泥々の川

フロイライン

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盲信猛進

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「姉さん、今日はデートですか」

念入りに化粧するマキに、百恵が声をかけた。


「せやねん。
仕事終わったら食事行こうって言われててね。

ねえねえ、百恵
ワタシの化粧、派手やないやろか?」


「はい。全然自然です。
めっちゃ綺麗です」


「そうか、ありがとう。

カレ、普通のサラリーマンやさかい、あんまり派手にせん方がええと思てねえ。」


「そのスカートも清潔感あって、姉さんによう似合てると思います。」


「そうか、それ聞いて安心したわ。」


「どこまで行きはるんですか?」


「本町や。

カレ、船場のメリヤス会社の人やから、本町とかで待ち合わすんがええと思てねえ。

今日も一緒に仕事でけへんけど、堪忍してや。」


「そんなん気にせんといて下さい。
それよりもその恋人さんとの関係が上手い事行くんを祈ってます。」


「百恵、おおきに。

ほな、ワタシ、行ってくるわな。」


マキはハンドバッグを抱え、そそくさと出ていってしまった。



「ウチもカレシ欲しなってきたわ」

百恵は独り言を呟くと、仕事に出かけた。




百恵は、いつもの指定席に足を運んだが、その日はライバル娼婦軍団が先に立っており、仕方なく、川を渡る事にした。


しかし、その日はヒマで客が付かず、久しぶりのぼうずも覚悟した。


百恵はコンパクトを出し、パフを叩いて化粧直しをし、鮮やかな赤の口紅を引き直した。



「化粧もお手のもんやね」

そんな百恵に声をかけてきたのは恭子だった。


「あ、佐野さん
どないしたん?」


「私かてそんなに上手に化粧なんて出来へんわ。
袮留君、男の子やのにそんなに化粧上手にして似合うなんて、羨ましいわ。」

恭子は揶揄うでもなく、淡々とした口調で言った。
その恭子は化粧などせず、トレーナーにデニムのスカートで、百恵とは正反対のあっさりとした身なりをしていた。


「ちょっとでもキレイに見せんと、お客さん付かへんやろ?

だから、化粧とかファッションは毎日雑誌とかで勉強してるんよ。」


「袮留君てよう勉強出来たもんね。
足も速くてスポーツも万能やったし…

それを活かさんと、化粧の勉強に時間を費やさなあかんやなんて、あまりにも残酷やわ。」


「ええんよ、それは。
もう吹っ切れてるし。

化粧とか可愛い服着るの、すごい楽しいし。」


「だから、それは本来の袮留君の気持ちやないねん。
暗示にかけられてるんよ。」


「やとしても、もう変えようがないし、全ては時すでに遅しってことやわ」

百恵と恭子の話し合いは決して交わる事はなかった。
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