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第3章 ソロプレイヤー
第八十九話
しおりを挟む結局ドンペリキング達は態勢を立て直すことができないまま、ゴブリンキングとゴブリンクイーンの追撃に全滅した。
そしてドンペリキング達幻想大陸解放隊が全滅し、戦線が崩れたPC達は徐々に追い詰められていった。
倒してもゴブリンキングが吠えるたびに新手のゴブリンが現れる。
これじゃきりがない…
ゴブリンルークと交戦していた戦鬼の人達がゴブリンキングを討ち取ろうと向かっていったけど、ゴブリンクイーンの高火力とゴブリンキングのバフに手こずっていた。
僕は途中から「これはもう勝てないな」と観てて思った。
アルテミスが、戦鬼が、ウィザーズが、名前の読めない横文字のギルドが、次々とやられていく様を僕は画面越しに黙って見つめていた。
レギオンを組んだギルドが全滅するのにそう時間はかからなかった…
『だから言ったじゃない!アンタ達だけじゃ無理だって!』
復活した街の教会で、髪を振り乱し怒り狂うスカーレットさん。
『いやあ…クイーンにあんな攻撃がなんて知らなかったし』
言い訳するドンペリキング。
『やはり取り巻きを各個撃破しなければキングは倒せんな』
『その取り巻きがキングのバフでガンガン強くなるから、キング狙う作戦にしたんじゃん』
戦鬼のギルマス、鬼武者さんに反論するドンペリキング。
『大体キングとクイーンに関しては情報不足もいいところですよ』
『全くだ。おたくのギルドがやれるっていうから参加したけどよ…』
ウィザーズのギルマス、メガネ君がそう言い、読めないギルドのギルマス(名前もスペルがわからなくて読めない…)が愚痴っていた。
『なんだよ俺のせいかよ!大体さあ…』
僕は配信を切った。
反省会というか、責任のなすり付け合いと愚痴の嵐。
見るに耐えなくてつい切ってしまった。
ていうか、普通そんなところまで映さないんですけど…(苦笑)
PCの視線カメラで撮ってた感じだからつい消すの忘れたんだろうけど、アレは見苦しすぎる。
世界中に恥を晒したなwww
違うネトゲでももうちょっとオブラートに言うのにね。
まあ中にはああいう感じに言う人いたけどそれ以前の話だ。
僕は草で編まれたベッドに横になった。
ルーネさんが作ってくれた草のベッドは何気に寝心地が良かった。
妖精の森に着いてすぐここに案内されたあと、ヴァイスとルーネさん、そしてドリュアスのアーデさんとミストルティンさんと再会を果たした。
ゼルは僕に気を遣ったのか今日は休んで明日今後のことを話し合おうということになり、僕はお言葉に甘えて休ませてもらうことにした。
そんな時、ダンジョン攻略の配信があるというメールが届いていたからつい見てしまったけど、結果は見ての通り…(苦笑)
あのボス戦の敗因は色々あると思うけど、ゴブリンキングとゴブリンクイーンの情報不足が大きいと思う。
あとボスのゴブリンキングを少数精鋭で倒すまでの間、他のPCが取り巻きのゴブリン達を抑えるという作戦は良かったと思う。
ただ途中まではうまくいってたと思うけど、ゴブリンキングのバフとゴブリンクイーンの火力を甘くみてたせいで負けたようなものだ。
ていうか明らかにバランスおかしいだろ?
たかが第一層のボスがこんなに強くていいの?
地味に難易度高すぎる…
攻略させる気あるのか?と思いたくなる。
さっき誰かが言ってたけど、取り巻きから倒していくのがセオリーだと言ってた。
でもゴブリンキングのバフがウザいからそれができなかったんじゃないの?
