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昭和60年
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昭和60年、1985年は、久美子にとって、多忙を極める年となった。
恭子の事件が解決し、久美子もようやく仕事に集中する事が出来るようになったからだ。
ここのところ続いているニューハーフブームの中で、久美子は群を抜いたルックスから、美人枠を完全に押さえてしまい、ニューハーフタレントの地位を固めていった。
ジローも、久美子のマネージャーとして辣腕ぶりを発揮し、仕事をガンガン取ってきた。
ほぼフリーのような存在であるにもかかわらず、仕事が多く取れたのは、本人の資質も勿論あるが、一番大きかったのは、京活プロの寛大さにあった。
所属タレントが事務所を独立した場合、多くの事務所がテレビ局と約束を交わしており、そのタレントを長期間テレビに出さない、いわゆる干す状態にすることを、暗黙の了解として行っていた。
しかし、久美子の場合、一度引退していた事、その際の辞め方が円満だった事、京活プロ自体が大手事務所でなかった事などから、その営業活動が妨害される事はなかった。
その日も、夜遅くまでテレビの仕事をした久美子は、ジローと共に帰宅した。
「俺は演者でもないけどさあ、マジ疲れるよなあ最近。」
「そうね。
ごめんね、ジローちゃん」
「いやいや。
タレントなんてもんは、売れているウチが華だよ。
出し惜しみとかさあ、露出を絞る戦略なんて絶対にしちゃいけねえ愚策だよ。
とにかく出られる時にバンバン出て、ガンガン稼いじゃおうぜ。」
「うん。
ありがとう、ジローちゃん。
ジローちゃんがいてくれて本当によかったわ。」
「久美子、話は変わるけど、恭子ちゃんは、あれからどんな感じなんだ?」
「うん。
先月、大阪の病院に転院したじゃない?
ワタシも全然お見舞いに行けてなかったんだけど、この前、恭子のお母さんから電話をもらってね。
体はかなりボロボロになってて、先の見通しは立たない状態だけど、本人も禁断症状と戦いながら、必死に頑張ってるって。
お母さんの事もなんとなくだけど認識出来てるようだって…」
「そうか、それは良かったな。
先は長いけど、頑張るしかねえもんな。」
「うん…」
「それにしてもあの鹿島のクソガキ。
アイツのやった事は人間のやる所業じゃねえよ。
死刑にしなきゃ気が済まねえ!」
「死刑どころか、何年かしたら出てくるでしょうけど、鹿島の父親もこの件で失脚したし、今も批判の声は大きくなる一方。
たとえ出所してきたとしても、まともな人生を送るのは不可能だよ、きっと。」
久美子の言葉に、ジローも深く頷いた。
恭子の事件が解決し、久美子もようやく仕事に集中する事が出来るようになったからだ。
ここのところ続いているニューハーフブームの中で、久美子は群を抜いたルックスから、美人枠を完全に押さえてしまい、ニューハーフタレントの地位を固めていった。
ジローも、久美子のマネージャーとして辣腕ぶりを発揮し、仕事をガンガン取ってきた。
ほぼフリーのような存在であるにもかかわらず、仕事が多く取れたのは、本人の資質も勿論あるが、一番大きかったのは、京活プロの寛大さにあった。
所属タレントが事務所を独立した場合、多くの事務所がテレビ局と約束を交わしており、そのタレントを長期間テレビに出さない、いわゆる干す状態にすることを、暗黙の了解として行っていた。
しかし、久美子の場合、一度引退していた事、その際の辞め方が円満だった事、京活プロ自体が大手事務所でなかった事などから、その営業活動が妨害される事はなかった。
その日も、夜遅くまでテレビの仕事をした久美子は、ジローと共に帰宅した。
「俺は演者でもないけどさあ、マジ疲れるよなあ最近。」
「そうね。
ごめんね、ジローちゃん」
「いやいや。
タレントなんてもんは、売れているウチが華だよ。
出し惜しみとかさあ、露出を絞る戦略なんて絶対にしちゃいけねえ愚策だよ。
とにかく出られる時にバンバン出て、ガンガン稼いじゃおうぜ。」
「うん。
ありがとう、ジローちゃん。
ジローちゃんがいてくれて本当によかったわ。」
「久美子、話は変わるけど、恭子ちゃんは、あれからどんな感じなんだ?」
「うん。
先月、大阪の病院に転院したじゃない?
ワタシも全然お見舞いに行けてなかったんだけど、この前、恭子のお母さんから電話をもらってね。
体はかなりボロボロになってて、先の見通しは立たない状態だけど、本人も禁断症状と戦いながら、必死に頑張ってるって。
お母さんの事もなんとなくだけど認識出来てるようだって…」
「そうか、それは良かったな。
先は長いけど、頑張るしかねえもんな。」
「うん…」
「それにしてもあの鹿島のクソガキ。
アイツのやった事は人間のやる所業じゃねえよ。
死刑にしなきゃ気が済まねえ!」
「死刑どころか、何年かしたら出てくるでしょうけど、鹿島の父親もこの件で失脚したし、今も批判の声は大きくなる一方。
たとえ出所してきたとしても、まともな人生を送るのは不可能だよ、きっと。」
久美子の言葉に、ジローも深く頷いた。
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