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EP16 縛りプレイと馬車泥棒
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血相を変えて飛び込んできた御者は、息も絶え絶え、状況を語った。
御者曰く、昨晩ウフの村について馬と馬車を待機場に確かに止めた後、近くの休憩室で休息をとっていた。そして普段なら日の出とともに目覚めるはずが、なぜか今朝は寝坊してしまい、待機場に向かうと馬も馬車もなくなっていることに気がついたのだという。
「今朝だけ珍しく寝坊って……誰かに睡眠薬でも盛られたか?」
「いえ、私は持ってきた携行食を食べて、街の食堂では食事をとっていませんので、それは考えにくいかと……」
「そもそも、睡眠薬を使うなんて事がこのゲームでできるわけ?」
「……可能なのかも知れませんわ。この世界は、想像以上にリアルですもの。でも、食事に薬を入れられた可能性は低いですから、より可能性があるのは睡眠の魔法でしょうか?」
「確かに、そっちの方がありえそうね」
「御者のおっちゃん、とりあえずその馬車を留めてたところまで案内してくれよ。何か手がかりがあるかもしれないぜ?」
「ええ、お願いします……」
トールたちは御者について、村の入り口近くの待機場へ向かった。
「何もいませんわね」
「はい、昨晩ここに馬を止めたのは私の一台だけでしたので……」
「うーん……あれ、なんか地面になんかあるような……」
トールが目をこらすと、わずかだが馬車の轍と馬と足跡らしきものが鈍い光を帯びているように見えた。
「やっぱり、なんか地面が光ってるぞ!?」
「本当ですの? 私には何も見えませんが」
「もしかしたら、盗賊の固有能力で、足跡が見えてるんじゃない?」
「固有能力?」
「このゲーム、職種によって固有の能力があるみたいなのよ。スキルとは違うみたいだから、画面で確かめるのはできないんだけど、もしトールだけが見えるんだったら、きっと盗賊の能力なんだわ」
「なるほどね。ほーら、俺がいて役立つこともあるだろー?」
トールはアルデリアの方を得意げに見たが、アルデリアはじとりとした目で見返しただけだった。
「ではトールさん、足跡がどこに続いているのか、追っていってくださいます? 馬と馬車を見つけないと、私たちは王都までたどり着けませんから」
「へいへい」
トールは待機場から外へ続く足跡を追った。足跡は、昨晩この待機場へ入ってきた際のものの他にもう一つ、ここから出て行ったものがあった。
その後をたどると、足跡は一度村の外へ出て、外周を回るようにして入り口から反対方向へ行き、そこから村から離れたところにある森の入り口へと続いていた。
「森、か……」
入り口にたどり着くと、フレイは表情を硬くした。
「フレイ、どうかしたのか?」
「いえ、大丈夫よ。さ、進んでみましょう」
森の入り口は広く、足場は不安定なものの馬車が通れてもおかしくない道が続いていた。そしてしばらく進むと、少し開けた場所の木陰に、馬車が止めてあるのが見えた。
「あ、ありました! 私の馬車です!」
御者はそう言うと、一目散に馬車へとかけだしていった。
「あ、おじさん、まって! 罠があるかも知れないわよ!?」
フレイが慌てて呼びかけたそのとき、上空から御者のすぐ足下に何かが高速で飛んできた。
「わ、わぁぁっ!」
バランスを崩し、そのまま御者は転倒した。
「誰かいるのかっ!?」
トールの呼びかけに、上空から妙に明るい笑い声が答えた。
「せっかく隠しておいたのに、簡単に見つかっちゃったわね」
そう言うと、声の主は馬車のそばにある木の上から飛び降りて、身軽そうにトールたちの前に着地した。
それは、前進緑色で、所々に草木が生え、両手が樹木の枝のようになった人間型のモンスターだった。
「モンスターが、しゃべった……?」
アルデリアは目の前に現れた敵の情報を確認する。
《ドライアード》
