泥々の川

フロイライン

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Forget-me-not

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「今日は結構収穫があったな。」

「うん。」


久美子は、ジローの言葉に頷いた。

二人は前日と同様、食事をして帰宅する流れになるかと思われたが


「ジローちゃん、申し訳ないんだけど、先に帰ってもらってもいい?」

久美子が申し訳なさげにジローに言った。


「どうした?」


「ちょっと、ワタシ
行きたいところがあって…」


久美子がそう言うと、ジローは意外な表情を浮かべたが、すぐに、全てを察したようで


「わかった。
俺はちょっと飲んでから帰るわ。

あんまり遅くなるなよ」

と、久美子に言って、新宿の街に消えていった。

久美子はジローの配慮に感謝しつつ、タクシーに乗り、東へ向かった。





目的の場所に着いた久美子は、先程買った花束を地面にそっと置き、静かに手を合わせた。

彼女が訪れていたのは、最愛の陽介が亡くなった現場…
メニーズ事務所の前だった。

まだまだ立ち直れていないという自覚を持つ久美子だったが、日々の忙しさにその身を預けるようにして、意識をそこに持って行かないようにしていた。

しかし、上京してからは、また心の奥底にしまっていた思い出が湧き出てきて、たまらずここに足を運んでしまったのだ。

ここに来たからといって心の傷が癒えるわけではなく、余計に辛い気持ちになる久美子だったが、今、捜している恭子の事で、力を貸してもらえるよう陽介にお願いをした。


久美子はもう一度手を合わせ、そしてその場を離れていった。

しかし、その様子を背後でじっと見ていた男が、すれ違いざまに話しかけてきた。


「すいません

友谷久美子さんですか?」


と…


ビクッとして視線を向ける久美子だったが、その中年男性には全く見覚えがなかった。

少し前までテレビにも出ていたタレントだったのだから、たまに声をかけてくれる人もいる。

久美子は、その類いの人だと思い、笑みを浮かべて会釈をした。


「私は、樹陽介のマネージャーをしていた竹内というものです。」


男はそう自己紹介をした。


「えっ…」


「陽介があなたと付き合っていた事は知っていました。

なんて言っていいのかわかりませんが、今更ですが、こんな事になり、本当に申し訳なく思っています。」


竹内は久美子に深く頭を下げた。


「いえ…

別に竹内さんが悪いわけでは…」



「いや、そうではありません。

自分が担当していたタレント二名が死んでしまったんです。
私の責任です…

全ては私が自分の事しか考えず、彼らの気持ちをわかってやれなかったから…」

竹内は弱々しく久美子にそう言った。
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