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フロイライン

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大輔は駆け引きなど出来る人間ではない。

理事長が汚い手を使って優里を勧誘した事に激怒し、本当に諦めようと思っていたのだ。

しかし、彼の思いとは裏腹に寂しげな大輔の姿は優里の同情、いや、母性本能をくすぐり、結果として翻意させることに成功したのだ。

まさに偶然の産物とはこの事だ。


優里の男子野球部への電撃入部の報は忽ち学校内に伝わり、騒然とした。

その大半が面白がっている野次馬的なものだったが、中にはすみれのように優里を心配する者も存在した。

大輔もそのうちの人で、自分が入部させたにもかかわらず、優里の身を心から案じた。



「富田、よくやってくれた。」

そんな感情とは裏腹に監督の村上は彼の大きな手柄を喜び、満面の笑みで讃えた。

「監督、さっきも話しましたが、水谷はもう体が完全に女になっています。
自分も勧誘しといてアレなんですが、間近で変化を見て、驚いてしまいました。

ですから、さっきも言ったようにアイツの事は十分に気をつけてやって欲しいんです。」

村上の喜び様とは正反対に、大輔は優里の身を案じた。


「勿論、その辺の事は理事長も考えて下さってな
着替えも別の部室を用意してもらったし、抜かりはないよ。」


「それと、アイツ、予想以上に筋力が無くなってて、すぐには活躍出来ないと思います。」

「ああ。今日の練習から参加するはずだから、本人と話をしながら見てみるよ」

「でも、アイツの凄さは俺が一番わかってます。
時間されあれば、誰にも負けない投球が出来るようになると思います。」

「それは楽しみだが、もう地区予選の抽選が今週あって

二週間後には一回戦に臨まなければいけない。
間に合うのか」

「無理だと思います。

アイツが調子を取り戻すまで、何とか岸に頑張ってもらわないと厳しいと思います。」


「ああ。そうだな。
なるべく水谷には負担をかけないように、周りでバックアップしていこう。」

「はい。」

大輔は一礼して監督室を出て行った。


「すっかり女の子になってしまった子に無理はさせられないもんな

理事長は許してくれんだろうが…」

板挟みになるであろう村上は、いままでとは違う悩みが出てきて、頭を抱えた。
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