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第二話 ~飛生高校での一日~
09 (秋守)
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栗色の髪の先端が、真横を通り過ぎようとして。これじゃ、また背中を見送るだけになってしまう。そう思ったのが先か、振り向いたのが先だったかは覚えていない。
この瞬間からまるでスローモーションのように世界全体の動きが遅くなって――掴まえるのは細い手首。
「俺は、夏歩さんのことを迷惑だなんて思ってない! 今はまだお互いに何も知らないけれど、少しずつ、ゆっくりでいいから……」
半ばパニックになりかけていた頭では照れ臭いとか、嫌われるのが怖いとか、そう言った思考を過ぎらせることは出来なかった。
だからこそ余計に、勢い良く本音が飛び出したんだと思う。
「夏歩さんと家族になりたいんだ!」
足止めされたからか、それとも俺の言葉のせいなのか。
どれが理由かは定かではないけれど、酷く驚いたように大きく見開いた瞳とぶつかる。
引きつった表情が徐々に歪み、唇を噛み、俯くまではたった数秒だったはず。
だけど、流れるスローモーションのせいで、彼女の変化を連写した写真のように確認したんだ。
「……ないっ……」
「え? あ、待っ……」
ぽつりと何かを言ったけれど、あまりに小声過ぎて聞きとれず。
もう一度聞かせてもらえないかと思ったものの、手を振り払って早足で立ち去ってしまった。
直線な廊下を奥の方へと進んでいく、その背中はあまりに小さくて儚げで。
振り払われた手の平をぼんやりと見つめ、掴んでいた感触が無くなってきた頃、様子を窺うように春平が問いかけて来る。
「えーと、秋。あの、その、な? もしかして、怒ってる?」
「え? どうしてだよ」
「いや、あいつがね? あまりに冷たい態度を取るからさ。秋は優しいから何も言えないのかなーと思って、代弁したつもりだったんだけどな」
おずおずと言い訳しながらも正直に動機を口にする。
こいつは真っ直ぐで、熱中すると周りが見えなくなって、単細胞なんだよな。だからこそ救われている部分も多いし、何せ一緒にいて楽しい。
今回のことだって、俺のことを想っての行動だったんだろう。
昔から俺は言いたいことをはっきり言わず、その分春平が庇ってくれたんだっけ。
「めちゃくちゃ怒ってるよ。勝手なことを言いやがって」
「うぇっ!? まじで悪かったよ……!」
ぎゅっと目と瞑って、手の平を合わせて謝罪する姿が面白い。
だけどこのままじゃ罪悪感を植え付けてしまうだろうから、今のは演技だって教える。
「はは、冗談だって。怒ってないよ」
「本当か……? もーっ、冗談とかやめろよ! オレ、秋に嫌われたらどうやって生きていったらいいのかと本気で悩んだじゃんか!」
「お前ってたまに気持ち悪い発言をするよな」
安堵のあまりか、どさくさに紛れて抱き付いてこようとするので腕を思い切り突っ張って抱擁を拒否しよう。その格好のまま、一つだけお願いする。
「頼みがあるんだけどな、夏歩さんが言っていた通り、彼女を俺の妹として見ないで欲しいんだ。俺と関わりのある人が冷たい態度をとるからこそ、腹が立つんだろ? でもただの一クラスメイトとして見れば、眼中外になるはずだから」
「そう言うなら、単に同じクラスの女子として見るわ。でも、秋は妹として見てるんだろ?」
「あぁ。悲しいことに、一方的な思いだけどな」
情けなさを誤魔化すために笑ったのに、それは乾いた苦笑にしかならなかった。
夏歩さんが本心であの言葉を連ねたのなら、俺の言動はかなり鬱陶しいんだろうな。
だけど家族が増えたことが本当に嬉しかったから、せめてもう少しだけでも仲良くなるための猶予を与えてもらいたい。
左手に握ったままのペットボトルは、全力で走ったために揺れに揺れて炭酸が踊っている。今、ふたを開ければ止めようも無くその内から溢れ返るだろう。
