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01.いつもと違うベッド、隣には嫌いな男
しおりを挟む朝、目覚めが悪かった。
頭が痛くて、胃が気持ち悪い。栗原栞にとってはめずらしいことだった。
ハッとして、今日は何曜日だっけ、とまず考えた。しばらく考えて、よかった今日は土曜日だと思い至る。それならこのまま眠っていられる。けれどどうにも気持ちが悪くて水を飲みたくなった。パチリとひとみを開く。
そこでようやく違和感があった。
「……ここ、どこ」
天井がまず見覚えがなかった。かけている布団の色も。そしてなんだか窮屈で――。
「んん……」
隣から声が聞こえてびくっと身体を震わせた。恐る恐る隣に視線を向ける。
「は?」
隣にはそれはもう気持ちよさそうに眠っている、男の姿があった。反射的に自分の身体を見ると、裸ではないにしても下着姿で、服を着ていない。
まさか、そんな。
「……ん」
寝返りを打った隣の男の顔をよくよく見てみる。ひゅっと息を吸った。
「っ、きゃああああっ!」
「うわっ!」
栞の叫び声で、今度は隣の男がビクリと跳ねる。
「びっ、くりしたあ……」
「な、なんであんたが!」
布団で身体を隠しながら隣にいる男を指差した。
「なんで、って……」
男は寝癖たっぷりで、気だるそうに起き上がる。彼は、上半身裸だった。
「こ、ここどこなのよっ」
「俺の部屋だけど?」
「なんで、なんで」
子どものように、同じ言葉を繰り返すことしかできない。正直、まったく記憶にない。身体の不調からして飲みすぎてしまったことはほかでもないが、でもよりにもよってなんでこの男の家に。
「昨日、すごいよかったな」
男はへらへらと笑う。
全身から血の気が抜けていく。
「嘘でしょ……」
ありえない。信じたくない。
「だって栗原、すげー酔っ払ってたから俺が送って行こうと思ったんだけど、自分の住所も言えないくらいだったからさ、俺の部屋に連れてくるしかないじゃん? したらお前なんか積極的になって……」
「嘘! あんたが罠にはめたに決まってる!」
「罠ってなあ……」
「あ、ちょっとこっち見ないで!」
「……はいはい……」
着替えているので背を向けながらの言い合いだ。
ちょっとまわりを見まわすと、確かに自分の部屋ではないし、ホテルの類でもない。彼の部屋であることは間違いないのだろう。
同じ会社の違う部署――嫌いな男、矢島悠介の部屋だ。
どうして嫌いかというと、軽いから。
同じ歳のくせに軽くてチャラくて、最近やたらと話しかけられ、飲みに誘われ(断ってる)、交流を図ろうとしてくる。それだけならいいが、どこかやましさが見え隠れしていて信用できない。だから断っているのにそれでも食い下がるところが、嫌いだった。
昨日は会社の飲み会で、経理の栞と営業の悠介は席が近かった。そのせいでなにかがあったのだろうとしか考えられない。
「酔ってる時は可愛かったのになあ」
「っ、」
「俺に抱きついてさ、普段からは想像もつかない甘い声出して」
「ちょっと、やめてよ!」
自分で覚えのないことを話されるのはこんなに苦痛なんだ。栞はこれ以上話していたくない、はやくこの場から去りたいと素早く着替えた。
「じゃあ帰るから」
「え、ちょっと待ってよ」
「っ」
腕を掴まれる。
秋だというのにしっとりと熱くなっている手のひらに、なぜか心臓を掴まれた。
「な、なに?」
動揺を隠しながら彼を振り返り睨んだ。これ以上栞にすることはないし話すこともない。
「もう一回しようよ、素面でさ」
悪気がなさそうに、悠介が笑う。
ふにゃりとした笑顔は会社で見るものと同じで、彼は愛想がいいから会社でも人気ものだ。それに女の子にもモテる。それなら他の女を相手にしていればいいじゃないか。
「っ!」
栞は悠介の笑顔と、ストレートな言葉に腹が立ち、勢い余ってひっぱたいていた。
「いってぇ……」
「ほんとありえない!」
頬を押さえてうずくまる彼を置いて部屋を出た。焦って服を着たせいで、身体にフィットしていないのが気持ち悪くて、早歩きをしながら直した。
人生最大の失敗だ。
お酒が弱いのに、どうして飲みすぎてしまったんだろう。自分にも原因があるだろうことはわかっている。記憶がなくなるほど飲んだのははじめてだった。だから悠介や他の人たちに迷惑をかけてしまったんだろう。
でもさすがにいきすぎた失敗だ。
栞は額に手を当て、深いため息を吐いた。
もうこんな失敗はしない。悠介とも、もう今後一切仕事関係以外の話はしない。上半身裸の悠介を思い出してしまって、必死で打ち消す。
頭を振って見上げた先には、知らない街の風景があった。
「ていうか、ここどこ……」
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