黒狼の牙 〜領地を追われた元貴族。過去の世界で魔法の力を得て現在に帰還する。え、暴力組織? やめて下さい、黒狼会は真っ当な商会です〜

ネコミコズッキーニ

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ビルツァイスの価値

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「第八皇子……!」

「ビルツァイス・ゼルダンシア……!?」

 ……驚いた。まさか皇子だったとは。

 ウィックリンは歴代皇帝の中でも特に妻の数が多いというし、皇子も皇女もたくさんいる。

 第八となるとどれほどのものかは分からないが、ダームも知らなかった以上、そう目立つ立場ではないのだろう。 

「……その皇子がどうして騎士団に?」

「元皇子……さ。今は貴族籍にもグラスヴァンの姓で記載されているからな。これにはまぁいろいろあってさ……。知ってるか分からないけど、グラスヴァン領はかつて王国として栄えていた時代もあったんだ。前皇帝の時代に併合されたんだけどさ」

 その時に前皇帝は、当時皇太子だったウィックリンとグラスヴァン王国の姫の間で婚姻関係を結ばせたらしい。で、2人の間に生まれたのがビルツァイスだったと。

「俺も本来なら皇子という立場で、ぬくぬくと貴族ライフを送る予定だったんだけどさぁ。ここで問題が起こったのさ」

「問題?」

「母上の故郷……グラスヴァン領の方でな。領主一族が馬車で移動中、山道の崩落事故に巻き込まれたんだよ。母上の兄に当たる領主はそれで死んでしまった」

 グラスヴァン領も元は王国だけあり、領地はそれなりに広大だ。そして次の領主の座を巡って、グラスヴァン地方の貴族たちの間で争いが始まってしまった。

「これに待ったをかけたのが、当時皇帝になったばかりの陛下……つまり父上でね。父上は届け出の無い貴族間の戦争は違法であると強く糾弾した」

 ゼルダンシア帝国は大陸の約半分を支配する大帝国だ。領主の数も多いし、領主間での争いも発生する。

 だが領主同士が戦う際には、あらかじめ皇帝に届け出をするのが慣例だったらしい。本来はその届け出が出た時点で、一度話し合いの場が設けられるそうだ。

「で、騎士団の力も借りながらグラスヴァン地方の争いに手を突っ込んでさ。最終的な落としどころとして……」

「前領主の妹、その息子であるお前を次期領主として任命したのか」

「その通り! 元々血気盛んな気風がある地方なんだよ、あの辺りはさ。で、当の俺はと言えば、別に腕っぷしが強い訳でも何でもない。とりあえずの実績作りとして、数年は帝都の騎士団で働く事になったのさ」

 皇族に顔が利き、旧グラスヴァン王族の血を引くビルツァイスは将来の領主となるべく、姓もゼルダンシアからグラスヴァンに変えられたらしい。

 話がまとまるまでにウィックリンもいろいろ苦労したんだろうな。当時騎士団と距離の近かったヴィンチェスターとも、何かしらのやり取りが発生していたのが目に見える。

 ちなみに今のグラスヴァン領は、帝都から領主代行として派遣されたビルツァイスの母と、執政官らが治めているとの事だ。

「つまりお前であれば、父であるウィックリンに取り次いでもらえると」

「あくまで可能性が高いというだけだが。俺も騎士団では行方不明扱いになっているだろうし、事情の説明を求められるにせよ、いきなり牢にぶち込まれる事はないだろう。それに皇宮には数年前まで実際に住んでいたし、顔見知りも多い」

「………………」

 皇宮は皇族が住まうところだ。かなり広いが、そこまで潜入できればウィックリンと会えるか……? 

 俺の考えが顔に出ていたのか、マルレイアが口を開く。

「私の聞いたところによりますと。最近のウィックリン陛下は一度も皇宮に戻らず、ずっと城にお務めの様です」

 どこから聞いたんだ……と突っ込む者は誰もいない。そして今のでおおよその方針が見えてくる。

「……ビルツァイス。俺を連れて城か皇宮まで行けるか?」

「ヴェルト殿1人だけかい?」

「ああ。その方が早いだろ。話も、移動もな」

 まさかフランメリアたちをぞろぞろと引き連れて行く訳にもいかない。それに事態が落ち着くまではとりあえずリーンハルトとダーム、それにミニリスにもここに居てもらおう。

「ダーム。陛下には俺から話しておく。それまではここでリーンハルトたちとお留守番だ」

「……分かったよ。陛下に話を通してくれるなら、俺が罰せられる事もないだろうしな」

 続けて俺はフランメリアたちに視線を向ける。

「フォルトガラム聖武国と世界新創生神幻会。これらに対する方針は一旦ウィックリンと話してからだ。ウィックリンにはフランメリア殿下たちにとって悪い事にならない様、ちゃんと説明するから安心してくれ」

