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改心
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百恵と再会して以来、誠は人が変わったように真面目に働き出した。
酒は完全にやめることは出来なかったが、以前のように前後不覚になる飲み方はしなくなった。
百恵の無償の愛は、性根が腐り切っていた誠の心さえも変えてしまったのである。
その日もきっちり五時まで働き、最寄り駅まで帰ってきた誠は、駅前の立ち飲み屋の誘惑にも負けず、その前を通り過ぎた。
ポケットに手を突っ込み、誠は前だけを見つめて歩くのだった。
その時、通り過ぎようとした本屋から人が出てきた。
「あっ」
本屋から出てきたのは、恭子だった。
高校二年になり、すっかり大人っぽくなった恭子は、誠に気付き会釈をした。
誠も軽く頭を下げると、そのまま通り過ぎていった。
恭子は、誠の背中をしばらく見つめていたが、気持ちを切り替えたのか、反対方向に歩き出した。
だが
「お嬢さん」
誠が振り返り、恭子に声をかけたのだ。
恭子も慌てて振り返り、誠を見つめた。
誠は二、三歩近づいてきて
「あの、いつぞやはどうも。」
と、改まって挨拶をし、続けて
「あのとき、袮留は田舎に行った言うて嘘をついてしもた事を許して下さい。」
と、頭を下げた。
恭子は、誠があのとき自分に出まかせを言った事はわかっていたが、今になってそれを否定してくるとは思ってもみなかった。
「あの、どういうことですか?」
「息子は、ワシが借金のカタに売り飛ばしたんです。
男やったら売りもんにならん言うて、オカマにされてしもて、川の向こうで売春婦をしてます。」
「えっ…
そんな…」
「全部、ワシの不徳の致すところです。
息子は、家でアンタの事をいつも話してました。多分好きやったんやと思います。
アンタもウチに訪ねてくるくらいやから、息子の事を少しは思ててくれたんですよね?
もし、よかったら会うてやってくれまへんか。
アイツもアンタにはもう一度会いたいと思てるはずです。」
「そんな…
袮留君が、そんな酷いことに…」
恭子は真相を誠の口から聞き、号泣した。
「謝っても謝りきれん事です。
でも、アイツはワシに恨み言一つ言わへん。
だから…
ワシも心入れ替えてやっていこうと思たんです。」
「川向こうのどこにおるんですか?
袮留君は。」
恭子は怒りに満ちた表情で誠に詰め寄った。
「その先の橋を渡って突き当たりを右に行ったところの駅に立ってる事が多いと聞いてます。
今は百恵と名乗ってます。」
誠がそう言うと、恭子は何も言わず、そのまま立ち去っていった。
誠は恭子の背中に向かって深く頭を下げたのだった。
酒は完全にやめることは出来なかったが、以前のように前後不覚になる飲み方はしなくなった。
百恵の無償の愛は、性根が腐り切っていた誠の心さえも変えてしまったのである。
その日もきっちり五時まで働き、最寄り駅まで帰ってきた誠は、駅前の立ち飲み屋の誘惑にも負けず、その前を通り過ぎた。
ポケットに手を突っ込み、誠は前だけを見つめて歩くのだった。
その時、通り過ぎようとした本屋から人が出てきた。
「あっ」
本屋から出てきたのは、恭子だった。
高校二年になり、すっかり大人っぽくなった恭子は、誠に気付き会釈をした。
誠も軽く頭を下げると、そのまま通り過ぎていった。
恭子は、誠の背中をしばらく見つめていたが、気持ちを切り替えたのか、反対方向に歩き出した。
だが
「お嬢さん」
誠が振り返り、恭子に声をかけたのだ。
恭子も慌てて振り返り、誠を見つめた。
誠は二、三歩近づいてきて
「あの、いつぞやはどうも。」
と、改まって挨拶をし、続けて
「あのとき、袮留は田舎に行った言うて嘘をついてしもた事を許して下さい。」
と、頭を下げた。
恭子は、誠があのとき自分に出まかせを言った事はわかっていたが、今になってそれを否定してくるとは思ってもみなかった。
「あの、どういうことですか?」
「息子は、ワシが借金のカタに売り飛ばしたんです。
男やったら売りもんにならん言うて、オカマにされてしもて、川の向こうで売春婦をしてます。」
「えっ…
そんな…」
「全部、ワシの不徳の致すところです。
息子は、家でアンタの事をいつも話してました。多分好きやったんやと思います。
アンタもウチに訪ねてくるくらいやから、息子の事を少しは思ててくれたんですよね?
もし、よかったら会うてやってくれまへんか。
アイツもアンタにはもう一度会いたいと思てるはずです。」
「そんな…
袮留君が、そんな酷いことに…」
恭子は真相を誠の口から聞き、号泣した。
「謝っても謝りきれん事です。
でも、アイツはワシに恨み言一つ言わへん。
だから…
ワシも心入れ替えてやっていこうと思たんです。」
「川向こうのどこにおるんですか?
袮留君は。」
恭子は怒りに満ちた表情で誠に詰め寄った。
「その先の橋を渡って突き当たりを右に行ったところの駅に立ってる事が多いと聞いてます。
今は百恵と名乗ってます。」
誠がそう言うと、恭子は何も言わず、そのまま立ち去っていった。
誠は恭子の背中に向かって深く頭を下げたのだった。
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