泥々の川

フロイライン

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哀精子

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昭和56年…1981年は、久美子にとっても忘れられない年となった。


完全に干され、春にメニーズ事務所を退所した樹陽介は、八方塞がりとなり、芸能界から身を引く事を決めた。

実家のある新潟に帰り、親の跡を継いで農家にでもなろうかと考えていた陽介だったが、恋人の久美子と離れたくない一心から、決心し切れず、まだ東京に住み続けていた。

しかし、日が経つにつれ、生活が困窮していった陽介は、久美子の強い勧めで、彼女の家に転がり込んできた。

久美子も陽介にのめり込むあまり、事務所にワガママを言い、仕事をセーブするようになった。
それもこれも陽介との時間を作りたいがための行為だったが、視聴者というものは熱しやすく冷めやすいもので、久美子の人気は次第に下がり、レギュラーも次々に無くなっていった。

もう、ワガママを言わなくても、週3、4日は休みになってしまったのだ。

久美子はそれでも嬉しかった。
好きな男性と一緒に暮らせる事が…
同棲を始めてからののめり込み度は限界を超え、エスカレートする一方だった。


そんな久美子に対し、甲斐も事務所の人間も、誰一人文句を言わなかった。

これまで必死に頑張り、事務所をここまで大きくしたのは、すべて久美子のおかげである。

この偉大なる功労者に、そろそろ自由を与えてもいいのではないかと、皆が思ったからである。


久美子は陽介の言う事は何でも聞き、身の回りの事まで全てした。
靴下やパンツを履かせる事まで。
いつまで経ってもドM気質が抜けない久美子は、とことん男に尽くしたいタイプだった。
典型的な男をダメにするタイプの女こそが久美子だったのだ。


その日の朝も、なかなか起きてこない陽介を起こさないように静かにベッドを出た久美子は、愛する陽介のために朝食を作っていた。

味噌汁に卵焼き、焼き魚など、本格的な朝ごはんを…


全て出来上がると、久美子は陽介を起こしに行った。


「陽介、起きて

ご飯だよ」


「んんっ…

あ、うん…」

眠い目を擦りながら陽介は起き上がり、トイレと洗顔をして、食卓に辿り着いた。


「うわあ、朝からすげえな。」

「せっかく朝一緒に居られるんだから、ちゃんとした朝ごはんを食べて欲しいのよ。」


「久美子、今日も休み?」


「うん。明日もよ」


「大丈夫か?
俺に気を遣って休み入れてんじゃないだろうな。」


「そんな事してないよ。
ワタシも落ち目だから」


「それは、ないと思うけど。
じゃあ、飯食べたらどこか行こうか」


「映画に行きたいのよ。

今日からでしょ?

ガンダム、哀戦士」


「えーっ、ガンダムって…

映画館、ガキばっかだぜ、多分」

相変わらず、男の趣味と女が混在する久美子に、陽介は苦笑いを浮かべながら言った。

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