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名残
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翔子は、上本の家を後にし、まっすぐ自宅に戻ってきた。
「おかえり、翔。」
家で食事の準備をしていた母の麻友子が声をかけると、翔子は
「ただいま」
と力ない声で答え、自分の部屋に入っていった。
部屋に入ると、バタンと扉を閉め
「はぁーっ」
と、思いっきり大きなため息をつき、ベッドにゴロンと寝転んだが…
すぐに起き上がると、着ていた女性物の服と下着を脱ぎ捨て全裸になった。
そして、男性用の下着に履き替え、男性物の服を着た。
胸の存在がわからないよう、ダブッとした感じのシャツを羽織り…
その後、洗面所に行って化粧をきれいに落とすと、肩まで伸びた髪にワックスをつけて、男っぽくアレンジしたのだった。
だが、髪をアップにすると、おでこが露出してしまい、生え際の産毛が目立っていることに気付いた。
これは、女性ホルモンを投与しているせいで、フツーの女性と同様に、髪の生え際のところに産毛が生えてくるのだ。
翔子は、ウンザリとした面持ちで、しばらく鏡を見ていたが、またため息をつき、視線を切った。
そして…
「ちょっと出かけてくる。」
「えっ
もうすぐご飯できるわよ」
「うん。
少しだけ
すぐに帰ってくるし。」
翔子はそう言うと、家を出ていってしまった。
上本というヤクザの大物に見そめられ、結婚を申し込まれた。
もちろん拒否したが、その後、偶然なのかどうかはわからないが、父親が職を失った。
さらに、小学生の妹が重い心臓病になり、移植しか生きる方法はないと告げられた。
ドナー探しが難航し、絶望感に包まれていた翔子の家族に、手を差し伸べたのが上本だった。
この事は、翔子の人生において、決定的な一打となった。
上本がいなければ妹は死んでいた。
もし、自分が女になって上本と結婚させられたとしても、広義においては自身の死を意味するものになるが、肉体的に本当に死んでしまうわけではない。
それならば、この恩を返すために、上本の希望を叶えてもいいのではないか
そう考えた翔子は、男としての人生を捨て、女となり、上本の妻となる選択をした。
だが、性同一性障害でもないのに女性ホルモン剤の投与をし、去勢手術までした翔子は、当然の如く、精神のバランスを崩してしまう時が多々あるのである。
今の状態もまた、そうであった。
叫んでしまいたい心境に駆られながら、上着のダウンコートのポケットに手を突っ込み、俯いて歩く翔子の姿がそこにあった。
「おかえり、翔。」
家で食事の準備をしていた母の麻友子が声をかけると、翔子は
「ただいま」
と力ない声で答え、自分の部屋に入っていった。
部屋に入ると、バタンと扉を閉め
「はぁーっ」
と、思いっきり大きなため息をつき、ベッドにゴロンと寝転んだが…
すぐに起き上がると、着ていた女性物の服と下着を脱ぎ捨て全裸になった。
そして、男性用の下着に履き替え、男性物の服を着た。
胸の存在がわからないよう、ダブッとした感じのシャツを羽織り…
その後、洗面所に行って化粧をきれいに落とすと、肩まで伸びた髪にワックスをつけて、男っぽくアレンジしたのだった。
だが、髪をアップにすると、おでこが露出してしまい、生え際の産毛が目立っていることに気付いた。
これは、女性ホルモンを投与しているせいで、フツーの女性と同様に、髪の生え際のところに産毛が生えてくるのだ。
翔子は、ウンザリとした面持ちで、しばらく鏡を見ていたが、またため息をつき、視線を切った。
そして…
「ちょっと出かけてくる。」
「えっ
もうすぐご飯できるわよ」
「うん。
少しだけ
すぐに帰ってくるし。」
翔子はそう言うと、家を出ていってしまった。
上本というヤクザの大物に見そめられ、結婚を申し込まれた。
もちろん拒否したが、その後、偶然なのかどうかはわからないが、父親が職を失った。
さらに、小学生の妹が重い心臓病になり、移植しか生きる方法はないと告げられた。
ドナー探しが難航し、絶望感に包まれていた翔子の家族に、手を差し伸べたのが上本だった。
この事は、翔子の人生において、決定的な一打となった。
上本がいなければ妹は死んでいた。
もし、自分が女になって上本と結婚させられたとしても、広義においては自身の死を意味するものになるが、肉体的に本当に死んでしまうわけではない。
それならば、この恩を返すために、上本の希望を叶えてもいいのではないか
そう考えた翔子は、男としての人生を捨て、女となり、上本の妻となる選択をした。
だが、性同一性障害でもないのに女性ホルモン剤の投与をし、去勢手術までした翔子は、当然の如く、精神のバランスを崩してしまう時が多々あるのである。
今の状態もまた、そうであった。
叫んでしまいたい心境に駆られながら、上着のダウンコートのポケットに手を突っ込み、俯いて歩く翔子の姿がそこにあった。
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