「なに……何を言っている……?」

「幻魔歴に存在した魔法を、完全に復活させてみせるのです。王者としての実績があれば、認めない訳にはいきますまい。それに反乱を起こしたところで、その時には私には魔法の力がある」

 ヴィンチェスターはこれから起こる事を簡単に聞かせてみせる。ウィックリンもディナルドも黙ってそれを聞いていたが、2人とも難しい表情を崩さなかった。

「私の崇高な行為が理解できませんか」

「……本当に魔法が復活したとして。それを即座に使いこなせる者はおるまい」

「でしょうな。ですがそんなのは時間の問題ですよ。それに今のこの時代のどこに、魔法を使い慣れた者がいるというのです? そんな事より、ウィックリン陛下には我が将来の父として、次代の皇帝の妻に相応しい娘を紹介してほしいものです」

「なに……」

 ヴィンチェスターの言葉から、その狙いの輪郭を読み取る。代々繋いできたゼルダンシア皇族の血を取り入れ、早々に支配体制を固めようというのだろう。

「幾人かは候補がいるのですが。ヴィローラ皇女もなかなか利発な方と存じます。そうそう、陛下が一番可愛がっておられるアデライア様。彼女でもいいですね。その方が陛下も態度が丸くなりそうだ」

 ヴィンチェスターはウィックリンの反応を見る意味でもあえてアデライアの名を出した。

 だがウィックリンは激昂するでもなく、小さく笑う。

「……なにか?」

「いや。アデライアの結婚相手など考えた事がなかったが。将来嫁にやるとしたら、どの様な者相手でも決して譲らず、我を持って護り通す力を持つ者が望ましいと思ってな」

「おお。それは私こそに……」

「だがその相手はそなたではない。そなたにやるくらいであれば、その力を持つ平民に嫁がせるというものよ」

「なに……」

 自分が平民に劣ると言われ、ヴィンチェスターは静かに怒る。

「どこにそんな平民がおりますかな?」

「ふ……そなたに誤算があるとすればそこよ」

 気付けばディザイアも小さく笑っている。ヴィンチェスターは何がおかしいのかと額に青筋を立てた。

「どうやら陛下はあまりの混乱に、現実が見えなくなった様だ」

「現実というのは、いつもあり得ないものが突然やってくるものだ」

「確かにそうですな。今の陛下の状況がまさにそれだ」

 そう言うとヴィンチェスター踵を返す。このまま皇女を見て回ろうかと思っていたが、すっかりその気はなくなっていた。

「それではこれで失礼します。次にお会いする時は、錫杖をいただく時になるでしょう」
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

辺境貴族ののんびり三男は魔道具作って自由に暮らします

雪月夜狐
ファンタジー
書籍化決定しました! (書籍化にあわせて、タイトルが変更になりました。旧題は『辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~』です) 壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。

スキルはコピーして上書き最強でいいですか~改造初級魔法で便利に異世界ライフ~

深田くれと
ファンタジー
【文庫版2が4月8日に発売されます! ありがとうございます!】 異世界に飛ばされたものの、何の能力も得られなかった青年サナト。街で清掃係として働くかたわら、雑魚モンスターを狩る日々が続いていた。しかしある日、突然仕事を首になり、生きる糧を失ってしまう――。 そこで、サナトの人生を変える大事件が発生する!途方に暮れて挑んだダンジョンにて、ダンジョンを支配するドラゴンと遭遇し、自らを破壊するよう頼まれたのだ。その願いを聞きつつも、ダンジョンの後継者にはならず、能力だけを受け継いだサナト。新たな力――ダンジョンコアとともに、スキルを駆使して異世界で成り上がる!

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

魔道具は歌う~パーティ追放後に最高ランクになった俺を幼馴染は信じない。後で気づいてももう遅い、今まで支えてくれた人達がいるから~

喰寝丸太
ファンタジー
異世界転生者シナグルのスキルは傾聴。 音が良く聞こえるだけの取り柄のないものだった、 幼馴染と加入したパーティを追放され、魔道具に出会うまでは。 魔道具の秘密を解き明かしたシナグルは、魔道具職人と冒険者でSSSランクに登り詰めるのだった。 そして再び出会う幼馴染。 彼女は俺がSSSランクだとは信じなかった。 もういい。 密かにやってた支援も打ち切る。 俺以外にも魔道具職人はいるさ。 落ちぶれて行く追放したパーティ。 俺は客とほのぼのとした良い関係を築きながら、成長していくのだった。

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。

セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~

空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。 もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。 【お知らせ】6/22 完結しました!

処理中です...