「森の精霊ってところかしらね……さっきの飛び道具の感じだと、相当な相手かもしれないわ」
「ええ、人間の言葉をしゃべるモンスターは初めてですわ……。御者さん、馬車の方へ行って隠れていてください!」
御者はアルデリアの言葉を聞いて、なんとか立ち上がり、馬車の方へと急いでかけていった。
「お前、なんで馬車なんか奪ったんだ!」
「キヒヒ……ちょっとあんたらの邪魔をしなくちゃいけなくってさぁ。まぁアタシは争いごとは嫌いだから、移動手段だけ奪ってそれで満足だったんだけど……あんたらがまさかここを探し当ててくるとは思わなかったよ……だから……」
そう言うと、ドライアードは右手部分を高く掲げた。
「! ……来るっ! 『シールド・プロテクション』!!」
「これでもくらいなっ!!」
ドライアードの右手部分から、無数の大きな棘がトールたちめがけて発射された。しかし、とっさに一歩前に出て防御魔法を展開したフレイのおかげで、飛んできた棘はバリアのように展開された防御層に当たって砕けていった。
「あ、あぶなかったぜーっ! サンキュー、フレイ!」
「クルセイダーだもの、当然よ。さぁ、私が、あなたたちの盾になるから、攻撃はお願いね!」
「ええ、私も魔法の詠唱を……って、きゃあああ!」
突如アルデリアが悲鳴を上げる。先ほどの攻撃の間に地中を通って伸びてきたドライアードの左部分の枝が、アルデリアの足首を捉え、そのまま宙づりにした。
「あ、パンツ見えそう」
「トールさんっっっっ!!」
アルデリアは必死にスカートを押さえるが、その隙にドライアードは左手を収縮させて、本体の近くへとアルデリアを引っ張っていく。
「馬鹿なこと言ってないで、早くアルデリアを助けないと! 敵の近くまで引き寄せられたら、私の『シールド・プロテクション』の範囲から出てしまうわ!」
「わかってるって! 前回のレベルアップで新しくなった俺のスキルを、見せつけてやるぜ!」
トールは右手にナイフを構え、ドライアードを一瞥した。
「木の化け物さん、アルデリアを自分の方へ近づけたのが運のツキだぜっ! 『加速』!」
光を帯びたトールは、そのままアルデリアの方へ猛スピードで突撃を開始した。
御者曰く、昨晩ウフの村について馬と馬車を待機場に確かに止めた後、近くの休憩室で休息をとっていた。そして普段なら日の出とともに目覚めるはずが、なぜか今朝は寝坊してしまい、待機場に向かうと馬も馬車もなくなっていることに気がついたのだという。
「今朝だけ珍しく寝坊って……誰かに睡眠薬でも盛られたか?」
「いえ、私は持ってきた携行食を食べて、街の食堂では食事をとっていませんので、それは考えにくいかと……」
「そもそも、睡眠薬を使うなんて事がこのゲームでできるわけ?」
「……可能なのかも知れませんわ。この世界は、想像以上にリアルですもの。でも、食事に薬を入れられた可能性は低いですから、より可能性があるのは睡眠の魔法でしょうか?」
「確かに、そっちの方がありえそうね」
「御者のおっちゃん、とりあえずその馬車を留めてたところまで案内してくれよ。何か手がかりがあるかもしれないぜ?」
「ええ、お願いします……」
トールたちは御者について、村の入り口近くの待機場へ向かった。
「何もいませんわね」
「はい、昨晩ここに馬を止めたのは私の一台だけでしたので……」
「うーん……あれ、なんか地面になんかあるような……」
トールが目をこらすと、わずかだが馬車の轍と馬と足跡らしきものが鈍い光を帯びているように見えた。
「やっぱり、なんか地面が光ってるぞ!?」
「本当ですの? 私には何も見えませんが」
「もしかしたら、盗賊の固有能力で、足跡が見えてるんじゃない?」
「固有能力?」
「このゲーム、職種によって固有の能力があるみたいなのよ。スキルとは違うみたいだから、画面で確かめるのはできないんだけど、もしトールだけが見えるんだったら、きっと盗賊の能力なんだわ」
「なるほどね。ほーら、俺がいて役立つこともあるだろー?」
