ニューハーフ極道ZERO

フロイライン

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誤解

多喜は亮輔の話をひとしきり聞いた後、あらためて自分の考えを述べた。

「それって、ストックホルム症候群っていうやつじゃねえの?」

「えっ、どういう事?」

「何かで読んだ事あんだけど、誘拐や監禁などによって拘束下にある被害者が、加害者と時間や場所を共有することによって、加害者に好意や共感、信頼や結束の感情まで抱くようになる現象のことを言うらしい。亮輔、まさにお前の状況じゃね?」

多喜は後部座席に座る亮輔に、ルームミラーから視線を送りながら呟くように言った。

「それは否定出来ないけど‥
もう、すっかり調教されてしまったからね」

「まあ、お前が良いなら俺の出る幕じゃねえけど。でも、もし、気が変わる時が来たら、何でも協力させてもらうから。
オヤジ‥いや、社長の事は俺も怖いけど。」

「うん。ありがとう。
でも、あの一件から、大変な事も沢山あったけど、ようやく組に復帰出来たし、今は前向きに考えてるよ。」

「亮輔… 確かに俺は相変わらず組では、全然パッとしなくてさ… 今回の話があったときはすげー嬉しかったんだよ。でも、それはお前が裏で手を回してくれてたんだな。」 

「だから、勘違いしないでって言ってるのよ。組にいた頃から、多喜の実力を一番知っているのはこの私なのよ。」 

「そう言ってもらえると…嬉しいんだけど…」 

「じゃあ、早く車を出してくれるかな?」 

「あ、 はい。」 

多喜は慌ててサイドブレーキを下ろして車を発進させた。 

「亮輔、姐さんの正体がお前とわかったところで、俺にとっては姐さんは姐さんだ。 

いや、ここは多村組じゃなくて多村興業だったな。だから、お前は専務でオヤジは社長だ。 今は驚きのあまり、タメ口をきいてしまってるが、もうこれっきりで、二度とこんな口はききません。どうか今後ともよろしくお願いします。」 

信号待ちのとき、多喜は改めて亮輔の方を向いて、頭を下げた。 

「まあ、そんな堅苦しいことは言わないでって言いたいところだけど、私も正体を隠してる手前、そうしてもらえると助かるわ。」 

亮輔は頷いて笑った。 

「専務、これから行く店については、自分もしのぎの担当地域なんでよく顔を出すんですが… 最近客が全然入らなくて、非常に厳しい状況です。」 

「確かに景気が悪いから、仕方ないんだけど… 何か理由がありそうね。 
ところで、白橋町って言ったら、麻生組の連中の動きは最近どうなの? 私がいたときは結構、出ばって来てたよね。」 

「はい。ヤツらのカジノが近くにありますからね。緊張状態が続いてますよ。」 

多喜は神妙な顔で答えた。 

「着きました。」 

そうこうしてる間に車は目的地である、多村組が経営するキャバクラ『little by little』に到着した。 

多喜は素早く車から降りて後部座席のドアを開けた。 

亮輔はスカートの裾を気にしながら足を地面につけた。 

「懐かしいわね。」 

亮輔は店の前で辺りをぐるりと見渡し、久しぶりに自分がいた街に帰ってきたことを実感し、呟いた。
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