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1 話があると言われた
しおりを挟むある日、狩りゲーの仮想世界で現実からメッセージが届いた。
「誰だ?」
メニューウィンドウから先程討伐したモンスターの報酬をチェックしていた俺は画面を一旦消し、メッセージアプリを開いた。
『大事な話がある。何時でもいいからログアウトしたら連絡してくれ』
…………親父からだった。
「マジか……」
「どうしたんすか?」
「いや、なんでもない」
一緒にプレイしていた大剣使いのフレンドに俺はそう言うとアプリを閉じた。
「それより欲しい素材入った?」
「いやあ入らなかったっす……」
報酬3%のレア素材が欲しい大剣使いのフレンドは残念そうに言った。
「確率低いですからね」
「物欲センサー出しすぎなんじゃね?」
同じくフレンドのライトボウガン使いとヘビィボウガン使いがそう口にした。
「できれば出るまで付き合って欲しいっす!」
「いいですよ」
「おっけー」
ボウガン使いの二人が付き合うなら俺も付き合うことにしよう。
親父も何時でもいいって言ってたしな……。
てかぶっちゃけ顔合わしたくない。
どうせまた現実に落ちても「学校行け」とか「辞めて働け」とか言われそうだし。
ああ……考えただけで鬱になる。
「じゃあみんなで周回しようか」
俺は無理矢理気持ちを切り替えてそう言うと背中に担いだ太刀を背負い直した。
ぶっちゃけ現実に帰りたくない俺は大剣使いのフレンドが欲しいレア素材が出るまで付き合うことにした。
「ああ……会いたくねえ……」
現実に戻った俺は自室の壁にかけてあった時計に目を向けた。
時刻は深夜零時過ぎ。
もう夜中だ。
フレの素材集めを付き合っていたらけっこうな時間が経ってしまった。
なんだかんだで現実に落ちたくなかった俺はフレンドが欲しい素材集めを終えた後、違うクエストを受けたりして時間を稼いでいた。
「はあ……もう寝ててくれると助かるんだけどな……」
俺はため息をつきつつ、そっと自室の扉を開けた。
抜き足差し足忍足。
このまま物音をたてずに親父の部屋に行って、寝てても起きないような音でそっとノックしてみよう。
もし返事がなかったら速攻で部屋に戻って寝よう!
頼む……!寝ててくれよ!
俺の願いも虚しく親父は起きていた……。
「…………」
「…………」
運悪く起きて待っていた親父は俺をリビングまで連れてきた。
対面に座った親父は腕を組んだまま黙り込んでいる。
ああ……気まずい……。
てか話があるって言っておいて黙りはやめてほしい。
「で、話ってなに?」
一向に口を開かない親父に痺れを切らした俺は自分から話を促してみた。
「あ、ああ。そうだな……」
親父は俺と違って口下手ではないはずだが、言葉に詰まったかのように言い淀んでいた。
これはよっぽど言いづらいことなのか?
引きこもりはじめて早半年。
まさか愛想を尽かして家を出て行けとか言うんじゃ……!?
「拓人は最近なんのゲームをやっているんだ?」
「……は?」
ようやく口を開いたかと思ったらゲームかよ!と俺は胸の内でツッコミを入れた。
「主に狩りゲーとかかな」
「RPGとかやらないのか?」
「やるよ」
「じゃあ、ギャルゲーは?」
「は!?ねえよ!」
ギャルゲーはさすがにやったことない。
ギャルゲーが原作のアニメとかは観たことあるけどプレイしたことは一度もない。
てかそもそも昨今のVRゲームでギャルゲーはほぼないと言っていい。
あってもR18のエロゲが主だ。
ぶっちゃけそれには興味はあるけど高校生の俺には年齢的にやりたくてもできないし。
「父さんも学生の頃よくゲームやっててな、ほとんどドラゴン関係ないクエストシリーズとかなにがファイナルなのかよくわからないファンタジーシリーズとかな」
たしか親父の世代だとVRはまだなくて、2Dや3DのTVゲームが主流だったっけ。
「まあ他にもRPGなら色々な作品をやってたんだけど、その中でも良かったのは『迷宮学園』が好きだった」
そう言って親父はなんか語り出した。
『迷宮学園~君に恋して~』という3DのTVゲームは、君に恋する学園恋愛アドベンチャーというジャンル(ギャルゲー)でありながら、迷宮で戦闘を行い主人公や仲間のレベル上げ、武器防具の強化作製などのRPG要素が強いゲームらしい。
基本的に学園生活を送りながらヒロインや友達となる仲間達の好感度を上げ、授業やイベントなどで行く迷宮を探索。
卒業までにヒロインと相思相愛になり、学園の迷宮を全踏破することがクリア条件みたいなんだけど、ヒロインとイチャつきすぎてるとトゥルーエンドが難しいようだ。
綿密なイベント管理をしつつ迷宮でレベルを上げ、武器防具を強化していかないとすぐに詰む。
親父曰く迷宮のモンスターがクソ強いらしい。
なので一週目は戦闘メインでレベルカンストを目指してノーマルエンドでクリアし、二週目以降から恋愛イベントに比重を置いてCGを回収しながらトゥルーエンドを目指すのが当時のプレイヤーの常法だったみたい。
「……で、父さんは寝る間も惜しんでプレイしていたゲームがVRでリメイクされてるんだよ」
「ああそ……」
「しかも文部省推薦でな、そこに勤めている友人がその監修をしているんだ」
熱く語っていた親父の話を適当に聞き流しながら俺は早く部屋に帰りたいなと思っていた。
てか文部省がギャルゲー推奨するなよ……
RPGは好きだけどギャルゲーは興味ない。
それに今は狩りゲーにはまってるし。
「……そういうわけで拓人、父さんが用意するからやってみないか?」
「……は?なにを?」
「なにって迷宮学園のリメイクだよ」
「なんで俺?てか親父がやれば」
「あ、いや、父さんはその……あれだ、VR酔いが激しいから……。それに仕事が忙しいし、拓人は暇だろ?ならやってみないか?」
うわっ、引きこもりの俺にそれ言っちゃう?
暇なんて禁句に等しいんですけど。
「なあ拓人。父さんの話を聞いて面白そうだと思わないか?学園の授業内容が設定できるから勉強もしっかりできるし、お勧めだぞ?」
うん?………………ああ、そういうことか。
一瞬なに言ってるのか理解できなかった俺は親父の思惑がなんとなくわかった。
オンラインの仮想世界が普通となった世の中、事情を抱えて外に出れない人のための措置がとられている。
なんとか規制法だか法案があって、よく知らないけど俺のような引きこもりでもVRの仮想世界で単位や資格が取れる制度があるんだったっけ?
親父の話を聞き流していたけど、そんなような話も今さっきしていた気がする。
「……そのゲームで高校の単位が取れと?」
「ああ。それなら高校行かなくてもいいし、それに基本一人プレイ用だから気楽にできるぞ」
いや、別にそこ重要じゃないし。
人嫌いだけどオンラインじゃ普通に友達いるし。
「どうだ?やってみないか?好感度さえ上げれば彼女だってできるぞ?もし拓人がいいならすぐにでも申請するが……」
そう尋ねる親父から俺は視線を逸らした。
彼女できるという言葉にちょっとイラッときたけど、逆になんだか気を遣わせたようで申し訳ない気持ちのほうが強くてなにもいえなかった。
仕事が忙しいのにこんな失恋が原因でいじめられて引きこもりになった穀潰しの息子のために動いてくれてごめんよ。
「うん……。じゃあやってみるよ」
「本当か!?」
「うん……。どうせ暇だし」
俺がそう言うと親父は安堵したかのように笑った。
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