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第2章 獄中生活
第五十一話
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ある運動の時間、僕は運動場のフェンスに寄りかかって座っていた。
今日は頭のおかしい軍隊式の過酷な運動じゃなくて、近いうちに行われる球技大会に向けて選抜メンバーがソフトボールの練習をしていた。
もちろん僕は参加しない。
野球とかサッカーとかチームプレイの球技は苦手だし、なんでこんなところにまで来てそんなことをやらなきゃいけないんだって気持ちが強い。
いくら現実の塀の中に似せてるとはいえ、現実と仮想世界が混ざり合って、おかしな空間になっている気がする………。
「そろそろ外に出ようかな…」
ソフトの練習風景をぼんやりと見つめながら僕は一人呟いた。
いい加減不自由な塀の生活に飽きてきていた。
代わり映えしない毎日。
そろそろ冒険がしたくなってきた僕は、少し真剣にこれからのことを考えてみた。
ここを出るには課金で時間を早めて刑期を短縮すること。
時間軸を早めても外の時間は変わらないようだ。
一年が三万円。一年半だと四万五千必要になる。
ぶっちゃけそんな金はないから、またバイトするはめになるか…。
平日はここのイベントをこなして少しでもステータスやスキルを上げたいから、バイトするなら休みの土日にすることになる。
ああ~でも学校行かないと………
「失礼。少しよろしいですか?」
そんなことを考えてると、いつの間にやってきたのか一人のNPCが僕の目の前に佇んでいた。
緑の作業着の坊主頭のNPC。
僕と同じ収監されてる人っぽいけど、誰だこの人?
「はい?」
僕の人見知りセンサーが条件反射で発動した。
自然に身構える僕。
「自分はゼルと言います」
それを意にも介せずに彼は丁寧な仕草で自己紹介してきた。
「あ、ファントムです」
ペコリと頭を下げて僕も自己紹介した。
「隣、よろしいですか?」
「あ、はいどうぞ」
「失礼します」
礼を言って僕の隣に腰をおろすゼルさん。
「あの、つかぬ事をお聞きしますが、ファントムさんは冒険者だと小耳に挟んだのですが」
「え?ああはい。そうですけど…」
「では、どこかのギルドに所属を?」
「一応…」
「そうなんですか。自分は居住区のスラムにいたんですけど、冒険者の皆さんにはとてもお世話になっていたんですよ。ここで冒険者のファントムさんに会えたのも何かの縁だと思ったので声をかけさせてもらいました」
「はあ」と気の抜けた返事を返す僕。
別に僕自身はお世話した覚えがないから、そんなことで話しかけられてもぶっちゃけ困る。
そういえばスラムのクエストってヤバめの依頼が多かった気が…。
「あの、冒険者であるファントムさんに折り入ってご相談があります」
居住まいを正して僕を真っ直ぐに見つめるゼルさん。
「自分、盗みを働いてここに収監されたんですけど、身寄りがいないからいつここを出れるかわからないんです。自分なんでもしますからファントムさんの所属しているギルドに口添えをしてもらえませんか?」
はい…?
「自分で言うのもなんですけど、これでも【盗賊】としてはそこそこのレベルがあります。スカウトでも盗みでもなんでもやりますから、どうかお願いします!」
そう言って頭を下げてお願いするゼルさん。
そんなこと言われても僕の一存じゃ決められないんですけど…。
「いきなり不躾なことを言ってるのはわかっています。それでも、どうか自分の頼みを聞いていただけないでしょうか?」
「えっと…すみません。僕の一存じゃ決められないので…」
「…そうですか」
がっかりしたゼルさんを見て、僕はちょっと罪悪感を覚えた。
「とりあえずギルマスに聞いてみますけど…」
「本当ですか!?ありがとうございます!」
「あ、あの…そんなに期待しないでくださいね」
「はい!わかりました兄貴」
あ、アニキって…。僕はそんな趣味ないんですけど………。
「なになに?」
「どうした?」
「珍しい組み合わせ…」
運動場の端でランニングしていたカイ達が戻ってきた。
「なにこの状況…?」
「いや、実は…」
僕は戻ってきたカイ達に事情を説明した。
「じゃあ俺もギルド入るわ」
事情を聞いて開口一番にカイがそう言った。
「ええー!?」
「じゃあ俺も」
「…みんな入るなら俺も入る」
驚く僕を他所にアルフレッドとヴァイスもギルドの加入を希望した。
「なんで?」
「なんでって…、冒険者くらいしか仕事に就けなさそうだから?」
「…みんな、なにかしら罪を犯してここにいる。まともな仕事に就くのは難しい…」
「そうそう。仮退院したら冒険者になるか犯罪組織に入るかの二択になるし」
そういうものなの?
