141 / 186
第4章 NPC
第百三十四話
しおりを挟むアルフヘイムの街並みは未だ混乱していた。
まあ、突然魔物が襲ってくるから避難しろって言われたらこうなるよね(苦笑)
クエストが始まり、先程キングタイガーとその他大勢の魔物が西にある正門近くから攻めてきたらしい。
地響きや爆音が遠く離れたここからでも聞こえてくる。
「隊長、ご命令を」
王国騎士団第五大隊隊長、シオン・エム・ハイアールヴ(美女)さんが僕に指示を促してきた。
第五大隊の騎士84人の視線が一斉に僕に向かれた。
うぅ…持病のコミュ障が………!
ドッドッドッドッ!と鼓動が早鐘のように鳴り響いている。
ていうかどうしてこうなった?
僕は街の警備のほうを選択し、騎士団長の指示に従って第四騎士団に合流したら、何故か僕が隊長になってしまった。
ていうかカイ達とスカーレットさんのPTと合わせて計95人の大PTのリーダーなんて重荷でしかない。
他のゲームじゃレギオンレイドクラスの人数だよ。
こういうレイドでただ指示に従ってプレイしてた僕が、いきなりこんな大人数に指示なんて出せないよ…
いつまでたってもなにも言わない僕に焦れたのか、シオンさんがルーネの耳元に顔を寄せたのが見えた。
「殿下、本当にこの者で大丈夫なのでしょうか?正直、私は不安でたまりません」
「大丈夫ですよ。ああ見えてファントムさんは指揮官として有能ですし、【司令官】スキルという強力な力を有しているのですから」
聞き耳を立てていた僕はちょっと待てと心の中でツッコミを入れた。
もしかして僕を隊長に推したのはルーネか!?
しかも僕のスキルばらしてるし。
「それとシオン、僕のことは普通に名前で呼んでください」
「恐れながらそれは不敬かと…」
「今の僕はただの冒険者ですよ?王族でも貴族でもありません」
「………善処致します」
そういえばルーネの家って貴族だっけ?
あれ?お婆ちゃんが王族で冒険者だったっけ?
ぶっちゃけルーネの設定にあまり興味なかったから聞いてないし忘れちゃったよw
「街の人たちを避難させればいいんでしょ?どこに避難させるのよ?」
スカーレットさんがシオンさんに訊ねてきた。
「あ、ああ、それはこの区画の地下にデックアールヴの街に繋がる転移門がある。緊急避難場所として向こうの許可は下りているので、まずは民をそこへ移動させるのだ」
「地下ね。場所は?」
「この先1ブロックの場所に通路がある。部下に命じて案内させようか?」
「うんお願い」
スカーレットさんは「ねえ!」と僕に声をかけると
「ちょっと避難場所の確認してくるね」
「あ、はい、わかりました」
「じゃあ避難誘導よろしく」
そう言ってスカーレットさんはお仲間達とともに案内役を命じられた騎士について行ってしまった。
「とりあえず、僕達は手分けして街の人達の避難をしましょうか?」
スカーレットさんを見送りながら僕はシオンさんにそう提案してみた。
「承知致しました。総員注目!部隊を7班に分けてこの区画にいる民を避難場所へ誘導する!」
シオンさんは瞬く間に12人のPTを7つ編成すると「1班はC-1から捜索。2班はC-2を」などとテキパキ部下達に指示を出していく。
すごいなぁ…できる女上司って感じだ。
この人が部隊の指揮をとればいいんじゃないの?
何故に僕…ていうか【司令官】スキルのせいか。
このスキルを持ってるPCがPTリーダーになるとNPCのステータスがアップする。
僕の【司令官】スキルはまだレベル1だけど、25%上昇する効果がある。
他のバフ、魔法やスキルで重ねがけすれば、かなり強化できるし。
それでも、僕が隊長というのはどうしても抵抗がある。
ルーネもなんで僕を推したの?僕そういうキャラじゃないよ。
どうもゼルをはじめとしたギルドメンバーは僕のことを過大評価しすぎてる気がする。
こういう時ゼルがいればいいのに…:-c
「ていうか、ゼルはこんな時にどこに行ったんだろう…?」
アルフヘイム内にゼルのアイコンというか反応はない。
転移門でどこかの街に行ったのか、それとも外にいるのかわからないけど、少なくともメニューでギルドメンバーのステータス状態を確認した限り死んではいないことは確かだ。
「全くゼルの野郎、どこで油売ってるんだか」
僕の呟きに返事を返したカイが同意するように答えた。
「いない人のことを考えても仕方ないでしょ。それで、あたし達はどうするの?」
「僕達も避難誘導しに行こうか?」
「お待ちください、隊長はここで陣頭指揮を願います」
アーチェさんの問いに返事を返した僕にシオンさんがそう言ってきた。
えええ…それはシオンさんがやった方が良くないですか?