「……あなたはそれだけ信任を得ていると?」

「どうだろうな。だが俺がやるべき事だということに変わりはない」

 フランメリアからしたら不安な部分も大きいだろう。俺の報告の仕方によっては、一方的な悪役になる可能性もあるのだから。

 だがフランメリアは溜息を吐きながら首を振った。

「……いいわ。こうして私を助けてくれたのは事実だし、何より真剣に両国の衝突を止めたいという気持ちが伝わってきているもの。私も人を見る眼は常人以上だと自負しているわ。あなたを信じましょう」

「そいつはどうも。みんなには俺が帰ってくるまで、フランメリアやミニリスたちを守って欲しい。話を聞く限り、リーンハルトも命を狙われている可能性もある」

 幻霊武装……といったか。その使い手たるリーンハルトを殺し、爆極剣ヴォルケインを新たな駆者に授けるという事は向こうも考えているだろう。

(しかし駆者に顕者、詠者か……。他にも気になる点は多いが……)

 ミニリスは、自分たちは幻霊クラスでランク付けされていると話していた。

 幻霊。かつて幻想歴の世界において存在した、魔法を操るという獣。

(古の生物である幻霊と、ミニリスたちの魔法は何か関係がある……?)

 駆者も顕者も詠者も、いずれも大幻霊石の祝福を受けた魔法使いに見られる能力ではある。

 だが俺たちはそこからさらに経験と時間をかけて、独自に成長させてきた。俺は改めてディンとの戦いを思い出す。

(あいつは駆者。そして顕者の少女より槍を与えられ、戦っていた。確かに強いは強いが……魔法使いほどの脅威とは感じなかった)

 身体能力の強化も極まればさらに進化する。じいさんなんかがいい例だろう。何せ若返りができるのだから。

(ミニリスは大幻霊石の事を知らないと話していた。そして他の子どもたちも、生まれた時から既にその力を持っているとも。ミニリスたちは、大幻霊石とは違うアプローチで魔法の力を得た……?)

 この辺りは今考えても結論は出ないな。だがエル=グナーデよりも完成度の高い魔法を、今の時代に復活させたのは事実。

 こんな事ができる奴なんて、俺は1人しか思い当たる奴がいない。

(三女神……。1人はアディリス、もう1人はレクタリア。あともう1人が世界新創生神幻会に関わっている…?)

 アディリスはたしか、もう1人の女神が大幻霊石が自壊する様に仕組んでいたと話していた。

 争いながらキーとなる大幻霊石にそんな仕掛けを施す様な奴だ。それだけで相当いい性格をしている奴だと分かる。

「どうしたよ、ヴェルト」

「ん……? いや、少し考え事をな。……ミニリス。施設に居た頃、女神……なんて単語は聞かなかったか?」

 なるべく声を柔らかくして話しかけるが、当のミニリスはリーンハルトの後ろからちょこんと顔を出しながら答えた。

「……いいえ。施設に居たのは、私と同じ子たち。それとお母さま」

「お母さま……?」

「うん。私たちの生みの親。直接会えるのはごく一部の子どもたちだけだから、私は会った事がないけど……」

 お母さま……お母さま、ね。もしかしたらそいつが、レクタリアの様に何か目的を持って組織を作り、魔法を復活させたのか……? そしてブラハードという貴族とどこかで手を組んだ……?

「やっぱり憶測しかできんな……」

「うん?」

「なんでもない。よし、ビルツァイス。さっそく今から向かおう」

「え、今すぐ!? 帝都に着いたばかりで疲れているんだけど……」

「お前も貴族なら、少しは俺たち平民のために骨を折れ。おら、行くぞ」

 こういうタイプは甘やかさない方が良い。俺自身の経験談だ。ダームは苦笑しながら口を開く。

「地下通路を案内しよう」

「いや、いい。行方不明の元皇子様が凱旋されるんだぞ。正面から堂々と門をくぐり、ウィックリンと面会の機会を作る」

 ビルツァイスは黒狼会が出先で保護した。この呈で話を通す。

 元皇子と黒狼会の名を出し、その上でウィックリンに面会を求めるのだ。自惚れる訳ではないが、高確率で面会できるはず。
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