「俺は家族いないし、アルとヴァイもここ出たら一人だし住む家もねえしな…。そういうヤツらは出てから仲間集めて冒険者のパーティー組んで食い扶持稼ぐの多いぜ」
そうなんだ…。
「というわけだから、俺らもいいかな?」
「………。うん。聞いてみるよ」
アルフレッドの問いに、僕は頷くことしかできなかった。
同情もあるけど、これもある種のイベントフラグなのかもしれないと思ったから。
「マジかよ!」
「よろしくなファントム!」
「あざっす…」
喜ぶ三人をみて、僕は苦笑まじりに笑った。
ゼルさんが立ち上がって三人の方に近寄っていった。
「なら、これから自分達は仲間ですね。自分はゼルと言います。よろしくお願いします」
「ああ。よろしくな。俺はカイだ」
「アルフレッドです。アルと呼んでください」
「…ヴァイス。よろ」
意気投合してるっぽいけど、まだギルドに入れるかわからないんだけど…(苦笑)
まあ、いっか…。
今日落ちたら久し振りにアーノルドさんにメールしてみようと思った。
今日は頭のおかしい軍隊式の過酷な運動じゃなくて、近いうちに行われる球技大会に向けて選抜メンバーがソフトボールの練習をしていた。
もちろん僕は参加しない。
野球とかサッカーとかチームプレイの球技は苦手だし、なんでこんなところにまで来てそんなことをやらなきゃいけないんだって気持ちが強い。
いくら現実の塀の中に似せてるとはいえ、現実と仮想世界が混ざり合って、おかしな空間になっている気がする………。
「そろそろ外に出ようかな…」
ソフトの練習風景をぼんやりと見つめながら僕は一人呟いた。
いい加減不自由な塀の生活に飽きてきていた。
代わり映えしない毎日。
そろそろ冒険がしたくなってきた僕は、少し真剣にこれからのことを考えてみた。
ここを出るには課金で時間を早めて刑期を短縮すること。
時間軸を早めても外の時間は変わらないようだ。
一年が三万円。一年半だと四万五千必要になる。
ぶっちゃけそんな金はないから、またバイトするはめになるか…。
平日はここのイベントをこなして少しでもステータスやスキルを上げたいから、バイトするなら休みの土日にすることになる。
ああ~でも学校行かないと………
「失礼。少しよろしいですか?」
そんなことを考えてると、いつの間にやってきたのか一人のNPCが僕の目の前に佇んでいた。
緑の作業着の坊主頭のNPC。
僕と同じ収監されてる人っぽいけど、誰だこの人?
「はい?」
僕の人見知りセンサーが条件反射で発動した。
自然に身構える僕。
「自分はゼルと言います」
それを意にも介せずに彼は丁寧な仕草で自己紹介してきた。
「あ、ファントムです」
ペコリと頭を下げて僕も自己紹介した。
「隣、よろしいですか?」
「あ、はいどうぞ」
「失礼します」
礼を言って僕の隣に腰をおろすゼルさん。
「あの、つかぬ事をお聞きしますが、ファントムさんは冒険者だと小耳に挟んだのですが」
「え?ああはい。そうですけど…」
「では、どこかのギルドに所属を?」
「一応…」
「そうなんですか。自分は居住区のスラムにいたんですけど、冒険者の皆さんにはとてもお世話になっていたんですよ。ここで冒険者のファントムさんに会えたのも何かの縁だと思ったので声をかけさせてもらいました」
「はあ」と気の抜けた返事を返す僕。
別に僕自身はお世話した覚えがないから、そんなことで話しかけられてもぶっちゃけ困る。
そういえばスラムのクエストってヤバめの依頼が多かった気が…。
「あの、冒険者であるファントムさんに折り入ってご相談があります」
居住まいを正して僕を真っ直ぐに見つめるゼルさん。
「自分、盗みを働いてここに収監されたんですけど、身寄りがいないからいつここを出れるかわからないんです。自分なんでもしますからファントムさんの所属しているギルドに口添えをしてもらえませんか?」
はい…?
「自分で言うのもなんですけど、これでも【盗賊】としてはそこそこのレベルがあります。スカウトでも盗みでもなんでもやりますから、どうかお願いします!」
そう言って頭を下げてお願いするゼルさん。
そんなこと言われても僕の一存じゃ決められないんですけど…。
「いきなり不躾なことを言ってるのはわかっています。それでも、どうか自分の頼みを聞いていただけないでしょうか?」
「えっと…すみません。僕の一存じゃ決められないので…」
「…そうですか」
がっかりしたゼルさんを見て、僕はちょっと罪悪感を覚えた。
「とりあえずギルマスに聞いてみますけど…」
「本当ですか!?ありがとうございます!」
「あ、あの…そんなに期待しないでくださいね」
「はい!わかりました兄貴」
あ、アニキって…。僕はそんな趣味ないんですけど………。
「なになに?」
「どうした?」
「珍しい組み合わせ…」
運動場の端でランニングしていたカイ達が戻ってきた。
「なにこの状況…?」
「いや、実は…」
僕は戻ってきたカイ達に事情を説明した。
「じゃあ俺もギルド入るわ」
事情を聞いて開口一番にカイがそう言った。
「ええー!?」
「じゃあ俺も」
「…みんな入るなら俺も入る」
驚く僕を他所にアルフレッドとヴァイスもギルドの加入を希望した。
「なんで?」
「なんでって…、冒険者くらいしか仕事に就けなさそうだから?」
「…みんな、なにかしら罪を犯してここにいる。まともな仕事に就くのは難しい…」
「そうそう。仮退院したら冒険者になるか犯罪組織に入るかの二択になるし」
そういうものなの?
「俺は家族いないし、アルとヴァイもここ出たら一人だし住む家もねえしな…。そういうヤツらは出てから仲間集めて冒険者のパーティー組んで食い扶持稼ぐの多いぜ」
そうなんだ…。
「というわけだから、俺らもいいかな?」
「………。うん。聞いてみるよ」
アルフレッドの問いに、僕は頷くことしかできなかった。
同情もあるけど、これもある種のイベントフラグなのかもしれないと思ったから。
「マジかよ!」
「よろしくなファントム!」
「あざっす…」
喜ぶ三人をみて、僕は苦笑まじりに笑った。
ゼルさんが立ち上がって三人の方に近寄っていった。
「なら、これから自分達は仲間ですね。自分はゼルと言います。よろしくお願いします」
「ああ。よろしくな。俺はカイだ」
「アルフレッドです。アルと呼んでください」
「…ヴァイス。よろ」
意気投合してるっぽいけど、まだギルドに入れるかわからないんだけど…(苦笑)
まあ、いっか…。
今日落ちたら久し振りにアーノルドさんにメールしてみようと思った。
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