黒狼の牙 〜領地を追われた元貴族。過去の世界で魔法の力を得て現在に帰還する。え、暴力組織? やめて下さい、黒狼会は真っ当な商会です〜

ネコミコズッキーニ

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黒狼会の幹部会

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 帝都は例年の建国祭とは違う空気に包まれていた。

 皇族のパレードは行われず、その代わりに帝都から騎士団が出立したのだ。物々しい雰囲気が漂う中、俺宛てにクインから手紙が届いた。

「…………」

 手紙の内容は、ここ最近の城壁内での出来事をまとめたものになっていた。いわゆる機密情報だ。

 もしクインが平民たる俺にこの手紙を出したと知られれば、今日まで築いてきたその地位が崩れる可能性もある。しかしそれだけのリスクを背負いながらも、こうして俺に報せをくれた。

「クイン……」

 手紙には貴族会議の結果、カルガーム領近郊まで騎士団を派遣する事になったと記載されていた。クインは総指揮官として帝都を出る。万が一戦いが始まった場合、戦場での指揮経験も豊富なクインが現場にいた方が良いという判断になったらしい。

 だがやはりウィックリンに開戦の考えはなく、クインもあくまで防衛に徹する構えとの事だった。

 そして手紙には、リーンハルトが行方不明になっているという事も書かれていた。

 フランメリアを帝都まで護衛する騎士たちの1人としてカルガーム領に派遣していたが、帝都に帰った騎士たちの中にリーンハルトの姿はなかったらしい。

 他ならぬクインの息子であり、俺の親戚でもある。この点も俺は気がかりだった。

「ヴェルト殿」

「マルレイアか」

「皆さん集まりました」

 フランメリアを屋敷で匿い始めてからというもの、俺はマルレイアを頼って情報を集めてもらっていた。

 その間、俺も何とかウィックリンやエルヴァール、それにクインと接触できないか手を回していたのだが、貴族街の壁は普段よりも厚くなっており、平民サイドからは難しいという状況が続いていた。

 だがそれもクインの手紙を見れば納得だ。この連日、主だった責任者はほとんど眠る時間もなかったらしい。

 何せ国の命運がかかった判断を、素早くかつ連続でしなくてはならないのだ。少しの遅れは遠い未来、大きな損失に繋がる恐れもある。

 俺は席を立つとマルレイアと共に会議室へと入る。中にはアックス以外のメンバーにリリアーナ。それにフランメリア一行がそろっていた。

「あ、きたきたー」

「ヴェルト。何やら厄介な事になった様だな」

 フィンたちは既にフランメリアと挨拶を終えている。全員元群狼武風だと聞いた時は驚いていたがな。

 俺はクインの手紙を元に、これまでの情報整理を行った。要所要所でフランメリアも意見を交えてくれる。

「帝国としては、開戦はなるべく避ける方向……か」

「ウィックリンの政策と真っ向から対立するからな。だがヴィンチェスターの乱に乗り遅れた貴族どもは、積極的にガラム島まで攻め込みたいそうだ」

「で、そうした貴族たちの動きを抑え込む者もいるものの、フォルトガラム聖武国と戦う事自体は仕方なしと考えている者もいる……と」

 本来国同士のやり取りに黒狼会が入り込める余地はない。だが俺にはフランメリアを匿っているという責任があるし、何より世界新創生神幻会とかが裏で暗躍している戦争に、強い忌避感を抱いている。

 それにあのクソガキは神によって新たに統治される世界だとか、帝国を蹂躙するとか話していやがった。

 神……という単語には不穏な覚えしかないし、何よりクソガキの様な妙な魔法を使う者が、帝国相手に好き勝手する事は見逃せない。

 フランメリアには悪いが、俺の中での優先順位は帝国民の方が聖武国の民より上にくる。だがだからといって聖武国の民がどうなっても良いとも思っていないし、何よりローガなら。国に関係なく、戦火に巻き込まれる民を放っておかないだろう。

 そして黒狼会は新鋼歴の世界において、ローガの夢を体現すべく立ち上げた組織だ。その組織のボスである俺が、一商会だからと何もしない訳にはいかない。それこそ黒狼会の名に懸けてもだ。

