上 下
32 / 186
第1章 ギルド入会

第三十話

しおりを挟む
「すみません…。すみません通ります…」

 謝りながら人垣をかき分けて僕はアーノルドさんを捜していた。
 
「あっいた!」

 ようやく見つけたと思ったら、なにやら人垣を越えた場所でなにかを見入っている。
 僕は人垣をなんとかかき分けてアーノルドの隣につくと、そこで見た光景に目を奪われてしまった!
 人垣の中心で戦っている人達がいた。
 一人は僕と同じ男のPC。【シオン】という名とPCを表す青ゲージが頭上に浮かんでいる。
 シオンは初期装備の皮系の装備を身にまとい片手剣と盾を持っている。
 対する相手は【ジャッカル】という名とNPCを表す緑ゲージ。
 上半身裸で手にナックル系統の武器を装備していた。
 ジャッカルのパンチを革の盾で受け止めるシオン。
 それをみて周りで人垣を作っていた人達が騒いだ。
 よく見ると集まってる人はPCよりもNPCのほうが多かった。
 格闘技の試合を観戦しているノリで二人の戦いを観ている。
 
(なにこれ?なんであのPCひとNPCと戦ってるの!?)

 PvN?それともこんな人通りの多い場所でNPK!?
 胸の内で疑問が渦巻く。
 こういう時はアーノルドさんに聞いてみよう。

「アーノルドさん、これは一体…?」
「よしそこだ!いけいけいけ!」

 アーノルドさんは隣に僕がいることにも気付かずに応援していた。
 あまりに熱狂的に応援してる姿を見て僕はちょっと引いてしまった。
 そのおかげで?僕の若干混乱していた気持ちが落ち着きを取り戻してきた。
 
(冷静に考えてみるとPvNかな?決闘、デュエルっぽい…?)

 基本PK禁止のこのゲームはPC同士が戦うデュエルがある。 
 でもPC対NPCのデュエルは聞いたことがない。
 メニューのヘルプやサイトに書かれてるかな?
 僕はメニューを開いてデュエルの項目を流し見るけど、そういうことは記載されていなかった。
 そうこうしているうちに戦いは終幕を閉じようとしていた。
 
 互いに距離をとり、剣を構えるシオンとファティングポーズをとるジャッカル。
 二人のHPゲージは残り一割二割しかなかった。
 次で決着がつく…。
 周囲の観客?もそれがわかったのか、いつの間にか歓声はやみ、みんな息を殺して固唾を飲んで見守っていた。
 ゴクリとアーノルドさんの喉が鳴るのが聞こえた。
 その時!
 対峙していた二人が動いた!
 交差する剣と拳。
 ジャッカルのパンチがシオンの顔を通り過ぎ、シオンの剣をがジャッカルの肩口に深く斬られていた。
 ジャッカルのHPゲージがゼロになった。
 その瞬間、爆発したかのような大歓声が響き渡った。

「おおおおおお!ggよくやった!ナイスファイト!」

 アーノルドさんが感極まった感じで騒いでいる。
 そんな大歓声の中で僕は倒れたNPCを見ていた。
 何故かジャッカルの死体?は砕けてポリゴンのカケラにならなかった。
 なんで?と思っていると、人垣から警備隊が数人現れた。
 屈強な警備兵二人がかりでジャッカルの死体?を持ってきた担架に運んでいく。
 隊長らしき警備兵がシオンとなにやら言葉を交わしているけど、歓声が大きすぎてなにを言っているのかわからない。
 話し終えたシオンは周りに手を振りながら人垣のほうへ歩を進めた。
 彼の行く手を遮らないように人垣が割れる。
 颯爽と立ち去っていく姿を見て僕はカッコイイなと思った。
 二人の戦いが終わると人垣を作っていた人達がそれぞれ散っていった。
 
「アーノルドさん…。これはなんだったんですか?」
「ああ今のは賞金稼ぎクエストのイベントバトルですよ」
「イベントバトル?」

 首を傾げる僕にアーノルドさんが説明してくれた。

特殊ユニークミッション。賞金稼ぎバウンティハンター
 アトラスの街にいる賞金首を捜し出し、討伐又は捕縛するクエストとは異なるミッション。
 依頼主は冒険者組合ではなく警備隊。
 警備隊の詰所にある受付で【手配書】を入手すると街の中に賞金稼ぎが現れるようになるらしい。
 街に潜む賞金首は敵対NPC扱いだけど、モンスターのように赤いシンボルではなく一般のNPCのように緑シンボルで表示されている。
 賞金首を捜すには基本的に街の中で情報を集めながら手探りで捜していかなくてはいけないようだ。
 そうして賞金首を発見したら戦闘に発展する。
 周囲のNPCが囲むように観戦し始めたなかで戦い、基本的に賞金首を倒せれば勝利。
 逆に負けたり観戦しているNPCの囲みから出たら敗北扱いで負けとなる。

