pretty preschool teacher

乱心

「お疲れ様、石川先生。」


「あっ、樋谷先生

お疲れ様です。」


更衣室で着替える遥のところへ、樋谷が入ってきて、声をかけてきた。


「石川先生もこれから大変になるけど頑張るのよ。」


「えっ？」


「聞いてるんでしょ？

紀藤先生が辞めるって。」



「あ、それは、はい。」


「私も紀藤先生には期待してたのよ。
このまま頑張れば私のようになれるってね。」


「はぁ…」


「でも、突然辞めるって言うんだから、少し呆れちゃってね。」


「…」


「別に紀藤先生の悪口を言ってるんじゃないのよ。

でも、この仕事って、一番大切なのは情熱だと思うのね。

それなのに、こんなにあっさり辞めちゃうんだから。
紀藤先生のことを少し買い被りすぎてたのかもしれないわ。」


「あの、樋谷先生…

紀藤先生が辞められる理由って聞いていますか？」


「詳しくは聞いてないわ。

この仕事がキツくなったんでしょ？どうせ。」


「紀藤先生は、誰よりも幼稚園教諭という仕事が好きでいらしたから、キツイとかで辞められるんじゃないと思いますよ。
多分、辞めざるを得ない理由が出来たんだと思います。」


「辞めざるを得ない理由って何よ？」


「それは…」



「テキトーな事を言ってんじゃないわよ。

正当な理由があるならそう言えばいいじゃない。
紀藤先生は、そんな事は言ってなかったわよ。

それが証拠じゃない。
大した理由じゃないっていう…」


温厚で、争い事を好まない遥だったが、さすがにこの樋谷の口ぶりにカチンときて、反論しそうになったが、何かを言うと彩に迷惑がかかるので、なんとか思いとどまった。


「あ、そうそう

石川先生」



「はい？」


「今までは紀藤先生がコンパの幹事をやってくれてたけど、これからは石川先生にお任せしていい？」



「あの、樋谷先生

ワタシ、実は、5月頃に結婚する予定なんです。


ですから、申し訳ないんですが…


それではお先に失礼致します。」

遥は、ペコリと頭を下げ、無表情で去っていった。


樋谷は上半身、下着姿のまま、フリーズした。


遥も、感情的になった事を後悔しながら、駅に向かって歩いていた。