「まだ俺たちに何ができるか分からないが。だがこのまま何者かの手の平の上で踊らされ、大国同士が戦争に突入するという事態は避けたい。みんな、協力してくれ」

「もっちろん!」

「ふぉっふぉ。最近退屈じゃったし、丁度ええ暇つぶしじゃろ」

「そのための黒狼会ですからね」

 全員しっかりと頷く。アックスがいないのが気がかりだが、いないものは仕方ないな。フランメリアは驚いた表情で口を開く。

「黒狼会と目的を共有できるのはありがたいのだけれど……。よくこの短期間で内部の情報を掴めたわね」

「言ったろ。それなりに情報収集力はあるって」

 そう言ってマルレイアに視線を向ける。だがマルレイアはゆっくりと首を横に振った。

「貴族会議の内容は、ヴェルト殿の伝手で分かった様なものですよ」

「……流石ね、ヴェルト。よくそこまで太い繋がりを作る事ができたものだわ。貴族会議の内容なんて、どう考えても機密情報でしょう?」

「まぁ、な……」

 繋がりも何も、情報源は弟なんだが。だがフランメリアには俺が元々この新鋼歴の生まれであるという話はしていないし、したらしたでまた話がややこしくなる。

 俺たちに関しては、あくまで過去から飛ばされてきた元傭兵という認識で良いだろう。

「で、坊よ。何か考えでもあるのかのぅ」

「おおよその方針は。というか、黒狼会に取れる選択肢は少ないし、これしかないという感じなんだが」

 何せ国でも何でもない、ただの商会かつ平民だからな。しかしそこに携わる者たちの事情は複雑だ。

「まず帝国側についてだが。他の貴族には知られず、何とかウィックリンとだけ意思の疎通を行える方法を探りたい」

「え……」

 俺の提案に対し、フランメリアは両目を大きく見開いた。

「ウィックリンは間違いなく今回の事態を上手く収めたいと考えている。だが世界新創生神幻会については何も知らないはずだ。どうにか今回の戦争の裏で、糸を引く者がいる事を伝えたい」

 伝えたからと言って、証拠がなければウィックリンと言えど開戦派の貴族たちを抑え込む事はできないだろう。

 だがトップに正しい現状理解を促す事は絶対に必要だ。そしておそらくウィックリンであれば、証拠はなくとも俺たちの言う事は真実だと信じてくれる確信がある。

「そして聖武国側に対してだが。やはり世界新創生神幻会について探るのが、何を置いても優先されるだろう。だがこれが一番難しい」

「そうなのー?」

 フィンの疑問に対し、ロイが頷きを返す。

「相手は移動魔法の使い手です。拠点はおそらくガラム島でしょうが、ここからガラム島までは遠い。それにこの状況です、例えカルガーム領へ行けてもそこからガラム島へ渡るのは難しいでしょう。しかも渡れたところでどう世界新創生神幻会の拠点を探るのかと、聖武国貴族の誰が黒幕なのかが分からない」

 ロイの言う通りだ。聖武国に対し何らかのアクションは必要だが、物理的に取れる手段が少ない。

 ガラム島へ渡るまでであれば、ウィックリンの伝手を使えば何とかなるかもしれない。だがその後がどうにもならないのだ。

 土地勘もないし、ガラム島も島とはいえ、結構な大きさがあるのだから。仮にフランメリアを連れて行けたとしても、話題の王女を目立たせない様に気を張りながら諜報活動を行うとなれば、いつまでかかるか分からない。その間に両国で衝突が始まる可能性の方が高いだろう。

「つまりフォルトガラム聖武国に対しては、現状だと手詰まりだという事か」

「相手次第ではあるが。狙いはフランメリア殿下だとはっきりしている以上、手はない訳ではないんだが……」

 といってもかなり無理くりな手だが。しかし興味を持ったエルナーデは口を開く。

「どういう手なのです?」

「次にフランメリア殿下を狙ってくるとしてだ。また移動魔法でやってくる訳だろ? で、移動魔法の使い手であろう少女を脅し、相手の拠点まで俺達を運んでもらう」

 複数人運べるのは確認済みだからな。しかし俺の考えに対し、全員曖昧な表情を見せていた。

「……いや、分かってるよ。まずできないだろうって事はな」

 相手もまさか敵である俺たちを連れて帰る様な真似はしないだろう。

 言う事を聞かざるを得ない状況を作られれば、話は別なんだが。しかしそのための情報も何もないのも事実。

「じゃがもし可能であると仮定した場合、それが一番早いのも事実じゃのぅ。わしらは誰も移動魔法なんて便利な能力なんて持っとらんし」

「……ところでじいさん。じいさんならカルガーム領までどれくらいで行ける?」

「うん? 前に行った時、行きは護衛をしながらじゃったから結構かかったがの。帰りは1日じゃったわい」

「え……!」

 フランメリアたちはじいさんの言葉に大きく驚く。

 じいさんは俺たちの中では一番速い足を持つからな。若返りも併用すれば相当な速さで走れるのだろう。

「それがどうかしたのか?」

「ああ。こいつもかなり強引な手ではあるんだが……」

 俺は力技で、カルガーム領まで全員が最短時間で行く方法を話す。

 まずじいさんがフィンを担いでカルガーム領まで走る。その間、みんなには二手に分かれて荷車に乗ってもらい、身体能力強化が可能な俺とガードンがカルガーム領目指して引っ張る。