唇を噛み締める夏歩さんは物凄く辛そうで、言いたいことを殺しているようで。
愚痴でも不満でも良い、とにかく色んな考えや感情を溢れさせてくれればいいんだけど。
いつか本当の意味で家族になれたなら、胸の内に秘めた真実を零してくれるかな。
この瞬間からまるでスローモーションのように世界全体の動きが遅くなって――掴まえるのは細い手首。
「俺は、夏歩さんのことを迷惑だなんて思ってない! 今はまだお互いに何も知らないけれど、少しずつ、ゆっくりでいいから……」
半ばパニックになりかけていた頭では照れ臭いとか、嫌われるのが怖いとか、そう言った思考を過ぎらせることは出来なかった。
だからこそ余計に、勢い良く本音が飛び出したんだと思う。
「夏歩さんと家族になりたいんだ!」
足止めされたからか、それとも俺の言葉のせいなのか。
どれが理由かは定かではないけれど、酷く驚いたように大きく見開いた瞳とぶつかる。
引きつった表情が徐々に歪み、唇を噛み、俯くまではたった数秒だったはず。
だけど、流れるスローモーションのせいで、彼女の変化を連写した写真のように確認したんだ。
「……ないっ……」
「え? あ、待っ……」
ぽつりと何かを言ったけれど、あまりに小声過ぎて聞きとれず。
もう一度聞かせてもらえないかと思ったものの、手を振り払って早足で立ち去ってしまった。
直線な廊下を奥の方へと進んでいく、その背中はあまりに小さくて儚げで。
振り払われた手の平をぼんやりと見つめ、掴んでいた感触が無くなってきた頃、様子を窺うように春平が問いかけて来る。
「えーと、秋。あの、その、な? もしかして、怒ってる?」
「え? どうしてだよ」
「いや、あいつがね? あまりに冷たい態度を取るからさ。秋は優しいから何も言えないのかなーと思って、代弁したつもりだったんだけどな」
おずおずと言い訳しながらも正直に動機を口にする。
こいつは真っ直ぐで、熱中すると周りが見えなくなって、単細胞なんだよな。だからこそ救われている部分も多いし、何せ一緒にいて楽しい。
今回のことだって、俺のことを想っての行動だったんだろう。
昔から俺は言いたいことをはっきり言わず、その分春平が庇ってくれたんだっけ。
「めちゃくちゃ怒ってるよ。勝手なことを言いやがって」
「うぇっ!? まじで悪かったよ……!」
ぎゅっと目と瞑って、手の平を合わせて謝罪する姿が面白い。
だけどこのままじゃ罪悪感を植え付けてしまうだろうから、今のは演技だって教える。
「はは、冗談だって。怒ってないよ」
「本当か……? もーっ、冗談とかやめろよ! オレ、秋に嫌われたらどうやって生きていったらいいのかと本気で悩んだじゃんか!」
「お前ってたまに気持ち悪い発言をするよな」
安堵のあまりか、どさくさに紛れて抱き付いてこようとするので腕を思い切り突っ張って抱擁を拒否しよう。その格好のまま、一つだけお願いする。
「頼みがあるんだけどな、夏歩さんが言っていた通り、彼女を俺の妹として見ないで欲しいんだ。俺と関わりのある人が冷たい態度をとるからこそ、腹が立つんだろ? でもただの一クラスメイトとして見れば、眼中外になるはずだから」
「そう言うなら、単に同じクラスの女子として見るわ。でも、秋は妹として見てるんだろ?」
「あぁ。悲しいことに、一方的な思いだけどな」
情けなさを誤魔化すために笑ったのに、それは乾いた苦笑にしかならなかった。
夏歩さんが本心であの言葉を連ねたのなら、俺の言動はかなり鬱陶しいんだろうな。
だけど家族が増えたことが本当に嬉しかったから、せめてもう少しだけでも仲良くなるための猶予を与えてもらいたい。
左手に握ったままのペットボトルは、全力で走ったために揺れに揺れて炭酸が踊っている。今、ふたを開ければ止めようも無くその内から溢れ返るだろう。
唇を噛み締める夏歩さんは物凄く辛そうで、言いたいことを殺しているようで。
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