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第3章 ソロプレイヤー
第六十八話
しおりを挟む始まりの街アトラス。
朝食を済ませた僕達はアイゼン村の転移門からアトラスへ移動すると、真っ直ぐその足で北東の居住区に歩を進めた。
「ここが神殿か…」
歩くこと数十分。
辿り着いた小さな城のような建物を見上げて僕は呟いた。
転職するためにここに来たわけだけど、僕はまだ戦士のレベルが十五で転職可能なレベルに達していない。
だから今回はゼルの転職とヴァイスが勇者に転職できるかどうかを確認するためにここに来た。
ゼルは現在盗賊でレベルは二十。
転職可能なレベルに達しているから問題はないんだけど、問題はヴィンスだ。
ヴァイスは現在白魔導士でレベルは十六。
まだ転職できるレベルに達していないけどNPCのヴァイスが勇者になれるかどうか確認するという目的もある。
ネットで調べたり質問したりしたけど回答は芳しくなかった。
ていうかアトランティスのNPCはPTやギルドに入れたりできるけど、育てようというPCはあまりいない感じだった。
大抵のPCはNPCをドレイのように扱っていてとても参考にならない。
特にギルドに所属しているPCがひどい。
前にいたギルドでも少し耳にしたけど、戦士系のNPCは肉壁に、魔法職のNPCは回復アイテムか遠距離攻撃の道具にしか思っていないPCばかりらしい。
思い出しただけで気分が悪くなってきた僕は振り払うように首を振ると、気を取り直して神殿に足を踏み入れた。
入口の受付に転職したいと言うとすぐ奥に案内された。
玉座の間のような大きな部屋に案内された僕らを待っていたのは、口髭を生やした王様みたいなおじさんが佇んでいた。
「ここは転職を司るアトラスの神殿。己が手に職を変えたい者が集う所じゃ」
僕らがおじさんの下まで辿り着くと重々しい口調でおじさんが言った。
「転職をご希望か?」
「あ、はい」
「どなたの職業を変えたいのじゃ?」
「え、じゃあ…ゼル」
「はい兄貴」
僕に促されてゼルが前に出た。
ていうかこのおじさん…昔の某有名なゲームに登場するNPCに感じが似てるな…
「ゼルです。よろしくお願いします」
「うむ…ではゼル殿。お主がなりたい職業を選ぶがいい」
ゼルの目の前にメニュー画面が浮かび上がった。
ゼルが振り向き僕の方を見た。
「兄貴。自分がなれるのは暗殺者と略奪者の二つでした。どれになったらいいですか?」
あれ?ゼルはてっきり上の職業の【暗殺者】しか転職できないと思ってたのに、なんで二つ?ていうかなにブリガントって?
「えっと、ちょっと待って…」
僕は慌ててメニューを出して公式サイトを開くとブリガントを調べた。
あれ…?あれあれ?
職業欄にブリガントが載ってない………
え?マジか!?
「ごめんゼル。ブリガントってどんな職業かわかる?」
ゼルは「はい」と頷くと目の前に浮かんでいるメニューを見た。
「えっと…略奪者は一人前の技量に達した盗賊と盗みのスキルを極めているとなれる職業です」
…なるほど。【盗み】のスキルをCSすると派生で生まれる職業というわけね。
盗みの熟練度は文字通り盗みをしないと上がらない。
もしPCが盗みの熟練度を上げるとなると窃盗罪で捕まる危険がある。
ていうか確実に捕まるだろう。
捕まってペナルティー受けながら熟練度を上げる物好きなPCは普通いないだろうし。
それを考えると公開されてないのも頷ける。
「略奪者になると盗みの上位スキルを会得できるみたいですね」
「ふーん…ゼルはどっちになりたい?」
「自分は兄貴の意見に従います」
と言われてもなあ…
【暗殺者】は闇討ちとか不意打ちなどのスキルを習得する職業で、中でも即死スキルや弱体化スキルに特化した職業だ。
DEXとAGIが飛び抜けていて上級職の【忍者】になる条件のひとつの職でもある。
逆に【略奪者】はゼルに言われたことしかわからない…
恐らく未確認の派生職。
うーん………
「じゃあ略奪者で」
悩んだ結果、僕はある程度知識のある【暗殺者】より【略奪者】を選択した。
恐らくPCの中で誰も転職したことがない職業だと思うし、ゼルの成長具合を確認しながら掲示板とかに報告すれば他のPCの参考になると思うし、ちょっとした自慢になると思った。
情報は貴重だけどこれぐらいの情報は公開しても問題ないだろうしね。
ゼルには将来【忍者】になってほしいなあとは思ってたけど、未確認の【略奪者】のほうに魅力がいってしまった。
我ながら優柔不断だなと思うなか、ゼルは素直に頷いた。
「了解です」
と言ってゼルは目の前に浮かぶメニュー画面をタップした。
「うむ。ゼル殿は略奪者になりたいと申すか?」
「はい」
「初心に帰り一から修行をし直す覚悟もあるのじゃな?」
「はい」
「よろしい」
おじさんは重々しく頷くと両手を天に掲げた。
「おお神よ!この者が新たな職に就くことをお許しください!」
高い天井から一筋の光が差し込みゼルを照らした。
『パーティーメンバーのゼル(NPC)が【盗賊】から【略奪者】に転職しました』
僕の視界にシステムメッセージが流れた。
「よろしい。では今からゼル殿は略奪者となった。精進なさい」
『パーティーメンバーのゼル(NPC)の装備が新しい職業の装備に変更し直します』
え?
『該当装備検索中…変更する装備はありませんでした』
なにこれ?転職するとPTメンバーの装備を自動で変えてくれるの?
まあ、ゼルは【盗賊】から上の職業の【略奪者】になっただけだから特に装備は変わらなかったのかな?
「他にも転職を希望する者はおるかな?」
そんなことを考えているとおじさんが訊ねてきた。
「すみません。ちょっと聞きたいことがあるんですけど…」
「なにかな?」
「あの、ここにいるヴァイスを勇者にしたいんですけどできますか?」
僕がそう訊ねるとおじさんは眉をひそめた。
「なんと…そこの者はまだ一人前になっていないというに………」
嘆くようにそう言うと、いきなりおじさんの顔が怒りに染まった!
「未熟者の分際でもう職を変えたいとは何事じゃ!このバカちんがぁ!」
いきなりキレて怒鳴るおじさん。
なにこの人?ただ訊ねただけなのにキレたよ…!?ちょっと怖いんですけど………=)
「あ、あの…じゃあ一人前になったら勇者に転職できますか?」
「うむ。なれるかもしれんし、なれないかもしれん」
おいおっさん、どっちなんだよ?:-〈
「一人前になったらまた来るがよい」
そう言われた僕達は仕方なく部屋を出ていき神殿を後にした。
僕はヴァイスのほうに顔を向けると
「とりあえずレベル上げてまた来ようか?」
「…(コクリ)」
僕がそう言うとヴァイスが頷いた。
なんか心なしか落ち込んでる?
「まあ、勇者になれるかもしれないし頑張ってレベル上げよう」
「兄貴の言う通りだぜヴァイス。頑張ろうぜ!」
「…了解。頑張る」
ようやくちゃんと返事を返してくれたゼルに僕は微笑むと、メニューを出した。
攻略サイトを開くと僕は近くにいい狩り場があるかどうかを検索した。
ヴァイスのためにもなるべく早目にレベルを上げてまた来ないとね。
そんなことを思いながら僕は検索結果を見ながら僕達に適した狩り場をピックアップしていった。
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