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二人の現在地
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「ねえねえ、お母さん
ワタシのことよりさあ、今の家族の話聞かせてよ。
」
「えっ、私の?」
「うん。お母さんがどんな暮らしをしてるのか、すごく興味があるのよ。
ご主人さんてどんな人?
どんな仕事をしてらっしゃるの?」
「普通の人よ。ごく普通のね。
トラックの運転手なの。
寡黙な人
私が一番惹かれたところは、お酒が飲めないってところかな」
恵理子はそう言うと、少し笑った。
「なるほどね。
それが一番かもね。
出会ったきっかけとか、子供の話も聞かせて。」
「えーっ、話しにくいなあ。」
「いいから、いいから。」
「家を出たのはあなたが八歳、私が二十九の頃だった。
私は知り合いを頼って姫路に流れ着いた。
そこで深夜のトラック運転手を相手にした食堂で働かせてもらうことになったの。」
「あ、ごめん、話の途中で。
その食堂の名前って何?」
「もとや食堂よ」
「一字も合ってない…」
久美子は壁に向かって独り言を呟いた。
「で、いつも深夜に通っていたのが今の主人で、最初は全然声をかけてこないし、こっちも興味なかったから、お互いに話をすることなんてなかったんだけど、私が働き出して1年くらい経ったとき、ポツリと、今度映画でも行きませんかって言われたの。」
「イヤン、素敵っ」
「何よ、その反応。
まあ、いいけど。
それで映画に行ったのね、私も何か寂しい気持ちがあって。
こんな自分を誘ってくれる人がいるのが嬉しくて。
向こうも口下手なのに、一生懸命話してくれて、何回か会ううちにその誠意っていうか、真面目さに惹かれていくようになったの。
私って男の人と付き合ったことって一人だけだったし、それが基準になってたから、なんかすごく新鮮でね。」
「へえ、そらお父さんしか知らんかったら、誰もがよく見えるわなあ。」
「そうやね。
それから程なくして、私達は一緒に住むようになって、さらにその半年後に一人目の子がお腹にいる事がわかったの。」
「それが上の女の子?」
「そうそう。
二年後に下の男の子が生まれて、私達は四人家族になった。
そこから十年
順風満帆とは言えないけど、何とかやってこれたって感じね。」
「そうなんやね。
でも、お母さんが幸せに暮らせててホンマによかったわ。」
「袮留…
そのせいで、全部アンタが不幸になってしもたかと思うと…」
恵理子は久美子を抱きしめて泣いた。
ワタシのことよりさあ、今の家族の話聞かせてよ。
」
「えっ、私の?」
「うん。お母さんがどんな暮らしをしてるのか、すごく興味があるのよ。
ご主人さんてどんな人?
どんな仕事をしてらっしゃるの?」
「普通の人よ。ごく普通のね。
トラックの運転手なの。
寡黙な人
私が一番惹かれたところは、お酒が飲めないってところかな」
恵理子はそう言うと、少し笑った。
「なるほどね。
それが一番かもね。
出会ったきっかけとか、子供の話も聞かせて。」
「えーっ、話しにくいなあ。」
「いいから、いいから。」
「家を出たのはあなたが八歳、私が二十九の頃だった。
私は知り合いを頼って姫路に流れ着いた。
そこで深夜のトラック運転手を相手にした食堂で働かせてもらうことになったの。」
「あ、ごめん、話の途中で。
その食堂の名前って何?」
「もとや食堂よ」
「一字も合ってない…」
久美子は壁に向かって独り言を呟いた。
「で、いつも深夜に通っていたのが今の主人で、最初は全然声をかけてこないし、こっちも興味なかったから、お互いに話をすることなんてなかったんだけど、私が働き出して1年くらい経ったとき、ポツリと、今度映画でも行きませんかって言われたの。」
「イヤン、素敵っ」
「何よ、その反応。
まあ、いいけど。
それで映画に行ったのね、私も何か寂しい気持ちがあって。
こんな自分を誘ってくれる人がいるのが嬉しくて。
向こうも口下手なのに、一生懸命話してくれて、何回か会ううちにその誠意っていうか、真面目さに惹かれていくようになったの。
私って男の人と付き合ったことって一人だけだったし、それが基準になってたから、なんかすごく新鮮でね。」
「へえ、そらお父さんしか知らんかったら、誰もがよく見えるわなあ。」
「そうやね。
それから程なくして、私達は一緒に住むようになって、さらにその半年後に一人目の子がお腹にいる事がわかったの。」
「それが上の女の子?」
「そうそう。
二年後に下の男の子が生まれて、私達は四人家族になった。
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順風満帆とは言えないけど、何とかやってこれたって感じね。」
「そうなんやね。
でも、お母さんが幸せに暮らせててホンマによかったわ。」
「袮留…
そのせいで、全部アンタが不幸になってしもたかと思うと…」
恵理子は久美子を抱きしめて泣いた。
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