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第四話 ~夏歩の誕生日~
04 (秋守)
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広くない部屋に四人が座る場所は、床しかなくて。だけどそんな申し訳なさとは対照的に、キラキラと輝く苺。たっぷりの生クリームと、チョコレートで作られたプレートがお祝いムードを醸し出している。
「夏歩、誕生日おめでとう!」
「おめでとう、夏歩さん」
「あ……、ありがとう」
存在を主張するケーキに反して、本日の主役は肩を縮こまらせて落ち着かなさそうだ。それでも、
「今年で何歳になったんだ? 十八歳?」
「川縁くんと同い年なんだから、そうよ」
春平のどうしようもない質問に呆れた様子で、でも僅かに口角を上げてくれたので一安心。
四等分に切り分けた幸せのかたまりを口に入れると、優しい甘さが広がる。あぁ、美味しい。父さんと二人だけの生活では、スイーツ全般を口にする機会は滅多にないからね。
「美味しい……」
久しぶりのケーキに舌鼓を打っていると、隣から感嘆とした呟きが。俺の何倍も感動したのか、夏歩さんはさっきの苺と同じくらいに目を輝かせている。
「だろ? 夏歩の誕生日をお祝いするからには、必ずケーキを食べてもらいたいと思っていたんだよ」
満足げに、そして優しい瞳で彼女を見つめる冬夜さん。二人は今までもこうして、お互いの誕生日を祝ってきたのかな。どうしようもないことだけれど、少し羨ましくなってしまう。
勝手な嫉妬心を芽生えさせたけれど、それはすぐに消えて違う感情が沸き上がった。何故かって?
「冬夜。そして二人も、今日はお祝いをしてくれてありがとう」
ケーキと同じくらいに、いや、もっと柔らかそうな笑顔を見られたから。お礼の言葉を紡ぎながら、穏やかに溢れる幸福感は彼女の頬を薄紅色に染め上げて。
今まで見たことがなかった一面。冬夜さんにしか見せないような表情を見せてもらえて、停止する思考。可愛いとの表現だけじゃ足りない。
一気に鼓動を速くさせた心臓が、物凄く熱い。何だ、この感覚……。
目線をむやみに散らかして、指を指に絡めて、なんとか平穏を装ってみる。
「きょ、今日が誕生日だって知っていたらプレゼントを用意したんだけど」
「そんな。気持ちだけで充分よ」
上擦ってしまいそうな声で何とか話題を逸らすと、彼女は俺の戸惑いには全く気付いていないように、胸の前で小さく手を振る。よしよし。何とか普通に会話が出来ているぞ。この調子で何気なく、自然なやりとりをしよう。
「夏歩さんは寒くなってきているこの時期生まれなのに、名前に夏が入るんだね」
紅茶をすすりながら、動悸を落ち着かせるために聞いただけだった。名前の由来は何かと話題になるからさ。だけど、この質問でまさかの事実を知ることになるとは。
「養父が私を引き取ったのが、夏が少し過ぎた頃だったからこの名前を付けたそうなの。だから、誕生日は無関係よ」
味わいたかった紅茶を丸飲みしてしまい、ごくりと鳴る喉。呆気に取られて落としそうになるカップ。
「よーふ、って何だ?」
「育ててくれた父親のことよ。私、実の両親から捨てられて、物心着いた頃には既に施設暮らしだったから」
ハムスターのごとくケーキを頬に詰め込んだ春平の間の抜けた質問に、少しの戸惑いも浮かべずに答えている。
今まで夏歩さんについて何も知らず、知りたいと思ってもなかなかそうはさせてくれなかった。それだけに、突如聞かされた真実にどう対応すればいいのか分からない。ケーキの甘さは夏歩さんの表情だけじゃなくて、心まで解いたのかな。
こんな踏み込んだ話を、俺や春平が聞いてもいいの? 確かに今や家族だし、以前よりは打ち解けたけど、まだそのレベルには達していないんじゃないかな。冬夜さんは俺達が夏歩さんについて知ることを、どう思うだろう?
