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第4章 NPC

第百三十話

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「フハハハハ!よく来たな、歓迎するぞ!」

 門の前で仁王立ちしているグランツさんが僕を出迎えた。
 この時点で僕は受けるんじゃなかった…と軽く後悔していた。

「…どうも」
「さあこちらへ来てくれ。を紹介しよう」

 グランツさんに案内された僕は、昨日ぶりの洋館に足を踏み入れた。

『指名クエスト【好敵手を求めて】』

 僕を指名したそのクエストの依頼主はグランツさんだった。
 カイ達は僕一人で充分だろ?と言って三人でトレント狩りに出掛けてしまった。
 なんて薄情なヤツらだwww

 それはさておき、昨日と同じ部屋に案内されるとグランツさんはスーフ○ミの電源を入れた。
 画面にはス○Ⅱのタイトルロゴが。

「さて、まずはその腕、改めて確かめさせてもらうぞ」

 そう言いながらグランツさんはガ○ルを選択。
 僕はグランツさんの隣に座るとツーコンを手に取りザ○ギを選択した。

「フンッ、ザ○ギエフか…昨日までの私と思うなよ?」
「………」

 なんだろ?この無駄な自信は?
 なにか攻略法でも学んだのかな?

 それにしても、こんなクエストがあっていいのか運営…って思う僕は心配性なのだろうか?
 カプ○ンとコラボしてるなんて聞いてないんですけど…:{

『ROUND 1 ファイッ!』

 リベンジマッチが幕を開けた。

『K.O!』

 僕のザ○ギが圧勝した。
 昨日対戦した時と変わりなくなんの対策もしていなかった。
 さっきまでの自信はなんだったのだろうか…?

「見事だ…」

 グランツさんは立ち上がるとスーフ○ミの電源を落とした。
 あれ?もう終わり?クエスト終了かな?

「貴様の実力は本物だとわかった。ついてくるがいい」

 そう言ってグランツさんは踵を返した。
 え?ちょっと待って。
 僕は慌てて部屋を出ていくグランツさんの後を追いかけていった。



 部屋から出るとグランツさんは階段をのぼり二階へ上がっていく。
 いくつもの部屋を通り過ぎて一番奥の部屋に辿り着くと立ち止まった。
 
 ここが目的地かな?

「この部屋に私のがいる」
「はあ…」
「そこで娘の相手をしてやってほしい」
「え?あの、クエストっていうか、依頼は?」

「はい?」

 首を傾げる僕を無視してグランツさんはドアをノックした。

「アリシア、入るぞ」

 そう言って部屋に足を踏み入れるグランツさん。
 仕方なしに僕も部屋に足を踏み入れた。

「うわぁ…」

 部屋に入った瞬間、目に映ったモノは大量に積まれた本。
 魔導書らしき分厚い本から、ジャ○プ、サ○デー、マガ○ンの雑誌に、ワ○ピやこ○亀、ゴ○ゴ、ガラス○仮面などジャンルがバラバラのコミックスも積み重なっていた。
 室内は広くて薄暗いけど、見たことある本ばかりが塔のように積み重なっている。
 その本の塔に囲まれるように一人の女性がいた。
 僕と同じくらいの年代だろうか?金髪の長い髪に髪の間から飛び出たエルフ耳。
 眠そうな表情でこちらを振り向いたまま見つめているその顔は美少女といってもいいと思うけど、なんか目が死んだ魚のような目をしていて魅力が激減している。
 頭上に浮かぶHPゲージの上には『アリシア』と表示されていた。

「紹介しよう。娘のアリシアだ。アリシア、彼はファントム、だ」
「あ、よろしくお願いします…」

 ペコリと頭を下げる僕。
 アリシア、さんはなにも言わずにじっと僕を見つめている。

 …なんだろ?見た目美少女なのにあまり緊張しない。
 自慢じゃないが僕の対人スキルは壊滅的で、初対面の人とは緊張して目を合わせることもできないし、まともに話すこともできない。
 聞かれたことをしどろもどろになりながらようやく答えられるレベルだ。
 なのにアリシアさんには何故か緊張しないし、発作のような動悸も起きない。

「よろしく」
「あ、はい、よろしくお願いします」
「ゲーム、上手いの?」
「え、まあ、普通かな?」
「謙遜はよしたまえ。アリシア、彼は私のガ○ルを完膚無きまでに倒した凄腕の実力者だ。きっとアリシアも満足するだろう」
「ふーん、パパに勝ったの」

 アリシアさんはそう呟くとゆらりと立ち上がった。
 手招きをし本の塔をすり抜けるように奥へ進んでいくアリシアさん。
 僕は本を崩さないように気をつけながらアリシアさんの後を追う。

