泥々の川

幸先

「おはようございます。」


久美子が事務所に顔を出すと、工藤と甲斐がすっ飛んできて

「おはよう、久美子

一体何があった？」

と、質問した。


「えっ、どうしたんですか？」


「まだデビューもしてないのに、テレビ局から何本も出演依頼があったんだよ。」


「えっ、本当ですか？」


「ああ。
典子さんの力か？

いや、いくら何でも典子さんにそこまでの力があるとは思えなくてな。」


「そうだよ。
俺もこの前顔合わせして思った。
たしかにオカマの世界じゃ幅を利かせてるかもしれないけど、出演をねじ込むような力はないと思う。
ゴールデンだぜ、それも」

甲斐も首を傾げながら言った。


「それは、多分
多部社長のお力なんじゃないかと思います。」


「多部社長？

タベプロの多部さんか？」


「そうです。」


「そういえば、たしか依頼が来てるのって全部タベプロ制作だったな。」


「やるなあ、お前
一体どうやったんだ？」


「典子さんにご招待を受けて、お家にお邪魔したとき、たまたま多部社長もおられて。
そこで何故かワタシの事を気に入ってもらえたって感じです。」


「すげえじゃねえか。

本来俺がやらなきゃいけない仕事なのに。」


「いえ、たまたまですよ。」


「いやいや、今回の番組は全部、若手タレントの売れるための登竜門みたいな番組で、爪痕を残した者だけが次に呼ばれるんだ。」


村田は興奮気味に久美子に言った。


「村田さん、甲斐さん
ワタシ一生懸命頑張ります！

何が何でも爪痕を残してきますので。」


「気負いすぎんなよ」


「大阪のドヤ街で育ったオカマの心意気を見せてやりますよ」


久美子は自分で言って自分でウケてしまった。