ちらりと冬夜さんの方を見やると、目が合って静かに小さく頷いた。
……あぁ、そうだ。あの時言っていたもんね。『夏歩のことは夏歩から聞け』と。夏歩さんが話してくれるなら、聞いてもいいんだよね。
「そうだったんだ。じゃあ、まみさんも……?」
直接聞いていいものか悩ましかったので少し言い淀んでしまったけれど、読み取ってくれたようだ。
「もちろん。オバサンとも実の親子じゃないわ」
肩をすくめながら、呆れたように、でもどこか諦めたように、言い放つ。
血の繋がりがなくても本当の親子はたくさんいる。だけど、この母娘はお世辞にも仲が良さそうとは言えない。
今まで感じて来た違和感。夏歩さんとまみさんの謎の距離感。それらの原因は、こう言うことだったんだ。
「夏歩、誕生日おめでとう!」
「おめでとう、夏歩さん」
「あ……、ありがとう」
存在を主張するケーキに反して、本日の主役は肩を縮こまらせて落ち着かなさそうだ。それでも、
「今年で何歳になったんだ? 十八歳?」
「川縁くんと同い年なんだから、そうよ」
春平のどうしようもない質問に呆れた様子で、でも僅かに口角を上げてくれたので一安心。
四等分に切り分けた幸せのかたまりを口に入れると、優しい甘さが広がる。あぁ、美味しい。父さんと二人だけの生活では、スイーツ全般を口にする機会は滅多にないからね。
「美味しい……」
久しぶりのケーキに舌鼓を打っていると、隣から感嘆とした呟きが。俺の何倍も感動したのか、夏歩さんはさっきの苺と同じくらいに目を輝かせている。
「だろ? 夏歩の誕生日をお祝いするからには、必ずケーキを食べてもらいたいと思っていたんだよ」
満足げに、そして優しい瞳で彼女を見つめる冬夜さん。二人は今までもこうして、お互いの誕生日を祝ってきたのかな。どうしようもないことだけれど、少し羨ましくなってしまう。
勝手な嫉妬心を芽生えさせたけれど、それはすぐに消えて違う感情が沸き上がった。何故かって?
「冬夜。そして二人も、今日はお祝いをしてくれてありがとう」
ケーキと同じくらいに、いや、もっと柔らかそうな笑顔を見られたから。お礼の言葉を紡ぎながら、穏やかに溢れる幸福感は彼女の頬を薄紅色に染め上げて。
今まで見たことがなかった一面。冬夜さんにしか見せないような表情を見せてもらえて、停止する思考。可愛いとの表現だけじゃ足りない。
一気に鼓動を速くさせた心臓が、物凄く熱い。何だ、この感覚……。
目線をむやみに散らかして、指を指に絡めて、なんとか平穏を装ってみる。
「きょ、今日が誕生日だって知っていたらプレゼントを用意したんだけど」
「そんな。気持ちだけで充分よ」
上擦ってしまいそうな声で何とか話題を逸らすと、彼女は俺の戸惑いには全く気付いていないように、胸の前で小さく手を振る。よしよし。何とか普通に会話が出来ているぞ。この調子で何気なく、自然なやりとりをしよう。
「夏歩さんは寒くなってきているこの時期生まれなのに、名前に夏が入るんだね」
紅茶をすすりながら、動悸を落ち着かせるために聞いただけだった。名前の由来は何かと話題になるからさ。だけど、この質問でまさかの事実を知ることになるとは。
「養父が私を引き取ったのが、夏が少し過ぎた頃だったからこの名前を付けたそうなの。だから、誕生日は無関係よ」
味わいたかった紅茶を丸飲みしてしまい、ごくりと鳴る喉。呆気に取られて落としそうになるカップ。
「よーふ、って何だ?」
「育ててくれた父親のことよ。私、実の両親から捨てられて、物心着いた頃には既に施設暮らしだったから」
ハムスターのごとくケーキを頬に詰め込んだ春平の間の抜けた質問に、少しの戸惑いも浮かべずに答えている。
今まで夏歩さんについて何も知らず、知りたいと思ってもなかなかそうはさせてくれなかった。それだけに、突如聞かされた真実にどう対応すればいいのか分からない。ケーキの甘さは夏歩さんの表情だけじゃなくて、心まで解いたのかな。
こんな踏み込んだ話を、俺や春平が聞いてもいいの? 確かに今や家族だし、以前よりは打ち解けたけど、まだそのレベルには達していないんじゃないかな。冬夜さんは俺達が夏歩さんについて知ることを、どう思うだろう?
ちらりと冬夜さんの方を見やると、目が合って静かに小さく頷いた。
……あぁ、そうだ。あの時言っていたもんね。『夏歩のことは夏歩から聞け』と。夏歩さんが話してくれるなら、聞いてもいいんだよね。
「そうだったんだ。じゃあ、まみさんも……?」
直接聞いていいものか悩ましかったので少し言い淀んでしまったけれど、読み取ってくれたようだ。
「もちろん。オバサンとも実の親子じゃないわ」
肩をすくめながら、呆れたように、でもどこか諦めたように、言い放つ。
血の繋がりがなくても本当の親子はたくさんいる。だけど、この母娘はお世辞にも仲が良さそうとは言えない。
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