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学会開催の日が近づいてきました。

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 ラデオール六賢国にきて数日が経過していた。俺たちはメルナキアの世話になりながら日々をすごしている。そしてこの間もいろいろあった。
 
 まずアハトが正式にアカデミーの〈学士〉になったのだ。それもメルナキアの推薦を受けたということもあり、一時期かなり話題になった。
 
 そんなアハトは今、メルナキアと一緒に大図書館を行ったり来たりしつつ学会発表に向けた手伝いをしている。

 俺もたまに手伝いはしているが、本格的には関わっていない。こういうのはアハトと、その裏にいるリリアベルにお任せだ。
 
 俺は俺で、転移装置を設置したり首都をぶらついていた。今はリュインも一緒である。
 
「なぁリュイン。お前の精霊的なパワーで初代王の作成した魔道具の場所とかわかんねぇの?」

「わからないわよ! ……でも首都のどこかにあるんでしょ? マグナ、適当に穴でも彫ってみたら?」

「それであたったら運を全部使った気になりそうだな……」
 
 まぁこうして首都を歩いているのは、あわよくば魔道具を見つけられないか……と期待してのことでもあるのだが。
 
 人通りがすくないことを確認し、リリアベルに話しかける。
 
「そっちはどうなんだ? なにか面白い発見でもあったか?」

『ああ。大図書館は思っていたとおり、これまでの研究されてきた資料が数多く収められていたからな。歴史もそうだが、魔道具関連の知識についてもいろいろ新発見が多い』

「ご満足しているようでなにより」
 
 だが肝心の魔人王に関する記述……2000年前の記録についてはどこにもないらしい。やはり六賢者の許可がないと立ち入れないという場所にしかないのだろう。
 
 今回、メルナキアは学会で歴史関連に関する発表を行うとのことだった。

 反響次第では六賢者に古の記録を見させてもらえるように申請を出すと言っていたが……どうなるかね。
 
「そういやよ。メルナキアの父親が行っていた人体実験だけど……」

『ああ。高確率で魔獣大陸、そしてディルバラン聖竜国で見た者たちと何らかの形でかかわっているだろう』
 
 だよなぁ。ダイクスは筋肉を異常発達させ、強力な魔力を発現させていた。

 たぶんメルナキアの父親は、今もどこかで研究を続けているんだ。後天的に魔力を付与させられるかという研究を。
 
(もともと魔力持ちだったダイクスは、たしかにより強い魔力を得ていた。自我はなかったが……もし魔力を持たない人間だったら。どうなっていたのか……)
 
 あの筋肉怪物は俺たちにとって注意すべき対象になる。もし自由にゴロゴロ生み出せる輩がいるなら……どうしても警戒せざるをえないな。
 
 メルナキアはどう思うんだろうか。まだ自分の父親がどこかで研究を続けており、それにより死人が出ていることを。

 それはそれとして、自分のやりたい研究を追い続けるのだろうか。……なんとも言えないな。
 
「とりあえず学会発表まではここに滞在するとしてだ。あとは大図書館地下に立ち入れるか待つとして……許可がでない、あるいは許可が出るまで相当時間がかかりそうだったらどうする?」

「その場合は次なる地へ四聖剣を探しに行くまでよ!」

『わたしもおおよそ知りたい情報は得られたからな。転移装置も設置したのだ、理由があれば居座るくらいの気持ちでいいのではないか』
 
 それもそうか。というか学会まで、俺だけシグニールでゆっくり過ごすのもアリか……? 

 なんて考えているときだった。正面から見覚えのある男が歩いてくる。
 
「お……」
 
 たしかアムランと言ったか。メルナキアの元同僚だ。アムランも俺の姿に気づき、隣を飛ぶリュインにも視線を向けた。
 
「お……おまえ……」

「よう。…………? あれ? なんか顔色わるいか?」
 
 もともと神経質そうな顔をしていたが。今はより白くなっている気がする。
 
「…………っ! な、なんでもない……! そそ、それよりも……! メルナキアはどうしている!?」

「え?」
 
 なんだ……なぜ急にメルナキアの話になる……?
 