 そしてじいさんにはフィンを運んだ後に引き返してもらう。俺たちも相当な速度で向かっているので、帝都とカルガーム領の間のどこかで合流できるだろう。

 そうしてじいさんにはロイやエルナーデを運んでもらいつつ、その間も俺たちはカルガーム領を目指す。段々じいさんと落ち合う間隔も短くなっていくだろう。

 最終的には荷車を捨て、俺とガードンでカルガーム領まで走る。

「……力技が過ぎるのぅ」

「おじいちゃん死んじゃうよぉ」

「ばっかもん! それくらいで死なんわい!」

 負担が大きいのは俺とガードン、そしてじいさんだ。だがこの方法なら、馬を変えて走り続けるよりも速くカルガーム領まで行けるだろう。

「ま、そうやって行けたところで、さっき言った難関も残っている訳だが……」

「ガラム島でどう活動するのか。黒幕の貴族が誰かを探る点ですね」

「ああ。やっぱり聖武国方面に対しては、何も有用なアイデアが思い浮かばないな……」

 だが世界新創生神幻会と黒幕が居る以上、無視できないのも事実だ。やっぱりあの少女を脅した方が早い気がしてきた。

「フランメリア様。王族は世界新創生神幻会に関わっていない。これは間違いありませんね?」

「誓うわ。魔法を使う子どもの存在なんて、私はもちろんお父様も絶対に知らない」

 まぁそうだな。もし国王が黒幕だった場合、フランメリアが帝都にいる状況で仕掛けてくる理由が見当たらない。

 第一、フランメリアを人質に使われない様に、移動魔法でさっさと帰還させているだろう。

 それに開戦の理由が欲しいにしても、これまで他にもっとタイミングがあったはずだ。聖武国はそもそも、新鋼歴になってから他国へ侵略戦争を仕掛けた事は一度も無い。

 もし現国王が野心深い人物だった場合、即位してからもっと早い段階で何かしらのアクションを起こしていたはずだ。しかし今日までこれまでの国王同様、侵略戦争を仕掛けることはなかった。

「理想はウィックリンと聖武国の国王の間で、世界新創生神幻会についての情報共有ができる事なんだが……」

 ウィックリンは俺たちが話せば済む話だし、聖武国の国王にしてもフランメリアが話を通せば聞く耳を持つ可能性が高い。そして両者の間で誤解を解ければ、後はどう貴族たちの意見をまとめていくかというフェーズになる。

 だがそれにはやはり世界新創生神幻会が裏で動いている証拠が必要だし、黒幕をはっきりとさせなければならない。結局この問題に行き当たる訳だ。

「皇帝陛下にはどうにか事情を伝えるとして。やはりフォルトガラム聖武国の情報がない事にはどうしようもないな」

「だねー。王女様にはしばらく外を歩いてもらって、移動魔法を使う少女が来るまで待ってみる?」

「いや、それはどうなんじゃ? 姫さんを探しておるのは帝国も同様じゃろう。気を付けなければならんのは、その世界新創生神幻会とやらだけではあるまいて」

 そうなんだよな。ウィックリンはともかく、それ以外の貴族にフランメリアの存在を認知されると少しばかり面倒な事態になる。

 せめてエルヴァールとか、話が分かる上に口が堅い貴族ならまだ良いんだが……。

(……そういう点ではディナルドも信用できる、か。まぁディナルドは騎士総代だし、クイン以上に忙しいだろうが……)

 どうしたものか。みんなが頭を悩ませている時に、突然会議室の扉が開いた。

「なんだ、みんな。ここに居たのかよ! 探したぜ! 屋敷には誰もいないしよぉ!」

 そこに立っていたのは、黒狼会最高幹部の1人。アックスだった。こうして姿を見るのはかなり久しぶりだ。

「アックス!」

「帰ってきたのか」

「良いタイミング……ですかね。しかしアックスさん。そちらは……?」

 アックスは1人ではなく、連れがいた。おっさんに少女、それに貴族と思わしき騎士にリーンハルトだ。

 ……うん? リーンハルト!? 何故リーンハルトがここに!? というか、クインの手紙では行方不明だという事だったが……!

「みんなそろってるなら話が早ぇ! ちょっと聞いてくれ。実は世界新創生神幻会とかいう奴らとやり合ってな。今回の戦争、裏で糸を引いているのはその組織と、聖武国の貴族であるエルオネル・ブラハードって奴なんだ。んでよぉ、これにすこーし関わっちまってよぉ。悪いが何とかしてくれね?」

「……」

「…………」

「………………」

「な、なんだよみんな。どうして黙るんだ……? いや、そりゃ勝手にやり合ったのは悪かったと思ってるがよぉ……」

 アックスの口から出てきた言葉は、俺たちが今まさに一番欲しいと考えていた情報だった。
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