「賞金首は冒険者ランクに応じた強さみたいで、頑張ればソロでも倒せるレベルです。ちなみに一番低いFランクの【手配書】に載っている賞金首で万前後の賞金を貰えますから何気に稼げるミッションなんですよ」

 へえ…。たしかに実入りはいいかも。あれ?
 僕はふと思いついたことをアーノルドさんに尋ねてみることにした。

「パーティーでミッションに参加できるんですか?」
「はい。可能ですよ」
「だったらみんなで捜して見つけたらパーティーメンバー全員で賞金首をフルボッコすれば楽じゃないですか?」
「たしかにソロで倒すのに不安があるプレイヤーはそうやって賞金首をハントしてますけど、パーティーでミッションを行うと見つけたときに賞金首の手下が現れてその手下も倒さなきゃいけないことになるんですよ」
「手下ですか!?」
「ええ。雑魚モブが最初2~3体賞金首とともに戦うんですけど、雑魚モブ倒すとすぐに新手のモブが乱入してきて倒すのが面倒くさくなるみたいです」
「マジですか…。それはメンドくさいですね…」

 それだったらソロでやったほうがいいのかな?

「まあ手下の雑魚モブは倒した分だけ賞金に割り増しされるそうなので、ある程度手下を倒してからボスの賞金首を倒すとかなり稼げるみたいですよ」

 なるほど…。良し悪しある感じだけど、ソロでもパーティーでも稼げるミッションなのはいいなと僕は思った。

「用を済ませたら試しにやってみますか?俺【手配書】持ってますし」
「マジですか!?あ…でも二人だけでやれますかね?」

 賞金首と無限ポップする手下を相手にするのは二人じゃキツい気がする。
 するとアーノルドさんが躊躇いがちに口を開いた。

「事後承諾で申し訳ないんですけど、実はドンペリキングさんがスカウトしたプレイヤーが何人かいるんですよ…」
「マジですか!?」
「それでギルド申請の許可が降りる五人以上集まったんで、後日みんなで申請しに組合に行くことになりました。…昼間にドンペリキングさんと話してそう決まってしまったんですけど、ファントムさんになんの連絡もせずに決めてしまって申し訳ないです」
「いえいえ!そんな謝らないでくださいよ!僕は別に構いませんから!」

 謝るアーノルドさんに僕は焦ってしまった。
 そんなことで別に謝らなくてもいいのに…。
 僕に気を遣いすぎですよアーノルドさん(苦笑)
 
「そこでなんですけど顔合わせの意味も含めてこれからその人達と会いませんか?」
「えっ…!?」
「そうすれば賞金首のミッションをパーティーでやれますしどうでしょうか?」

 そんなこと急に言われても………。
 それを聞いた僕はフリーズしてしまった。
 いきなり会うのはちょっと緊張する。ぶっちゃけ会いたくないなと思ってしまった。
 でも、これから同じギルドでやっていく仲間なんだから遅かれ早かれ会うのは避けられないし…。
 もしかしたらミッションを通して仲良くなれるかもしれないし………

「わ、わかりました。いいですよ?」
「あの…自分で言っておいてなんですけど大丈夫ですか?顔青いですよ」
「だ、大丈夫、です。ちょっと、緊張してるだけなんで…」
「………やっぱりやめてあとでみんなで集まったときに会いますか?」
「いや、ホント大丈夫です。はい…」

 心配そうな表情で僕を伺うアーノルドさんに僕は(引きつった)笑顔で頷いた。
しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

僕のギフトは規格外!?〜大好きなもふもふたちと異世界で品質開拓を始めます〜

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:1,982pt お気に入り:287

伝説の魔術師の弟子になれたけど、収納魔法だけで満足です

ファンタジー / 完結 24h.ポイント:2,024pt お気に入り:164

異世界転生目立ちたく無いから冒険者を目指します

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:3,224pt お気に入り:513

異世界転移したので、のんびり楽しみます。

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:134pt お気に入り:404

元万能技術者の冒険者にして釣り人な日々

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:489pt お気に入り:146

世界神様、サービスしすぎじゃないですか?

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:8,307pt お気に入り:2,196

ハイカラ・オブ・リビルド『雷クモと乙女たちのモダン戦記』

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:363pt お気に入り:2

処理中です...