「アハトと一緒に、学会に向けてあれこれがんばってるんじゃねぇの?」

「そ……あ、いや。そう……か……」
 
 やっぱ変だな、こいつ。まぁ知り合いでもなんでもないから、普段のアムランを知っているわけではないんだけど。
 
「それよりあんたは学会でなにか発表とかしないわけ?」

「………………ふん」
 
 俺の言葉を無視してアムランはさっさと横を通り過ぎていく。
 
「……なぁに、あれ。感じわるーい」

「コミュニケーション能力が著しく不足しているねぇ」

『お前が言うとおもしろいな』
 
 失礼な。俺はそれなりにコミュニケーション能力がある方だっつーの。
 
 しかしアムランの奴……大図書館の方から出てきたよな。手にはなにも持っていなかったが、調べもののために寄っていたんだろうか。
 
「………………そういえばよ。学会って、アカデミー内で行われるんだよな?」

『そのとおりだ。開催期間は2日。午前から午後にかけて、そこらじゅうでポスターが張られたり、オーラルでの講演をやっているそうだ』
 
 研究者が数多くいるこの大都市で、年に一度開催される一大イベントだ。当然、国中の学者が集まるのだろう。
 
「なぁ。その日、もしかしたら……大図書館に忍び込めるんじゃね?」

「え!?」

『…………ほう。たしかに警備はアカデミーに集中しているだろうが……』
 
 大図書館の地下に続く階段の前には、常に2人の警備員が立っていた。

 当日もいるかもしれないが……学会でいろいろ忙しくなっているかもしれないし。こそっと侵入できるかもしれない。
 
 もともと俺も、どういう記録があるのか興味があるのだ。

 そして軍用コンタクトレンズをリリアベルに接続すれば、パラパラと資料を覗くだけで画像データをシグニールのデータベースに記録できる。
 
 むずかしそうだったらあきめて、六賢者から正式な許可をもらえるのを待つ。うん、いい退屈しのぎになりそうだ……!
 
「おい。そこの男」

「っ!?」
 
 邪なことを考えていたことがバレた……!? と錯覚を覚えつつ、呼ばれたほうに顔を向ける。そこにはガタイのいい男が立っていた。
 
 この国ではめずらしい風貌だな。一応騎士とかもいるが、はっきりとわかるくらいに体を鍛えている者は他国よりもすくない。

 だが目の前の男は確実に体を鍛えているし、顔つきもなんだかいかつい。
 
「ん? 俺か?」

「そうだ。その〈フェルン〉をこっちによこしてもらおうか」

「…………はい?」
 
 え……もしかして。カツアゲされてる……? まさかねぇ。

 こんな大図書館とアカデミーが近い場所で、物騒な騒ぎを起こすやつなんざ、そうはいないだろう。
 
「聞こえなかったか? その〈フェルン〉をよこせと言ったんだ」
 
 うわ……聞き間違えじゃなかったよ。俺はリュインに視線を向ける。
 
「知り合い?」

「そんなわけないでしょ! 人間の知り合いはすくないわよ!」

「だよな。というわけで……構ってほしいなら、もっと他の言葉を考えな」
 
 しっしっと手で払う動作を見せる。これに男は額に青筋を立てた。
 
「生意気な小僧だ……どうやら死にたいらしいな……?」

「はい……? え、まさか脅しのつもり? 本気で言ってる?」
 
 こいつ、頭がイってやがんな。しかしこんなに堂々と、暴力に訴えかけてリュインをさらおうとするなんて。

 というか〈フェルン〉を狙うやつが久しぶりだ。
 
「もう、なんなのよ! マグナ、やっつけちゃって!」

「それは向こうさん次第だが……って、えぇ!?」
 
 男は全身をうっすらと光らせはじめていた。まちがいない、身体能力の強化を行っている。

 まさか……本気でやる気か!? こんなところで!?
 
「ノグ。なにをしている?」
 
 久しぶりに暴力事件が勃発するか……というタイミングで、また別の男が現れた。

 こっちは優男風で、アカデミーにいても違和感がない外見をしている。
 
「おうハイス。見ろよ、人になつく〈フェルン〉だ。こいつを博士への土産にする」

「…………はぁ。力づくでか? まったく……どうやら再調整が必要なようだ。ちゃんと抑制剤を飲んでおけ」

「なぜだ? 俺の力であれば……」

「ノグ。……何度も言わせるな。ここで騒ぎを起こすんじゃない」

「…………………………。わかった」
 
 ノグと呼ばれた男の身体から光が消失する。どうやら〈空〉の魔力を抑え込んようだ。
 
「すまないね、そこの〈フェルン〉も。ノグ、行くぞ」

「ああ……」
 
 そう言うと2人はさっさとその場を立ち去る。妙な連中だったな……。
 
「なんだったんだ?」

「さぁ? でも魔力はそれなりに強かったわね」

「そうなの!?」
 
 つかお前。相手の魔力の強弱が判断できたのか……。そんな能力を持っていたなんて、今さら知ったぜ……。
 
『ふむ……? ノグという男の行動原理がまるで理解できなかったが……まぁ人間というのは理解不能な行動をとるものだからな。考えていても仕方ないか』
 
 身も蓋もないことを……。あの2人もどういう知り合いなのかはわからないが。まぁもうかかわることもねぇだろ。
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