 奥には大きなテレビ画面のようなモノがあり、その下にはスーフ○ミ、セガ○ターン、プレ○テ1、2、3、4、Xb○x Oneなどの様々なハードが置かれていた。
 アリシアさんはアイテムストレージらしき穴を宙空に出すと、そこに手を入れてなにかを取り出した。
 形からしてスーフ○ミのソフトか。
 タイトルは見えないけど、話の流れからしてス○Ⅱかな。
 アリシアさんはアイテムストレージから取り出したソフトをスーフ○ミに差し込み電源を入れた。
 画面に映るタイトルはやっぱりス○Ⅱだった。

「さあ、やりましょう?」

 こうして彼女とのス○Ⅱ勝負が始まったわけだけど………

『ソニックブーム!』

 アリシアさんのガ○ルは遠距離から飛び道具を放ってくる。
 それに対して僕のザ○ギはダブルラリアットでかわしながら近づいていくと、ガ○ルのしゃがみ中キック、しゃがみ中キック、しゃがみ中キックと連発してきた。
 試しに垂直跳びをするとサマーソルトを放ってきた。

 やっぱり待ちガ○ルか…!

 父親同様、恥ずかしげもなく初っ端からエゲツない戦法をとりやがった。

 ていうか、グランツさんより上手いな。隙がない…!

 一旦体勢を立て直すためにザ○ギを退がらせた。
 それを追うようにガ○ルが向かってきた。

 ここに来て正攻法!?
 真っ正面から堂々と来るとは、僕のザ○ギを舐めすぎだよ。
 
 ガ○ルがキック。
 ザ○ギでガードする。
 詰め寄ったガ○ルがザ○ギにジャーマンかました!?

「投げハメだと!?」

 思わず僕は叫んでしまった。
 小攻撃をガードしたことによる一瞬の硬直時間の隙をついて前進からの投げ。
 これを繰り返すだけで簡単に対戦相手を倒せるハメ技。

 最悪だこの人!待ちガ○ルと投げハメのコンボかよ!?
 容赦ないな!ていうかエゲツなさすぎるだろう!?
 
 僕にス○Ⅱを教えた父さんから聞いた話だけど、昔のゲーセンはこんなやり方でプレイしていたら対戦相手とリアルストリートファイトが勃発し、友達にやると友情にヒビ割れてしまうほど危険で最悪な戦法だったみたいだ。

 今はネット対戦が主流だし、同じゲーセンの筐体で対戦してもケンカになることは稀だと思う。

 それにしても………

『K.O!』

 僕のザ○ギが敗れてしまった…:-/

「クソッ…!」

 やり慣れてるなこの人…
 ていうか、マジキレたぜ…:-<

「僕の本気を見せてやる…!」

『ROUND 2 ファイッ!』

 ス○Ⅱ(スーフ○ミ版)での待ちガ○ル攻略法は多々ある。
 その中でもザ○ギでの攻略は立ちスクリューが鍵となる。

 落ち着け…キレたら負けだ。クールにいこうぜ。

 胸の内でそう呟きつつ、僕はガ○ルとの間合いを測る。
 当たるか当たらないかの微妙な境目での牽制攻撃。

 下小キック。立ち小キック連打でガ○ルが技を出したくなるタイミングを誘い出す。
 ソニックブームはダブルラリアットでいなし、間合いを開けられないように気をつける。
 そうやって互いに牽制しあっていたその時、チャンスが訪れた!

「そこ!」

 僕はツーコンを素早く操作してザ○ギを動かした。
 めくりボディアタックからのしゃがみ中キック!

「からの!」

 立ちスクリュー。
 ザ○ギのスクリューパイルドライバーが決まった!

「よし!」

 どうだ!ワンチャンでボコボコにしてやったぜ!
 この調子で確実に仕留めてやる!

「すごい…やるね」

 とアリシアさんの呟きを耳にしたけど、目の前の戦いに集中した僕は返事を返す余裕がなかった。

 そして………

『K.O!』

「しゃああああああ!!!」

 僕のザ○ギが勝利した。
 どうだこれが僕の実力だ!

