泥々の川

恋の予感 世間の悪寒

「あの、友谷さん…」


望月は、ようやく久美子の顔を見つめ、語りかけた。


「どうしたの？」



「あ、いえ…

友谷さんは、なんで僕のような下っ端のADに優しくして下さるんですか。」


「えっ、別に理由はないけど。」


「他のタレントさんなんて、僕のことなんて見向きもされませんし、存在自体をにんしきしていないかのように振る舞われます。


だから、友谷さんにこういう事をしていただくのが…

いえ、普段から声をかけていただくのが…

何となく戸惑ってしまうというか…」



「迷惑だったかな？


ワタシ、そういうの鈍感だから、ハッキリ教えてね。」


「迷惑なんて、とんでもないです。

本当に感激しています。」



「それならよかったわ。


ワタシもさあ、タレントなんて名乗ってはいるけど、所詮はニューハーフで、日陰者には変わりないのよ。

自分的には全然平気なんだけど、いっぱい差別も受けてきたし、意地悪もされてきたからね。

だから、そういう事をされている人を見ちゃうと、どうしても放っておけないの。」


「そうだったんですか…

でも、本当に嬉しかったです。

また、頑張れそうです。」


「うん。その意気よ。

頑張ってね。」



「では、そろそろ戻ります。

本当にありがとうございました。」


望月は、立ち上がり、頭を下げた。


そして、そのまま出ていこうとしたが、徐に振り返り、久美子の方を見て、また固まった。