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第3章 ソロプレイヤー
第七十話
しおりを挟むアイゼン村へ転移した僕達は雑貨屋で準備してから村の外へ出た。
行く先は龍住まう山脈の地下にあるドワーフの王国。
山脈まではけっこう距離があるから、僕は早速もらった召喚笛を使う事にした。
ピィィィ!
笛を吹くと地面に魔法陣が展開した。
すると魔法陣から一頭の馬が浮かび上がるように現れた。
「おおっ!」
思わず感嘆の声を上げる僕。
ゼルとヴァイスも笛を吹き馬を召喚した。
「よっと」
颯爽と馬に跨るゼル。
「では行くとしよう…我が眷属黒帝号よ…」
ヴァイスも普通に馬に乗りこんだ。
この召喚した馬は再び笛を吹くと還ってしまう。
それまではいつまでも乗り降りできる仕様のようだ。
ただ一度帰還させると再使用時間に六十分、一時間ほどかかるらしい。
気をつけなければならないのは召喚中に馬のHPが全損、ゼロになって死んだ場合、再使用時間が一日に伸びてしまうこと。
魔物やトラップなどといったものに攻撃を受けたりダメージを喰らったりしないように気をつけなければならない。
馬のVITは紙のように薄いみたいなので注意して移動しないといけない。
まあそれ以外の点を除けば移動手段としてはかなり便利なアイテムだ。
「兄貴?乗らないんですか?」
頭の中で召喚笛の解説をしているとゼルが声をかけてきた。
「あ、うん…乗るよ?」
そう返事した僕は馬を前にして立ち尽くしていた。
こうして間近で見るとデカイな…
現実でもこんな間近で馬なんて見たことないし。
ていうかコレどうやって乗るの?
何気なくゼル達の乗り方を参考にして乗ろうと思ったけど、ちゃっちゃっと乗っちゃったから全然わからなかった…
あぶみ?ってやつも何も付いてない裸の馬なんですけど、どこを掴めばいいのコレ?
僕はどうしていいのかわからずに途方にくれてしまった…
「兄貴、裸馬は飛び乗るんです」
僕が馬に乗れないことがわかったのかゼルが馬から降りて説明してくれた。
うぅ…恥ずかしいけどありがとうゼル。
「いいですか。まず左手で馬のタテガミを握って、右手は馬の背骨に当ててジャンプします。ジャンプすると同時に両手の力で身体を馬上に引っ張りあげるんです」
僕はゼルの言う通りにやってみた。
どっこいしょっと!
馬に飛び乗ったというか背負われた感じになった僕をゼルが支えてくれた。
「両手を引っ張って馬の背に体重を預けてください。そしたらこっち…右足をあげて馬の背を跨いで、右足を馬の背の右側に降ろすと同時に上体を右にずらしつつ起きてください…はい、そうですそんな感じに。しっかり馬の背中の中央に乗ってください」
ゼルの補助を受けてようやく僕は馬に乗ることができた。
「跨ったら両手をき甲のやや後ろについて前後の調整をしてください」
「うん。ありがとうゼル」
「あ、あと裸馬は滑りやすいので落馬に気をつけてくださいね。召喚馬は従順ですから方向指示は重心移動で。タテガミを手綱代わりして乗ってください。タテガミはできるだけ大きな束で掴んで、掴んだ拳を左右に倒すことで方向指示を出せます。注意してほしいのは、タテガミを掴むのはあくまで方向指示の補助ですので普段は軽く握っていてください。しがみついたり引っ張ったりしないように。あと止まるときは「止まれ」と言えば普通に止まると思います。基本召喚馬は賢いので」
こうしてゼルの説明を聞いた僕は馬に乗れるようになった。
最初はおっかなびっくりだったけど、ちゃんと言うこと聞いてくれる賢い馬だったからすぐに乗りこなせるようになれた。
『ファントムは【騎乗】スキルを習得しました』
なんかスキルも覚えたし、こうして馬に乗って走るのが気持ちいい。
僕の愛車の松風とは全く違う乗り心地で楽しかった。
移動中魔物とエンカウントすることもあったけど、ここら辺の魔物は弱いし経験値もろくに稼げないので基本無視して先に進むことにした。
龍住まう山脈まではなるべく戦闘を避けながら僕達は馬を走らせ続けた。
そんな感じで進んでいったら、あっという間に着いてしまった。
前に来たときは何時間もかかったのに馬だと数十分で着いちゃったよ…
なるべく戦闘を避けて進んだとはいえ早すぎじゃない?
まあそれはさておき、ここからが本番だ。
「みんな、ここから降りてドワーフの王国に続く洞窟に行こう」
「了解です兄貴」
「…了解」
僕達は馬から降りると召喚笛を吹いた。
魔法陣が馬の足元に展開して馬が魔法陣に沈み込むように消えていく。
それを見届けた僕達はそれぞれの武器を用意して、ドワーフの王国に続く洞窟へ向かうことにした。
「ところでドワーフの国に続く洞窟ってどこにあるんだろう?」
「…麓の分かれ道を右」
意外なことにヴァイスが答えてくれた。
てっきりなんでも知ってそうなゼルが答えてくれると思っていた僕は内心驚きつつも
「へえ、そうなんだ。ありがとうヴァイス」
「…(コクリ)」
ヴァイスに言われた通りに分かれ道を右に進んでいくと岩間にぽっかりと大きな穴が空いていた。
ここかな…?
穴の入り口に「ドワーフの国【ドゥリンカザード】はこちら→」という看板が立てかけられていた。
ご丁寧に看板が…
このゲームを始めてこういう案内見たの初めてかも。
僕はアイテムストレージからランタンを取り出した。
「兄貴、自分が持ちますよ」
「あ、ありがとう」
「索敵は任せてください」
「うん。よろしく」
「…アウレの眷属ではない邪悪な気配がする。くっ…!我が手に封印されている堕天使の力が疼く…!」
ぽつりとヴァイスが呟いたのをスルーして僕はゼルを先頭に洞窟へ足を踏み入れた。
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