「上手いね」
「いやいや、それほどでもないですよ」
「でも、次は勝つよ?」
「こっちも負けませんよ」

『ROUND 3 ファイッ!』

 そして僕のザ○ギとアリシアさんのガ○ルとの最終決戦が始まった。

「いっけえぇぇぇ!」
「死ね!死ね!死ね!」

 完全にゲームに集中して絶叫しあう僕ら。
 目を血走らせて自キャラを勝たせようと必死になって操作していた。
 第2ラウンドのような展開で互いに牽制しあい、隙あらば牙を突き立てる戦況。
 やがて僕が優勢のまま試合が進み始めた。

「ウソ…この私が負ける…?」

 ザ○ギのスクリューパイルドライバーが炸裂した。

『K.O!』

「イエス!」
「くっ…!」

 ガッツポーズして喜びを表す僕と対照的に、悔しそうに顔を歪ませるアリシアさん。
 
 いやあ、久しぶりに熱い戦いをした。

「まだまだ。もう一戦やるよ」

 アリシアさんはそう言うと再びガ○ルを選択した。
 リベンジマッチか。
 なら僕はザ○ギをやめ、ダル○ムを選択した。

「ダル○ム?」
「待ちガ○ルキラーです」
「そうなの?」
「ええ」

 ストⅡのダル○ムは待ちガ○ル相手に有効なキャラだと僕はそう教えられたし、実際使ってみてその通りだと感じた。

 全般的に遠距離からの通常攻撃は普通に有効だし、ヨガファイヤーを織り交ぜながら技の読み合いをしていくと面白い。

 基本的な戦法は中距離を保ちながらガ○ルを端に追い込む。
 序盤は大抵ソニックブームとヨガファイヤーの撃ち合いになるから、ヨガファイヤーを撃ちつつ立ち大キックと中キックを牽制に使う。
 ソニックブームの出始めを潰しながら相打ちに持っていく。
 ス○Ⅱのガ○ルは、ある一定条件下で相打ちになるとソニックブームやサマーソルトを出せなくなるバグがある。
 そこを狙うわけだ。
 まあ、相打ち後小パンチ連打で回復するけど。

 あとスライディングでソニックブームを躱して間合いを詰めて攻撃して端に追い込む。
 端に追い込んだらヨガファイヤーで削る。
 飛び込んできたら中か大キック、若しくは小、中パンチで迎撃。
 ダウンからの起き上がりサマーをしてくるときがあるから、それを気をつけてわざと空振らせる。
 着地後はヨガフレイムからの通常攻撃でフルボッコだ。

 そんな感じのプレイで、僕は比較的楽にリベンジマッチを制してしまった。

「………(パクパク)」

 アリシアさんはショックのあまり声にならないようだ。
 ご愁傷様です(>人<)
 
 アリシアさんは無言でスーフ○ミからス○Ⅱのソフトを抜いた。
 そしてアイテムストレージにソフトを入れると今度は違うソフトを取り出してスーフ○ミに入れ直した。

 ?

「次はこれで勝負よ」

 画面にはスーパーストリートフ○イターⅡXのタイトルが映し出されていた。

「スパス○ⅡXですか!?」
「今度は私のを見せてあげるわ」

 不敵な笑みを浮かべて言うアリシアさん。
 ていうか、もう帰っていいですか?
 冷静になって考えてみると、何故に仮想世界まで来てスーフ○ミやってるんだろう?と疑問に思ってしまった…www
 まあ、ス○Ⅱ面白いけどさ、クエストとはいえここまでやる必要あるの?
 そんなことを考えている間にアリシアさんはキャラ選択をしていた。

「これをこうして…こう、こう…っと」

 うん?なにやらキャラ選択画面でコマンド入力している?
 
「最後にこう!って、えええ!?」

 叫ぶアリシアさん。
 画面を見るとアリシアさんは茶色リ○ウを選択していた。

「ちょっと待って!やり直させて!」

 ははーん。
 もしやと思いつつ僕はあるコマンド入力を試してみることにした。

 リ○ウ、T○ホーク、ガ○ル、キ○ミィ、リ○ウの順にカーソルを合わせる。
 その際キャラごとに一秒ずつ待ち、最後にスタートボタンを押して、一秒以内にパンチボタンを三つ同時押し。
 そうすると拳を極めし者、豪○が出現した。

「ああああああ!!!」
「コレですよね?」

 コクコクと頷くアリシアさん。
 やっぱり。スパス○ⅡXで○鬼を出したかったのか。

「どうぞ」
「え!?いいの?」

 僕が頷くとアリシアさんは嬉しそうにツーコンを手に取った。

『アリシア(NPC)の好感度が100上がりました!』

 こんなことで好感度上がるのか…チョロいなwww

 でもまあいいか。
 嬉しそうに笑うアリシアさんを見ていたら、なんか色々どうでもよくなってしまった。
 楽しいし細かいことは気にしないで今は一緒にスパス○ⅡXをプレイして楽しむことにしよう。

「私の殺意の波動をその身に刻んであげるわ!」

 せっかく出してあげたのに殺意の波動をぶつけられるのか…(苦笑)

「返り討ちにしてあげますよ」

 この後、僕らは互いに遠慮なく罵り合い、自キャラを勝たせようとド汚いハメ技の応酬を繰り返した。

 寝食を忘れた僕とアリシアの対戦は夜が明けるまで行われた。














 

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