理想はゴブリンポーンとかナイト、ビショップ、ルークを全滅させてからみんなでクイーンを倒し、最後に残ったゴブリンキングを倒す。
でもそれが難しいから少数精鋭でボスに狙いを定めたんだろう。
第一ゴブリンキングの召喚?があるから、あれじゃ倒してもキリがないし…
ドンペリキングは勝算があったみたいだけどあれで勝てると思ってたドンペリキングに草生えるわ…
多分ドンペリキングの口車に乗った他のギルドもいい迷惑だな。
それにドンペリキングの性格を考えると、あの人はボスのFAとLAを取りたかったんだろうと僕は勘ぐる。
特にボスのLAで手に入るレアなドロップアイテムが欲しかったんだろうな。
ドンペリキングは前のゲームの時もそうだったけど、なんだかんだ理由つけてボーナスやドロップアイテムの所有権を主張して取ってたし、今回のボス戦だってドロップアイテムの分配を自分に有利なように持っていこう考えていたはずだ。
それを考えてみると、あの人は昔からそうだったと気づく。
今思うと昔は相手に気を遣いながらも自分の欲望に忠実だった節がある。
今はそれが強く出てきてる感じだし、その気持ちが強く出てる分相手に気を遣ったり敬ったりする気持ちも感じられない気がする。
「ホントクソだな…」
呟いた僕の声が妖精の森に響いた。
あまりによく響いたものだから呟いた僕自身がびっくりしたほどだ。
それくらい妖精の森は静寂に包まれていた。
木々の枝葉から僅かに漏れる月明かりが辺りを薄っすらと照らしている。
今の僕に他の人のことを考えてる暇はない。
明日から忙しくなりそうだし…
「もう落ちるか…」
明日はちゃんとした拠点を作らないといけないみたいだし…
僕はベッドに横になったまま、ログアウトボタンを押した。
◇
落ちてすぐ寝た僕は、ストレッチした後軽く筋トレを行った。
やっぱりリアルだと腕立て伏せ五十回くらいが限界だ…
シャワーを浴びて朝食を手早く済ませた。
その時、何故かナオが朝から不機嫌で僕は内心ビクビクしながらご飯を食べていた。
逃げるように席を立った僕はすぐさま部屋のベッドに横になるとアトランティスにログインした。
「おはようございます兄貴」
「…おはよ」
「あ、ファントムさん、おはようございます」
目が醒めるとゼル達が僕の側にいた。
「お、おはよう」
「兄貴、朝食の用意ができています」
「あ、うん、ありがとう」
もう食べたとは言えなかった僕はみんなで朝食をとることになった。
といっても乾パン(HP回復:小)と干し肉(噛めば噛むほどHP自動回復)と精霊の湧き水(HP回復:大、全状態異常回復:大)という質素な食事だった。
「………………あのさ」
「ふぁい?」
「…(クチャクチャクチャクチヤ)」
「ゴクゴクゴクゴク…ぷはぁ」
みんなのものすごい食べっぷりにちょっと気圧されながらも、僕は勇気を出して訊ねてみることにした。
「いや、あのさ…助けてもらってこう言うのもなんだけど、これでよかったの?」
口いっぱいに頬張ったゼルが乾パンを飲み込むと首を傾げた。
「なにがですか?」
「いや、僕と一緒にいたら冒険者としてやっていけなくなるんじゃないかなって」
今さらだけど逃亡犯の僕と一緒に行動してたらみんなに迷惑がかかる。
ゼルはもうやってしまったから仕方ないとして、ヴァイスとルーネさんはまだ引き返せるんじゃないかと思った。
そんな意味で言ったつもりなんだけど………
「…ファントムは悪くない」
「そうですよ!どちらかというと向こうが悪いのです!」
「兄貴…俺達は仲間じゃないですか。そんな水臭いこと言わないでくださいよ」
「でもさ…」
「…俺達はギルドを作る仲間。なら一連托生、問題ない」
「ヴァイスの言う通りですよ兄貴。それに俺は兄貴と認めた貴方を見捨てることなんてできません」
「僕も助けてもらった恩もありますし、なにより仲間ですから放っておけません」
「………ありがとう。改めて、みんなよろしくお願いします」
僕は感謝を込めてみんなに頭を下げた。
朝食を終えたあと、僕達はそれぞれの役割を果たす為に二組に分かれて行動することにした。
「兄貴、良かったらこれを」
ゼルがルーネさんと出かける前に大きな皮袋を僕に手渡してきた。
「これは?」
「兄貴の装備品を用意しときました。使った装備より劣りますがないよりマシかと思いまして」
「ありがとう、助かったよ」
皮袋には【鉄の剣】【皮の鎧】【皮の盾】が入っていた。
アイテムストレージが使えないいま、たとえ性能が劣っていても囚人服にマントより遥かにマシだ。
武器も持ってないし本当に助かる。
僕はゼルからもらった装備を付けてみた。
なんか初心に戻った感じだな。
「その皮袋は【魔法の袋】と言いまして、アイテムストレージと同じような効果があるアイテムです。本来のアイテムストレージと比べると容量が少ないですけど兄貴のお役に立てると思います」
へぇ、そんなアイテムあったんだ。
ぶっちゃけ装備品よりマジックバックの方が嬉しい。
「ありがとうホントに助かったよ」
「それでは、俺はルーネを連れて行ってきます」
「うん…気をつけてね」
ゼルはルーネさんとともにアトラスの街へ向かった。
二人の目的はルーネさんの転職と情報収集。
他にゼルは用事があると言ってたけど大丈夫かな?
脱獄を手引きした犯人だし人間種の街に入った瞬間、逮捕とかされないかな?
ゼルは隠蔽スキルを常時発動してればある程度はごまかせるって言ってたけど心配なことには変わりない。
街中でスキル使ってるとPCからすると目立つみたいだし…
「…大丈夫。ゼルはそう簡単に捕まらない」
ゼル達を見送ったまま動かない僕の隣にいつの間にかヴァイスが立っていた。
「…俺達も始めよう」
「うん、そうだね」
残った僕とヴァイスは隠れ家的な拠点を作ること。
しばらくここを中心に活動することになりそうなので、できれば居心地のいいモノを作りたいな。
ていうかどうやって作るんだろう?
「それじゃいきましょヴァイス♪」
ドリュアスのアーデさんがいきなり現れてヴァイスの腕を組んでさっさと歩き出した。
…ていうか置いてかないでほしいんですけど!
僕は先へどんどん進む二人を慌てて追いかけた。
応援ありがとうございます!
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