トールはアルデリアの方を得意げに見たが、アルデリアはじとりとした目で見返しただけだった。
「ではトールさん、足跡がどこに続いているのか、追っていってくださいます? 馬と馬車を見つけないと、私たちは王都までたどり着けませんから」
「へいへい」
トールは待機場から外へ続く足跡を追った。足跡は、昨晩この待機場へ入ってきた際のものの他にもう一つ、ここから出て行ったものがあった。
その後をたどると、足跡は一度村の外へ出て、外周を回るようにして入り口から反対方向へ行き、そこから村から離れたところにある森の入り口へと続いていた。
「森、か……」
入り口にたどり着くと、フレイは表情を硬くした。
「フレイ、どうかしたのか?」
「いえ、大丈夫よ。さ、進んでみましょう」
森の入り口は広く、足場は不安定なものの馬車が通れてもおかしくない道が続いていた。そしてしばらく進むと、少し開けた場所の木陰に、馬車が止めてあるのが見えた。
「あ、ありました! 私の馬車です!」
御者はそう言うと、一目散に馬車へとかけだしていった。
「あ、おじさん、まって! 罠があるかも知れないわよ!?」
フレイが慌てて呼びかけたそのとき、上空から御者のすぐ足下に何かが高速で飛んできた。
「わ、わぁぁっ!」
バランスを崩し、そのまま御者は転倒した。
「誰かいるのかっ!?」
トールの呼びかけに、上空から妙に明るい笑い声が答えた。
「せっかく隠しておいたのに、簡単に見つかっちゃったわね」
そう言うと、声の主は馬車のそばにある木の上から飛び降りて、身軽そうにトールたちの前に着地した。
それは、前進緑色で、所々に草木が生え、両手が樹木の枝のようになった人間型のモンスターだった。
「モンスターが、しゃべった……?」
アルデリアは目の前に現れた敵の情報を確認する。
《ドライアード》
「森の精霊ってところかしらね……さっきの飛び道具の感じだと、相当な相手かもしれないわ」
「ええ、人間の言葉をしゃべるモンスターは初めてですわ……。御者さん、馬車の方へ行って隠れていてください!」
御者はアルデリアの言葉を聞いて、なんとか立ち上がり、馬車の方へと急いでかけていった。
「お前、なんで馬車なんか奪ったんだ!」
「キヒヒ……ちょっとあんたらの邪魔をしなくちゃいけなくってさぁ。まぁアタシは争いごとは嫌いだから、移動手段だけ奪ってそれで満足だったんだけど……あんたらがまさかここを探し当ててくるとは思わなかったよ……だから……」
そう言うと、ドライアードは右手部分を高く掲げた。
「! ……来るっ! 『シールド・プロテクション』!!」
「これでもくらいなっ!!」
ドライアードの右手部分から、無数の大きな棘がトールたちめがけて発射された。しかし、とっさに一歩前に出て防御魔法を展開したフレイのおかげで、飛んできた棘はバリアのように展開された防御層に当たって砕けていった。
「あ、あぶなかったぜーっ! サンキュー、フレイ!」
「クルセイダーだもの、当然よ。さぁ、私が、あなたたちの盾になるから、攻撃はお願いね!」
「ええ、私も魔法の詠唱を……って、きゃあああ!」
突如アルデリアが悲鳴を上げる。先ほどの攻撃の間に地中を通って伸びてきたドライアードの左部分の枝が、アルデリアの足首を捉え、そのまま宙づりにした。
「あ、パンツ見えそう」
「トールさんっっっっ!!」
アルデリアは必死にスカートを押さえるが、その隙にドライアードは左手を収縮させて、本体の近くへとアルデリアを引っ張っていく。
「馬鹿なこと言ってないで、早くアルデリアを助けないと! 敵の近くまで引き寄せられたら、私の『シールド・プロテクション』の範囲から出てしまうわ!」
「わかってるって! 前回のレベルアップで新しくなった俺のスキルを、見せつけてやるぜ!」
トールは右手にナイフを構え、ドライアードを一瞥した。
「木の化け物さん、アルデリアを自分の方へ近づけたのが運のツキだぜっ! 『加速』!」
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