「報告します!」
そこへ騎士の人が駆け込んできた。
「南西D区画の城壁が破壊され、魔物が侵入してきたとのことです!」
やっぱりこうなったか………
こうなることを予想していたけど、あまりに早すぎない?
「シオンさん、近くの部隊に迎撃命令を。民の避難を優先して魔物から守ってあげてください」
「はっ!聞いた通りだ、伝令急げ!」
「みんな、僕達は魔物の撃退に行くよ。あ、それとスカーレットさん達に撃退の指示をお願いします」
「はっ!了解しました」
敬礼して答えるシオンさんに背を向けて、僕はみんなとともに魔物が侵入した区画へ駆け出した。
0
あなたにおすすめの小説
戦場帰りの俺が隠居しようとしたら、最強の美少女たちに囲まれて逃げ場がなくなった件
さん
ファンタジー
戦場で命を削り、帝国最強部隊を率いた男――ラル。
数々の激戦を生き抜き、任務を終えた彼は、
今は辺境の地に建てられた静かな屋敷で、
わずかな安寧を求めて暮らしている……はずだった。
彼のそばには、かつて命を懸けて彼を支えた、最強の少女たち。
それぞれの立場で戦い、支え、尽くしてきた――ただ、すべてはラルのために。
今では彼の屋敷に集い、仕え、そして溺愛している。
「ラルさまさえいれば、わたくしは他に何もいりませんわ!」
「ラル様…私だけを見ていてください。誰よりも、ずっとずっと……」
「ねぇラル君、その人の名前……まだ覚えてるの?」
「ラル、そんなに気にしなくていいよ!ミアがいるから大丈夫だよねっ!」
命がけの戦場より、ヒロインたちの“甘くて圧が強い愛情”のほうが数倍キケン!?
順番待ちの寝床争奪戦、過去の恋の追及、圧バトル修羅場――
ラルの平穏な日常は、最強で一途な彼女たちに包囲されて崩壊寸前。
これは――
【過去の傷を背負い静かに生きようとする男】と
【彼を神のように慕う最強少女たち】が織りなす、
“甘くて逃げ場のない生活”の物語。
――戦場よりも生き延びるのが難しいのは、愛されすぎる日常だった。
※表紙のキャラはエリスのイメージ画です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
スラム街の幼女、魔導書を拾う。
海夏世もみじ
ファンタジー
スラム街でたくましく生きている六歳の幼女エシラはある日、貴族のゴミ捨て場で一冊の本を拾う。その本は一人たりとも契約できた者はいない伝説の魔導書だったが、彼女はなぜか契約できてしまう。
それからというもの、様々なトラブルに巻き込まれいくうちにみるみる強くなり、スラム街から世界へと羽ばたいて行く。
これは、その魔導書で人々の忘れ物を取り戻してゆき、決して忘れない、忘れられない〝忘れじの魔女〟として生きるための物語。
戦場の英雄、上官の陰謀により死亡扱いにされ、故郷に帰ると許嫁は結婚していた。絶望の中、偶然助けた許嫁の娘に何故か求婚されることに
千石
ファンタジー
「絶対生きて帰ってくる。その時は結婚しよう」
「はい。あなたの帰りをいつまでも待ってます」
許嫁と涙ながらに約束をした20年後、英雄と呼ばれるまでになったルークだったが生還してみると死亡扱いにされていた。
許嫁は既に結婚しており、ルークは絶望の只中に。
上官の陰謀だと知ったルークは激怒し、殴ってしまう。
言い訳をする気もなかったため、全ての功績を抹消され、貰えるはずだった年金もパー。
絶望の中、偶然助けた子が許嫁の娘で、
「ルーク、あなたに惚れたわ。今すぐあたしと結婚しなさい!」
何故か求婚されることに。
困りながらも巻き込まれる騒動を通じて
ルークは失っていた日常を段々と取り戻していく。
こちらは他のウェブ小説にも投稿しております。
大好きな幼なじみが超イケメンの彼女になったので諦めたって話
家紋武範
青春
大好きな幼なじみの奈都(なつ)。
高校に入ったら告白してラブラブカップルになる予定だったのに、超イケメンのサッカー部の柊斗(シュート)の彼女になっちまった。
全く勝ち目がないこの恋。
潔く諦めることにした。
最低のEランクと追放されたけど、実はEXランクの無限増殖で最強でした。
みこみこP
ファンタジー
高校2年の夏。
高木華音【男】は夏休みに入る前日のホームルーム中にクラスメイトと共に異世界にある帝国【ゼロムス】に魔王討伐の為に集団転移させれた。
地球人が異世界転移すると必ずDランクからAランクの固有スキルという世界に1人しか持てないレアスキルを授かるのだが、華音だけはEランク・【ムゲン】という存在しない最低ランクの固有スキルを授かったと、帝国により死の森へ捨てられる。
しかし、華音の授かった固有スキルはEXランクの無限増殖という最強のスキルだったが、本人は弱いと思い込み、死の森を生き抜く為に無双する。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる