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第十二話
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「恐らくここから入ったのだと思います」
アトラスの街の居住区、教会の近くにある下水道の前で、僕のパーティーメンバーのマリアが言った。
街の地下に複雑に入り組んだ下水道のひとつ、トンネルのように大きな排水口が僕達を待ち受けていた。
目を凝らしても先に真っ暗闇が広がっているだけで、なにも見えない。
「行きましょう、ファントムさん!」
大剣を肩に担いだマリアさんが意気込んでいる。
マリアさんから聞いた話だけど、【修道士】という職業は、【神官】系の職業で、基本的な回復、加護の【白魔法】が使えて近接系の武器も扱える遊撃職だそうだ。
教会に入って洗礼を受ければなれる職業で、【修道士】から回復系の【僧侶】【神官】又は物理系の【モンク】【教会騎士】などへと至ることができるらしい。
そして特殊な訓練を受けると【悪霊退魔師】という【悪魔】に特化した特殊職業になれるとのこと。
【修道士】はスキルの習得状況でいくつもの【派生職業】が発生するようだ。
まあ、それは他の職業にも言えることだけど、【修道士】は珍しい職業に就ける【下級職】だと思った。
バカでかい大剣を肩に担ぎ、修道服の上から軽装鎧を装備しているシスターと、白のワイシャツに黒のベスト、黒のスラックスを装備した一見ホテルマンのようなカッコをした銀髪の男。
側から見ると僕達はどういう関係に見えるのかな?ふと僕は思った。
先程の出来事が脳裏を巡る。
ほわんほわんほわ~んと、僕の脳内で回想が始まった。
◇
下水道に入る前に、僕は装備を整えようと思った。
下水道にはモンスターがいるし、マリアさんの装備を見て僕は自分の装備に不安を感じたから。
なんとかマリアさんの許可をとった(といっても、二つ返事の笑顔で許可してくれた)僕は、マリアさんと一緒に冒険者組合へ寄って、こなしたクエストの報酬をもらった。
カウンターに行くのに少し気後れしたけど、思いのほか受け取りが簡単だったから助かった。
クエストアイテムの【報告書】と【冒険者カード(アイアンランク)】を出すだけで報酬がすぐに支払われた。
小さい皮袋に入ったG(金貨)を見たときは、内心テンションが上がったけど、よくよく考えてみると大した稼ぎじゃないんだよね(失笑)
何枚もの金貨を見て、これが現実だったら結構な額だよなと思いつつ、アイテムストレージに入れた僕は、マリアさんの案内のもと定期馬車で【商業区】へ。
バスのように広くて大きい馬車を四頭の馬で定期的に街を走っている移動手段があるということをマリアさんに聞いて初めて知った!
バカでかい馬車が走ってるのは街でクエストまわってる時に何度か見かけたけど、まさか乗れるとは思わなかった………。
それを聞いたとき、歩きまわってた僕がバカみたいじゃん!と思った。
だってメニューにもサイトにもそんな便利なモノがあるなんて書いてなかったし!
隠し要素だったのかな?ていうか無駄にでかい街でそんなことPCに隠すなよ!(憤)
この様子だとまだ地元民(NPC)しか知らない情報があるかもしれない。
なるべくマリアさんにこの街のことを聞いてみるのもいいかもしれないなと、僕は思った。
でもなあ…それが一番の難問だな…。
聞こうと思ってマリアさんのほうに顔を向けると、小首を傾げて「どうしました?」と微笑まれると、なにを聞いていいのか忘れてわからなくなる…。
少しは耐性ついたと思うけど、無理です。普通の会話すら困難です。目があったら3秒ももちません…。
アトラスの街の北西にある区画は、通称【商業区】と呼ばれている。
武器や防具を扱う武具の店や、武具の強化を行える鍛冶屋、ポーション等を扱っている雑貨屋などがこの区画に集まっている。
ちなみに【商業区】という呼び名もマリアさんから聞いて得た情報だ。
他にも色々と聞き逃せないプチ情報を聞けた。
僕から聞いたわけじゃない。道中馬車の中でマリアさんが色々と話してくれたんだ。
「…という店があるんですよ」
「はあ(相槌)」
「………………」
「………………」
「えっと、あのファントムさんの職業ってなんですか?」
「え!?あ~戦士?」
「戦士ですか。武器はなにを?」
「…槍だけど」
「槍ですか、私は大剣を使うんですけど槍も格好いいですよね!まだまだ未熟なんですけど私の剣の師匠でもあるオルガン神父様が…」
みたいな感じで色々とマリアさんは僕に話しかけてくる。
いや、なにも言わないでください、わかっています、愛想ないのは自分でも理解しています。語彙が少ないのも十二分に理解してます。
でもしょうがないでしょ!なに話していいのかわかんないんだよ!(逆ギレ)
ああもう自分がイヤになる…。なにNPCに気を遣わせてるの?コミュ障も大概にしろよ健一…!
死にたくなるほどの自己嫌悪に陥り、マリアさんが気を遣ってまた話しかけてくるという負のスパイラルを繰り返しながら、僕達は商業区にたどり着いた。
馬車を降りて商業区に足を踏み入れた僕達は、まずはマリアさんお薦めの武器屋へ向かった。
メインストリートから外れた人気のない所にその店はあった。
【武器専門店イングリッド】
これは知る人ぞ知る隠れた名店かと僕は期待した。
「おおー!」
店に入るなり僕は感嘆の声をあげた。
こじんまりとした小さな店で、壁にかけられた剣や槍などの武器を見て、思わずテンションがあがってしまった。
なんかテンション上がるよね、こういう武器見るとさ。
店の奥にあるカウンターには店主らしきおじさんがいた。
頑固オヤジっぽい雰囲気を醸し出しているおじさんは、ちらりと僕らを一瞥すると我関せずといった感じで新聞らしきものをめくって読みはじめた。
(知られざる頑固オヤジの名店か?これは当たりかな?)
キョロキョロと見回す僕を見て、クスクスと笑うマリアさん。
「お気に召しましたか?品数は大通りにある大きなお店には負けるかもしれませんけど、品質はかなりの業物が揃っていて格安なんですよ」
なんと!いい武器が安く買えるのか。
さすがマリアさん。あなたは天使か…!
僕はメニューを開くと、MAPをタップ。
MAPが更新されていて【武器専門店イングリッド】が追加されていた。
僕は【武器専門店イングリッド】をタップ。
【ロングソード+1(武器長剣種、物理攻撃力+23)】1500G。
【ホーリーダガー(武器短剣種、物理攻撃力+15。魔法攻撃力+30。対アンデッド特効:小)】2000G。
【十文字槍+1(武器槍種、物理攻撃力+20)】1800G。
【ドラゴンスレイヤー+10(武器大剣種、物理攻撃力+564。魔法攻撃力+564。対龍種特効:極。物理防御力+666。魔法防御力+666。龍の吐息全属性無効)】1000000G。
【ライトニング・ボウ+2(武器弓種、物理攻撃力+18。貫通特効:中)】3000G。
【メリケンサック(武器グローブ種、物理攻撃力+13。対人怯み:微弱)】500G。
【マサムネ(武器刀種、物理攻撃力+50。斬撃特化:大)】10000G。
この店で売られている武器が、ウインドウに表示された。
こんな風に行ったことのある街の施設はこうしていつでも閲覧することができるらしい。
マリアさん曰く「欲しい品物が入荷したときとても便利なのです」だそうだ。
武器をタップすると
『【ロングソード+1】刃渡り60㎝の両刃の剣。強化1回済み、残り強化数9回』
こんな風に詳細もわかる仕様だ。
これは便利だ。あとで攻略サイトにアップしよう!
それはともかく………
(なんか、頭のおかしいめちゃくちゃな武器があるんですけど…)
なにこのドラゴンスレイヤーって!?+10ってことは最終強化済み!?龍種特効とかドラゴンブレス全属性無効って反則すぎるだろ!?
この壊れ性能で百万は安いほうだと思う。
頑張れば手に入りそうな値段だと思うし。
「はあ…(恍惚)ドラゴンスレイヤー…いつ見ても素敵です」
なんかマリアさんが壁にかけられてる大剣を見て萌えていた!?
そんなにいいの?あの凶々しい赤いオーラを纏った、龍の装飾がされている大剣が!?
ていうかあんな凶悪そうな武器を見て萌えているマリアさんって………(汗)
…うん、そっとしておこう。
気を取り直して、武器のラインナップを見てみる。
うん。マリアさんの言う通りかなりの業物が置かれていると思う。
安いかどうかはともかく、どの武器も強化されていたり、スキルが付与されたりしてる。
普通に店で売られている武器防具には基本、強化がされてないしスキルもついてないらしい(マリアさん情報)
だからこれはこれでお買い得なのかもしれないけど…。
僕はウインドウの下に表示されている所持金を見た。
所持金2050G。
スライムの討伐、ホテルの清掃にドブさらいで得た報酬は、合計2050G。
武器と防具を揃えるには全然足りない額だった。
ちょっと恥ずかしいけど、防具はホテルの清掃作業で得た【ホテルクリティーの制服】で賄うことにした。
いま装備してる【革の鎧】より防御力高いし、魔法防御力もついてるしね。
とりあえずマリアさんのお薦めに従って武器を買いに来たんだけど………
「うーん………。悩みどころだな」
うーん…とウインドウを見つめたまま、僕は腕を組んで悩む。
手持ちの金額で買えるのは、【ロングソード】【ホーリーダガー】【十文字槍】【メリケンサック】か…。
どれも強化されてるか、スキルが付与されてる。
うーん、消去法でいくと………
「【メリケンサック】はないな。却下」
ていうか【メリケンサック】って…(ぷっくすくす)どこのヤンキーが使うんだよ…www
「【ホーリーダガー】もないか?」
攻撃力高いしアンデッド特効のスキルついてて魅力的だけど、リーチの短い短剣はないな。
そうなると【ロングソード】か【十文字槍】の二択になるか…。
「無難に槍を買い換えるか?それとも剣を使ってみるか?【魔法剣】が使えるかもしれないし。いやでもなあ…」
とブツブツ呟いていると
「ファントムさん、どうしました?」
マリアさんが寄り添うように僕の隣にくっついてきた!
ひ、ひひ左腕に、マリアさんの温もりが…!?
「なにか悩んでいるようですね?私で良ければ相談にのりますよ」
カーッ!と急激に顔が熱くなったのがわかる。
全身がカチコチに硬直した僕は、まるで金縛りにあったかのように動けなくなってしまった。
頭が真っ白でなにも考えられなくなってしまったその時…
「おいマリア。店の中でいちゃつくんじゃねえ」
店のおじさんが忌々しそうに言った。
「い、いちゃついてませんよ!変なことを言わないでください!」
マリアさんは頰を赤く染めて、僕から離れるとカウンターに向かった。
「この人は依頼を受けてくださった冒険者のファントムさんです!武器を買いに来ただけなので変な誤解はやめてください!失礼ですよ!」
「なんだ彼氏じゃねえのか?」
「当たり前じゃないですか!それに私は身も心も神に捧げた身ですよ!」
………あの、マリアさん。そんなに全力で否定されると悲しくなるんですけど……。
あれ?おかしいな。目から汗が……(ポロポロ)
「おい兄さん」
落ち込む僕に店のおじさんが声をかけてきた。
「あ、はい」
「どんな武器をご所望だ?」
「へ?」
「得物はなにがいいって聞いてんだよ」
と無愛想に言うおじさんに何故か親近感を覚えた。
僕は自然と身体が楽になり、緊張が解けていくのを感じた。
「そうですね…槍か剣かで悩んでるんですけど」
「どっちも使えんのか?」
「はい。多少は」
「じゃあどっちも持ってけ」
「いやいや、予算が足りないから無理っすよ。どれかひとつしか買えないから悩んでるんで…」
『【ロングソード+1】【十文字槍+1】がディーノ(NPC)から貸し出されました。受け取りますか?』
『YES』
『NO』
視界にテキストメッセージが表示された。
「ええっ!?」
「マリアんとこの坊主を助けに行くんだろ?貸してやる。で、生きて帰ってきたらどっちか買え。いいな」
「おじさん…」
祈るように手を組みおじさんを見つめるマリアさん。
その目は感動で潤んでいた。
くすん…。おじさん、あんたなんて漢前なんだ。名前もディーノって顔に似合わないカッコイイ名前だし。
「ありがとうございます。絶対助けて戻ってくるんで、待っていてください」
「おじさん、ありがとうございます」
僕はお礼を言って『YES』をタップした。
マリアさんも頭を下げてお礼を言うと、ディーノさんは照れ臭そうに新聞で顔を隠した。
◇
回想終了。
ヤバい…。思い出したらまた目から汗が………(泣)
僕をマリアさんの彼氏だと勘違いされて、それを全力否定したマリアさんの言葉が、まだ僕の心に突き刺さっている。
なにもあそこまで否定しなくても……。
胸の内で嘆き苦しんでる僕に光が差した。
(大丈夫だよ。健ちゃんにはあたしがいるじゃない)
(その声はまさか!?)
(あたしという彼女がいるんだから泣かないで)
(ひびきちゃん!)
暗く沈んだ僕の心に、純白に輝く装甲を見にまとった彼女が舞い降りた。
その姿は最終形態!?なんて神々しいんだ!
(そうだった…。僕には君がいることを忘れていたよ)
(もう。忘れないでよ)
(ははは。ごめんごめん。やっぱり僕はひびきちゃんが一番だよ)
(健ちゃん…)
(ひびきちゃん…)
「…トムさん。ファントムさん」
「はっ!!!」
「あの、大丈夫ですか?」
「あ、ああうん大丈夫」
心配そうに見つめるマリアさんに、僕は頷いて平気なことをアピールした。
危ない危ない…。危うく18禁のR指定がつくところだった。
気を取り直した僕は、アイテムストレージから、【ロングソード+1】を取り出した。
まずは試し斬りもかねて色々と試してみるか。
「それじゃ行こうか?」
「はい!」
僕達は、迷子のアランくんを捜しに下水道へと入っていった。
アトラスの街の居住区、教会の近くにある下水道の前で、僕のパーティーメンバーのマリアが言った。
街の地下に複雑に入り組んだ下水道のひとつ、トンネルのように大きな排水口が僕達を待ち受けていた。
目を凝らしても先に真っ暗闇が広がっているだけで、なにも見えない。
「行きましょう、ファントムさん!」
大剣を肩に担いだマリアさんが意気込んでいる。
マリアさんから聞いた話だけど、【修道士】という職業は、【神官】系の職業で、基本的な回復、加護の【白魔法】が使えて近接系の武器も扱える遊撃職だそうだ。
教会に入って洗礼を受ければなれる職業で、【修道士】から回復系の【僧侶】【神官】又は物理系の【モンク】【教会騎士】などへと至ることができるらしい。
そして特殊な訓練を受けると【悪霊退魔師】という【悪魔】に特化した特殊職業になれるとのこと。
【修道士】はスキルの習得状況でいくつもの【派生職業】が発生するようだ。
まあ、それは他の職業にも言えることだけど、【修道士】は珍しい職業に就ける【下級職】だと思った。
バカでかい大剣を肩に担ぎ、修道服の上から軽装鎧を装備しているシスターと、白のワイシャツに黒のベスト、黒のスラックスを装備した一見ホテルマンのようなカッコをした銀髪の男。
側から見ると僕達はどういう関係に見えるのかな?ふと僕は思った。
先程の出来事が脳裏を巡る。
ほわんほわんほわ~んと、僕の脳内で回想が始まった。
◇
下水道に入る前に、僕は装備を整えようと思った。
下水道にはモンスターがいるし、マリアさんの装備を見て僕は自分の装備に不安を感じたから。
なんとかマリアさんの許可をとった(といっても、二つ返事の笑顔で許可してくれた)僕は、マリアさんと一緒に冒険者組合へ寄って、こなしたクエストの報酬をもらった。
カウンターに行くのに少し気後れしたけど、思いのほか受け取りが簡単だったから助かった。
クエストアイテムの【報告書】と【冒険者カード(アイアンランク)】を出すだけで報酬がすぐに支払われた。
小さい皮袋に入ったG(金貨)を見たときは、内心テンションが上がったけど、よくよく考えてみると大した稼ぎじゃないんだよね(失笑)
何枚もの金貨を見て、これが現実だったら結構な額だよなと思いつつ、アイテムストレージに入れた僕は、マリアさんの案内のもと定期馬車で【商業区】へ。
バスのように広くて大きい馬車を四頭の馬で定期的に街を走っている移動手段があるということをマリアさんに聞いて初めて知った!
バカでかい馬車が走ってるのは街でクエストまわってる時に何度か見かけたけど、まさか乗れるとは思わなかった………。
それを聞いたとき、歩きまわってた僕がバカみたいじゃん!と思った。
だってメニューにもサイトにもそんな便利なモノがあるなんて書いてなかったし!
隠し要素だったのかな?ていうか無駄にでかい街でそんなことPCに隠すなよ!(憤)
この様子だとまだ地元民(NPC)しか知らない情報があるかもしれない。
なるべくマリアさんにこの街のことを聞いてみるのもいいかもしれないなと、僕は思った。
でもなあ…それが一番の難問だな…。
聞こうと思ってマリアさんのほうに顔を向けると、小首を傾げて「どうしました?」と微笑まれると、なにを聞いていいのか忘れてわからなくなる…。
少しは耐性ついたと思うけど、無理です。普通の会話すら困難です。目があったら3秒ももちません…。
アトラスの街の北西にある区画は、通称【商業区】と呼ばれている。
武器や防具を扱う武具の店や、武具の強化を行える鍛冶屋、ポーション等を扱っている雑貨屋などがこの区画に集まっている。
ちなみに【商業区】という呼び名もマリアさんから聞いて得た情報だ。
他にも色々と聞き逃せないプチ情報を聞けた。
僕から聞いたわけじゃない。道中馬車の中でマリアさんが色々と話してくれたんだ。
「…という店があるんですよ」
「はあ(相槌)」
「………………」
「………………」
「えっと、あのファントムさんの職業ってなんですか?」
「え!?あ~戦士?」
「戦士ですか。武器はなにを?」
「…槍だけど」
「槍ですか、私は大剣を使うんですけど槍も格好いいですよね!まだまだ未熟なんですけど私の剣の師匠でもあるオルガン神父様が…」
みたいな感じで色々とマリアさんは僕に話しかけてくる。
いや、なにも言わないでください、わかっています、愛想ないのは自分でも理解しています。語彙が少ないのも十二分に理解してます。
でもしょうがないでしょ!なに話していいのかわかんないんだよ!(逆ギレ)
ああもう自分がイヤになる…。なにNPCに気を遣わせてるの?コミュ障も大概にしろよ健一…!
死にたくなるほどの自己嫌悪に陥り、マリアさんが気を遣ってまた話しかけてくるという負のスパイラルを繰り返しながら、僕達は商業区にたどり着いた。
馬車を降りて商業区に足を踏み入れた僕達は、まずはマリアさんお薦めの武器屋へ向かった。
メインストリートから外れた人気のない所にその店はあった。
【武器専門店イングリッド】
これは知る人ぞ知る隠れた名店かと僕は期待した。
「おおー!」
店に入るなり僕は感嘆の声をあげた。
こじんまりとした小さな店で、壁にかけられた剣や槍などの武器を見て、思わずテンションがあがってしまった。
なんかテンション上がるよね、こういう武器見るとさ。
店の奥にあるカウンターには店主らしきおじさんがいた。
頑固オヤジっぽい雰囲気を醸し出しているおじさんは、ちらりと僕らを一瞥すると我関せずといった感じで新聞らしきものをめくって読みはじめた。
(知られざる頑固オヤジの名店か?これは当たりかな?)
キョロキョロと見回す僕を見て、クスクスと笑うマリアさん。
「お気に召しましたか?品数は大通りにある大きなお店には負けるかもしれませんけど、品質はかなりの業物が揃っていて格安なんですよ」
なんと!いい武器が安く買えるのか。
さすがマリアさん。あなたは天使か…!
僕はメニューを開くと、MAPをタップ。
MAPが更新されていて【武器専門店イングリッド】が追加されていた。
僕は【武器専門店イングリッド】をタップ。
【ロングソード+1(武器長剣種、物理攻撃力+23)】1500G。
【ホーリーダガー(武器短剣種、物理攻撃力+15。魔法攻撃力+30。対アンデッド特効:小)】2000G。
【十文字槍+1(武器槍種、物理攻撃力+20)】1800G。
【ドラゴンスレイヤー+10(武器大剣種、物理攻撃力+564。魔法攻撃力+564。対龍種特効:極。物理防御力+666。魔法防御力+666。龍の吐息全属性無効)】1000000G。
【ライトニング・ボウ+2(武器弓種、物理攻撃力+18。貫通特効:中)】3000G。
【メリケンサック(武器グローブ種、物理攻撃力+13。対人怯み:微弱)】500G。
【マサムネ(武器刀種、物理攻撃力+50。斬撃特化:大)】10000G。
この店で売られている武器が、ウインドウに表示された。
こんな風に行ったことのある街の施設はこうしていつでも閲覧することができるらしい。
マリアさん曰く「欲しい品物が入荷したときとても便利なのです」だそうだ。
武器をタップすると
『【ロングソード+1】刃渡り60㎝の両刃の剣。強化1回済み、残り強化数9回』
こんな風に詳細もわかる仕様だ。
これは便利だ。あとで攻略サイトにアップしよう!
それはともかく………
(なんか、頭のおかしいめちゃくちゃな武器があるんですけど…)
なにこのドラゴンスレイヤーって!?+10ってことは最終強化済み!?龍種特効とかドラゴンブレス全属性無効って反則すぎるだろ!?
この壊れ性能で百万は安いほうだと思う。
頑張れば手に入りそうな値段だと思うし。
「はあ…(恍惚)ドラゴンスレイヤー…いつ見ても素敵です」
なんかマリアさんが壁にかけられてる大剣を見て萌えていた!?
そんなにいいの?あの凶々しい赤いオーラを纏った、龍の装飾がされている大剣が!?
ていうかあんな凶悪そうな武器を見て萌えているマリアさんって………(汗)
…うん、そっとしておこう。
気を取り直して、武器のラインナップを見てみる。
うん。マリアさんの言う通りかなりの業物が置かれていると思う。
安いかどうかはともかく、どの武器も強化されていたり、スキルが付与されたりしてる。
普通に店で売られている武器防具には基本、強化がされてないしスキルもついてないらしい(マリアさん情報)
だからこれはこれでお買い得なのかもしれないけど…。
僕はウインドウの下に表示されている所持金を見た。
所持金2050G。
スライムの討伐、ホテルの清掃にドブさらいで得た報酬は、合計2050G。
武器と防具を揃えるには全然足りない額だった。
ちょっと恥ずかしいけど、防具はホテルの清掃作業で得た【ホテルクリティーの制服】で賄うことにした。
いま装備してる【革の鎧】より防御力高いし、魔法防御力もついてるしね。
とりあえずマリアさんのお薦めに従って武器を買いに来たんだけど………
「うーん………。悩みどころだな」
うーん…とウインドウを見つめたまま、僕は腕を組んで悩む。
手持ちの金額で買えるのは、【ロングソード】【ホーリーダガー】【十文字槍】【メリケンサック】か…。
どれも強化されてるか、スキルが付与されてる。
うーん、消去法でいくと………
「【メリケンサック】はないな。却下」
ていうか【メリケンサック】って…(ぷっくすくす)どこのヤンキーが使うんだよ…www
「【ホーリーダガー】もないか?」
攻撃力高いしアンデッド特効のスキルついてて魅力的だけど、リーチの短い短剣はないな。
そうなると【ロングソード】か【十文字槍】の二択になるか…。
「無難に槍を買い換えるか?それとも剣を使ってみるか?【魔法剣】が使えるかもしれないし。いやでもなあ…」
とブツブツ呟いていると
「ファントムさん、どうしました?」
マリアさんが寄り添うように僕の隣にくっついてきた!
ひ、ひひ左腕に、マリアさんの温もりが…!?
「なにか悩んでいるようですね?私で良ければ相談にのりますよ」
カーッ!と急激に顔が熱くなったのがわかる。
全身がカチコチに硬直した僕は、まるで金縛りにあったかのように動けなくなってしまった。
頭が真っ白でなにも考えられなくなってしまったその時…
「おいマリア。店の中でいちゃつくんじゃねえ」
店のおじさんが忌々しそうに言った。
「い、いちゃついてませんよ!変なことを言わないでください!」
マリアさんは頰を赤く染めて、僕から離れるとカウンターに向かった。
「この人は依頼を受けてくださった冒険者のファントムさんです!武器を買いに来ただけなので変な誤解はやめてください!失礼ですよ!」
「なんだ彼氏じゃねえのか?」
「当たり前じゃないですか!それに私は身も心も神に捧げた身ですよ!」
………あの、マリアさん。そんなに全力で否定されると悲しくなるんですけど……。
あれ?おかしいな。目から汗が……(ポロポロ)
「おい兄さん」
落ち込む僕に店のおじさんが声をかけてきた。
「あ、はい」
「どんな武器をご所望だ?」
「へ?」
「得物はなにがいいって聞いてんだよ」
と無愛想に言うおじさんに何故か親近感を覚えた。
僕は自然と身体が楽になり、緊張が解けていくのを感じた。
「そうですね…槍か剣かで悩んでるんですけど」
「どっちも使えんのか?」
「はい。多少は」
「じゃあどっちも持ってけ」
「いやいや、予算が足りないから無理っすよ。どれかひとつしか買えないから悩んでるんで…」
『【ロングソード+1】【十文字槍+1】がディーノ(NPC)から貸し出されました。受け取りますか?』
『YES』
『NO』
視界にテキストメッセージが表示された。
「ええっ!?」
「マリアんとこの坊主を助けに行くんだろ?貸してやる。で、生きて帰ってきたらどっちか買え。いいな」
「おじさん…」
祈るように手を組みおじさんを見つめるマリアさん。
その目は感動で潤んでいた。
くすん…。おじさん、あんたなんて漢前なんだ。名前もディーノって顔に似合わないカッコイイ名前だし。
「ありがとうございます。絶対助けて戻ってくるんで、待っていてください」
「おじさん、ありがとうございます」
僕はお礼を言って『YES』をタップした。
マリアさんも頭を下げてお礼を言うと、ディーノさんは照れ臭そうに新聞で顔を隠した。
◇
回想終了。
ヤバい…。思い出したらまた目から汗が………(泣)
僕をマリアさんの彼氏だと勘違いされて、それを全力否定したマリアさんの言葉が、まだ僕の心に突き刺さっている。
なにもあそこまで否定しなくても……。
胸の内で嘆き苦しんでる僕に光が差した。
(大丈夫だよ。健ちゃんにはあたしがいるじゃない)
(その声はまさか!?)
(あたしという彼女がいるんだから泣かないで)
(ひびきちゃん!)
暗く沈んだ僕の心に、純白に輝く装甲を見にまとった彼女が舞い降りた。
その姿は最終形態!?なんて神々しいんだ!
(そうだった…。僕には君がいることを忘れていたよ)
(もう。忘れないでよ)
(ははは。ごめんごめん。やっぱり僕はひびきちゃんが一番だよ)
(健ちゃん…)
(ひびきちゃん…)
「…トムさん。ファントムさん」
「はっ!!!」
「あの、大丈夫ですか?」
「あ、ああうん大丈夫」
心配そうに見つめるマリアさんに、僕は頷いて平気なことをアピールした。
危ない危ない…。危うく18禁のR指定がつくところだった。
気を取り直した僕は、アイテムストレージから、【ロングソード+1】を取り出した。
まずは試し斬りもかねて色々と試してみるか。
「それじゃ行こうか?」
「はい!」
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しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
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「ちょっと、確認しなくていいですから!」
「これ、可愛いでしょ? 色違いでピンクもあるんだけどね。綿なんだけど生地がサラサラで、この上の部分のリボンが」
「もういいです! いいですから、パンツの説明は!」
天然高学歴キャバ嬢と、心優しいDT高校生。
異色の2人が繰り広げる、水色パンツから始まる日常系ラブコメディー!
※小説家になろうとカクヨムにも同時掲載中です。
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